30 / 32
第30話
しおりを挟む
「どうして?だったらそんなに悲しい顔しないで!僕が寝ている時に泣いていたのは何故?」
「ミシェル、ウラン、すまない……探し出せなくて……まさかワルシャイナ王国に行っているなんて思わなくて国中を探していたんだ。それに国を出るならモーリス国だと思い込んでいたんだ……やっとわかった時にはウランが白血病で治療のためモーリス国にいると聞いた。
そちらに行こうとしたら……ロバート殿に今はまだやめて欲しいと言われたんだ」
「ロバート様が?」
「ウランの体調が思わしくない中、僕がそちらに行けば混乱するから……確かにそうだと思い落ち着いたら顔を出すつもりだった。でもその前に君たちがこっちに帰ってきたんだ」
「そうだったのね、確かに突然貴方が私たちの前に現れたらどう対処していいかわからなかったと思うわ」
「すまなかった、一人でウランを育てさせて辛い思いをさせた。ウランもよく頑張ったな」
ライアン様はウランの頭を撫でて、ウランは少し困った顔をしてはにかんでいた。
父親という存在をロバート様とセルマ君を見て羨ましがっていたから、多分嬉しいのだろう。
わたしはウランの幸せすら奪っていたのだと思った。
自分の感情だけで逃げてしまい、子どもの気持ちなど考えてもいなかった。
「ライアン、わたしと離縁してもこれからはウランに会って欲しいの。わたしはそれをお願いするために会いにきたの」
「………もう8年が過ぎたんだね……君と結婚して。僕はいい夫ではなかった。君を苦しめてきた。結婚前も君が苦しんでいるのを知っていたのに僕は君が嫉妬してくれるのを馬鹿だから嬉しく感じてしまった。
君にきちんと離縁状を渡して正式に離縁するよ、もちろん慰謝料も払うしウランの養育費も払うつもりだ。きちんとけりをつけたいんだ。
今まで苦しめてごめん、でも本当に君のことを愛していたんだ。それだけは嘘ではなかった」
「ライアン、ありがとう。でも愛していた……過去形ね……わたしもそうよ、貴方をずっと愛していたわ……でもね、愛されていると感じたことは一度もなかった……そしてもうこの屋敷を出た日にわたし達の関係は終わっていたの」
「………そうだね、いくら言い訳をしても僕は遅過ぎたんだ。君を愛していたのに、それを君に伝える努力もしなかった。君と最後に話せてよかった」
「ルシア様とお幸せに」
「………何故?」
「風の噂で聞いているわ、貴方がルシア様と暮らしていることは……」
「……そうか」
わたしはそして離縁状を受け取り屋敷を出た。
◇ ◇ ◇
「旦那様……良かったのですか?本当はルシア様とは何もないのに……最後まで嘘をつく必要はありますか?」
家令のマークが僕に訴えだが、僕は「いいんだ」としか言わなかった。
ルシアはもうこの世にはいない。
僕の屋敷に何度も押しかけてきて、とうとう捕まった。
しばらく牢に入りその後平民として暮らしたが産後体調を崩し亡くなったそうだ。
子どもは領地で細々と暮らしている両親に引き取られたと聞いている。
僕はずっとミシェルだけを愛している。
ウランが白血病に倒れたと聞いた時は、全てを放ってすぐにでも駆けつけたかった。
でもその権利は僕にはない。
父親として何もしていないのにそんな時だけ父親面して会いにはいけなかった。
ロバート殿には何度も手紙を出して、治療費もきちんと払いたいと頼んだ。
しかしロバート殿は「貴方にもらう謂れはない」と言われた。
僕には息子の治療費を払う資格すらなかった。
それはミシェルが僕と離縁していると思っていたから。彼女が僕に頼ることすらなかった。
高額な治療費が必要な時ですら僕に泣きついてこなかった。
それが答えなんだ。
僕は離縁状を出さないでいたのはもう一度やり直したかったから。
でもそんな希望は一瞬で消え去った。
ミシェルの中でもう僕は終わってしまっているんだ。
僕は毎回間違っていたんだ。
父上にルシアと仲良くするように言われた時だって素直に父上に従わずに、ミシェルに伝えていればよかったんだ。
卒業してからでも結婚してからでもいいから、本当のことを言えば良かったんだ。
あれは浮気ではない、父上からの指示だったと。
ミシェルが出て行った時だってすぐに追いかければ良かった。
ウランが生まれた時だって会いにいけば良かった。
ルシアにキスされた時だって、ルシアのことなんか放っておいて家令に頼めば良かったんだ。
自分が対処する必要なんてなかった。
全て後の祭りだ。
自分でもわかっている、それは言い訳でしかないことを。
ミシェルにはっきり嫌われていると認めたくなかったんだ。
だから逃げたんだ。
それでもミシェルはウランと会わせてくれた。
これからもウランと会うことは出来る。
もうそれだけでいい。
それだけでも僕にとっては幸せなんだ。
ミシェル、愛しているよ。ずっと君だけを……
END
◆ ◆ ◆
最後はきっとハッピーエンド?
ではありませんでした。
すみません。
でも………数年後の三人を少しだけ……
また番外編で書こうと思っています。
しばらくお待ちください!
読んでいただきありがとうございました
たろ
「ミシェル、ウラン、すまない……探し出せなくて……まさかワルシャイナ王国に行っているなんて思わなくて国中を探していたんだ。それに国を出るならモーリス国だと思い込んでいたんだ……やっとわかった時にはウランが白血病で治療のためモーリス国にいると聞いた。
そちらに行こうとしたら……ロバート殿に今はまだやめて欲しいと言われたんだ」
「ロバート様が?」
「ウランの体調が思わしくない中、僕がそちらに行けば混乱するから……確かにそうだと思い落ち着いたら顔を出すつもりだった。でもその前に君たちがこっちに帰ってきたんだ」
「そうだったのね、確かに突然貴方が私たちの前に現れたらどう対処していいかわからなかったと思うわ」
「すまなかった、一人でウランを育てさせて辛い思いをさせた。ウランもよく頑張ったな」
ライアン様はウランの頭を撫でて、ウランは少し困った顔をしてはにかんでいた。
父親という存在をロバート様とセルマ君を見て羨ましがっていたから、多分嬉しいのだろう。
わたしはウランの幸せすら奪っていたのだと思った。
自分の感情だけで逃げてしまい、子どもの気持ちなど考えてもいなかった。
「ライアン、わたしと離縁してもこれからはウランに会って欲しいの。わたしはそれをお願いするために会いにきたの」
「………もう8年が過ぎたんだね……君と結婚して。僕はいい夫ではなかった。君を苦しめてきた。結婚前も君が苦しんでいるのを知っていたのに僕は君が嫉妬してくれるのを馬鹿だから嬉しく感じてしまった。
君にきちんと離縁状を渡して正式に離縁するよ、もちろん慰謝料も払うしウランの養育費も払うつもりだ。きちんとけりをつけたいんだ。
今まで苦しめてごめん、でも本当に君のことを愛していたんだ。それだけは嘘ではなかった」
「ライアン、ありがとう。でも愛していた……過去形ね……わたしもそうよ、貴方をずっと愛していたわ……でもね、愛されていると感じたことは一度もなかった……そしてもうこの屋敷を出た日にわたし達の関係は終わっていたの」
「………そうだね、いくら言い訳をしても僕は遅過ぎたんだ。君を愛していたのに、それを君に伝える努力もしなかった。君と最後に話せてよかった」
「ルシア様とお幸せに」
「………何故?」
「風の噂で聞いているわ、貴方がルシア様と暮らしていることは……」
「……そうか」
わたしはそして離縁状を受け取り屋敷を出た。
◇ ◇ ◇
「旦那様……良かったのですか?本当はルシア様とは何もないのに……最後まで嘘をつく必要はありますか?」
家令のマークが僕に訴えだが、僕は「いいんだ」としか言わなかった。
ルシアはもうこの世にはいない。
僕の屋敷に何度も押しかけてきて、とうとう捕まった。
しばらく牢に入りその後平民として暮らしたが産後体調を崩し亡くなったそうだ。
子どもは領地で細々と暮らしている両親に引き取られたと聞いている。
僕はずっとミシェルだけを愛している。
ウランが白血病に倒れたと聞いた時は、全てを放ってすぐにでも駆けつけたかった。
でもその権利は僕にはない。
父親として何もしていないのにそんな時だけ父親面して会いにはいけなかった。
ロバート殿には何度も手紙を出して、治療費もきちんと払いたいと頼んだ。
しかしロバート殿は「貴方にもらう謂れはない」と言われた。
僕には息子の治療費を払う資格すらなかった。
それはミシェルが僕と離縁していると思っていたから。彼女が僕に頼ることすらなかった。
高額な治療費が必要な時ですら僕に泣きついてこなかった。
それが答えなんだ。
僕は離縁状を出さないでいたのはもう一度やり直したかったから。
でもそんな希望は一瞬で消え去った。
ミシェルの中でもう僕は終わってしまっているんだ。
僕は毎回間違っていたんだ。
父上にルシアと仲良くするように言われた時だって素直に父上に従わずに、ミシェルに伝えていればよかったんだ。
卒業してからでも結婚してからでもいいから、本当のことを言えば良かったんだ。
あれは浮気ではない、父上からの指示だったと。
ミシェルが出て行った時だってすぐに追いかければ良かった。
ウランが生まれた時だって会いにいけば良かった。
ルシアにキスされた時だって、ルシアのことなんか放っておいて家令に頼めば良かったんだ。
自分が対処する必要なんてなかった。
全て後の祭りだ。
自分でもわかっている、それは言い訳でしかないことを。
ミシェルにはっきり嫌われていると認めたくなかったんだ。
だから逃げたんだ。
それでもミシェルはウランと会わせてくれた。
これからもウランと会うことは出来る。
もうそれだけでいい。
それだけでも僕にとっては幸せなんだ。
ミシェル、愛しているよ。ずっと君だけを……
END
◆ ◆ ◆
最後はきっとハッピーエンド?
ではありませんでした。
すみません。
でも………数年後の三人を少しだけ……
また番外編で書こうと思っています。
しばらくお待ちください!
読んでいただきありがとうございました
たろ
59
お気に入りに追加
3,338
あなたにおすすめの小説
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。
ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。
しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。
ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。
それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。
この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。
しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。
そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。
素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。
でも貴方は私を嫌っています。
だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。
貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。
貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる