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61話 ありがとう。
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波の音が聞こえる。
ここは、まだ、バルン国だわ。
馬車の中で眠っていたようで、どのくらいの時間が経っているのかわからない。
うっすらと目を開けると騎士たちはわたくしを心配そうに見ていた。
「目覚めましたか……」
ホッとした声が聞こえた。
最初の頃は表情も硬く、『味方です』と言われても信じられなかったけど、彼らの今の顔は優しげで安心できた。
「波の音が聞こえるの」
「ええ、とても心地良い音ですね」
「ほんと……ねえ、宰相閣下に逆らっても大丈夫なの?」
「ははっ、駄目でしょうね?」
困った顔をした騎士達。
「でも、ブロア様……私達は貴女が王城でどれだけ頑張ってこられたか見てきております。そんな貴女がこんなお姿になられているのに、無理やり国に連れ帰るなど出来ません」
「貴女は近衛騎士である私達にも心を割いてくれたお方です。無理な仕事の配分で体を壊した騎士達に手当てをもらえるようにしてくださいました。休暇もきちんと取れるようにと陛下と交渉してくださったのも貴女です。
それ以外にも王城で働く者達に細かく気を遣ってくださった。貴女に悪い噂がどんなにたっても、みんな表向きは信じているふりをしていましたが、本心は貴女を尊敬していたし感謝しておりました。
王太子殿下に逆らうことができなかった我々の弱さをお許しください……でもそれももう終わりです。あのお方は廃嫡されました……」
「………わたくし……のせいで……迷惑かけてごめんなさい」
謝ることしか出来なかった。
「我々は自分の意思で動いております。宰相閣下にはしばらくはバレることはないと思います。彼はまだこの国をまわらなければなりませんし、戻れば書類の山です。屋敷にゆっくり戻る暇などないのです」
「………そうね、確かに」
ーーでもあの人は確認だけはするでしょう?その時に困るのは貴方達よ……
わかってはいるのに、今は彼らの優しさに甘えよう。
少し気持ちが冷静になり、彼らに聞いた。
「今、どこに向かっているのかしら?」
「私達はこの国のことはよくわかりません。なのでこの国の騎士に紹介してもらい、ある人の別荘へ向かっております」
「ある人の?」
「はい。そのお方なら宰相閣下からも守ってもらえると思います。エイリヒ様もこちらに向かっております」
「エイリヒさんが?」
「エイリヒさんはあの時、口を挟むことができずにいて、とても後悔しておりました。親子関係のお二人でもあるし、アリーゼ国の重鎮でもある宰相閣下に対して口を出すことはできませんでした。でも、あの後すぐに動いてバルン国の騎士達に話をしてくれました。
彼はバルン国ではかなり有名な商会の当主で騎士達もみんな存じているそうです。バルン国の騎士達もみんな貴女の味方です」
「………わたくし……一人じゃないのね……ありがとう」
みんなと離されてもう一人虚しく死んでいくのだと思っていた。
しばらくして………
「着きました」
「申し訳ありませんがベッドまでお連れしますね」
そう言ってわたくしを抱きかかえて馬車を降りた。
ここもやはり海が見える素敵な屋敷だった。
別荘とはとても思えない大きなお屋敷に連れてこられた。
ベッドに横になっていると先生が走って部屋に入ってきた。
「ブロア様!よかった………とにかくこの薬を!」
「先生……どこに行ってもこの不味い薬はついて回るのね」
薬を飲んだ後診察をされた。
お父様に叩かれた頬は腫れていたけど、切れた口の中の方が酷かったようで、先生がぷりぷりと怒っていた。
「公爵はもう人ではない。あの人はジェリーヌ様が亡くなってからだんだん精神がおかしくなられた」
お父様とは長い付き合いの先生。お父様が生まれた時からずっと主治医として過ごされてきた。
「わたくし、運が悪かったわ……逃げられたと思ったのに……ごめんなさいね、先生達を巻き込んでしまって」
「みんな貴女をお守りしたいと思っています。サイロのことはもう少しお待ちください。今ウエラが説明をしております。必ず牢から出られることでしょう」
「うん……サイロったら心配かけて……」
ーーよかった……
「ありがとう、みんなにお礼を言わないといけないわね」
「ならばみんなに少しでもあなたのその素敵な笑顔をお見せください」
ここは、まだ、バルン国だわ。
馬車の中で眠っていたようで、どのくらいの時間が経っているのかわからない。
うっすらと目を開けると騎士たちはわたくしを心配そうに見ていた。
「目覚めましたか……」
ホッとした声が聞こえた。
最初の頃は表情も硬く、『味方です』と言われても信じられなかったけど、彼らの今の顔は優しげで安心できた。
「波の音が聞こえるの」
「ええ、とても心地良い音ですね」
「ほんと……ねえ、宰相閣下に逆らっても大丈夫なの?」
「ははっ、駄目でしょうね?」
困った顔をした騎士達。
「でも、ブロア様……私達は貴女が王城でどれだけ頑張ってこられたか見てきております。そんな貴女がこんなお姿になられているのに、無理やり国に連れ帰るなど出来ません」
「貴女は近衛騎士である私達にも心を割いてくれたお方です。無理な仕事の配分で体を壊した騎士達に手当てをもらえるようにしてくださいました。休暇もきちんと取れるようにと陛下と交渉してくださったのも貴女です。
それ以外にも王城で働く者達に細かく気を遣ってくださった。貴女に悪い噂がどんなにたっても、みんな表向きは信じているふりをしていましたが、本心は貴女を尊敬していたし感謝しておりました。
王太子殿下に逆らうことができなかった我々の弱さをお許しください……でもそれももう終わりです。あのお方は廃嫡されました……」
「………わたくし……のせいで……迷惑かけてごめんなさい」
謝ることしか出来なかった。
「我々は自分の意思で動いております。宰相閣下にはしばらくはバレることはないと思います。彼はまだこの国をまわらなければなりませんし、戻れば書類の山です。屋敷にゆっくり戻る暇などないのです」
「………そうね、確かに」
ーーでもあの人は確認だけはするでしょう?その時に困るのは貴方達よ……
わかってはいるのに、今は彼らの優しさに甘えよう。
少し気持ちが冷静になり、彼らに聞いた。
「今、どこに向かっているのかしら?」
「私達はこの国のことはよくわかりません。なのでこの国の騎士に紹介してもらい、ある人の別荘へ向かっております」
「ある人の?」
「はい。そのお方なら宰相閣下からも守ってもらえると思います。エイリヒ様もこちらに向かっております」
「エイリヒさんが?」
「エイリヒさんはあの時、口を挟むことができずにいて、とても後悔しておりました。親子関係のお二人でもあるし、アリーゼ国の重鎮でもある宰相閣下に対して口を出すことはできませんでした。でも、あの後すぐに動いてバルン国の騎士達に話をしてくれました。
彼はバルン国ではかなり有名な商会の当主で騎士達もみんな存じているそうです。バルン国の騎士達もみんな貴女の味方です」
「………わたくし……一人じゃないのね……ありがとう」
みんなと離されてもう一人虚しく死んでいくのだと思っていた。
しばらくして………
「着きました」
「申し訳ありませんがベッドまでお連れしますね」
そう言ってわたくしを抱きかかえて馬車を降りた。
ここもやはり海が見える素敵な屋敷だった。
別荘とはとても思えない大きなお屋敷に連れてこられた。
ベッドに横になっていると先生が走って部屋に入ってきた。
「ブロア様!よかった………とにかくこの薬を!」
「先生……どこに行ってもこの不味い薬はついて回るのね」
薬を飲んだ後診察をされた。
お父様に叩かれた頬は腫れていたけど、切れた口の中の方が酷かったようで、先生がぷりぷりと怒っていた。
「公爵はもう人ではない。あの人はジェリーヌ様が亡くなってからだんだん精神がおかしくなられた」
お父様とは長い付き合いの先生。お父様が生まれた時からずっと主治医として過ごされてきた。
「わたくし、運が悪かったわ……逃げられたと思ったのに……ごめんなさいね、先生達を巻き込んでしまって」
「みんな貴女をお守りしたいと思っています。サイロのことはもう少しお待ちください。今ウエラが説明をしております。必ず牢から出られることでしょう」
「うん……サイロったら心配かけて……」
ーーよかった……
「ありがとう、みんなにお礼を言わないといけないわね」
「ならばみんなに少しでもあなたのその素敵な笑顔をお見せください」
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