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もう一つの世界では……⑨
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「……どうぞ」
久しぶりにセフィルの顔を見た。
「……ブロア……体調は……大丈夫なのか?」
わたくしの姿を見て目を見開きやっとのことで声を絞り出したが、その声は震えて瞳が潤んでいた。
「心配かけてごめんなさい」
ーーまさか会いにくるなんて……思わなかった。
「すまない、君に会いたいとエイリヒ殿に頼み込んだが、時期をずらせばよかった。まさかこんなに体調が悪いとは思っていなかったんだ」
「ううん、わたくし……今日は体調が良い方なの。貴方と向き合わずに婚約解消するとだけ告げていなくなったこと、きちんとお詫びしないといけなかったのに、ごめんなさい。貴方と会えるのも今日が最後かもしれないからきちんと話すわ」
ずっと黙っていてごめんなさい。そう言ってセフィルに全てを話した。
余命わずかなこと、今、治療薬を待っている状態だと言うこと、お父様がこの国にいていつまたわたくしに国へ帰れと言うかわからない状態だと言うこと。そしてまだ諦めずに無理やりセフィルと結婚させてセフィルを飼い殺しにするつもりでいること。
セフィルは声を出すことなく黙ったまま聞いてくれた。
長い話で疲れてしまい、休み休み話したので、時間がかかってしまった。
それでもセフィルは耳を傾けてくれた。こんなにお互い向き合ったのは初めてかもしれない。
いつも遠慮がちに話してぎこちない時間が流れてばかりだったあの頃。まだそんなに月日は経っていないのに、懐かしく感じるのはどうしてなのかしら?
そういつも上手く話せなくてもどかしくて……それなのに会いたくて……
もう何年も前のように感じるの。
不思議な既視感になんとも言えない気持ちになる。
「俺は……何も知らずにいたんだな」
「ごめんなさい、貴方には知らせるつもりはなかったの。リリアンナ様と幸せになって欲しかった……愛していたから……」
「俺を愛してくれていたんだ……」
「ええ、愛していたわ……上手く伝えられなかったけど、いつも会えるのを楽しみにしていたわ」
ーー初めて素直に気持ちを伝えたかもしれない。
「もし……君が病気をしなければ、君は俺の前から姿を消さなかったのだろうか?」
「……多分、それでも、わたくしは、あの屋敷を出ていたと思う、貴方と婚約を解消して」
ーーあの屋敷でお父様に監視されて生きることは出来なかったと思う。それにセフィルにもそんなことさせられないわ。
「俺に君を守る権利を貰えないだろうか?これからの人生の時間の全てを君に捧げる。俺は君に勘違いかれる行動を取ってしまった。
リリアンナとはただの幼馴染で妹でしかない。ただリリアンナが引き篭もって外に出なくなって俺が頼まれて彼女に会いに行っていた。
俺のことを兄のように慕ってくれるリリアンナを放っておけなかった。………言い訳にしかならないが、リリアンナに対しては妹以上には思えないんだ」
「あなたにとってリリアンナ様は妹みたいなものだったの……」
ーーううん、セフィルは気が付いていないのよ。リリアンナ様はセフィルを一人の恋愛対象として見ていた。そしてセフィルもそれに応えていたわ。
だって……王太子殿下とロザンナ様の逢瀬の姿とまるで同じ……重なって見えたもの。
互いにそこには愛があったわ。
「リリアンナにははっきりと伝えてきた。俺が好きなのはブロアだけだから」
「おい!退け!」
「やめてください!」
「うるさい!ブロア!!!」
部屋の外から騒がしい声が聞こえてきた。
「どうしたのかしら?」
セフィルが椅子から立ち上がり扉の方を向くと緊張した面持ちで睨んでいた。
ーーわたくしは動くことができない。
「ブロアは守ります」
セフィルの声に緊張感がある。
何事だろう?
「ブロアっ!!」
扉を乱暴に開けて入ってきたのはわたくしの元婚約者で元王太子だった。
ーーサイロはどこにいるのかしら?サイロが止めないでここまで入れたの?ううん、サイロはそんなヘマはしない。何かある?
「殿下……いいえ、もう今はマルセル様かしら?どうしてこちらに?」
「お前を探したんだ!お前のせいで僕は王位継承権を剥奪、廃嫡されて平民になってしまったんだ。
ロザンナは僕を捨ててどこかへ行ってしまったし、息子はもう結婚しても子供ができない体にさせられてしまった。
全てお前のせいだ!」
ーーわたくし?わたくしが何をしたと言うの?貴方がきちんと王太子としての仕事をしていなかったことが原因でしょう?
そう言い返したかったけど、目が血走って何を仕出かすかわからない雰囲気。
これ以上興奮させるわけにはいかないわ。
「どうか気をお静めください。わたくしはもう国を出ている身でございます。貴方の廃嫡には関わっておりませんわ」
「ふざけるな!お前のせいだ!お前が素直に側妃になって働けばよかったのに、僕の側から去っていくから僕は父上に捨てられたんだ!」
マルセル様はそう言うと、上着の中からナイフを取り出した。
「おやめください!」
セフィルがわたくしの前に守るように立ちはだかった。
「うるさい!退け!おい!お前達、こいつをどうにかしろ!」
マルセル様は何人かの破落戸を連れていたらしい。部屋の外に待機していた男達が入ってきてセフィルと闘い始めた。
セフィルは剣を持っていない。素手で戦っているが流石に6人もの相手は厳しい。
「誰か、誰か、来て!」
なんとか大きな声を出した。
このままではセフィルが危ない。
サイロは?他の使用人達はどうしているの?
「お嬢!すみません、遅くなりました」
サイロが剣を持って中に入ってきた。
セフィルと共に破落戸達をやっつけていく。
「くそっ!サイロの奴もうここまで来たのか?まだかなりの男達が外にはいたはずなのに!」
その間にマルセル様に手首を掴まれた。
「きゃっ」
思わず声が出た。
乱暴に強く掴まれた手をなんとか振り解こうとしたが、簡単には離してくれない。
「ブロア、お前には僕と一緒に国に戻ってもらうよ。今ならまだ間に合うはずだ。父上に言ってブロアを正妃に迎えて僕はもう一度王太子になるんだ」
久しぶりにセフィルの顔を見た。
「……ブロア……体調は……大丈夫なのか?」
わたくしの姿を見て目を見開きやっとのことで声を絞り出したが、その声は震えて瞳が潤んでいた。
「心配かけてごめんなさい」
ーーまさか会いにくるなんて……思わなかった。
「すまない、君に会いたいとエイリヒ殿に頼み込んだが、時期をずらせばよかった。まさかこんなに体調が悪いとは思っていなかったんだ」
「ううん、わたくし……今日は体調が良い方なの。貴方と向き合わずに婚約解消するとだけ告げていなくなったこと、きちんとお詫びしないといけなかったのに、ごめんなさい。貴方と会えるのも今日が最後かもしれないからきちんと話すわ」
ずっと黙っていてごめんなさい。そう言ってセフィルに全てを話した。
余命わずかなこと、今、治療薬を待っている状態だと言うこと、お父様がこの国にいていつまたわたくしに国へ帰れと言うかわからない状態だと言うこと。そしてまだ諦めずに無理やりセフィルと結婚させてセフィルを飼い殺しにするつもりでいること。
セフィルは声を出すことなく黙ったまま聞いてくれた。
長い話で疲れてしまい、休み休み話したので、時間がかかってしまった。
それでもセフィルは耳を傾けてくれた。こんなにお互い向き合ったのは初めてかもしれない。
いつも遠慮がちに話してぎこちない時間が流れてばかりだったあの頃。まだそんなに月日は経っていないのに、懐かしく感じるのはどうしてなのかしら?
そういつも上手く話せなくてもどかしくて……それなのに会いたくて……
もう何年も前のように感じるの。
不思議な既視感になんとも言えない気持ちになる。
「俺は……何も知らずにいたんだな」
「ごめんなさい、貴方には知らせるつもりはなかったの。リリアンナ様と幸せになって欲しかった……愛していたから……」
「俺を愛してくれていたんだ……」
「ええ、愛していたわ……上手く伝えられなかったけど、いつも会えるのを楽しみにしていたわ」
ーー初めて素直に気持ちを伝えたかもしれない。
「もし……君が病気をしなければ、君は俺の前から姿を消さなかったのだろうか?」
「……多分、それでも、わたくしは、あの屋敷を出ていたと思う、貴方と婚約を解消して」
ーーあの屋敷でお父様に監視されて生きることは出来なかったと思う。それにセフィルにもそんなことさせられないわ。
「俺に君を守る権利を貰えないだろうか?これからの人生の時間の全てを君に捧げる。俺は君に勘違いかれる行動を取ってしまった。
リリアンナとはただの幼馴染で妹でしかない。ただリリアンナが引き篭もって外に出なくなって俺が頼まれて彼女に会いに行っていた。
俺のことを兄のように慕ってくれるリリアンナを放っておけなかった。………言い訳にしかならないが、リリアンナに対しては妹以上には思えないんだ」
「あなたにとってリリアンナ様は妹みたいなものだったの……」
ーーううん、セフィルは気が付いていないのよ。リリアンナ様はセフィルを一人の恋愛対象として見ていた。そしてセフィルもそれに応えていたわ。
だって……王太子殿下とロザンナ様の逢瀬の姿とまるで同じ……重なって見えたもの。
互いにそこには愛があったわ。
「リリアンナにははっきりと伝えてきた。俺が好きなのはブロアだけだから」
「おい!退け!」
「やめてください!」
「うるさい!ブロア!!!」
部屋の外から騒がしい声が聞こえてきた。
「どうしたのかしら?」
セフィルが椅子から立ち上がり扉の方を向くと緊張した面持ちで睨んでいた。
ーーわたくしは動くことができない。
「ブロアは守ります」
セフィルの声に緊張感がある。
何事だろう?
「ブロアっ!!」
扉を乱暴に開けて入ってきたのはわたくしの元婚約者で元王太子だった。
ーーサイロはどこにいるのかしら?サイロが止めないでここまで入れたの?ううん、サイロはそんなヘマはしない。何かある?
「殿下……いいえ、もう今はマルセル様かしら?どうしてこちらに?」
「お前を探したんだ!お前のせいで僕は王位継承権を剥奪、廃嫡されて平民になってしまったんだ。
ロザンナは僕を捨ててどこかへ行ってしまったし、息子はもう結婚しても子供ができない体にさせられてしまった。
全てお前のせいだ!」
ーーわたくし?わたくしが何をしたと言うの?貴方がきちんと王太子としての仕事をしていなかったことが原因でしょう?
そう言い返したかったけど、目が血走って何を仕出かすかわからない雰囲気。
これ以上興奮させるわけにはいかないわ。
「どうか気をお静めください。わたくしはもう国を出ている身でございます。貴方の廃嫡には関わっておりませんわ」
「ふざけるな!お前のせいだ!お前が素直に側妃になって働けばよかったのに、僕の側から去っていくから僕は父上に捨てられたんだ!」
マルセル様はそう言うと、上着の中からナイフを取り出した。
「おやめください!」
セフィルがわたくしの前に守るように立ちはだかった。
「うるさい!退け!おい!お前達、こいつをどうにかしろ!」
マルセル様は何人かの破落戸を連れていたらしい。部屋の外に待機していた男達が入ってきてセフィルと闘い始めた。
セフィルは剣を持っていない。素手で戦っているが流石に6人もの相手は厳しい。
「誰か、誰か、来て!」
なんとか大きな声を出した。
このままではセフィルが危ない。
サイロは?他の使用人達はどうしているの?
「お嬢!すみません、遅くなりました」
サイロが剣を持って中に入ってきた。
セフィルと共に破落戸達をやっつけていく。
「くそっ!サイロの奴もうここまで来たのか?まだかなりの男達が外にはいたはずなのに!」
その間にマルセル様に手首を掴まれた。
「きゃっ」
思わず声が出た。
乱暴に強く掴まれた手をなんとか振り解こうとしたが、簡単には離してくれない。
「ブロア、お前には僕と一緒に国に戻ってもらうよ。今ならまだ間に合うはずだ。父上に言ってブロアを正妃に迎えて僕はもう一度王太子になるんだ」
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