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64話 セフィル編 10
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「守れなかった?」
それはどういう意味なのか?
「ブロアに何があったのですか?何が起こっているのですか?」
一人何も分かっていない自分にイライラする。
目の前に答えがあるのに、霧がかかっているかのようにぼやけて見えない。
「ブロア様は今日この港で観光をするはずでした。なのにお父上である宰相に偶然会われて無理矢理、屋敷に帰るように騎士達に囚われてしまいました」
その時の状況を説明された。
話を聞いていると、腹が立ち右手を握りしめていた。
気がつけば強く握りしめていて爪が手のひらに食い込んで血が滲んでいた。
何故ブロアがそんな酷いことをされなければいけないのか……いくら親だからと言って頬を叩くなんて……
それに……
「ブロアは?痩せこけて歩けないとはどういうことですか?車椅子に乗っている?じゃあ、そんな状態で今アリーゼ国へ向かっているのですか?何故?俺があった時のブロアは……確かに少し体調が悪そうだった時もあったが元気だった……そんな状態で何故観光を?」
俺が独り言のように呟いていると、エイリヒ様とギルド長が黙ったままでいる。
答えてはくれないのだろうか?
何故、状況は説明してくれても肝心なことは話してくれないのか。
「もういいです!俺はブロアを追いかけます。今ならそんなに遠くには行っていないだろうから……仲間の騎士達がブロアを連れ帰っているのなら話もできると思います」
つい二人の前でも『わたし』から『俺』になっているのに気がついた。言い換えなければ、丁寧な言葉遣いを…そう思ってはいるのに無理だ。
もうすぐ会えると思ったのにまた空振り。それだけでもかなり辛いのにブロアが宰相に酷いことをされた。怪我もしているらしい。
仲間達はブロアに酷いことはしていないと信じている。ブロアが俺たちのために尽力したことは仲間内でも知れ渡っていた。
彼女を乱暴に扱うことはないはず。しかし宰相の命令に従うしかないのも確かで……
呆れた声が聞こえた。
「君は本当に知らないのだな……」
エイリヒ様の言葉に「何を?」と聞き返した。
「ブロア様の今の状態だよ……彼女は君に伝えていないんだね。伝えないで去ったんだな」
「俺に伝えていない…………」
ーー何を?何をだ?ふとさっきの言葉を思い出す。
「………最後とは?まさか……最期……ブロアが……」
ーーそんなはずはない。信じたくない……
「彼女が伝えていないのなら私達は何も言えない。ただ、ブロア様はアリーゼ国へは向かっていない。ブロア様を連れ帰るように命令された騎士達は自らの意思でブロア様を守ると決めてくれた」
「騎士達が、上の命令に逆らったんですか?」
ブロアに対して酷いことはしないだろう。丁寧に扱ってくれるだろうとは思ったが、まさか逆らってまで助けてくれようとしたなんて……
「そう言えばウエラ達は?サイロは盗んだと罪を問われているんですよね?」
ブロアのことで頭がいっぱいです他の人たちのことを忘れていた。
「サイロさんはすぐに助けることはできませんが、今、事情聴取をしてなんとか釈放できるようにと動いています。他の人たちは元々屋敷に強制送還されることになっていただけなので、ブロア様のところに送り届けていますよ」
「そうですか……エイリヒ様の別荘にでしょうか?」
エイリヒ様が首を横に振った。
「アリーゼ国の宰相で公爵であるシャトワ様に商会の当主でしかないわたしでは太刀打ちできません」
俺なんかより身分は上だろう?この国の国王陛下の従兄弟なら。そう思っているのが顔に出ていたのだろう。
「セフィル殿、わたしは従兄弟ではありますがもう王位継承権は破棄し、身分も爵位は返上してしまい平民になっているんですよ」
その言葉に驚いた。
自ら高位貴族としての身分を捨てた?
「ははっ、ミリナの母親、妻を愛してしまいました。彼女と結婚するのに爵位や地位は不要だったんです………妻が亡くなり今は可愛い娘と暮らせればそれだけで幸せなんですよ」
そんな話をするエイリヒ様は少し寂しそうな顔をされた。
「ではブロアはどこに?この国の騎士でもない彼らがあの宰相に逆らってブロアをこの国で隠すことは無理だと思いますが?」
「ははっ、商会の当主をしていれば、それなりに顔は広いんですよ。ブロア様をその場でお助けできなかったので、その分罪滅ぼしで今必死でお助けしております。ブロア様はこの国のために動いてくださったお方ですからね」
そう言って、王太子の婚約者だった頃の話を教えてもらった。
「ブロアは……やはりすごい人なんですね」
陰ながらいろんなところで人のためにと動いていた人。だからこそ今もなお彼女のために動こうとする人がたくさんいる。
俺はそんな優しくて素敵な人に、不安にさせて、俺の幸せのためにと婚約解消を言わせてしまった。
「今の話を聞いて思ったのですが、宰相はブロアのことを諦めるのでしょうか?あの人は、ブロアが体調悪いなんて気にもしないでしょう。
公爵家の騎士団強化のために俺と結婚させたいだけなのです。勝手に婚約解消しようとしたことに対して腹を立てているのだと思います。全て自分の思い通りにならないと気が済まないお方ですからね」
宰相は仕事だけなら完璧にこなす。
だけど家族に対して情など一切ない。婚約者として見てきたからわかる。
ブロアのことを愛していない、ただの道具としてしか見ていない。
あの人はそんな人なんだ。
それはどういう意味なのか?
「ブロアに何があったのですか?何が起こっているのですか?」
一人何も分かっていない自分にイライラする。
目の前に答えがあるのに、霧がかかっているかのようにぼやけて見えない。
「ブロア様は今日この港で観光をするはずでした。なのにお父上である宰相に偶然会われて無理矢理、屋敷に帰るように騎士達に囚われてしまいました」
その時の状況を説明された。
話を聞いていると、腹が立ち右手を握りしめていた。
気がつけば強く握りしめていて爪が手のひらに食い込んで血が滲んでいた。
何故ブロアがそんな酷いことをされなければいけないのか……いくら親だからと言って頬を叩くなんて……
それに……
「ブロアは?痩せこけて歩けないとはどういうことですか?車椅子に乗っている?じゃあ、そんな状態で今アリーゼ国へ向かっているのですか?何故?俺があった時のブロアは……確かに少し体調が悪そうだった時もあったが元気だった……そんな状態で何故観光を?」
俺が独り言のように呟いていると、エイリヒ様とギルド長が黙ったままでいる。
答えてはくれないのだろうか?
何故、状況は説明してくれても肝心なことは話してくれないのか。
「もういいです!俺はブロアを追いかけます。今ならそんなに遠くには行っていないだろうから……仲間の騎士達がブロアを連れ帰っているのなら話もできると思います」
つい二人の前でも『わたし』から『俺』になっているのに気がついた。言い換えなければ、丁寧な言葉遣いを…そう思ってはいるのに無理だ。
もうすぐ会えると思ったのにまた空振り。それだけでもかなり辛いのにブロアが宰相に酷いことをされた。怪我もしているらしい。
仲間達はブロアに酷いことはしていないと信じている。ブロアが俺たちのために尽力したことは仲間内でも知れ渡っていた。
彼女を乱暴に扱うことはないはず。しかし宰相の命令に従うしかないのも確かで……
呆れた声が聞こえた。
「君は本当に知らないのだな……」
エイリヒ様の言葉に「何を?」と聞き返した。
「ブロア様の今の状態だよ……彼女は君に伝えていないんだね。伝えないで去ったんだな」
「俺に伝えていない…………」
ーー何を?何をだ?ふとさっきの言葉を思い出す。
「………最後とは?まさか……最期……ブロアが……」
ーーそんなはずはない。信じたくない……
「彼女が伝えていないのなら私達は何も言えない。ただ、ブロア様はアリーゼ国へは向かっていない。ブロア様を連れ帰るように命令された騎士達は自らの意思でブロア様を守ると決めてくれた」
「騎士達が、上の命令に逆らったんですか?」
ブロアに対して酷いことはしないだろう。丁寧に扱ってくれるだろうとは思ったが、まさか逆らってまで助けてくれようとしたなんて……
「そう言えばウエラ達は?サイロは盗んだと罪を問われているんですよね?」
ブロアのことで頭がいっぱいです他の人たちのことを忘れていた。
「サイロさんはすぐに助けることはできませんが、今、事情聴取をしてなんとか釈放できるようにと動いています。他の人たちは元々屋敷に強制送還されることになっていただけなので、ブロア様のところに送り届けていますよ」
「そうですか……エイリヒ様の別荘にでしょうか?」
エイリヒ様が首を横に振った。
「アリーゼ国の宰相で公爵であるシャトワ様に商会の当主でしかないわたしでは太刀打ちできません」
俺なんかより身分は上だろう?この国の国王陛下の従兄弟なら。そう思っているのが顔に出ていたのだろう。
「セフィル殿、わたしは従兄弟ではありますがもう王位継承権は破棄し、身分も爵位は返上してしまい平民になっているんですよ」
その言葉に驚いた。
自ら高位貴族としての身分を捨てた?
「ははっ、ミリナの母親、妻を愛してしまいました。彼女と結婚するのに爵位や地位は不要だったんです………妻が亡くなり今は可愛い娘と暮らせればそれだけで幸せなんですよ」
そんな話をするエイリヒ様は少し寂しそうな顔をされた。
「ではブロアはどこに?この国の騎士でもない彼らがあの宰相に逆らってブロアをこの国で隠すことは無理だと思いますが?」
「ははっ、商会の当主をしていれば、それなりに顔は広いんですよ。ブロア様をその場でお助けできなかったので、その分罪滅ぼしで今必死でお助けしております。ブロア様はこの国のために動いてくださったお方ですからね」
そう言って、王太子の婚約者だった頃の話を教えてもらった。
「ブロアは……やはりすごい人なんですね」
陰ながらいろんなところで人のためにと動いていた人。だからこそ今もなお彼女のために動こうとする人がたくさんいる。
俺はそんな優しくて素敵な人に、不安にさせて、俺の幸せのためにと婚約解消を言わせてしまった。
「今の話を聞いて思ったのですが、宰相はブロアのことを諦めるのでしょうか?あの人は、ブロアが体調悪いなんて気にもしないでしょう。
公爵家の騎士団強化のために俺と結婚させたいだけなのです。勝手に婚約解消しようとしたことに対して腹を立てているのだと思います。全て自分の思い通りにならないと気が済まないお方ですからね」
宰相は仕事だけなら完璧にこなす。
だけど家族に対して情など一切ない。婚約者として見てきたからわかる。
ブロアのことを愛していない、ただの道具としてしか見ていない。
あの人はそんな人なんだ。
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