【完結】わたしを愛していない貴方はわたしに愛人の子どもを育てろと言った。

たろ

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ロレンス編 ②

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俺たちは互いの子供の特徴を伝え合った。

まさかそんなことが……

そして……俺達はセントマザー病院へと急いで行った。

「医院長は?話がある」

俺はすぐに責任者を出して欲しいと訴えた。
医院長は何事かと怪訝な顔をしたが俺たちの話を聞くと「そんなことがあるわけないでしょう」と、呆れてまともに話を聞こうとしなかった。

認めなかった。

それならばと俺達はそれぞれの赤ちゃんを連れてもう一度病院へ行くことにした。

初めて会ったマーカスの息子は俺にそっくりだった。
そしてライはマーカスにそっくりだった。

お互いの妻はそれを見て大泣きをした。

俺もそうだが、お互い妻が浮気をしたと思っていたのだから。浮気をしていないと無実を証明されたがそれはあまりにも残酷な結果をもたらした。

四人で赤ん坊を連れて病院へ行くと取り違えを認めた。
お互いの子供を交換したら、ロレンスそっくりの赤ちゃん。
マーカスそっくりの赤ちゃん。

もう誤魔化しようがなかった。

赤ん坊の取り違えが起きていたのだ。

同時刻に生まれた二人の男の子の赤ん坊。

なぜこんなことが起きたのか?

これから裁判で真実を明らかにすることになる。

お互い話し合い、ライを彼らに返し実の子のライを引き取る。

実の子のライは俺たちにすぐには懐かなかった。
ミュゼがいつものようにあやしても泣き止まない。同じように抱っこしても居心地が悪いのかぐずってばかりだった。

ミュゼはだんだん笑顔がなくなり疲れた顔をするようになった。
時折り一人隠れて泣いている姿を見るようになった。

「………ライ」と言いながら生まれたばかりの頃着せていたライ(ジョセフ)の産着を抱きしめて泣いていた。

ミュゼが息子のライではなくもう一人のライ(ジョセフ)を思い出して泣いていたのだ。


彼女はどうしてももう一人のライに会いたくなったのだろ、我慢できずにマーカスのところへこっそりと会いに行ったらしい。

それも何度も。

「ミュゼ、向こうから苦情が来ている。君が彼らの周りをウロウロしていて落ち着かないと言ってきた。お互い元に戻ったんだ。もうあの子のことは忘れてライを大切に育てよう」

俺はミュゼに本当のライと向き合って欲しいと願った。

「ロレンスはあの子のことを忘れられるの?毎日抱いて母乳を飲ませてふた月も一緒に過ごしたのよ?
あの子の温もりも寝息も全て覚えているの。なのにどうして忘れろと言うの?それに、あなたはわたしを浮気者だと罵ったのよ?」

俺とミュゼの仲はもう壊れかけていた。
俺がミュゼを信じることが出来なくて、彼女を責めたから。そしてライ(ジョセフ)を手放したから。
あんなに愛情をかけて育てたのに、今更この子は違う、よその子だからなんて割り切れるわけがなかったんだ。
ミュゼは精神的に病んでいった。

「わたしはライを取り返してくるわ」
そう言ってライを抱き抱えてミュゼはマーカスさんのところへ向かおうとした。

「やめなさい、ライはこの子だ。あの子はライではなくジョセフ君なんだ」

俺はミュゼがライを連れて行こうとしたのを止めようとしただけだった。


「きゃっ!」
俺に掴まれた腕の痛みでミュゼはライを落としそうになった。ミュゼはライを庇い抱きしめようとしたが、バランスを崩して倒れた。その時家具の角に頭を打ち付けてしまった。
頭からは大量の血が流れ出した。

ライはそんなことがあったのにミュゼの腕の中でスヤスヤと眠ったままだった。

血が止まらないミュゼに慌てて持っていたハンカチを取り出して血を止めようとした。

するとミュゼは
「ライをお願い」と言って震えながら俺に渡すとそのまま意識を失った。
「ミュ、ミュゼ?」

俺の手はライを抱えながらもミュゼの血で赤く染まっていた。

「医者を早く!」

すぐに医者が来て診てもらい頭の傷を縫ってもらったが安静のため入院することになった。

幸い出血の割にはひどい傷ではなかったことにホッとした。

しかし次の日ミュゼは目が覚めると、完全に赤ちゃんのことを忘れていた。

ライ(ジョセフ)のことも自分が産んだライのことも。

それ以外のことはほとんど覚えているのにライを見てもキョトンとしていた。

医者からは辛いことを無意識に忘れようとしたのだろうと言われた。

すぐに思い出すかもしれない。
俺は安易に考えていた。

とりあえずミュゼの精神的なことを考えて、領地で一人で静養させることにした。
意識はあるのだが記憶が混濁していたミュゼはただ領地で過ごしたことしか覚えていなかった。

そしてミュゼの頭の中で新しい記憶が都合よく作られてしまっていた。


ーーーーー
心無い俺の親戚に何度も「子供は?」「嫡男は必ず必要よ」などと言われ続け、彼女の心は疲弊したことになっていた。確かに結婚してすぐに子供は?と言われたが結婚して半年過ぎて妊娠したし、責められることはなかった。

「しばらく領地で静養しないか?」
俺の言葉に頷いてミュゼは数ヶ月領地で過ごした。

そして気持ちも落ち着いてやっと本邸に戻って来た。
ーーーーーー

そこには、ミュゼにとって産んだこともないライがいたのだ。

もしかしたらライに会えば記憶が戻るかもしれないと期待した俺はミュゼの前にライを連れて行った。

しかしミュゼから発せられた言葉は……

「貴方……この子は?」

「俺の子どもだ」

「………そう…‥なのね………そ、それで…」

ーーミュゼと俺の子供なんだと言いたかったが彼女には子供を産んだ記憶がない。

深い溜息を吐きながら
「この子を君が育てて欲しい」
と言うしかなかった。

ミュゼは泣きそうな顔をして首を横に振って

「離縁しましょう」と静かに答えた。

「離縁はしない、君はこの子を育てるんだ」

俺はミュゼの産んだ子供としてではなくて強制的に育てることを強いることにした。

「い、嫌です。貴方が何と言っても無理です。ここで貴方は子どもとその子の母親と暮らせばいいわ、わたしは出て行きます」

ミュゼが俺に背を向ける。

俺はミュゼの腕を掴んだ。
「駄目だ………彼女は亡くなったんだ。この子を育てられるのは君しかいない。いいか、君が育てるんだこれは命令だ」

「そんな……無理です。わたしには裏切った貴方の子どもを愛することなど出来ないわ」

ーー俺がミュゼを責めた言葉を思い出した。
『お前が浮気したんだろう?』
『この子は誰の子なんだ?』
『俺に血が繋がっていない子供の父親になれと言うのか?』

俺はミュゼになんて残酷な言葉を吐いたのだろう。

「わたしの体を触らないで!」
ミュゼは俺の手を振り払った。

「ミュゼ……」
彼女の腕から手を離した。

「わたしは自分の部屋に戻るわ、一人にしてちょうだい」

ライが泣き出したがミュゼは振り返ることなく部屋に行ってしまった。
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