【完結】さよならのかわりに

たろ

文字の大きさ
上 下
89 / 93

もう一つの世界では……⑦

しおりを挟む
「セフィルが………?」
 ーーどうしてここに?リリアンナ様と幸せに過ごしているのではなかったの?

「セフィル殿は会ってお話をしたいと仰っております」

「………エイリヒさんにご迷惑をかけてすみません……お忙しいのに私事でお手を煩わせました」

 ーー何故セフィルがエイリヒさんのところへ行ったの?

「彼はあなたの体調が悪いことを噂で聞いて知っておりますが、どんな状態かはご存知ありません」

「……そうですか……彼には何も伝えておりません。ただ……『飽きたので婚約解消して欲しい』と言っただけなんです。屋敷を出る時……婚約解消するための書類を弁護士に頼みました。探さないで欲しい、幸せに暮らして欲しいと手紙で伝えました」

「彼は納得していないのでしょう。あなたから一方的に告げられただけみたいですね」

「……納得……」

 ーーええ、そうかもしれない。わたくしはもう余生が残りわずかだと思った時に、セフィルを解放して愛する方と幸せになって欲しいと思った……

 ………彼に自分の病気を告げることも彼を愛することもやめた……


「わたくしは彼に向き合わなければいけないわね」

 ポツリとつぶやいたわたくしの言葉にエイリヒさんは「お断りすることもできますよ?」と言ってくれた。

「わたくしは……もう長くない……ならば彼ときちんとサヨナラしないと彼も前へ進めないと思うの」

「わかりました……いつになさいますか?」

「今日のお昼過ぎに……向こうの都合が合えば……」

 ーー早く終わらせてしまいましょう。

「了解しました」





 エイリヒさんが部屋を出て行った後サイロを呼んだ。

「サイロはセフィルがこの国に来ていることを知っていたの?」

「………正確には知りません。でも……多分……くるだろうとは思っていました」

「……そう……」

「お嬢、昼からお会いになると聞きましたが大丈夫ですか?」

「大丈夫……とは?」

「今の姿をお見せになれば……誤魔化しはきかないと思います」

 ーーそうね、こんなに痩せ細って青白い顔をしているもの。

「サイロ……そばにいてくれる?」

「えっ?嫌ですよ」

「どうして……?」
 ーーあなたがいてくれたら心強いのに……

「ちゃんと向き合ってください……もうセフィル様から逃げないで。わかってるでしょう?お嬢はこれから病とも向き合って生き抜くんです。俺たちはそう信じています。その先にあなたはセフィル様と幸せになる未来があるんです」

「……未来……あるわけない…じゃない」
 ーーもう満足しているわ。みんなに見守られてそれだけで十分幸せなの。

「お嬢、俺たちは希望を捨てていません。最後の一秒まで諦めません。先生は必死で薬を作っています。ミリナ様だってあなたのことを慕ってずっと祈っていますしウエラだって治ると思って必死で看病しています。俺は……悔しいけど何もできず今は無力です……だけど俺はあなたの護衛騎士です。ずっと命をかけてお守りいたします」

 サイロの目はとても優しかった。そして聞き取れないほど小さな声で何か呟いた。



「………今度こそ助けます」



「ごめんなさい……みんなが必死なのに……わたくし……」
 ーーサイロは諦めないのね。わたくし……生きても……いいの?希望を持っても……いいの?

 まだ生きる……諦めていたはずなのに……期待したらいけないと思っていたのに……

 サイロがわたくしの手を握った。

「お嬢の手はまだこんなに温かいんです、生きてるんです。セフィル様との未来を夢見てもいいんじゃないですか?」

「……サイロは……わたくしの……未来には…いないの?」

「俺は護衛騎士です。あなたが必要としてくださるなら一生あなたのそばで仕えます」

「………そう」

 ーーサイロは……護衛騎士……

 どうしてこの言葉に胸が痛むのかしら?





 セフィルが来るお昼まで少し時間があったので眠ることにした。

 先生の薬のおかげで少し楽になった体……

 夢の中でサイロが笑っていた。
 いつものように、ニカっと笑い楽しそうにわたくしのそばにいる。

 なのに夢は変わり、彼は何故か捕まり牢の中にいた。

 お父様に鞭で打たれ大怪我をして……ぐったりとしている。

 ーーいや、やめて!

 夢の中で必死でわたくしはお父様をとめた。

 サイロを助けて!何故そんな酷いことを!

 サイロは意識がなくなり……わたくしより先に死んでいった。

 嫌だ、サイロ、死なないで!

 死ぬのはわたくしだけでいいの。
 ごめんなさい、あなたを巻き込んで。

 夢の中でどんなに泣き叫んでもサイロは生き返らない。夢なんだからわたくしの思う通りになって!夢なんだから生き返ってよ!

 心が壊れてしまいそう……サイロ……

 やっと会えたのに。サイロとあんなに離れたことなかったのに。旅をしてる日々、何度サイロがそばにいてくれたらと思ったか……自分から離れておいて……

 サイロ、何故わたくしをおいて先に死ぬの?

 夢の中でわたくしは……泣き続けた。

 
しおりを挟む
感想 593

あなたにおすすめの小説

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

処理中です...