【完結】愛していました、でも愛されてはいませんでした。

たろ

文字の大きさ
上 下
9 / 32

第9話  ライアン編⑥

しおりを挟む
「僕はミシェルを心の中で一度裏切ってしまいました。ルシアと居るのが楽しくて彼女に惹かれていました。それにミシェルがヤキモチを妬いてくれるのが嬉しかった。だから、馬鹿な僕はさらにルシアと仲良くしてしまった。ミシェルへの愛が少しなくなりつつあったのは事実です」

下を向いたまま顔も見れなかったが、それでも上を向き侯爵の顔を見た。

「ミシェルが殿下と仲良くしている姿を見て、自分はルシアと仲良くしているくせに嫉妬をしていました。やっぱり自分はミシェルを愛しているんだと気づいたんです。 
そしてやっとミシェルと結婚できたのに、罪悪感からミシェルの顔を真っ直ぐに見ることが出来ませんでした。
僕の弱さです。
それでも彼女を手放せないんです。
愛しているんです」

「一年も会いに行きもしないくせによくそんな事言えるな」

「貴方がしばらく我慢しろと仰ったではないですか?それに何度も手紙を書きました。
でも返事はありませんでした」

「あー、手紙。あれ、捨てさせているからね」

「どうしてそんな事をするんですか?」

「本気で会いたければまどろっこしい事をしなくても何があっても行動するものだろう?
君は口だけじゃないか」

「口だけ?」

「そう、口だけ。
愛している、幸せにする、それも口だけ。
父上との約束だったかな?ルシアを好きになったりしないと言ったのは。
それも口だけで簡単に落とされていたよね?

ミシェルに会いたいけどわたしが止めたから会いに行けない?

ふざけるな!
ミシェルが君を想っているのを知っていたから我慢して結婚させた。

なのに幸せにするどころかどんどん暗い顔になっていったんだ!
お前との婚姻はもう終わりだ」

「嫌です、もう一度だけはチャンスをください、僕はまだ息子にも会っていません。
ミシェルと三人で会いたいんです。息子だけが帰ってきても嬉しくないです」

「……………次はない」

侯爵はこれ以上何も言わないで黙って去っていった。


僕のこれからの行動次第でミシェルと息子と過ごす未来は消えるかもしれない。

僕は今のミシェルの現状を知るために彼女が住む領地へ行くことにした。

ジョーカー領はとても活気があり観光客が増えて明るい街だった。

「お兄さん、このアクセサリーお土産に買わない?」

道を歩いていると露店の女性が声をかけてきた。

こんなところで売っているわりにとても丁寧に作られていて、小さいとはいえ本物の宝石が使われていた。

「これは思った以上にいい物ですね」

僕が感心して見ていると、
「うちの領主様の娘のミシェル様が提案されて作ったんですよ。
だからこんなところで売っていてもきちんとした物なんです」

「ミシェルが?」

「あら?貴族様はミシェル様の知り合いですか?
ミシェル様はわたし達女性の味方なんです。
いろんな工房を作ってわたし達に仕事を充てがってくれているんです、おかげで街も賑わいが戻ってみんな少しずつ生活が楽になって来ているんですよ」

ミシェルは僕から離れた一年とちょっとでこんなにいろんな事をしていたんだ。

僕はただ父上の仕事の手伝いをしていただけなのに彼女は自身の力で街を変えていった。

それから僕は彼女が手掛けた工房を何箇所も回り、農園や果樹園にも顔を出した。

新しい販売ルートを見つけ、運送コストを抑えて売り、廃棄される形の悪い果物はジュースやジャムにして、さらに付加価値として入れ物にもこだわっていた。

ジャムの瓶には絵が付いていて、ジャムを食べ終えたら小物入れや飾りとして使える。

ジュースの空き瓶は一輪挿しに使えるように細長く花瓶を思わせるフォルムに作ってある。

露店を沢山作る事で安価でお店を出せる商売人。

魚を焼いてすぐに食べられるように串刺しにして匂いで客を呼び込んでいた。

牡蠣やサザエなど採れたてのものを生で食べさせるお店。

土産物屋も沢山あった。

街は人で溢れて、宿屋も繁盛していた。

道を舗装して馬車専用の道も作り、人と馬車を分ける事で危険も減っていた。

これを全てミシェルが考えて実行したと聞いて感心した。
だが僕は恥ずかしくなった。

どんな顔をして彼女に会えばいいのだろう。

でももう口だけ。逃げてばかりだと侯爵にはもちろんミシェルにも思われたくはない。

僕はミシェルに会いに彼女の住む屋敷へと向かった。











しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。 ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。 しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。 ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。 それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。 この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。 しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。 そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。 素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。 でも貴方は私を嫌っています。 だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。 貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。 貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。

処理中です...