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もう一つの世界では……①
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【56話 わたくしの幸せ】を読み終わったところから、この話は始まります。
ーーーーーーー
突然だった。
「ブロア!!」
椅子に座っていたわたくしの名を呼び、肩を掴まれた。
その声は怒気をはらみ、肩を掴む力はかなり強く「い、痛い」と思わず声が出た。
サイロが立ち上がった。
先生がわたくしの隣にいたので「手を離してあげてください」とお父様に言った。
「お前達はわたしを馬鹿にしているのか!!」
そう言うと、わたくしの頬を「バシッ」と叩いた。
バランスを崩したわたくしは倒れそうになるが、サイロが慌てて抱きとめて助けてくれた。
サイロは、助けにきてくれたが叩くのを止めるのには間に合わなかったと悔しそうにしていた。
それでも固い地面に倒れなかったので助かった。
「くそっ!すみません遅れて!ブロア様!」
斜め前にいたはずのサイロは素早い動きでわたくしのところへときてくれた。
お父様の動きを予測していたのだろう。お父様は昔っから自分の思い通りにならないとわたくしの頬を叩く。
お父様に雇われているサイロはいつも悔しそうに唇をかみしめ辛そうにしていた。
『俺はなんのための護衛なんでしょう?お嬢を助けたいのに』
『ダメだよ、絶対お父様に逆らわないで。サイロがやめさせられたらわたくしはもう誰もそばにいてくれなくなるわ。一人は寂しい……』
わたくしにとって子供の頃からそばにいてくれるのはサイロだけだった。
最近はウエラもわたくしにとって大切な一人になった。
そんなサイロが我慢できなかったみたい。お父様に強い口調で言った。
「ブロア様は体調があまり良くありません。暴力はおやめください」
「お前は使用人のくせに逆らうのか?」
サイロは「俺、辞表出してきたから、今は無職なんで」と、ニヤッとわたくしに向かって笑った。
「もう公爵家は辞めてきました。今は他国で暴力を振るわれている人を助けに入っているだけです……本当は殴られる前に助けたかったのですが……」
悔しそうに言うと………
「おい、騎士達!この国では暴力を振るう奴を捕まえもせずボッーと見ているのが騎士なのか?それも歩けない車椅子に乗っている人に暴力を振るうのを黙ってみているなんてよくも平気でいるな?」
サイロがお父様の護衛でついて来ていたバルン国の騎士達を睨みながら、周りに聞こえるように大きな声で叫んだ。
騎士たちはバツが悪そうに周りをキョロキョロ見ると、お父様のところへ行き「宰相、ここは一旦謝って帰りましょう」とお父様を宥め始めた。
アリーゼ国の騎士たちはわたくしを見て目を逸らしていた。
ーー仕方ないわよね。お父様を怒らせれば自分たちがクビになってしまうもの。
「貴様は私に恥をかかせるのか?ブロア!お前はなんで親不孝なんだ!勝手に屋敷を出てこんなところまで来て!体調が悪いなら外に出られるわけがないだろう?」
ーーそうね、確かに。こんな体調で外に出ているのは確かだもの。お父様には家出をしたことしか頭にないのよね?
わたくしがもうすぐ死ぬなんて考えてもいないのよね。まぁわたくしに興味すらないもの。仕方ないわよね。
言うことを聞かない娘に腹を立てているだけなのよね。
わたくしが返事もせずに黙っていると「なんとか言え!」と怒鳴り散らし始めた。
エイリヒさんがバルン国の騎士を手招きして騎士の耳元で何か話していた。
するとその騎士がお父様に何か伝えた。
「くそっ、ブロア、また連絡する」
なんとか帰ってくれたのでホッとした。
ミリナが心配で彼女を見ると「助けてあげられなくてごめんなさい。ブロア様大丈夫?」と涙いっぱいためてわたくしのそばにやって来た。
「ミリナ、怖がらせてごめんなさい。わたくしは大丈夫よ?だけど今日の遊覧船に乗るのはやめておくわ」
ーー口の中が切れてしまって血の味が口の中に広がって気持ち悪い。
それにやはり精神的にもキツくて早く横になりたかった。
「うん、気にしないで。早く屋敷に帰ろう」
「エイリヒさんもご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「ブロア様が謝ることは何もないです」
優しい言葉に感謝しつつ、どうしてさっきお父様の態度が変わったのか不思議で聞いてみた。
「魔法の言葉を使ったんです」
ニコッと笑うといたずらっ子の顔をしたエイリヒさん。
多分聞いてもこれ以上答えてはくれないとわかって聞くのはやめておいた。
「サイロ……公爵家の騎士を本当にやめてよかったの?ずっと頑張ってきたのに」
「俺があそこで働いたのはブロア様がいたからだし。ブロア様のいない公爵家に未練なんてありませんよ」
「はい!わたしも同じです!」
ウエラまでやめてきてしまった。
「二人とも嬉しいのだけど、わたくしあなた達を雇えるほどお金払えないわ」
ため息を吐くと「自分の生活費くらい稼げますから」と二人ともケロッとしていた。
その日の夜は頬を叩かれたこともあり少し熱が出てしまった。
「今夜はわたしがそばに居ますからね」
ウエラがそばに居てくれた。
その夜、サイロと先生とエイリヒさんは3人で話し合いをしていたらしい。
熱が下がった翌朝、ウエラが教えてくれた。
「昨日は男3人で何か話をしてましたよ、遅い時間まで。何を話してたのかな?」
「話を?何かしらね?」
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突然だった。
「ブロア!!」
椅子に座っていたわたくしの名を呼び、肩を掴まれた。
その声は怒気をはらみ、肩を掴む力はかなり強く「い、痛い」と思わず声が出た。
サイロが立ち上がった。
先生がわたくしの隣にいたので「手を離してあげてください」とお父様に言った。
「お前達はわたしを馬鹿にしているのか!!」
そう言うと、わたくしの頬を「バシッ」と叩いた。
バランスを崩したわたくしは倒れそうになるが、サイロが慌てて抱きとめて助けてくれた。
サイロは、助けにきてくれたが叩くのを止めるのには間に合わなかったと悔しそうにしていた。
それでも固い地面に倒れなかったので助かった。
「くそっ!すみません遅れて!ブロア様!」
斜め前にいたはずのサイロは素早い動きでわたくしのところへときてくれた。
お父様の動きを予測していたのだろう。お父様は昔っから自分の思い通りにならないとわたくしの頬を叩く。
お父様に雇われているサイロはいつも悔しそうに唇をかみしめ辛そうにしていた。
『俺はなんのための護衛なんでしょう?お嬢を助けたいのに』
『ダメだよ、絶対お父様に逆らわないで。サイロがやめさせられたらわたくしはもう誰もそばにいてくれなくなるわ。一人は寂しい……』
わたくしにとって子供の頃からそばにいてくれるのはサイロだけだった。
最近はウエラもわたくしにとって大切な一人になった。
そんなサイロが我慢できなかったみたい。お父様に強い口調で言った。
「ブロア様は体調があまり良くありません。暴力はおやめください」
「お前は使用人のくせに逆らうのか?」
サイロは「俺、辞表出してきたから、今は無職なんで」と、ニヤッとわたくしに向かって笑った。
「もう公爵家は辞めてきました。今は他国で暴力を振るわれている人を助けに入っているだけです……本当は殴られる前に助けたかったのですが……」
悔しそうに言うと………
「おい、騎士達!この国では暴力を振るう奴を捕まえもせずボッーと見ているのが騎士なのか?それも歩けない車椅子に乗っている人に暴力を振るうのを黙ってみているなんてよくも平気でいるな?」
サイロがお父様の護衛でついて来ていたバルン国の騎士達を睨みながら、周りに聞こえるように大きな声で叫んだ。
騎士たちはバツが悪そうに周りをキョロキョロ見ると、お父様のところへ行き「宰相、ここは一旦謝って帰りましょう」とお父様を宥め始めた。
アリーゼ国の騎士たちはわたくしを見て目を逸らしていた。
ーー仕方ないわよね。お父様を怒らせれば自分たちがクビになってしまうもの。
「貴様は私に恥をかかせるのか?ブロア!お前はなんで親不孝なんだ!勝手に屋敷を出てこんなところまで来て!体調が悪いなら外に出られるわけがないだろう?」
ーーそうね、確かに。こんな体調で外に出ているのは確かだもの。お父様には家出をしたことしか頭にないのよね?
わたくしがもうすぐ死ぬなんて考えてもいないのよね。まぁわたくしに興味すらないもの。仕方ないわよね。
言うことを聞かない娘に腹を立てているだけなのよね。
わたくしが返事もせずに黙っていると「なんとか言え!」と怒鳴り散らし始めた。
エイリヒさんがバルン国の騎士を手招きして騎士の耳元で何か話していた。
するとその騎士がお父様に何か伝えた。
「くそっ、ブロア、また連絡する」
なんとか帰ってくれたのでホッとした。
ミリナが心配で彼女を見ると「助けてあげられなくてごめんなさい。ブロア様大丈夫?」と涙いっぱいためてわたくしのそばにやって来た。
「ミリナ、怖がらせてごめんなさい。わたくしは大丈夫よ?だけど今日の遊覧船に乗るのはやめておくわ」
ーー口の中が切れてしまって血の味が口の中に広がって気持ち悪い。
それにやはり精神的にもキツくて早く横になりたかった。
「うん、気にしないで。早く屋敷に帰ろう」
「エイリヒさんもご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「ブロア様が謝ることは何もないです」
優しい言葉に感謝しつつ、どうしてさっきお父様の態度が変わったのか不思議で聞いてみた。
「魔法の言葉を使ったんです」
ニコッと笑うといたずらっ子の顔をしたエイリヒさん。
多分聞いてもこれ以上答えてはくれないとわかって聞くのはやめておいた。
「サイロ……公爵家の騎士を本当にやめてよかったの?ずっと頑張ってきたのに」
「俺があそこで働いたのはブロア様がいたからだし。ブロア様のいない公爵家に未練なんてありませんよ」
「はい!わたしも同じです!」
ウエラまでやめてきてしまった。
「二人とも嬉しいのだけど、わたくしあなた達を雇えるほどお金払えないわ」
ため息を吐くと「自分の生活費くらい稼げますから」と二人ともケロッとしていた。
その日の夜は頬を叩かれたこともあり少し熱が出てしまった。
「今夜はわたしがそばに居ますからね」
ウエラがそばに居てくれた。
その夜、サイロと先生とエイリヒさんは3人で話し合いをしていたらしい。
熱が下がった翌朝、ウエラが教えてくれた。
「昨日は男3人で何か話をしてましたよ、遅い時間まで。何を話してたのかな?」
「話を?何かしらね?」
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