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離縁してください。

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「……記憶が戻ったからこそもう一度貴方に言うわ。離縁してください」

わたしはロレンスとの離縁をお願いした。

「記憶が戻った時に思ったの。もう貴方とは居られないと」

「……どうして?」

彼は震えていた。怒りなのかショックからなのかわからない。

「貴方に浮気を疑われた時すごくショックだった。それからはとても苦しい悪夢のような毎日だった。
貴方は一度でもその間わたしの苦しさにも辛さにも寄り添ってはくれなかった。いくら後悔していると言われてももう遅いの。わたしは貴方を信用出来ないし愛はなくなってしまったの」

「………もう俺を愛していないのか?」

「ごめんなさい、貴方のことを浮気者だと酷いことを言ったわ。ライのことも忘れてしまっていた。酷い妻で母親だった。
母に思い出しなさいと言われていろんなことを教えてもらった。辛かったけど少しずつ思い出したの。思い出すたびに貴方への不信感はなくなったけど愛もなくなったの。ライを愛しているわ、でもライはロレンスの……いえ、子爵家の跡取りだからわたし一人で家を出ようと思っています。わたしはその話をしようと思って帰ってきたの」

「君はライを捨てて家を出るのか?」

「はい、わたしは一度はライを捨てようとした母親です。だから母親としての資格はもうありません。あとはお母様が弁護士を立ててくれると言っておりました。弁護士と話し合ってください。失礼します」

「待て!俺は返事をしていない」

「弁護士が話してくれます、貴方との話は平行線になってしまい交わることはないと思います」

「君は平気なのか?ライともう会えなくても?」

「平気なわけありません。ライはわたしがお腹を痛めて産んだ子です。迷いました、もう一度頑張ろうとも思いました。でもダメだとわかったんです」

「わかった?」

ーーロレンスと話していて自分が感じていた違和感に気がついた。ヘレンのことだ。少しずつヘレンのことを思い出していた。

「ヘレンがわたしに子供を抱かせたくなかった……ロレンス、ヘレンは貴方の子供を一度妊娠したのでしょう?」

「な、何を……「以前言っていたの、ヘレンが。愛している人の子を身籠ったけど産んであげることが出来なかったと……貴方のことでしょう?だからヘレンはわたしの子を、いえ、貴方の子をわたしが抱くことが育てることが許せなかったのよね?」

「どうして?」

「ヘレンが持っていたネックレス……貴方も同じものを持っていたの。わたしは確かにライとジョセフのことで精神的に追い込まれていたわ。でもその時何度もヘレンがわたしの耳元で囁いたの。
『あんたなんかにロレンス様の子供は抱かせてあげない』と。夢だったのかよくわからない時期だった。
心が壊れそうなくらい辛い時にさらに頭の中でロレンスが他の女性を妊娠させたと囁かれたの、だからわたしが記憶を失ったばかりの時すぐに貴方が浮気したと思い込んだしロレンスとその浮気した人との子供だと思い込んでしまったの」

「君と結婚する前だった。ヘレンと何度かそう言う関係になったんだ、彼女が妊娠したとわかった時すぐに堕ろすように言った。彼女は抵抗せず子どもを堕したんだ。まさか取り違えとみせかけてわざとに子供を交換するなんて……」

「ヘレンがしたことは許せないわ。でも貴方のことも最低だとしか思えない」

「……彼女とは体の関係があっただけで愛情はなかった。お互い割り切った関係だったんだ」

「結婚前のことだからそれ自体は仕方がないわ。それならどうしてわたしにヘレンを専属としてつけたの?」

「そ、それは……ヘレンが君の専属にしてくれなければ俺との関係をミュゼにバラすと言われて……」

「わたしに何かするとは思わなかったの?」

「ヘレンがそんなことをする子だと思っていなかった。さっぱりしていて俺とのことを引き摺るなんて思っていなかったんだ」

「それならわたしの専属になりたいなんて言うわけないわ、未練があるからわたしの近くにいてわたしに害をなそうとずっと心待ちにしていたのよ」

ーーヘレンのことを何故思い出せなかったのか…今やっとわかった。彼女のことも忘れていたのだ、無意識に。
夢の中で聞こえた彼女の声。わたしを憎んでいるようなあの声。
怖くて忘れてしまいたかった。

『あんたなんかにロレンス様の子を抱かせてあげない。あんたなんか愛されていないのよ』

ロレンスの子供を妊娠したのに堕ろさせられたヘレン、そのヘレンの目の前でわたしはロレンスに愛されながら子供を産んだ。彼女はどれほどわたしを憎んでいたのだろう。

「俺は……すまない……ヘレンとは本当に恋人ではなかった。愛とかではなく軽い関係だと思っていたんだ」

「ふふふふ、それでも貴方は彼女をわたしのそばに置いた……わたしに対しても失礼だと思わない?貴方は自分が抱いた女をわたしのそばに置いていたのよ?気持ち悪い」

「気持ち悪い?」

「ええ、そうよ。貴方に抱かれるたび気持ち悪かった、その理由がやっとわかった、他の女を遊びで抱く気持ち悪い男だからよ」


バシッ!

わたしはロレンスに頬を叩かれた。


「さよなら、ライを幸せにしてあげて」

ーー本当はライを連れて行きたい。でもわたしにそんな資格があるのか……捨てようとした酷い母に育てられるよりも次期当主として育てられた方が幸せなはず……

わたしはこうして屋敷を出た。




◆ ◆ ◆

【え?嫌です、我慢なんて致しません!わたしの好きにさせてもらいます】

明日から新しいお話が始まります。
よければ読んでいただけたら嬉しいです!
よろしくお願いいたします。







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