【完結】愛していました、でも愛されてはいませんでした。

たろ

文字の大きさ
上 下
32 / 32

番外編   ライアン編

しおりを挟む
中は思っていたよりも明るかった。なんだかこの世界を無茶苦茶に変えた元凶の会社の割には普通の所だ。メインホールは広くて綺麗だ。清掃も行き届いている。もっと秘密基地っぽくて汚いところだと思っていた。なんか拍子抜けだな。

ここから桃を探すのには骨が折れそうだ。だがそれはの話だ。俺には秘策がある。

ポケットから1枚の布切れを取り出した。これは桃が着ていた服の切れ端である。もしも、桃とはぐれたりした時にヒルに探してもらえるように一応持っておいたのだ。

ヒルに切れ端を嗅がせる。ヒルはイヌ科なので鼻がいい。だから桃の匂いを追跡して居場所を見つけることができるのだ。

ヒルが地面に鼻をつけて歩き始めた。俺も後ろをついていく。












しばらく歩いていると、ふと気になることがあった。人がいない。人っ子一人いない。正面入口を守ってる人がいるから誰もいないってことはないはずだ。しかしいない。

置いてあったウォーターサーバーは最近使われてた形跡があった。だから完全に人がいないっていうのはないと思う。なんかよく分からない所だな。

それに結構入り組んでいる。とゆうより会社っぽくない。完全に研究所のようだ。そこら辺に自動で動いてるロボットや書類が置いてある。












またさらにしばらく進んでいると非常用扉の所についた。ここの前でヒルも立ち止まった。

「……ここにいるのか?」
「ワン」
「ワンじゃ分からんよ」

扉は銀色でまぁどこにでもある非常用扉という感じだ。分厚さは普通くらい。この先に桃がいるのかは分からないがとりあえず行ってみることにしよう。

ドアノブに手をかけた。しかし扉はあかない。扉の横を見てみると、小型のテレビみたいなのがついてあった。この扉に鍵穴はないから、こっちでパスワードでも打つのだろう。

小型のテレビみたなのに触れてみる。ピコッという電子音が鳴った。

「指紋認証中……画面から指を離さないでください」
「は?……え?」

画面から若い女の人の声が聞こえた。言われるがまま指をつける。

「指紋認証中……指紋認証中……合致しました。お入りください糞餓鬼様」
「は?おいなんだその名前。つーかなんで合致したんだよ」

カチャンと扉の鍵が開く音がした。なんか色々と納得できない。なんで俺の指紋が登録されてるんだろう。でも開いたしな……行くか。





扉の先は薄暗い廊下だった。空気がひんやりしててお化け屋敷みたいな雰囲気をしている。地面は大理石で踏む度にキュッキュッという音が出る。

灯りが見えた。何か音もする。ここから先には何があるんだろうか。とりあえず行かないとな。





そこはとても白くて、広い所だった。半径約30mくらいの円柱の空間でそこから壁に沿って下に螺旋階段が続いている。下までは目測で100mはある。すごい高い。

1番下には木箱や車が置いてある。もし落ちてもそれがクッションになれば生き残れるかもな。やりたくはないが。


道なりに沿って階段を降りる。ヒルの追跡はまだ終わってはいない。手すりもないのでうっかり横に転けたら落ちてしまう。うっかりで済む怪我ではなくなるぞ。


何段か降りるとと横に廊下を見つけた。ヒルもそこに入っていった。電気はついているのでホラー的な展開になることはないだろう。俺もその廊下に入っていった。




不気味な所だ。殺風景な白い通路がずっと続いている。どこかで変化はないかと探すが曲がり角があるくらいで何も無い。匂いも全くしない。まるで夢の世界に来たようだ。

ヒルはこんな所でも匂いを嗅ぎとることができるのかと感心した。俺だとなんか発狂しそうだ。



ガタッ

音がした。即座に矢をつがえて構える。ヒルも音を聞いたようで、唸りはじめた。

カツン……カツン……。

誰かが歩いてくる音がする。ここは十字路。どこに誰がいるかも分からない。弓を構えながら辺りを見渡す。何もない。でも音はする。頭がおかしくなりそうだ。

カツン……カツン……カツン。

音が止まった。近くにいる。もしかしたらこの階ではなく下の階かもしれない。呼吸が乱れる。気が狂いそうなほど何もない空間にいながらという状況。俺にはとんでもないストレスが溜まっていた。

ストレスに耐えられない。だが走り出したらその何かに位置がバレる可能性がある。それはまずい。だから走るのではなく、すり足で移動する。これなら音は出ない。

少しずつだ。とにかくここから離れたい。ヒルも俺の状況を感じ取ったのか、できるだけ音を立てないようにしてくれている。この子は多分、そこら辺の人間よりも頭がいいんだろうな。


10mくらい移動した時、気がついた。音が止まっている。足音が聞こえない。聞こえないなら聞こえないでいいのだがそういう問題ではない。さっきまで聞こえていた音が無くなったのだ。

なぜ消えたのだ。疑問が頭を突っ走った。気のせいでは絶対にない。確実に何かがいる。その何かが俺を狙っている。体重が3倍に増えたような感覚に陥った。




ミシミシ……。

何か音が聞こえた。下からだ。見たところ廊下や階段は新品だった。だから老朽化で音を立てたのではない。何かが下で何かをしているのだ。


ドス。

下から手が出てきた。黒い手袋をつけている。一瞬何が起こったのか分からなかった。まぁ当たり前だろう。

その手は凄まじい力で俺の足首を掴んできた。

「なっっ――」

声を出す暇もなく、俺は地面へと引っ張られた。辺りの地面が崩れ落ち、俺の体もろとも下の階へと落ちていった。といっても4mほどだが。


辺りに砂煙が充満していた。地面に背中がぶつかる。痛い……が、これくらいは慣れた。まだ足首には掴まれてる感覚がする。

突然、砂煙の中から大柄の女性が出てきた。
俺の足首を掴んでいるのはこの女だ。
俺はそれを瞬時に理解した。

女が俺の腹めがけて拳を叩きつけてきた。当たるともちろんヤバい。体を捻って拳から逃げる。俺の体がいた位置に叩きつけられた拳はかなり硬いであろう地面に綺麗な穴を空けていた。

当たったら死ぬ。直感でそんなことはわかった。とりあえず女の手を離させないといけない。

クイーバーから矢を取り出して女の手に突き刺した。女の体が少し震えた。しかし手は一向に離れる気配はない。なんなら強くなった。

女がこっちに顔を向けた。明らかな殺意のこもった目をしている。これはヤバい。まじでヤバい。

俺は体を捻って女の鼻にめがけて蹴りを入れた。女の手が緩まった。その隙に女の腕を蹴り飛ばして、ゴロゴロと転がりながら女との距離をとった。


立ち上がって女の方を確認する。女との距離は5m。下の階には来たが、上の階とあまり風景は変わらない。

少し冷静になって女の容姿を見てみた。女の体格はとんでもなくでかく、身長は2mもありそうだ。髪は茶髪でロング。黒いスーツと手袋をしており、スタイルもいい。洋画に出てくる強い女の人みたいだ。

女が立ち上がった。この硬い地面に穴を空けられるほどのパワー。こいつも化け物だろう。気おつけないと。

「……チッ」

舌打ちをされた。俺も舌打ちをしたいくらいなんだがな。

「脱走者の次は侵入者……私を過労死させる気なの?」
「……別に休んでくれても俺は構わないけど?」
「それができたらいいんだけどね……でも、あの人のことを考えるならあなたを殺さないといけないの」
「一方通行の恋は痛い目を見ることが多いぞ」
「うるさい口ね。さっさと喋れなくしてやるわ」

女が手袋を引いた。手袋は結構薄いようで女の大きい手が強調されている。まさか黒幕の本拠地に入っていきなりボス戦とはな。……上等だ。

俺は弦を引いた。












続く
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。 ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。 しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。 ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。 それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。 この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。 しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。 そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。 素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。 でも貴方は私を嫌っています。 だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。 貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。 貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。

処理中です...