12 / 32
第12話
しおりを挟む
わたしは殿下の私室から出て、頭を抱えた。
離縁もどうなるかわからないのに、殿下の愛妾?
それもウランをライアンに渡す……
アナンがウランを抱っこしてくれていた。
わたしはウランを引き取り、彼の頬に自分の頬をスリスリして、
「あなたを愛しているわ」
そう、わたしはウランと離れないと決めてこの1年3ヶ月過ごしてきた。
なのにこの子を手放して殿下と幸せになる?
なれる訳がないわ。
わたしは殿下のことを友人として、好きではあるが愛してはいない。
わたしが愛したのも愛しているのも、ライアンだけ。
ライアンを愛しているから、愛を貰えないことが辛い。
愛しているから、わたしを愛していないと、言われるのが怖くて逃げた。
でも、殿下からの誘いを断るのは簡単なことではない。
王命でなくとも王族からの言葉を簡単に断れば、家名にも傷が付くし、迷惑をかけることになる。
「お父様にお会いしないといけないわ」
わたしは、ライアンの屋敷に帰らずに、実家に帰ることにした。
屋敷に着くと、お父様はいなかった。
お母様がわたしとウランを見て、
「お帰りなさい、会いたかったわ」
と言いながら、わたしではなくウランに手を出して、受け取ると嬉しそうに抱っこをした。
「大きくなったわね、会いたかったわ」
お母様とはなかなか会う機会がなくて、ウランが産まれたばかりの時に一度会ったきりだったので、8ヶ月になったウランの成長を見て嬉しそうにしながらも驚いていた。
「お母様は、殿下からのお話を聞いていますか?」
お母様はウランを抱っこして微笑んだまま
「聞いているわ…貴女は殿下の事をどう思っているの?愛しているの?」
「わたしは殿下とはずっと仲の良い友人として過ごしてきました。それは今も変わりません」
「そう……でもその気持ちを隠して彼の元へ行かないといけないわね」
「やはり断るのは難しいですか?」
「貴女が離縁しないのなら断ることも出来るでしょう………でも離縁したのなら断るのは難しいと思うわ」
「…………そうですよね…」
「ミシェル、ウランのためにももう一度ライアンと話し合いなさい。貴女はこのままラウルと離れて殿下のもとへ行ってしまっていいの?」
「わたしは、たとえライアンと別れることになってもラウルとは離れたくない……この子の母親でいたい」
「主人とも話してみるわ、離縁しても殿下の愛妾になるのは嫌なのね?」
「わたしは殿下との関係は友人同士だと思っています」
「そう……ライアンのことはもう愛していないの?」
「……よくわかりません、彼を今どう思っているのか……」
(本当は今も愛しているの……でも愛のない生活はこれ以上出来ない……わたしはライアンから逃げたいの。あの人の瞳に映るのはルシア様なの、わたしではないわ)
「とにかく一度ライアンと話し合うの、いい?わかったわね?」
「……はい」
わたしは力なく頷いた。
お母様はそれからわたしをライアンの屋敷に無理やり帰した。
「ああ、なんて話そう」
まさか殿下から愛妾として望まれているなんて簡単に話せることではない。
わたしは馬車の中で一人悩んでいた。
横にいるウランは気持ちよさそうに寝ていた。
わたしが屋敷に着くと使用人達のわたしを見る目がおかしい。
なぜか目を逸らしている。
不思議に思いながらも屋敷の中へ入ると、客室にライアンが誰かと話をしているようだった。
わたしは大事なお客様だと失礼なのでそっと離れて自分の部屋へウランを連れて行こうとした。
その時聞こえてきた声に思わず足が止まった。
「……アン、……して…わ、ねえ」
(この声は……ルシア様?)
あの甘ったるい声でライアンを呼ぶ声、いつも耳を塞いでしまいたくなる嫌な声。
わたしは二人の姿を見たくないのに、でも確かめずにいられなくて震える手で客室をそっと開けた。
二人はやはり抱き合って顔を近づけていた。
(キスをしていたの?)
わたしはすぐに扉を閉めようとしたが、ルシア様に気づかれた。
「あら!嫌だわ、奥様が見ているわよライアン」
ニヤッと笑ってわたしを嘲笑うかのように見た。
「離れてくれ!違うんだ、ミシェル!」
「何が違うの?わたしが今この屋敷に帰ってきていることを知っていて二人は抱き合っていたの?
キスをしていたの?
二人が愛し合っているのならわたしは必要ないでしょう?離縁して!
そうすれば二人はそんなに隠れて愛し合う必要はないわ!堂々と愛し合えばいいのよ!」
「ふふ、ありがとう。奥様の許可を得たわ。ライアンこれからは隠れなくても会えるのね、嬉しいわ」
「やめてくれ!誤解だ。ルシアは無理矢理押し入って来たんだ。だから帰そうとしていただけだ!隠れてなんか会っていない」
「ライアン、目の前で見たこれが全てよ、さようなら」
わたしはアナンにウランを抱っこしてもらい、自分の部屋の荷物の中の必要なものだけをとりあえず持って屋敷を出ることにした。
ライアンはなぜかわたしを引き止めようと心にもないことを言った。
「行かないで、君を愛しているんだ」
わたしは彼の言葉を信じることはない。
「わたしは貴女の愛を一度も感じたことなどないわ」
「ふふ、ハハハ!だってライアンはわたしをずっと好きなのよ?貴女は政略結婚で仕方なく結婚しただけの妻なのよ。いつもライアンは言ってたわ、婚約解消できないのは、別に好きでもない、政略結婚だから仕方がないんだって」
「違う!」
「違わないでしょ?ずっとわたしに愛を囁いて彼女を貶していたわ。これは真実よ」
「……ぐっ….、確かに言った、だが違うんだミシェル信じてくれ」
「ライアン、弁護士をよこすわ、もう会うことはないでしょう」
わたしは絶対に二人の前では泣くもんかとグッと堪えて平然とした顔で屋敷を後にした。
離縁もどうなるかわからないのに、殿下の愛妾?
それもウランをライアンに渡す……
アナンがウランを抱っこしてくれていた。
わたしはウランを引き取り、彼の頬に自分の頬をスリスリして、
「あなたを愛しているわ」
そう、わたしはウランと離れないと決めてこの1年3ヶ月過ごしてきた。
なのにこの子を手放して殿下と幸せになる?
なれる訳がないわ。
わたしは殿下のことを友人として、好きではあるが愛してはいない。
わたしが愛したのも愛しているのも、ライアンだけ。
ライアンを愛しているから、愛を貰えないことが辛い。
愛しているから、わたしを愛していないと、言われるのが怖くて逃げた。
でも、殿下からの誘いを断るのは簡単なことではない。
王命でなくとも王族からの言葉を簡単に断れば、家名にも傷が付くし、迷惑をかけることになる。
「お父様にお会いしないといけないわ」
わたしは、ライアンの屋敷に帰らずに、実家に帰ることにした。
屋敷に着くと、お父様はいなかった。
お母様がわたしとウランを見て、
「お帰りなさい、会いたかったわ」
と言いながら、わたしではなくウランに手を出して、受け取ると嬉しそうに抱っこをした。
「大きくなったわね、会いたかったわ」
お母様とはなかなか会う機会がなくて、ウランが産まれたばかりの時に一度会ったきりだったので、8ヶ月になったウランの成長を見て嬉しそうにしながらも驚いていた。
「お母様は、殿下からのお話を聞いていますか?」
お母様はウランを抱っこして微笑んだまま
「聞いているわ…貴女は殿下の事をどう思っているの?愛しているの?」
「わたしは殿下とはずっと仲の良い友人として過ごしてきました。それは今も変わりません」
「そう……でもその気持ちを隠して彼の元へ行かないといけないわね」
「やはり断るのは難しいですか?」
「貴女が離縁しないのなら断ることも出来るでしょう………でも離縁したのなら断るのは難しいと思うわ」
「…………そうですよね…」
「ミシェル、ウランのためにももう一度ライアンと話し合いなさい。貴女はこのままラウルと離れて殿下のもとへ行ってしまっていいの?」
「わたしは、たとえライアンと別れることになってもラウルとは離れたくない……この子の母親でいたい」
「主人とも話してみるわ、離縁しても殿下の愛妾になるのは嫌なのね?」
「わたしは殿下との関係は友人同士だと思っています」
「そう……ライアンのことはもう愛していないの?」
「……よくわかりません、彼を今どう思っているのか……」
(本当は今も愛しているの……でも愛のない生活はこれ以上出来ない……わたしはライアンから逃げたいの。あの人の瞳に映るのはルシア様なの、わたしではないわ)
「とにかく一度ライアンと話し合うの、いい?わかったわね?」
「……はい」
わたしは力なく頷いた。
お母様はそれからわたしをライアンの屋敷に無理やり帰した。
「ああ、なんて話そう」
まさか殿下から愛妾として望まれているなんて簡単に話せることではない。
わたしは馬車の中で一人悩んでいた。
横にいるウランは気持ちよさそうに寝ていた。
わたしが屋敷に着くと使用人達のわたしを見る目がおかしい。
なぜか目を逸らしている。
不思議に思いながらも屋敷の中へ入ると、客室にライアンが誰かと話をしているようだった。
わたしは大事なお客様だと失礼なのでそっと離れて自分の部屋へウランを連れて行こうとした。
その時聞こえてきた声に思わず足が止まった。
「……アン、……して…わ、ねえ」
(この声は……ルシア様?)
あの甘ったるい声でライアンを呼ぶ声、いつも耳を塞いでしまいたくなる嫌な声。
わたしは二人の姿を見たくないのに、でも確かめずにいられなくて震える手で客室をそっと開けた。
二人はやはり抱き合って顔を近づけていた。
(キスをしていたの?)
わたしはすぐに扉を閉めようとしたが、ルシア様に気づかれた。
「あら!嫌だわ、奥様が見ているわよライアン」
ニヤッと笑ってわたしを嘲笑うかのように見た。
「離れてくれ!違うんだ、ミシェル!」
「何が違うの?わたしが今この屋敷に帰ってきていることを知っていて二人は抱き合っていたの?
キスをしていたの?
二人が愛し合っているのならわたしは必要ないでしょう?離縁して!
そうすれば二人はそんなに隠れて愛し合う必要はないわ!堂々と愛し合えばいいのよ!」
「ふふ、ありがとう。奥様の許可を得たわ。ライアンこれからは隠れなくても会えるのね、嬉しいわ」
「やめてくれ!誤解だ。ルシアは無理矢理押し入って来たんだ。だから帰そうとしていただけだ!隠れてなんか会っていない」
「ライアン、目の前で見たこれが全てよ、さようなら」
わたしはアナンにウランを抱っこしてもらい、自分の部屋の荷物の中の必要なものだけをとりあえず持って屋敷を出ることにした。
ライアンはなぜかわたしを引き止めようと心にもないことを言った。
「行かないで、君を愛しているんだ」
わたしは彼の言葉を信じることはない。
「わたしは貴女の愛を一度も感じたことなどないわ」
「ふふ、ハハハ!だってライアンはわたしをずっと好きなのよ?貴女は政略結婚で仕方なく結婚しただけの妻なのよ。いつもライアンは言ってたわ、婚約解消できないのは、別に好きでもない、政略結婚だから仕方がないんだって」
「違う!」
「違わないでしょ?ずっとわたしに愛を囁いて彼女を貶していたわ。これは真実よ」
「……ぐっ….、確かに言った、だが違うんだミシェル信じてくれ」
「ライアン、弁護士をよこすわ、もう会うことはないでしょう」
わたしは絶対に二人の前では泣くもんかとグッと堪えて平然とした顔で屋敷を後にした。
43
お気に入りに追加
3,338
あなたにおすすめの小説
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。
ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。
しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。
ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。
それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。
この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。
しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。
そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。
素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる