【完結】さよならのかわりに

たろ

文字の大きさ
上 下
61 / 93

61話  ありがとう。

しおりを挟む
 波の音が聞こえる。

 ここは、まだ、バルン国だわ。

 馬車の中で眠っていたようで、どのくらいの時間が経っているのかわからない。

 うっすらと目を開けると騎士たちはわたくしを心配そうに見ていた。

「目覚めましたか……」
 ホッとした声が聞こえた。

 最初の頃は表情も硬く、『味方です』と言われても信じられなかったけど、彼らの今の顔は優しげで安心できた。

「波の音が聞こえるの」

「ええ、とても心地良い音ですね」

「ほんと……ねえ、宰相閣下に逆らっても大丈夫なの?」

「ははっ、駄目でしょうね?」

 困った顔をした騎士達。

「でも、ブロア様……私達は貴女が王城でどれだけ頑張ってこられたか見てきております。そんな貴女がこんなお姿になられているのに、無理やり国に連れ帰るなど出来ません」

「貴女は近衛騎士である私達にも心を割いてくれたお方です。無理な仕事の配分で体を壊した騎士達に手当てをもらえるようにしてくださいました。休暇もきちんと取れるようにと陛下と交渉してくださったのも貴女です。
 それ以外にも王城で働く者達に細かく気を遣ってくださった。貴女に悪い噂がどんなにたっても、みんな表向きは信じているふりをしていましたが、本心は貴女を尊敬していたし感謝しておりました。
 王太子殿下に逆らうことができなかった我々の弱さをお許しください……でもそれももう終わりです。あのお方は廃嫡されました……」

「………わたくし……のせいで……迷惑かけてごめんなさい」

 謝ることしか出来なかった。

「我々は自分の意思で動いております。宰相閣下にはしばらくはバレることはないと思います。彼はまだこの国をまわらなければなりませんし、戻れば書類の山です。屋敷にゆっくり戻る暇などないのです」

「………そうね、確かに」

 ーーでもあの人は確認だけはするでしょう?その時に困るのは貴方達よ……
 わかってはいるのに、今は彼らの優しさに甘えよう。

 少し気持ちが冷静になり、彼らに聞いた。

「今、どこに向かっているのかしら?」

「私達はこの国のことはよくわかりません。なのでこの国の騎士に紹介してもらい、ある人の別荘へ向かっております」

「ある人の?」

「はい。そのお方なら宰相閣下からも守ってもらえると思います。エイリヒ様もこちらに向かっております」

「エイリヒさんが?」

「エイリヒさんはあの時、口を挟むことができずにいて、とても後悔しておりました。親子関係のお二人でもあるし、アリーゼ国の重鎮でもある宰相閣下に対して口を出すことはできませんでした。でも、あの後すぐに動いてバルン国の騎士達に話をしてくれました。
 彼はバルン国ではかなり有名な商会の当主で騎士達もみんな存じているそうです。バルン国の騎士達もみんな貴女の味方です」

「………わたくし……一人じゃないのね……ありがとう」

 みんなと離されてもう一人虚しく死んでいくのだと思っていた。


 しばらくして………


「着きました」

「申し訳ありませんがベッドまでお連れしますね」
 そう言ってわたくしを抱きかかえて馬車を降りた。

 ここもやはり海が見える素敵な屋敷だった。

 別荘とはとても思えない大きなお屋敷に連れてこられた。

 ベッドに横になっていると先生が走って部屋に入ってきた。

「ブロア様!よかった………とにかくこの薬を!」

「先生……どこに行ってもこの不味い薬はついて回るのね」

 薬を飲んだ後診察をされた。

 お父様に叩かれた頬は腫れていたけど、切れた口の中の方が酷かったようで、先生がぷりぷりと怒っていた。

「公爵はもう人ではない。あの人はジェリーヌ様が亡くなってからだんだん精神がおかしくなられた」

 お父様とは長い付き合いの先生。お父様が生まれた時からずっと主治医として過ごされてきた。

「わたくし、運が悪かったわ……逃げられたと思ったのに……ごめんなさいね、先生達を巻き込んでしまって」

「みんな貴女をお守りしたいと思っています。サイロのことはもう少しお待ちください。今ウエラが説明をしております。必ず牢から出られることでしょう」

「うん……サイロったら心配かけて……」

ーーよかった……

「ありがとう、みんなにお礼を言わないといけないわね」

「ならばみんなに少しでもあなたのその素敵な笑顔をお見せください」







しおりを挟む
感想 593

あなたにおすすめの小説

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

処理中です...