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第29話
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ウランの体調のこともありしばらく実家で静養することにした。
お父様からライアンには連絡を取ってもらった。
そして一週間後、ウランを連れてライアンの屋敷へ行くことになった。
「お父様ってどんな人?」
「うーん、ライアンに似ているわ」
「僕に?じゃあ、初めましてって言っても僕のことわかるかな?」
「ええ、絶対にわかると思うわ」
「怖い?僕のこと嫌いかな?」
「どうしてウランを嫌うの?」
「だってずっと隠れていたから……」
「隠れていたのはお母様よ、お父様はお母様を嫌ってもウランを嫌うことはないわ、会ったら抱きしめてくれると思うわ」
「ほんと?」
「絶対にね」
わたしはウランに微笑んだ。
ライアンは、普段は少し冷たさを感じてしまう。
不器用で笑うのが苦手。
でも本当はとても優しい。
わたしはその優しさに惹かれていた。
でもその優しさをルシア様に向けた瞬間からわたしの心は少しずつ彼から心が離れて行った。
愛している、ひたすらそう思っていたのに今では彼のことで心が揺さぶられることはない。
「ウラン、そろそろ着くわ、ご挨拶だけはきちんとするのよ」
「うん、わかった」
屋敷に着くと久しぶりに会う使用人の顔がまだそこにはあった。
(変わっていない)
中に入るとやはり知らない顔も増えていた。
わたし達を好奇な目で見ていた。
わたしは気づかないフリをして笑顔を向けてそのままライアンのいる部屋へと向かう。
あのルシア様とキスをしていた部屋へ。
中は全て変わっていた。
家具も壁紙もカーテンも。
あの時の光景を思い出す物は全てなくなっていた。
(ライアンの配慮かしら?)
わたしは気にしていない素振りで部屋に入るとライアンがソファから立ち上がりわたし達を見た。
6年以上経った歳月はお互い少し歳をとっていた。
あの頃の情熱や悲しみ、苦しさ全てもうわたしには感じられなかった。
「お久しぶりです、ブレイズ侯爵様」
「こんにちわ、ウランと言います、ブレイズ侯爵様」
私たちの挨拶にライアンは、苦しそうな顔をしていた。
まだ離縁していないらしいので、本当は夫婦のままなのだろう。
しかし長い年月が過ぎてもうわたしの中で彼は赤の他人だった。
「ミシェル……ウラン?」
「はい、ウランと申します」
ウランは緊張しているのか、必死で笑顔を作っていた。
「すまない、立たせたままで……座ってくれないか」
「かしこまりました」
わたし達はライアンの前のソファに座った。
彼が話しかけるまでわたし達二人は一切何も話さずただじっとテーブルを見ていた。
この間に耐えるしかない。
ウランも大人の空気を感じ取っているのか、じっと我慢して座ってくれている。
お茶を出されてわたしは喉を潤した。
ウランも大好きなりんごジュースを美味しそうに飲んでいた。
「ウラン……体調はどうだい?」
「はい、ずっと苦しかったけど今はとても元気です!」
ウランはしっかり受け答えをした。
「ミシェル、ウランの病気のこと知らなかったとはいえ一人で大変だっただろう?僕にできることはないか?」
「ブレイズ侯爵様……お心遣いありがとうございます、でも貴方にお願いすることは何もございません」
「……そうか」
ライアンは見るからにショックを受けていた。
「ウラン、何か欲しいものはないか?快気祝いに何かプレゼントしたいんだ」
「欲しいものですか?うーん、もうお祖父様が全て買ってくれたので何もありません」
「そ、そうか……買ってもらったのか」
なんだかライアンが可哀想になりウランにそっと囁いた。
父親としてこの人を嫌いなわけではない。
わたしも母親になったからライアンが父親として接したい気持ちはわかる。
それをずっと拒んできたのだから今日は二人に親子として会わせてあげたかった。
まあ、ウランまで「ブレイズ侯爵様」と言うなんて思わなかったけど。
ずっと「お父様」と呼んでいたから。
「ウラン、話したい事があったのでしょう?」
「あ!そうだった!」
ウランは完全に忘れていたみたいだ。
わたしはウランが何を話したいのか聞いたけど「ナイショ」と言って教えてもらえなかった。
でもウランはどうしても話をしたかったらしい。
そしてウランはにっこり笑ってライアンに話し出した。
「ブレイズ侯爵様はお母様が嫌いなのですか?お母様はいつも寂しそうな顔をするんです。
この前までセルマくんの家にいたんだけど、アイリス様とロバート様が仲良くしていると寂しそうにしているし、ロバート様とセルマくんが仲良くしていても寂しそうにしているんです。
お母様はブレイズ侯爵様に捨てられたから隠れていたのですか?」
「ウラン、何を言い出すの?」
わたしが驚いていると
「お母様は言いました。
『貴方のお父様は優し過ぎたのかもしれないわ、でもね、わたしは彼を愛していたの、愛し過ぎて信じることができなかった。
捨てられるのも愛されていないとわかってそれを認めることも怖くて貴方を連れて逃げてしまったの』って……お母様はブレイズ侯爵様を愛していたのに貴方はお母様が嫌いなんですか?お母様を悲しませて苦しめて、ずっとお母様は隠れていたのに探しにきてくれなかった」
「お願い、ウランやめてちょうだい。
もうわたしはブレイズ侯爵様のことはなんとも思っていないのよ、わたしはウランさえいればいいの」
お父様からライアンには連絡を取ってもらった。
そして一週間後、ウランを連れてライアンの屋敷へ行くことになった。
「お父様ってどんな人?」
「うーん、ライアンに似ているわ」
「僕に?じゃあ、初めましてって言っても僕のことわかるかな?」
「ええ、絶対にわかると思うわ」
「怖い?僕のこと嫌いかな?」
「どうしてウランを嫌うの?」
「だってずっと隠れていたから……」
「隠れていたのはお母様よ、お父様はお母様を嫌ってもウランを嫌うことはないわ、会ったら抱きしめてくれると思うわ」
「ほんと?」
「絶対にね」
わたしはウランに微笑んだ。
ライアンは、普段は少し冷たさを感じてしまう。
不器用で笑うのが苦手。
でも本当はとても優しい。
わたしはその優しさに惹かれていた。
でもその優しさをルシア様に向けた瞬間からわたしの心は少しずつ彼から心が離れて行った。
愛している、ひたすらそう思っていたのに今では彼のことで心が揺さぶられることはない。
「ウラン、そろそろ着くわ、ご挨拶だけはきちんとするのよ」
「うん、わかった」
屋敷に着くと久しぶりに会う使用人の顔がまだそこにはあった。
(変わっていない)
中に入るとやはり知らない顔も増えていた。
わたし達を好奇な目で見ていた。
わたしは気づかないフリをして笑顔を向けてそのままライアンのいる部屋へと向かう。
あのルシア様とキスをしていた部屋へ。
中は全て変わっていた。
家具も壁紙もカーテンも。
あの時の光景を思い出す物は全てなくなっていた。
(ライアンの配慮かしら?)
わたしは気にしていない素振りで部屋に入るとライアンがソファから立ち上がりわたし達を見た。
6年以上経った歳月はお互い少し歳をとっていた。
あの頃の情熱や悲しみ、苦しさ全てもうわたしには感じられなかった。
「お久しぶりです、ブレイズ侯爵様」
「こんにちわ、ウランと言います、ブレイズ侯爵様」
私たちの挨拶にライアンは、苦しそうな顔をしていた。
まだ離縁していないらしいので、本当は夫婦のままなのだろう。
しかし長い年月が過ぎてもうわたしの中で彼は赤の他人だった。
「ミシェル……ウラン?」
「はい、ウランと申します」
ウランは緊張しているのか、必死で笑顔を作っていた。
「すまない、立たせたままで……座ってくれないか」
「かしこまりました」
わたし達はライアンの前のソファに座った。
彼が話しかけるまでわたし達二人は一切何も話さずただじっとテーブルを見ていた。
この間に耐えるしかない。
ウランも大人の空気を感じ取っているのか、じっと我慢して座ってくれている。
お茶を出されてわたしは喉を潤した。
ウランも大好きなりんごジュースを美味しそうに飲んでいた。
「ウラン……体調はどうだい?」
「はい、ずっと苦しかったけど今はとても元気です!」
ウランはしっかり受け答えをした。
「ミシェル、ウランの病気のこと知らなかったとはいえ一人で大変だっただろう?僕にできることはないか?」
「ブレイズ侯爵様……お心遣いありがとうございます、でも貴方にお願いすることは何もございません」
「……そうか」
ライアンは見るからにショックを受けていた。
「ウラン、何か欲しいものはないか?快気祝いに何かプレゼントしたいんだ」
「欲しいものですか?うーん、もうお祖父様が全て買ってくれたので何もありません」
「そ、そうか……買ってもらったのか」
なんだかライアンが可哀想になりウランにそっと囁いた。
父親としてこの人を嫌いなわけではない。
わたしも母親になったからライアンが父親として接したい気持ちはわかる。
それをずっと拒んできたのだから今日は二人に親子として会わせてあげたかった。
まあ、ウランまで「ブレイズ侯爵様」と言うなんて思わなかったけど。
ずっと「お父様」と呼んでいたから。
「ウラン、話したい事があったのでしょう?」
「あ!そうだった!」
ウランは完全に忘れていたみたいだ。
わたしはウランが何を話したいのか聞いたけど「ナイショ」と言って教えてもらえなかった。
でもウランはどうしても話をしたかったらしい。
そしてウランはにっこり笑ってライアンに話し出した。
「ブレイズ侯爵様はお母様が嫌いなのですか?お母様はいつも寂しそうな顔をするんです。
この前までセルマくんの家にいたんだけど、アイリス様とロバート様が仲良くしていると寂しそうにしているし、ロバート様とセルマくんが仲良くしていても寂しそうにしているんです。
お母様はブレイズ侯爵様に捨てられたから隠れていたのですか?」
「ウラン、何を言い出すの?」
わたしが驚いていると
「お母様は言いました。
『貴方のお父様は優し過ぎたのかもしれないわ、でもね、わたしは彼を愛していたの、愛し過ぎて信じることができなかった。
捨てられるのも愛されていないとわかってそれを認めることも怖くて貴方を連れて逃げてしまったの』って……お母様はブレイズ侯爵様を愛していたのに貴方はお母様が嫌いなんですか?お母様を悲しませて苦しめて、ずっとお母様は隠れていたのに探しにきてくれなかった」
「お願い、ウランやめてちょうだい。
もうわたしはブレイズ侯爵様のことはなんとも思っていないのよ、わたしはウランさえいればいいの」
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