【完結】愛していました、でも愛されてはいませんでした。

たろ

文字の大きさ
上 下
7 / 32

第7話  ライアン編④

しおりを挟む
ミシェルが妊娠した。
 
彼女から妊娠を告げられてとても嬉しかったのに、彼女の部屋へ行く理由がなくなることに戸惑い、素直に嬉しさを表現出来なかった。

それからは彼女の部屋の前までは行っても、中に入る勇気がなくて同じ屋敷にいながらも会えずにいた。

たまに執務室から見える庭で散歩をしているミシェルをそっと見守るだけの生活。






「旦那様、このままでは奥様と上手くいくとは思えません。
せめて朝食だけでもご一緒に食べられては如何ですか?」 

家令にまで心配をされている。

僕は明日こそミシェルに声をかけようと決心して、朝ミシェルの部屋に勇気を出して訪れた。

だがそこには一枚の置き手紙があるだけだった。

『実家で子どもを産みます』

呆然として突っ立っていると家令が、

「旦那様、追いかけられないのですか?」
と言われて、急ぎミシェルの実家に行った。

だがミシェルはいなかった。

実家の両親にも伝えず、僕の前からいなくなった。

侯爵に頭を下げて頼み、ミシェルの行きそうな場所を探してもらった。

僕は彼女が行くだろう場所すらわからなかった。

何も知らない、見ていなかった。

そして彼女が実家の領地にいる事がわかった。

「どうすればいいのだろう」

悩んでいると、ミシェルの父上であるジョーカー侯爵が、
「暫くミシェルの好きにさせて欲しい」
と言ってきた。

妊娠中で不安定な状態のミシェルに、無理矢理家に連れ帰るのも胎教にいいとは思えないし、渋々了解した。

でももうミシェルは帰ってくる事はないかもしれないと感じていた。

ミシェルは僕と居ても笑顔がない。

話しかけても「はい」か「わかりました」としか返事はない。

それでも子どもが産まれれば帰ってくるんだと思い、何も言わずに待っていた。

だがミシェルから、子どもが産まれた事すら連絡はなかった。

数ヶ月待っても連絡はこない。

こちらから何度も会いたいと連絡をするも返事もない。

そしてミシェルが自ら商会を立ち上げて仕事を始めたと他の人から噂で聞いた。

それに協力しているのが元生徒会のメンバーだった。

殿下は公平を期す為、自身は関わってはいないが、殿下が声をかけた元生徒会メンバー達が、ミシェルが手がけたアクセサリーの販売ルートの拡大を手伝っていた。

他にも刺繍の工房を作ったり売れ残る形の悪い果物をジャムにしたりして、女性たちならではの目線で新しいモノを作り、女性達に雇用の場を与えていた。

ミシェルは僕の元へ帰る気がないのだと思い知らされた。

そんな時またルシアが僕に会いにきた。

「ライアン、わたし無理矢理お嫁に行かされそうなの。助けて、お願い」

僕はこれ以上問題を起こしたくはなかったので、ミシェルの父親であるジョーカー侯爵に立ち合いをお願いした。
僕が浮気をしていないと信じてもらうために、そして証人になってもらうために侯爵が適任だと思った。

「ルシア、僕と君は赤の他人だ。それを僕に言いにきても悪いけど何も出来ない、帰ってくれないか?」

ルシアは涙を溜めて僕を見つめた。

「わたしを好きだと言ったのは嘘だったの?」

また前回と同じだ。

「僕が愛しているのはミシェルだけだ」

「噂で聞いたわ。ただの政略結婚でしょう?
ミシェル様が子どもを産んだら、もうあの人は要らないでしょう?
子どもだけ引き取ってわたしと貴方で育てましょう。貴方の子どもだもの大切にわたしが育てるわ」

「君は何を言っているんだ?僕はミシェルを愛している。
君のことはなんとも思っていない、何度も言っているだろう」

「酷いわ、学園では毎日わたしと過ごしたくせに!
わたしを愛していると言ったこと忘れたの?」

「それは演技だと言ったはずだ。君の父上の罪の証拠を見つけ出すための。僕は君にキスすらしたことは無いよ」

「あの時間が嘘だというの?そこに愛があった筈だわ」

「何度も言ったよね、君も僕を利用しようとした。僕も君を利用しようとした。お互い様だった」

「わたしは途中から貴方を愛していたわ」


「僕はずっと演技だった。愛しているのはミシェルだけだ」

ルシアは気持ち悪い笑顔を僕に向けて

「ねえ、そこにいる汚らしいおじさんに外に出てもらってもいいかしら?
ライアン、わたしと楽しみましょうよ。
ミシェル様がいなくて溜まっているでしょう?」

僕に近づいてくるルシアをサッと避けた。

「ライアン、ねえ一度くらいわたしを抱いてよ。わたし貴方に抱かれてみたいわ」

侯爵は実は使用人の格好をして僕の後ろに控えていた。

「その使用人、早く出て行きなさい!」

ルシアは侯爵に向かって怒鳴りティーカップを投げつけた。

「危ない!」

思わず叫ぶより早く侯爵はサッと避けたのでホッとした。

「何よ?使用人のクセに避けるなんて!ライアン、使用人の教育もまともに出来ないのね。
ムチは何処にあるの?
こういう奴はムチで何発か叩けば言うことをすぐに聞くようになるわ」

ルシアの言葉に僕が怒ろうとした時

「ムチでわたしを打つ?出来るならやりたまえ」

「はああ?何この使用人?生意気だわ」

「入れ!」

侯爵の一声でルシアは兵士達に取り押さえられた。

「な、何?どうしてわたしが捕まるの?たかが使用人に怒ったからと言って捕まるなんてあり得ないわ」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。 ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。 しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。 ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。 それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。 この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。 しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。 そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。 素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

処理中です...