29 / 32
第29話
しおりを挟む
ウランの体調のこともありしばらく実家で静養することにした。
お父様からライアンには連絡を取ってもらった。
そして一週間後、ウランを連れてライアンの屋敷へ行くことになった。
「お父様ってどんな人?」
「うーん、ライアンに似ているわ」
「僕に?じゃあ、初めましてって言っても僕のことわかるかな?」
「ええ、絶対にわかると思うわ」
「怖い?僕のこと嫌いかな?」
「どうしてウランを嫌うの?」
「だってずっと隠れていたから……」
「隠れていたのはお母様よ、お父様はお母様を嫌ってもウランを嫌うことはないわ、会ったら抱きしめてくれると思うわ」
「ほんと?」
「絶対にね」
わたしはウランに微笑んだ。
ライアンは、普段は少し冷たさを感じてしまう。
不器用で笑うのが苦手。
でも本当はとても優しい。
わたしはその優しさに惹かれていた。
でもその優しさをルシア様に向けた瞬間からわたしの心は少しずつ彼から心が離れて行った。
愛している、ひたすらそう思っていたのに今では彼のことで心が揺さぶられることはない。
「ウラン、そろそろ着くわ、ご挨拶だけはきちんとするのよ」
「うん、わかった」
屋敷に着くと久しぶりに会う使用人の顔がまだそこにはあった。
(変わっていない)
中に入るとやはり知らない顔も増えていた。
わたし達を好奇な目で見ていた。
わたしは気づかないフリをして笑顔を向けてそのままライアンのいる部屋へと向かう。
あのルシア様とキスをしていた部屋へ。
中は全て変わっていた。
家具も壁紙もカーテンも。
あの時の光景を思い出す物は全てなくなっていた。
(ライアンの配慮かしら?)
わたしは気にしていない素振りで部屋に入るとライアンがソファから立ち上がりわたし達を見た。
6年以上経った歳月はお互い少し歳をとっていた。
あの頃の情熱や悲しみ、苦しさ全てもうわたしには感じられなかった。
「お久しぶりです、ブレイズ侯爵様」
「こんにちわ、ウランと言います、ブレイズ侯爵様」
私たちの挨拶にライアンは、苦しそうな顔をしていた。
まだ離縁していないらしいので、本当は夫婦のままなのだろう。
しかし長い年月が過ぎてもうわたしの中で彼は赤の他人だった。
「ミシェル……ウラン?」
「はい、ウランと申します」
ウランは緊張しているのか、必死で笑顔を作っていた。
「すまない、立たせたままで……座ってくれないか」
「かしこまりました」
わたし達はライアンの前のソファに座った。
彼が話しかけるまでわたし達二人は一切何も話さずただじっとテーブルを見ていた。
この間に耐えるしかない。
ウランも大人の空気を感じ取っているのか、じっと我慢して座ってくれている。
お茶を出されてわたしは喉を潤した。
ウランも大好きなりんごジュースを美味しそうに飲んでいた。
「ウラン……体調はどうだい?」
「はい、ずっと苦しかったけど今はとても元気です!」
ウランはしっかり受け答えをした。
「ミシェル、ウランの病気のこと知らなかったとはいえ一人で大変だっただろう?僕にできることはないか?」
「ブレイズ侯爵様……お心遣いありがとうございます、でも貴方にお願いすることは何もございません」
「……そうか」
ライアンは見るからにショックを受けていた。
「ウラン、何か欲しいものはないか?快気祝いに何かプレゼントしたいんだ」
「欲しいものですか?うーん、もうお祖父様が全て買ってくれたので何もありません」
「そ、そうか……買ってもらったのか」
なんだかライアンが可哀想になりウランにそっと囁いた。
父親としてこの人を嫌いなわけではない。
わたしも母親になったからライアンが父親として接したい気持ちはわかる。
それをずっと拒んできたのだから今日は二人に親子として会わせてあげたかった。
まあ、ウランまで「ブレイズ侯爵様」と言うなんて思わなかったけど。
ずっと「お父様」と呼んでいたから。
「ウラン、話したい事があったのでしょう?」
「あ!そうだった!」
ウランは完全に忘れていたみたいだ。
わたしはウランが何を話したいのか聞いたけど「ナイショ」と言って教えてもらえなかった。
でもウランはどうしても話をしたかったらしい。
そしてウランはにっこり笑ってライアンに話し出した。
「ブレイズ侯爵様はお母様が嫌いなのですか?お母様はいつも寂しそうな顔をするんです。
この前までセルマくんの家にいたんだけど、アイリス様とロバート様が仲良くしていると寂しそうにしているし、ロバート様とセルマくんが仲良くしていても寂しそうにしているんです。
お母様はブレイズ侯爵様に捨てられたから隠れていたのですか?」
「ウラン、何を言い出すの?」
わたしが驚いていると
「お母様は言いました。
『貴方のお父様は優し過ぎたのかもしれないわ、でもね、わたしは彼を愛していたの、愛し過ぎて信じることができなかった。
捨てられるのも愛されていないとわかってそれを認めることも怖くて貴方を連れて逃げてしまったの』って……お母様はブレイズ侯爵様を愛していたのに貴方はお母様が嫌いなんですか?お母様を悲しませて苦しめて、ずっとお母様は隠れていたのに探しにきてくれなかった」
「お願い、ウランやめてちょうだい。
もうわたしはブレイズ侯爵様のことはなんとも思っていないのよ、わたしはウランさえいればいいの」
お父様からライアンには連絡を取ってもらった。
そして一週間後、ウランを連れてライアンの屋敷へ行くことになった。
「お父様ってどんな人?」
「うーん、ライアンに似ているわ」
「僕に?じゃあ、初めましてって言っても僕のことわかるかな?」
「ええ、絶対にわかると思うわ」
「怖い?僕のこと嫌いかな?」
「どうしてウランを嫌うの?」
「だってずっと隠れていたから……」
「隠れていたのはお母様よ、お父様はお母様を嫌ってもウランを嫌うことはないわ、会ったら抱きしめてくれると思うわ」
「ほんと?」
「絶対にね」
わたしはウランに微笑んだ。
ライアンは、普段は少し冷たさを感じてしまう。
不器用で笑うのが苦手。
でも本当はとても優しい。
わたしはその優しさに惹かれていた。
でもその優しさをルシア様に向けた瞬間からわたしの心は少しずつ彼から心が離れて行った。
愛している、ひたすらそう思っていたのに今では彼のことで心が揺さぶられることはない。
「ウラン、そろそろ着くわ、ご挨拶だけはきちんとするのよ」
「うん、わかった」
屋敷に着くと久しぶりに会う使用人の顔がまだそこにはあった。
(変わっていない)
中に入るとやはり知らない顔も増えていた。
わたし達を好奇な目で見ていた。
わたしは気づかないフリをして笑顔を向けてそのままライアンのいる部屋へと向かう。
あのルシア様とキスをしていた部屋へ。
中は全て変わっていた。
家具も壁紙もカーテンも。
あの時の光景を思い出す物は全てなくなっていた。
(ライアンの配慮かしら?)
わたしは気にしていない素振りで部屋に入るとライアンがソファから立ち上がりわたし達を見た。
6年以上経った歳月はお互い少し歳をとっていた。
あの頃の情熱や悲しみ、苦しさ全てもうわたしには感じられなかった。
「お久しぶりです、ブレイズ侯爵様」
「こんにちわ、ウランと言います、ブレイズ侯爵様」
私たちの挨拶にライアンは、苦しそうな顔をしていた。
まだ離縁していないらしいので、本当は夫婦のままなのだろう。
しかし長い年月が過ぎてもうわたしの中で彼は赤の他人だった。
「ミシェル……ウラン?」
「はい、ウランと申します」
ウランは緊張しているのか、必死で笑顔を作っていた。
「すまない、立たせたままで……座ってくれないか」
「かしこまりました」
わたし達はライアンの前のソファに座った。
彼が話しかけるまでわたし達二人は一切何も話さずただじっとテーブルを見ていた。
この間に耐えるしかない。
ウランも大人の空気を感じ取っているのか、じっと我慢して座ってくれている。
お茶を出されてわたしは喉を潤した。
ウランも大好きなりんごジュースを美味しそうに飲んでいた。
「ウラン……体調はどうだい?」
「はい、ずっと苦しかったけど今はとても元気です!」
ウランはしっかり受け答えをした。
「ミシェル、ウランの病気のこと知らなかったとはいえ一人で大変だっただろう?僕にできることはないか?」
「ブレイズ侯爵様……お心遣いありがとうございます、でも貴方にお願いすることは何もございません」
「……そうか」
ライアンは見るからにショックを受けていた。
「ウラン、何か欲しいものはないか?快気祝いに何かプレゼントしたいんだ」
「欲しいものですか?うーん、もうお祖父様が全て買ってくれたので何もありません」
「そ、そうか……買ってもらったのか」
なんだかライアンが可哀想になりウランにそっと囁いた。
父親としてこの人を嫌いなわけではない。
わたしも母親になったからライアンが父親として接したい気持ちはわかる。
それをずっと拒んできたのだから今日は二人に親子として会わせてあげたかった。
まあ、ウランまで「ブレイズ侯爵様」と言うなんて思わなかったけど。
ずっと「お父様」と呼んでいたから。
「ウラン、話したい事があったのでしょう?」
「あ!そうだった!」
ウランは完全に忘れていたみたいだ。
わたしはウランが何を話したいのか聞いたけど「ナイショ」と言って教えてもらえなかった。
でもウランはどうしても話をしたかったらしい。
そしてウランはにっこり笑ってライアンに話し出した。
「ブレイズ侯爵様はお母様が嫌いなのですか?お母様はいつも寂しそうな顔をするんです。
この前までセルマくんの家にいたんだけど、アイリス様とロバート様が仲良くしていると寂しそうにしているし、ロバート様とセルマくんが仲良くしていても寂しそうにしているんです。
お母様はブレイズ侯爵様に捨てられたから隠れていたのですか?」
「ウラン、何を言い出すの?」
わたしが驚いていると
「お母様は言いました。
『貴方のお父様は優し過ぎたのかもしれないわ、でもね、わたしは彼を愛していたの、愛し過ぎて信じることができなかった。
捨てられるのも愛されていないとわかってそれを認めることも怖くて貴方を連れて逃げてしまったの』って……お母様はブレイズ侯爵様を愛していたのに貴方はお母様が嫌いなんですか?お母様を悲しませて苦しめて、ずっとお母様は隠れていたのに探しにきてくれなかった」
「お願い、ウランやめてちょうだい。
もうわたしはブレイズ侯爵様のことはなんとも思っていないのよ、わたしはウランさえいればいいの」
64
お気に入りに追加
3,338
あなたにおすすめの小説
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。
ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。
しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。
ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。
それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。
この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。
しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。
そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。
素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。
でも貴方は私を嫌っています。
だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。
貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。
貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる