【完結】さよならのかわりに

たろ

文字の大きさ
上 下
70 / 93

70話  セフィル編 12

しおりを挟む
 宰相の部屋を出て、すぐに仲間の騎士達と合流した。

「ブロアは?今どこにいるのか教えてもらえないか?」

「ブロア様はエイリヒ様の紹介で別荘へお連れしております。ブロア様のお連れの方達も一緒です」

「どんな状態なんだ?」

「かなり弱られていて移動などできる状態ではありません。アリーゼ国に連れて帰ることなど今は無理です」

「やはりそんな状態なのか……宰相はそのことに気がついていないようだが?」

 さっきまでの会話にブロアへの心配など全くなかった。早く俺と結婚させようと思ってはいるようだったが、『見つかった』とは言ったが、会ったことは言っていない。

 宰相は自分がブロアを見つけ、頬を叩いたことなど忘れてしまっているような会話だった。

 他の者達に聞いてもブロアが今体調を崩していることは見てすぐにわかったというのに、父親である宰相にはブロアの姿が見えていないのか?

「俺は宰相に仕事でこの国に来ていると伝えてある。適当にご機嫌を取って話を合わせている。だが宰相が国に戻ればブロアがまだ帰っていないことがわかるだろう。その時あなた達はどうなる?」

「まぁ……クビになるかもしれませんね。しかし、こちらに来ている近衞騎士20人をまとめてクビにするのは難しいと思います。わたし達は近衛騎士なので陛下の直属ですからね、いくら宰相でもそこまではできないと思います」

「いや、あの人ならやりかねない。娘のことも道具としか思っていない。その道具でしかない娘が自分に逆らって屋敷に帰っていないとわかったらあの人は何をしでかすかわからない……何か策を考えた方がいい」

「セフィル殿はブロア様に会われたのですか?」

「まだ会っていない。早く会いたいと思ってはいるが、その前に護衛騎士のサイロを助け出したいんだ。ブロアはとても心配していると思う」

「サイロ……彼は宰相に鞭で打たれて牢に入れられています」

「鞭で?なんでだ?まだ盗んだとは決まっていないはず?ただ持っていただけかもしれないのに盗んだと決めつけるのはおかしいだろう?」

「宰相閣下は、ブロア様に対してはできない暴力を代わりにサイロに向けているのだと思います」

「ブロアに暴力……?もし屋敷に帰ればブロアは宰相に何をされるかわからない?」

「あの場面を見ていた俺達はそう思っています」

「俺は話しか聞いていない。そんなに酷かったのか?」

「ブロア様はとても動ける状態ではなかった。そんなブロア様の頬を叩き怒鳴りつけていたんだ。椅子から転んでも動くことすらできなかった。ブロア様を連れて行った騎士達から話を聞いたが車椅子に乗られていたらしい。歩くこともできなかったんだ」
 俺と仲の良い騎士の一人が話してくれた。

「……嘘だろう?」

 エイリヒ様はそこまで教えてくれなかった。
 何故なんだ?何故、ブロアの今の状態を誰も教えてくれない?

 一人疎外感になんとも言えない気持ちになったが、ブロアにリリアンナのことを勘違いされている自分ではブロアを恨むことなんて出来ない。
 でもブロアが心配で仕方がなかった。

「俺はサイロを助け出して一刻も早くブロアに会いに行きたい……サイロは犯人ではない。だが宰相の様子を見ているとサイロを牢から出す気はなさそうな気がする……サイロは何か言っているのか?」

「俺たちに守ってほしいと頼んできたよ。自分は牢から出られないと覚悟しているみたいだ」

「サイロは無実なんだろう?この国の騎士達と話し合うことはできないのか?」

「………この国の者達もサイロが無実だとわかっている。ただ、宰相が出さないように圧力をかけているんだ」

「ふざけんな!無実の者に対してなんてことを!」

 俺はサイロに会えるようになんとか頼み込んだ。

 ブロアの婚約者、宰相の娘婿になるという力をなんとか使うことができた。
 やはり先に宰相に面会して機嫌を取っておいてよかった。

 宰相は俺が娘婿になることをこの国の騎士達に伝えてくれていたので、サイロとの面会の許可をくれた。



しおりを挟む
感想 592

あなたにおすすめの小説

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。

Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。 政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。 しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。 「承知致しました」 夫は二つ返事で承諾した。 私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…! 貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。 私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――… ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

私に代わり彼に寄り添うのは、幼馴染の女でした…一緒に居られないなら婚約破棄しましょう。

coco
恋愛
彼の婚約者は私なのに…傍に寄り添うのは、幼馴染の女!? 一緒に居られないなら、もう婚約破棄しましょう─。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!

青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。 図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです? 全5話。ゆるふわ。

処理中です...