84 / 93
もう一つの世界では……②
しおりを挟む
ブロアがいるバルン国に着いた。
しかし、『エイリヒ商会』しか、わかっていない。エイリヒ商会の場所もわからないし、ブロアがどこにいるのかもわからない。
とりあえず、宿を取り汚れた体をキレイにするため風呂に入り、買った服に着替えた。
ここ数日野宿で仮眠しかしていなかった。
かなりボロボロの汚れた姿で、そんな旅人に慣れた宿の主人も思わず顔を顰めていた。
髭もかなり伸びて鏡を見た自分に苦笑した。
まだ20歳なのにどう見ても40歳を過ぎた疲れたおじさんだった。
ブロアに会うのにこんな見てくれでは会えない。
宿屋の主人に、街のギルドのある場所を聞いた。そこに行けばエイリヒ商会の場所や当主の住む屋敷を教えてもらえるかもしれない。
「すまないが……」
俺が声をかけると主人が驚いた顔をした。
「あ、あなたは……宿のお客にいましたかね?」
「あっ……ああ、そんなに変わったかな。さっき受付を済ませたセフィル・ブレイシャスだ」
「………申し訳ありません……」
バツが悪そうにハンカチで額の汗を必死で拭く宿の主人に笑いを堪えながらギルドの場所を聞いた。
「エイリヒ商会って知っているかな?」
「もちろんですよ。この国では有名です。あそこで扱う物は超一流です。それに当主は国王の従兄弟です。今は王族から籍を抜いて平民になられましたけど」
「そうなのか……エイリヒ商会の当主に会うにはどうすればいい?」
「……難しいですね。いつもお忙しく国内外を飛び回っておられますから。それこそ先ほど聞かれたギルドに行って紹介状をもらうのが一番早いと思います。ただし身元がしっかりしていて理由もきちんとないと無理だと思いますが」
にこやかに笑う主人だったが、俺のことを値踏みしていることはわかっていた。
ギルド長が俺に紹介状を書くのは無理だろう、顔がそう言っていた。
「そうか……わかった、ありがとう」
まだ夕方まで少し時間がある。
無理をさせた馬にはしばらく休ませたかったので歩いてギルドまで行くことにした。
宿から歩いて30分くらいと言われた。
ランニングするにはちょうどいい。
早くブロアに会いたい。
今度こそ気持ちを伝えたい。
ブロアがもう俺とどうしても無理だと言われたらその時は忘れられないけど、婚約解消は受け入れるつもりだ。
しかし少しでも可能性があるなら絶対諦めない。自分でもしつこいことはわかっている。だけど長年思い続けたブロアを簡単に諦められないのも仕方ない。
走って軽く汗をかくのも気持ちがいい。
ギルドに着くと、扉の前で大きく深呼吸をした。
ここで上手く紹介状をもらわなければまた無駄な時間が過ぎてしまう。
「よし!」
中に入ると受付嬢にギルド長が居るか尋ねたらすぐに呼んでくれた。
奥の部屋から出てきたギルド長は俺よりもかなり年上の40歳を過ぎたがっしりとした男性だった。
たくさんの人を見てきたであろうこの人の眼光は鋭く思わずたじろぎそうになる。
「わたしになんの用があるのかな?」
低い声は威圧感があり俺を疑っているようだ。
「わたしはアリーゼ国の騎士団の副隊長をしているセフィル・ブレイシャスと言います。婚約者のブロア・シャトワ公爵令嬢がエイリヒ商会の当主達とこちらの国へ来ていると聞いてやってきました。ただ今どこへいるのかわからないのでギルド長にエイリヒ商会の当主の屋敷の場所を教えていただきたいのです」
「ほお、普通婚約者なら本人が居場所を伝えてくるものでは?」
「……残念ながらわたしは婚約解消を言い渡されて彼女は公爵家を出て行ってしまいました。大きな怪我をしているはずです。どうなっているのか心配で探しにきました」
ーー嘘を言って誤魔化してもこの人は見抜いてしまうだろう。あまりプライベートなことは話すべきではない。だが、真実を話さなければブロアに会えない。
怪我をしているブロア、体調が悪いと聞いている。早く会いたい。
「解消を言い渡されたのなら相手は会いたくないのでは?無理強いはいけないと思う」
「わかっています。でも一方的な婚約解消の申し入れにわたしはまだ納得していません。きちんと話し合いたい、誤解も解きたい、彼女を愛しているとまだ伝えていないんです。自分勝手かもしれませんが彼女の本心を知りたい。そして彼女の心にわたしがいないなら……悔しいですが諦めます」
それからいくつかの質問をされた。
ギルド長はしばらく考えて「明日もう一度夕方に顔を出してください」と言うと奥の部屋へと戻ってしまった。
受付嬢は呆然と立ったままの俺を見て困った顔をした。
「ギルド長は多分エイリヒ様に話してみるのだと思います」と教えてくれた。
「わかりました、明日もう一度伺います」
宿に戻ると温かい食事が用意されていた。
まともな物を食べるのも久しぶりだった。お腹が空いていることも忘れていた。
それくらいここ数日ずっと気が張り詰めていたようだ。久しぶりにお腹いっぱい食べてベッドに横になると睡魔が襲ってきた。
明日は何があってもブロアの居場所を探し出そう。
しかし、『エイリヒ商会』しか、わかっていない。エイリヒ商会の場所もわからないし、ブロアがどこにいるのかもわからない。
とりあえず、宿を取り汚れた体をキレイにするため風呂に入り、買った服に着替えた。
ここ数日野宿で仮眠しかしていなかった。
かなりボロボロの汚れた姿で、そんな旅人に慣れた宿の主人も思わず顔を顰めていた。
髭もかなり伸びて鏡を見た自分に苦笑した。
まだ20歳なのにどう見ても40歳を過ぎた疲れたおじさんだった。
ブロアに会うのにこんな見てくれでは会えない。
宿屋の主人に、街のギルドのある場所を聞いた。そこに行けばエイリヒ商会の場所や当主の住む屋敷を教えてもらえるかもしれない。
「すまないが……」
俺が声をかけると主人が驚いた顔をした。
「あ、あなたは……宿のお客にいましたかね?」
「あっ……ああ、そんなに変わったかな。さっき受付を済ませたセフィル・ブレイシャスだ」
「………申し訳ありません……」
バツが悪そうにハンカチで額の汗を必死で拭く宿の主人に笑いを堪えながらギルドの場所を聞いた。
「エイリヒ商会って知っているかな?」
「もちろんですよ。この国では有名です。あそこで扱う物は超一流です。それに当主は国王の従兄弟です。今は王族から籍を抜いて平民になられましたけど」
「そうなのか……エイリヒ商会の当主に会うにはどうすればいい?」
「……難しいですね。いつもお忙しく国内外を飛び回っておられますから。それこそ先ほど聞かれたギルドに行って紹介状をもらうのが一番早いと思います。ただし身元がしっかりしていて理由もきちんとないと無理だと思いますが」
にこやかに笑う主人だったが、俺のことを値踏みしていることはわかっていた。
ギルド長が俺に紹介状を書くのは無理だろう、顔がそう言っていた。
「そうか……わかった、ありがとう」
まだ夕方まで少し時間がある。
無理をさせた馬にはしばらく休ませたかったので歩いてギルドまで行くことにした。
宿から歩いて30分くらいと言われた。
ランニングするにはちょうどいい。
早くブロアに会いたい。
今度こそ気持ちを伝えたい。
ブロアがもう俺とどうしても無理だと言われたらその時は忘れられないけど、婚約解消は受け入れるつもりだ。
しかし少しでも可能性があるなら絶対諦めない。自分でもしつこいことはわかっている。だけど長年思い続けたブロアを簡単に諦められないのも仕方ない。
走って軽く汗をかくのも気持ちがいい。
ギルドに着くと、扉の前で大きく深呼吸をした。
ここで上手く紹介状をもらわなければまた無駄な時間が過ぎてしまう。
「よし!」
中に入ると受付嬢にギルド長が居るか尋ねたらすぐに呼んでくれた。
奥の部屋から出てきたギルド長は俺よりもかなり年上の40歳を過ぎたがっしりとした男性だった。
たくさんの人を見てきたであろうこの人の眼光は鋭く思わずたじろぎそうになる。
「わたしになんの用があるのかな?」
低い声は威圧感があり俺を疑っているようだ。
「わたしはアリーゼ国の騎士団の副隊長をしているセフィル・ブレイシャスと言います。婚約者のブロア・シャトワ公爵令嬢がエイリヒ商会の当主達とこちらの国へ来ていると聞いてやってきました。ただ今どこへいるのかわからないのでギルド長にエイリヒ商会の当主の屋敷の場所を教えていただきたいのです」
「ほお、普通婚約者なら本人が居場所を伝えてくるものでは?」
「……残念ながらわたしは婚約解消を言い渡されて彼女は公爵家を出て行ってしまいました。大きな怪我をしているはずです。どうなっているのか心配で探しにきました」
ーー嘘を言って誤魔化してもこの人は見抜いてしまうだろう。あまりプライベートなことは話すべきではない。だが、真実を話さなければブロアに会えない。
怪我をしているブロア、体調が悪いと聞いている。早く会いたい。
「解消を言い渡されたのなら相手は会いたくないのでは?無理強いはいけないと思う」
「わかっています。でも一方的な婚約解消の申し入れにわたしはまだ納得していません。きちんと話し合いたい、誤解も解きたい、彼女を愛しているとまだ伝えていないんです。自分勝手かもしれませんが彼女の本心を知りたい。そして彼女の心にわたしがいないなら……悔しいですが諦めます」
それからいくつかの質問をされた。
ギルド長はしばらく考えて「明日もう一度夕方に顔を出してください」と言うと奥の部屋へと戻ってしまった。
受付嬢は呆然と立ったままの俺を見て困った顔をした。
「ギルド長は多分エイリヒ様に話してみるのだと思います」と教えてくれた。
「わかりました、明日もう一度伺います」
宿に戻ると温かい食事が用意されていた。
まともな物を食べるのも久しぶりだった。お腹が空いていることも忘れていた。
それくらいここ数日ずっと気が張り詰めていたようだ。久しぶりにお腹いっぱい食べてベッドに横になると睡魔が襲ってきた。
明日は何があってもブロアの居場所を探し出そう。
1,402
お気に入りに追加
4,212
あなたにおすすめの小説

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」

願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31


2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる