【完結】愛していました、でも愛されてはいませんでした。

たろ

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番外編   5年後

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ウランはもうすぐ13歳になる。

ウランの誕生日は、必ず元夫のライアンと三人で過ごす。

それは一度も家族として過ごすことのなかったウランからの唯一のお願いだから。

もしお互い新しい家庭を築いても、ウランの誕生日だけは三人で会おうと約束をし………いや、させられた。

「お母様、来週の日曜日は僕が行きたかったレストランで食事をするように予約を入れてくれましたか?」

「もちろんよ、三人で予約を取っているわ」

「よかった。今年もお父様と三人で会えるね」

「ええ、そうね」

ウランは学園が長期休暇の時にはライアンの所へ泊まりに行ったりして会っている。

わたしは一年に一回だけ会うだけ。

その時だけは仲の良い親子として過ごす。

でもそれも今年で終わる。

わたしはもうすぐモーリス国へ引っ越す。

そうなれば誕生日どころかウランとも会うことはあまりなくなるだろう。

まだウランには伝えていない。
ウランは寮に入っているからわたしが居なくなっても休日はわたしの実家やライアンのところへ帰れるので困ることはないだろう。

わたしは、自分の夢のためにモーリス国へ行くことにしたのだ。
あの国には沢山の薬草がある。

そして薬師として勉強をして、ペルサイト国で困っている人たちのためにもっと効果のある薬を広めていきたい。

ウランの病気からわたしは、ペルサイト国の医療の遅れにとても危惧するようになった。
もちろん簡単に病気が治るわけでもなく、ウランはたまたま運が良かっただけ。

でもペルサイト国は、簡単に治る病気でも医療体制が遅れているから亡くなることが多い。
特に平民では医者にかかることは金銭的に難しく、薬に頼るしかない。

その薬も高くて手が出せない人も多いし、効果も期待出来ないものもある。

だからわたしは以前からモーリス国の薬を商会を通じて仕入れている。
それでも値段が張ってしまい高く売らざるをえない。

安価で売るためには、ペルサイト国で薬草を栽培して薬を調合したい。
そのためにわたしは勉強をするためにモーリス国へ行くことを以前から考えていた。

ウランから手が離れて、わたしがいなくなっても大丈夫な歳になった。

彼の誕生日の日に、話すつもりだ。

わたしが愛し大切に育てたウラン。

そんなウランが住むペルサイト国をさらに住みやすくしてあげたい。
もうあんな大病をして欲しくない。

わたしは少しでもわたしのように苦しむ人を減らしたい。

でもウランはわたしがいなくなる事を認めてくれるだろうか……



◇ ◇ ◇

ライアンが先に予約していたレストランに来ていた。

わたしとウランは少し遅れて入った。

「遅れて申し訳ございません」

わたしがライアンに謝ると、
「僕が早く来過ぎていただけだから、気にしないで」と言ってくれた。

わたし達が遅れたのには理由があった。

ラウンが
「お父様の待っている姿を見てみたいんだ」
と、言い出したから。

ライアンは早めにいつも来るのでわたし達も早めにレストランに着いた。

そしてわたし達の座る席がこっそり見える場所に隠れて二人でライアンを見ていた。

もちろんレストランには許可をもらって。

ライアンは席に着くとソワソワしていた。

何度も時計を確認して、窓から外を眺めていた。
わたし達がいつ来るか待ってくれているのだろう。

別れてから数年経っているのに、彼はまだ若くてカッコいい。
いまだに社交界では人気があり彼の後妻の地位を狙っている人が多いと聞く。
未亡人はもちろん令嬢達でさえ。

なのに彼は未だに再婚しようとしない。

もしかしたらウランに後を継がせるために子供を作りたくないのかもしれない。

後妻はいなくても適当に恋愛する男性も多い。

わたしはもちろん独身のままでいる。

あ、殿下の愛妾は、もう別の方がなっているのでわたしは殿下とは今も友人としてお付き合いさせてもらっている。

ライアンに対してももう何も感じない。

ただウランの父親としてはもちろん良い印象を持っていて、ウランが父親を見つめている姿を温かく見守っている。

ウランは父親の姿を見て満足してから、今着いたばかりのフリをしてライアンの座る席に向かったのだ。

「お父様、今日は来てくれてありがとうございます」と言ってウランはライアンの前に座った。

「ウラン、誕生日おめでとう」
ライアンはウランにプレゼントを渡していた。

「お父様、ありがとうございます」
ウランは目の前でプレゼントを開けると、
「あ!これ、前に欲しいと僕が言ってた時計だ!お父様、とても嬉しいです」

ウランの嬉しそうな顔を見て満足しているライアン。

やはりこの時ばかりは意地を張らずに二人を会わせて良かったと思ってしまう。

愛されていないと思い込み、逃げてばかりで二人の親子関係まで壊してしまうところだった。
後悔してしまう。

三人でウランの学園での話を聞きながら楽しく食事を終えて、わたしはやっと話を切り出した。

「わたし、あと数ヶ月したらモーリス国にしばらく移り住もうと思っているの」

「え?お母様どうして?」

「アイリス様のところで薬草の育て方や薬の作り方を習ってまたこの国に戻ってくるつもりなの」

「君はウランを置いて行くのか?」

「今のウランならわたしが居なくても安心してライアン、貴方に任せられると思っているの」

「しかし、ウランはまだ13歳だ、母親が必要だと思うんだが……」

「そうね、でも少しでも早く勉強して一日でも早くまたこの国に帰ってきたいと思っているの」

「ライアン、ウランをお願い。
今の貴方ならウランの父親としてこれ以上他にいい父親はいないと思うわ」

「でも、でも、お母様、会えなくなるのは寂しいです」

「わたしもウランを置いて行くのは寂しいわ、でもね、長期休暇に入ったらセルマ君に会いに来たらいいと思うわ、わたしもあちらでご厄介になる予定なの」

「セルマ君に会える……」

「ウラン、ごめんなさい、あなたに相談しないで決めてしまったわ。
でも反対されても行きたいの。
わたしの夢なの、この国の医療を少しでも発展させて簡単に命を落とすことがないようにしていきたいの」

「………長期休暇はずっとお母様のそばで過ごしてもいいんですよね?」

「もちろんよ」

「………普段はお父様の屋敷に帰ります。でも長期休暇の時に一人で馬車と汽車で行くのはまだ未成年の僕には無理です。その時はお父様も一緒に行ってくれますか?」

「え?ぼ、僕が?」
ライアンはいきなりのウランの提案にしどろもどろになってどう返事をするか迷っていた。

「………そうだね、僕たちもあちらの国から薬を輸入しているだけでどんな風に作られているか知らないからウランについて行くのも仕事としてもいいかもしれないね」

「ライアン、仕事のパートナーとしていつでも歓迎するわ」

ライアンやジョージ様達もわたしと一緒に薬の輸入に力を入れてくれている。

お互いビジネスパートナーとして過ごすのもいいのかもしれない。
普段はライアンとは顔を合わせることはない。ジョージ様がライアンと打ち合わせをしているしわたしは別の仕事で動くことが多いので会わないようにお互い気をつけている。

「では、ライアン、よろしくおねがいします」


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