【完結】さよならのかわりに

たろ

文字の大きさ
上 下
74 / 93

74話  わたくしにできること。

しおりを挟む
「サイロが盗んだことを認めた?」

 絶対にサイロはそんなことはしていない。ネックレスはわたくしに渡す前に持っていただけのはず。そんな簡単なこと、何故みんなわからないの?

 どうしてサイロは濡れ衣だとわかっているのに、否定しなかったの?

「それが……閣下が脅したらしいのです」

「脅したとはどう言うことなのかしら?」

「……ウエラをご存知ですよね?」

「わたくしのメイドです」

「ウエラがサイロと一緒に盗んだんだろうと責めて、ウエラに鞭を打ちつけて無理やり罪人にしようとしたんです。
 アリーゼ国では貴族の物を盗むのは重罪です。しかもそのネックレスは希少でかなり高価な物です。アリーゼ国に帰れば二人ともどこかの収容所へ入れられ当分は出てこれないでしょう。だからサイロが罪を認めて、ウエラを助けたんです」

「そんな……」

 ーーサイロはどうなるの?このままではお父様のいいようにされてしまうわ。

 それにウエラを鞭で打つなんて………

 二人のことが心配でたまらない……

 わたくしを言いなりにするためなのかもしれない。お父様の声が圧がどこからともなく感じて、わたくしの心をどんどん蝕んでくる。

 怖い………そう思うと体が動かなくなる。

 どうしてそこまで酷いことができるのかしら?悔しい……わたくしの大切な人たちをそんな目に遭わせて……考えるだけでお父様を憎んでしまう。

「今はまだ王城内の牢にいるの?」

「はい……ただサイロは……ウエラの代わりに鞭で打たれていて……」

「先生、お願い……薬を……」

 想像するだけで気分が悪くなる。

 真っ青になっていたのだろう。

「ブロア様、とりあえず横になってください。薬はすぐに持たせます。この屋敷にいる間暇だったんでいろいろ薬作りしていましたから、大丈夫です」

「ありがとう……」
 先生の言葉に感謝するしかなかった。


「あの人は大人気ない……ブロア様を傷つけるのに人を利用するなんて……」

 先生が悔しそうに呟いていた。

 わたくしはどうするべき?

 ベッドでのんびりと死を待つ?アリーゼ国へ帰ってサイロを助ける?

 ううん、この国にまだいるのならこの国で助けたほうがいい。サイロが鞭で打たれているならかなりの怪我かもしれない。ウエラだって何度か鞭で打たれているらしい。

 二人を助けるのはわたくししかいない。

 お父様はわたくしがこの国にいることをわかっているのね。

 『出てこい』『言うことを素直に聞け』と言っている気がする。

「先生……薬は?わたくしの薬、まだかしら?」

「……………」

「先生?作ってくださっているはずですよね?」

「……………」

「サイロがこのままでは……殺されるかもしれないわ。あの人はサイロを無実なのに罪人にするつもりなの。…………サイロはずっとわたくしのために働いて守ってくれたの……お父様はそんなサイロが気に入らなかった……だから……見せしめのために……助けに行けるのはわたくしだけなの……アリーゼ国に帰ってから助けるなんて悠長なこと言っていられない。わたくしには時間がないの………お願い!」

「…………薬はできてはいますがまだまだ改良の余地があります……飲むなら……少しだけ……あと少し時間があれば完成するかもしれない……せめてあと数日……だから飲むならほんの少しだけ……それならお渡しします」

「先生……いつもありがとう。わたくしの痣がこれ以上広がらないように薬を作ってくださっているのに、わたくしが無茶ばかりして……自分で寿命を縮めているのもわかってるの……でも、サイロは助けたいの……心残りのまま死にたくない……サイロはわたくしにとって家族よりも家族だと思えるの。大切な人なの……何があっても助けたいの」

「…………あなたは………いや、無自覚なんですね……」

「?」

「サイロとウエラを助けるためとはいえ、薬は少量しか出しません。なので効果は多分動けるくらい…あなた自身辛い状態は変わらないと思います。何とか歩けるくらいにしか回復しません……それでいいですか?わたしはあなたと一緒に王城へついていけない……いざとなったらこの薬をお飲みください」

 先生はもう一つ別の薬を手渡した。

「………これは?」

「仮死状態になる薬です……心臓の動きを生きるためだけ少しだけ動きますが死んだように見えます……これは最終手段です……本当はわたしの薬が間に合わなかったら渡すつもりでした……これでギリギリ伸ばすつもりでしたので……」

 先生からふたつの薬を渡された。

しおりを挟む
感想 593

あなたにおすすめの小説

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

処理中です...