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第7話 ライアン編④
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ミシェルが妊娠した。
彼女から妊娠を告げられてとても嬉しかったのに、彼女の部屋へ行く理由がなくなることに戸惑い、素直に嬉しさを表現出来なかった。
それからは彼女の部屋の前までは行っても、中に入る勇気がなくて同じ屋敷にいながらも会えずにいた。
たまに執務室から見える庭で散歩をしているミシェルをそっと見守るだけの生活。
「旦那様、このままでは奥様と上手くいくとは思えません。
せめて朝食だけでもご一緒に食べられては如何ですか?」
家令にまで心配をされている。
僕は明日こそミシェルに声をかけようと決心して、朝ミシェルの部屋に勇気を出して訪れた。
だがそこには一枚の置き手紙があるだけだった。
『実家で子どもを産みます』
呆然として突っ立っていると家令が、
「旦那様、追いかけられないのですか?」
と言われて、急ぎミシェルの実家に行った。
だがミシェルはいなかった。
実家の両親にも伝えず、僕の前からいなくなった。
侯爵に頭を下げて頼み、ミシェルの行きそうな場所を探してもらった。
僕は彼女が行くだろう場所すらわからなかった。
何も知らない、見ていなかった。
そして彼女が実家の領地にいる事がわかった。
「どうすればいいのだろう」
悩んでいると、ミシェルの父上であるジョーカー侯爵が、
「暫くミシェルの好きにさせて欲しい」
と言ってきた。
妊娠中で不安定な状態のミシェルに、無理矢理家に連れ帰るのも胎教にいいとは思えないし、渋々了解した。
でももうミシェルは帰ってくる事はないかもしれないと感じていた。
ミシェルは僕と居ても笑顔がない。
話しかけても「はい」か「わかりました」としか返事はない。
それでも子どもが産まれれば帰ってくるんだと思い、何も言わずに待っていた。
だがミシェルから、子どもが産まれた事すら連絡はなかった。
数ヶ月待っても連絡はこない。
こちらから何度も会いたいと連絡をするも返事もない。
そしてミシェルが自ら商会を立ち上げて仕事を始めたと他の人から噂で聞いた。
それに協力しているのが元生徒会のメンバーだった。
殿下は公平を期す為、自身は関わってはいないが、殿下が声をかけた元生徒会メンバー達が、ミシェルが手がけたアクセサリーの販売ルートの拡大を手伝っていた。
他にも刺繍の工房を作ったり売れ残る形の悪い果物をジャムにしたりして、女性たちならではの目線で新しいモノを作り、女性達に雇用の場を与えていた。
ミシェルは僕の元へ帰る気がないのだと思い知らされた。
そんな時またルシアが僕に会いにきた。
「ライアン、わたし無理矢理お嫁に行かされそうなの。助けて、お願い」
僕はこれ以上問題を起こしたくはなかったので、ミシェルの父親であるジョーカー侯爵に立ち合いをお願いした。
僕が浮気をしていないと信じてもらうために、そして証人になってもらうために侯爵が適任だと思った。
「ルシア、僕と君は赤の他人だ。それを僕に言いにきても悪いけど何も出来ない、帰ってくれないか?」
ルシアは涙を溜めて僕を見つめた。
「わたしを好きだと言ったのは嘘だったの?」
また前回と同じだ。
「僕が愛しているのはミシェルだけだ」
「噂で聞いたわ。ただの政略結婚でしょう?
ミシェル様が子どもを産んだら、もうあの人は要らないでしょう?
子どもだけ引き取ってわたしと貴方で育てましょう。貴方の子どもだもの大切にわたしが育てるわ」
「君は何を言っているんだ?僕はミシェルを愛している。
君のことはなんとも思っていない、何度も言っているだろう」
「酷いわ、学園では毎日わたしと過ごしたくせに!
わたしを愛していると言ったこと忘れたの?」
「それは演技だと言ったはずだ。君の父上の罪の証拠を見つけ出すための。僕は君にキスすらしたことは無いよ」
「あの時間が嘘だというの?そこに愛があった筈だわ」
「何度も言ったよね、君も僕を利用しようとした。僕も君を利用しようとした。お互い様だった」
「わたしは途中から貴方を愛していたわ」
「僕はずっと演技だった。愛しているのはミシェルだけだ」
ルシアは気持ち悪い笑顔を僕に向けて
「ねえ、そこにいる汚らしいおじさんに外に出てもらってもいいかしら?
ライアン、わたしと楽しみましょうよ。
ミシェル様がいなくて溜まっているでしょう?」
僕に近づいてくるルシアをサッと避けた。
「ライアン、ねえ一度くらいわたしを抱いてよ。わたし貴方に抱かれてみたいわ」
侯爵は実は使用人の格好をして僕の後ろに控えていた。
「その使用人、早く出て行きなさい!」
ルシアは侯爵に向かって怒鳴りティーカップを投げつけた。
「危ない!」
思わず叫ぶより早く侯爵はサッと避けたのでホッとした。
「何よ?使用人のクセに避けるなんて!ライアン、使用人の教育もまともに出来ないのね。
ムチは何処にあるの?
こういう奴はムチで何発か叩けば言うことをすぐに聞くようになるわ」
ルシアの言葉に僕が怒ろうとした時
「ムチでわたしを打つ?出来るならやりたまえ」
「はああ?何この使用人?生意気だわ」
「入れ!」
侯爵の一声でルシアは兵士達に取り押さえられた。
「な、何?どうしてわたしが捕まるの?たかが使用人に怒ったからと言って捕まるなんてあり得ないわ」
彼女から妊娠を告げられてとても嬉しかったのに、彼女の部屋へ行く理由がなくなることに戸惑い、素直に嬉しさを表現出来なかった。
それからは彼女の部屋の前までは行っても、中に入る勇気がなくて同じ屋敷にいながらも会えずにいた。
たまに執務室から見える庭で散歩をしているミシェルをそっと見守るだけの生活。
「旦那様、このままでは奥様と上手くいくとは思えません。
せめて朝食だけでもご一緒に食べられては如何ですか?」
家令にまで心配をされている。
僕は明日こそミシェルに声をかけようと決心して、朝ミシェルの部屋に勇気を出して訪れた。
だがそこには一枚の置き手紙があるだけだった。
『実家で子どもを産みます』
呆然として突っ立っていると家令が、
「旦那様、追いかけられないのですか?」
と言われて、急ぎミシェルの実家に行った。
だがミシェルはいなかった。
実家の両親にも伝えず、僕の前からいなくなった。
侯爵に頭を下げて頼み、ミシェルの行きそうな場所を探してもらった。
僕は彼女が行くだろう場所すらわからなかった。
何も知らない、見ていなかった。
そして彼女が実家の領地にいる事がわかった。
「どうすればいいのだろう」
悩んでいると、ミシェルの父上であるジョーカー侯爵が、
「暫くミシェルの好きにさせて欲しい」
と言ってきた。
妊娠中で不安定な状態のミシェルに、無理矢理家に連れ帰るのも胎教にいいとは思えないし、渋々了解した。
でももうミシェルは帰ってくる事はないかもしれないと感じていた。
ミシェルは僕と居ても笑顔がない。
話しかけても「はい」か「わかりました」としか返事はない。
それでも子どもが産まれれば帰ってくるんだと思い、何も言わずに待っていた。
だがミシェルから、子どもが産まれた事すら連絡はなかった。
数ヶ月待っても連絡はこない。
こちらから何度も会いたいと連絡をするも返事もない。
そしてミシェルが自ら商会を立ち上げて仕事を始めたと他の人から噂で聞いた。
それに協力しているのが元生徒会のメンバーだった。
殿下は公平を期す為、自身は関わってはいないが、殿下が声をかけた元生徒会メンバー達が、ミシェルが手がけたアクセサリーの販売ルートの拡大を手伝っていた。
他にも刺繍の工房を作ったり売れ残る形の悪い果物をジャムにしたりして、女性たちならではの目線で新しいモノを作り、女性達に雇用の場を与えていた。
ミシェルは僕の元へ帰る気がないのだと思い知らされた。
そんな時またルシアが僕に会いにきた。
「ライアン、わたし無理矢理お嫁に行かされそうなの。助けて、お願い」
僕はこれ以上問題を起こしたくはなかったので、ミシェルの父親であるジョーカー侯爵に立ち合いをお願いした。
僕が浮気をしていないと信じてもらうために、そして証人になってもらうために侯爵が適任だと思った。
「ルシア、僕と君は赤の他人だ。それを僕に言いにきても悪いけど何も出来ない、帰ってくれないか?」
ルシアは涙を溜めて僕を見つめた。
「わたしを好きだと言ったのは嘘だったの?」
また前回と同じだ。
「僕が愛しているのはミシェルだけだ」
「噂で聞いたわ。ただの政略結婚でしょう?
ミシェル様が子どもを産んだら、もうあの人は要らないでしょう?
子どもだけ引き取ってわたしと貴方で育てましょう。貴方の子どもだもの大切にわたしが育てるわ」
「君は何を言っているんだ?僕はミシェルを愛している。
君のことはなんとも思っていない、何度も言っているだろう」
「酷いわ、学園では毎日わたしと過ごしたくせに!
わたしを愛していると言ったこと忘れたの?」
「それは演技だと言ったはずだ。君の父上の罪の証拠を見つけ出すための。僕は君にキスすらしたことは無いよ」
「あの時間が嘘だというの?そこに愛があった筈だわ」
「何度も言ったよね、君も僕を利用しようとした。僕も君を利用しようとした。お互い様だった」
「わたしは途中から貴方を愛していたわ」
「僕はずっと演技だった。愛しているのはミシェルだけだ」
ルシアは気持ち悪い笑顔を僕に向けて
「ねえ、そこにいる汚らしいおじさんに外に出てもらってもいいかしら?
ライアン、わたしと楽しみましょうよ。
ミシェル様がいなくて溜まっているでしょう?」
僕に近づいてくるルシアをサッと避けた。
「ライアン、ねえ一度くらいわたしを抱いてよ。わたし貴方に抱かれてみたいわ」
侯爵は実は使用人の格好をして僕の後ろに控えていた。
「その使用人、早く出て行きなさい!」
ルシアは侯爵に向かって怒鳴りティーカップを投げつけた。
「危ない!」
思わず叫ぶより早く侯爵はサッと避けたのでホッとした。
「何よ?使用人のクセに避けるなんて!ライアン、使用人の教育もまともに出来ないのね。
ムチは何処にあるの?
こういう奴はムチで何発か叩けば言うことをすぐに聞くようになるわ」
ルシアの言葉に僕が怒ろうとした時
「ムチでわたしを打つ?出来るならやりたまえ」
「はああ?何この使用人?生意気だわ」
「入れ!」
侯爵の一声でルシアは兵士達に取り押さえられた。
「な、何?どうしてわたしが捕まるの?たかが使用人に怒ったからと言って捕まるなんてあり得ないわ」
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