【完結】愛していました、でも愛されてはいませんでした。

たろ

文字の大きさ
上 下
6 / 32

第6話  ライアン編③

しおりを挟む
卒業パーティーの後、しばらくしてルシアの男爵家は静かに社交界から姿を消した。

特に噂されることもなく誰にも気づかれないで。

それはプラード公爵がトカゲの尻尾を切るようにモリスト男爵が切られたからだ。

プラード公爵は自分のところに火の粉がかからないようにモリスト男爵は切られ、男爵は田舎の領地へひっそりと隠れるように引っ込んでしまった。

ルシアは僕に助けを求めてきた。

「お父様が公爵様からの仕事を貰えなくなってしまったの。ライアンのところで口を利いて貰えないかしら?そうすれば田舎の領地なんかで暮らさなくてすむわ。お願いよ、貴方に会えなくなるのは辛いわ」

僕はルシアと一年半も一緒に過ごした。
多少思いは残っているが、かと言ってもうルシアに優しくすることは出来なかった。

ルシア自身も、鉱山での横領に多少関わっていた事も明るみに出た。
男達を誘い、自分達の言うことを聞かせる役をこなしていたのだ。
男爵と一緒に父上に断罪されて、うちとは二度と関わらないと約束させられていた。
なのに何事もなかったように僕の前に現れた。

「ルシア、君との縁は切れたんだ。君の父親はうちの侯爵家に対して不正を働いていたんだ。だから口を利くなんてあり得ないんだ」

「どうして?貴方はわたしを好きだと言ってくれていたわ、ミシェル様のことを放ってわたしと居てくれたじゃない?」

「君とのことは父上に頼まれて一緒に居ただけだ。悪いけど君に恋愛感情はないよ、君も父親に頼まれて、僕に近づいたのは知っているよ」

ルシアはその言葉を聞いてビクッとした。

「知っていてわたしに近づいたの?」

「そうだ、君の父親の悪事は我が侯爵家にとって脅威だったんだ。君も知っていて近づいたんだろう」

「確かに最初はそうだったわ。でも途中から本当に貴方を好きになっていたの」

「僕が愛しているのはミシェルだけだ。だから君には絶対に手を出していない。もう君に会うことはない」

ルシアは下唇を噛み締め僕を睨んだ。

パシン!!

「さようなら、あー、損した。せっかく可愛こぶって愛想良くしてあげていたのに」

ルシアは僕の頬を一発叩いて去っていった。

それから僕はすぐにミシェルの父上に会いに行った。

ミシェルの父上、ジョーカー侯爵はブレイズ侯爵の事情を知っていた。

ただ、自分達で解決しようとしていたのも知っていたので、その間静観してくれていた。

「ライアン、君がルシア嬢のそばにいた理由は知っている。でもミシェルは何も知らされていない。だから傷ついているんだ、二人を結婚させることは出来ないよ」

「僕はずっとミシェルを愛しています、必ず幸せにします」

「君はルシア嬢に惹かれていただろう?それをミシェルは気づいているんだ、あの子の気持ちは君にはないかもしれないよ。
ミシェルには結婚は政略結婚としてしか受け取れないかもしれないよ。
それでもいいのか?」

何度もブレイズ侯爵に結婚の申込みをして、政略結婚でもいいからとミシェルとの結婚の了承を得た。

ミシェルにも会いたいと頼んだ。

でもそれは叶わず会えたのは結婚式の日だった。


そして卒業して半年後ミシェルは僕の妻になった。

ほとんど会話もなく、屋敷の中でも会う事はない。

ミシェルは部屋からあまり出て来なかった。

それでも僕は夜になるとミシェルの寝ている部屋へ行った。

彼女の身体を貪るように求めた。

彼女も初めは恥ずかしがっていたが、少しずつ僕に反応してくれるようになった。

これは跡取りを産むために必要な行為だからとミシェルに言って、毎晩抱いた。

本当は「愛している」と言って抱きたい。
「好きなんだ」と言いたい。

でもミシェルの顔を見ると何も言えなくなる。

一度は裏切ってルシアへ気持ちが動いてしまった。
それにミシェルが殿下といる時の笑顔を思い出すとどうしても腹が立って素直に愛していると言えない。

何か話しかけようと思っても何を話せばいいのか思いつかない。

僕たちは、同じ時間を歩いてこなかったんだと強く感じた。
共通の話題も思い出もない。

それでも彼女を手放せない。

愛しているんだ。

その一言を素直に言えない自分がもどかしい。

執務室の窓から見えるミシェル。

彼女のブロンドの長い髪がキラキラと輝いて見える。

メイド達と庭に出て楽しそうに花を摘んでいる。

僕がそばにいない時は彼女は自然に笑っている。

でも僕が近くにいると顔が硬って笑顔が消える。

ミシェルにとってこの結婚は政略結婚でしかないのだろう。

僕は「愛している」その一言をどうしても言えない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。 ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。 しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。 ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。 それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。 この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。 しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。 そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。 素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

処理中です...