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53話 ああ、やっと……
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「ブロア様!」
目覚めたことに気がついたのは先生だった。
「心配かけてごめんなさい。先生……ここまで連れて来てくださってありがとうございました」
「貴女が頑張ったんです。よく耐えましたね」
涙ぐむ先生。
「でも……体が怠くて動けないの……せっかくだから見てみたいのに……」
「まずは少し食事を摂りましょう。車椅子もお願いしてあります。ただ、浜辺は車椅子に乗って移動することはできません。誰かに頼んで抱っこしてもらうしかないでしょう」
「また人に迷惑をかけてしまうのね」
しょんぼりとしているわたくし。
「ブロア様、迷惑だと思うなら人を雇われたら如何ですか?」
「雇う?」
「はい、賃金を払えば迷惑などではありませんよ」
「そうね……」
そんな当たり前のことに気がつかないなんて……
「ふふ、誰かお願いできるかしら?」
「ブロアさん!見つけておきますね」
「ミリナ?」
「もう!すっごく心配したんですよ!」
ベッドに近づくとわたくしの手を握りしめた。
「ごめんなさいね、心配かけて。もう元気よ?」
「どう見てもとても体調が悪そうです!とにかくすぐに我が家のシェフが作ったスープを持ってきますから!食べて少しでも元気になってください!」
「……わかったわ」
ーー食欲がないなんて言ったら怒られそうね。
ミリナがずっと話しかけてきてくれた。
わたくし、3日も眠り続けていたらしい。
「死んでしまうかと思ったわ」
ミリナはかなり心配してわたくしから離れようとしなかったらしい。
ミリナの頭を優しく撫でた。
まだ知り合って少しなのに、とても懐いてくれてまるで妹のようで、くるくる変わる表情がとても可愛らしい。
「ミリナ、わたくしと海に行ってもらえるかしら?」
「もちろんです!窓から見える海も素敵だけど、浜辺に行くと海が光っていてとても綺麗なんです」
「楽しみだわ」
その日は結局スープを少し飲むことしかできなかった。
先生特製のあの不味い薬はしっかりここでも飲まされた。
「先生、今まで眠っていたからと言ってこんなにたくさん飲まなくてもいいのでは?量が多すぎるわ」
「また文句が始まった。この薬を飲むと必ず何か言い出すんですから」
「だって、本当に不味いんだもの」
二人で言い合いをしていたらミリナが横で笑った。
「ブロアさんて、冷静で大人の女性って感じなのに、先生の前では子供みたい」
「わたくしが子供?」
キョトンとしていると先生も笑い出した。
「ブロア様は昔っから薬が苦手で普段は表情を変えないのに薬を飲む時だけは変わるんですよね」
「そうかしら?」
三人でくすくす笑った。
あとどのくらいの時間こんな穏やかな時間を過ごせるのかしら?
ミリナの前で死んでいくのは、彼女にとっては辛すぎる……
わたくしは海を見たらどこかに移動しようと考えていた。
次の日の朝、少しだけスープをいただき、搾りたてのリンゴジュースを飲んだ。
体を動かそうとしたけどまだ思うようには動けない。足に力が入らない。胸の痣はまた広がっていた。
昼間の気温が高い時間に、わたくしを抱えて海に連れて行ってくれたのはエイリヒさんだった。
浜辺の近くまでは車椅子。砂浜の上を歩く時だけエイリヒさんが抱っこしてくれた。
風が気持ちがいい。海の匂いがする。
青い空、青い海、どこまでも広がる海。
どんなに願ったことか。この願いさえ叶えば死んでもいいと思った。
エイリヒさんはシートを敷いた砂浜にわたくしをおろしてくれた。
初めて触る砂はサラサラしていた。
ふと見ると小さな貝殻。
「綺麗ね」
「ブロアさん、待ってて!いっぱい貝を拾ってくる!」
ミリナは貝殻集めに夢中。
わたしはもう一つ我儘を言った。
「海の水を触ってみたいの……海水は塩の味がするのでしょう?」
エイリヒさんがにこりと笑いもう一度わたしを抱っこして……なんと海の中をバシャバシャと歩き出した。
「エイリヒさん!濡れてしまいますわ!」
「ははっ!海は泳ぐところです!ここは浅瀬なのでブロア様を抱っこして海に入っても溺れません!」
そう言うとわたくしも海の中に半分くらい体が浸かってしまった。
「つ、冷たいわ………でも……気持ちがいい……わたくしが海に入れるなんて………嬉しい」
少しだけ濡れた指を口に近づけた。
「塩辛いわ」
目を見開いて驚いた。
「本当だったわ。海ってお水ではないのね。こんな辛いと飲むことはできないわ」
「ブロア様は表情があまり変わらないと言われていましたが、本当はコロコロと変わって表情豊かですね」
エイリヒさんが愉快そうに笑う。
「わたくしが表情豊か?初めて言われたわ」
海は……わたくしを受け入れてくれた。
目覚めたことに気がついたのは先生だった。
「心配かけてごめんなさい。先生……ここまで連れて来てくださってありがとうございました」
「貴女が頑張ったんです。よく耐えましたね」
涙ぐむ先生。
「でも……体が怠くて動けないの……せっかくだから見てみたいのに……」
「まずは少し食事を摂りましょう。車椅子もお願いしてあります。ただ、浜辺は車椅子に乗って移動することはできません。誰かに頼んで抱っこしてもらうしかないでしょう」
「また人に迷惑をかけてしまうのね」
しょんぼりとしているわたくし。
「ブロア様、迷惑だと思うなら人を雇われたら如何ですか?」
「雇う?」
「はい、賃金を払えば迷惑などではありませんよ」
「そうね……」
そんな当たり前のことに気がつかないなんて……
「ふふ、誰かお願いできるかしら?」
「ブロアさん!見つけておきますね」
「ミリナ?」
「もう!すっごく心配したんですよ!」
ベッドに近づくとわたくしの手を握りしめた。
「ごめんなさいね、心配かけて。もう元気よ?」
「どう見てもとても体調が悪そうです!とにかくすぐに我が家のシェフが作ったスープを持ってきますから!食べて少しでも元気になってください!」
「……わかったわ」
ーー食欲がないなんて言ったら怒られそうね。
ミリナがずっと話しかけてきてくれた。
わたくし、3日も眠り続けていたらしい。
「死んでしまうかと思ったわ」
ミリナはかなり心配してわたくしから離れようとしなかったらしい。
ミリナの頭を優しく撫でた。
まだ知り合って少しなのに、とても懐いてくれてまるで妹のようで、くるくる変わる表情がとても可愛らしい。
「ミリナ、わたくしと海に行ってもらえるかしら?」
「もちろんです!窓から見える海も素敵だけど、浜辺に行くと海が光っていてとても綺麗なんです」
「楽しみだわ」
その日は結局スープを少し飲むことしかできなかった。
先生特製のあの不味い薬はしっかりここでも飲まされた。
「先生、今まで眠っていたからと言ってこんなにたくさん飲まなくてもいいのでは?量が多すぎるわ」
「また文句が始まった。この薬を飲むと必ず何か言い出すんですから」
「だって、本当に不味いんだもの」
二人で言い合いをしていたらミリナが横で笑った。
「ブロアさんて、冷静で大人の女性って感じなのに、先生の前では子供みたい」
「わたくしが子供?」
キョトンとしていると先生も笑い出した。
「ブロア様は昔っから薬が苦手で普段は表情を変えないのに薬を飲む時だけは変わるんですよね」
「そうかしら?」
三人でくすくす笑った。
あとどのくらいの時間こんな穏やかな時間を過ごせるのかしら?
ミリナの前で死んでいくのは、彼女にとっては辛すぎる……
わたくしは海を見たらどこかに移動しようと考えていた。
次の日の朝、少しだけスープをいただき、搾りたてのリンゴジュースを飲んだ。
体を動かそうとしたけどまだ思うようには動けない。足に力が入らない。胸の痣はまた広がっていた。
昼間の気温が高い時間に、わたくしを抱えて海に連れて行ってくれたのはエイリヒさんだった。
浜辺の近くまでは車椅子。砂浜の上を歩く時だけエイリヒさんが抱っこしてくれた。
風が気持ちがいい。海の匂いがする。
青い空、青い海、どこまでも広がる海。
どんなに願ったことか。この願いさえ叶えば死んでもいいと思った。
エイリヒさんはシートを敷いた砂浜にわたくしをおろしてくれた。
初めて触る砂はサラサラしていた。
ふと見ると小さな貝殻。
「綺麗ね」
「ブロアさん、待ってて!いっぱい貝を拾ってくる!」
ミリナは貝殻集めに夢中。
わたしはもう一つ我儘を言った。
「海の水を触ってみたいの……海水は塩の味がするのでしょう?」
エイリヒさんがにこりと笑いもう一度わたしを抱っこして……なんと海の中をバシャバシャと歩き出した。
「エイリヒさん!濡れてしまいますわ!」
「ははっ!海は泳ぐところです!ここは浅瀬なのでブロア様を抱っこして海に入っても溺れません!」
そう言うとわたくしも海の中に半分くらい体が浸かってしまった。
「つ、冷たいわ………でも……気持ちがいい……わたくしが海に入れるなんて………嬉しい」
少しだけ濡れた指を口に近づけた。
「塩辛いわ」
目を見開いて驚いた。
「本当だったわ。海ってお水ではないのね。こんな辛いと飲むことはできないわ」
「ブロア様は表情があまり変わらないと言われていましたが、本当はコロコロと変わって表情豊かですね」
エイリヒさんが愉快そうに笑う。
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海は……わたくしを受け入れてくれた。
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