【完結】さよならのかわりに

たろ

文字の大きさ
上 下
80 / 93

80話  全てが終わる。

しおりを挟む
「父様……海が綺麗だね」

「ああ、うん……この夏の青い海もブロア様がみたら喜ばれただろう」

 親子は二人屋敷の近くの砂浜を歩いた。

 ブロア様と知り合ったのは数ヶ月前。元々ブロア様には恩があった。だからこそ彼女があと少しの人生ならと手助けすることにした。

 一緒に過ごすうちに彼女の為人に触れて、助けると言うより何かできることがあれば、して差し上げたいと言う気持ちになった。

 『死んでもいい』と思っているところがある。生きることに諦めてしまっていた。だけど、『海が見たい』とか『助けたい』とか少しだけ自分の望みを口にしてまともに動けない体でもなんとか頑張ろうとする人だった。

 ブロア様は主治医の頑張りで、一度だけ目覚めた。しかし、すぐに意識がなくなり今も眠り続けている。

 もうそれが3年も続いている。
 痣が消えることはない。

 心臓だけが微かに動いている状態で主治医の先生も毎日ブロア様のそばから離れない。

 その治療費はブロア様の実家の公爵家当主を継いだカイラン様から毎月送られてきている。

 ブロア様の父親の宰相だった彼は今もアリーゼ国のために働いている。
 処刑するよりも国のために一生働き続けさせるとのことだ。
 死んだ方が楽だろうと思う。

 それは罰ではない?いや彼は、地下牢に入れられて一生そこから出ることはできない。
 朝から晩までいろんな部署の仕事を持って来られてひたすら仕事をさせられる。もちろん雑用だけ。重要な仕事には一切関わらせてもらえない。有能な彼にとって屈辱でしかない。

 名を奪われ誰からも敬われることなく、仕事を少しでもサボれば「101番何をサボっているんだ!」と鞭で叩かれる。

 傷の手当てもされることなく食事は1日2回だけ。

 心が壊れた彼は言葉を発することもなく、ひたすら仕事をしているらしい。

 これがアリーゼ国で優秀と言われた宰相なのか?と言うくらい顔も姿も変わりきっているらしい。

 そしてサイロは結局輸血が間に合わずに亡くなった。

 牢での拷問に耐え続け、最後はブロア様の代わりに斬られて亡くなった。

 ヨゼフは今もわたしの屋敷で庭仕事をしながらのんびりと過ごしている。

 最近はミリナの好きな花をたくさん植えてミリナと話すのが毎日の日課らしい。


 そしてセフィルはうちの商会で働いている。

 貴族としての地位も騎士としての地位も仕事も全て捨てた。

 一度だけ目覚めたブロア様とセフィル様は少しだけ言葉を交わした。そのあと、ブロア様は静かに眠りについた。

 このまま亡くなるのか目覚めるのかわからない。
 カイラン様はもうブロアのことは忘れて新しい人生を歩むように周りからも言われたが、セフィルは首を横に振った。

 サイロが亡くなる前にブロア様とセフィルは会うことができた。その時のこともわたし達は遠慮してるいたので、どうなったのかわからない。

 セフィルは口を閉ざし今もブロア様が目覚める時を待ち続けて過ごしている。

 ミリナは毎日ブロア様に話しかけに行く。

「ブロア様……今日は綺麗なお花が咲いていたからここに飾りますね」

「うん?お顔の色がいいみたい。早く一緒にお話ししましょう」





 そして……セフィルもまた朝必ずブロア様の部屋に顔を出して、仕事から帰ってくるとずっと寝るまで部屋にいる。

 二人の関係を詮索することはできない。


「セフィル、そろそろ時間だ、ブロア様の部屋の鍵を締める時間になる」

「あっ、もうそんな時間ですか……ブロア明日もまた会いにくるよ。おやすみ」

 セフィルはいつものように眠るブロア様の頬にキスを落とす。






◆ ◆ ◆

明日最終話になります。

その後少し番外編を書く予定です。
しおりを挟む
感想 593

あなたにおすすめの小説

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

処理中です...