【完結】さよならのかわりに

たろ

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52話  ここは……

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 ここは夢の中………



 お母様がわたくしを抱きしめてくれているの……

 えっ?お父様が笑ってるわ。

「ブロア!走るな!危ない!」

 わたくし……お父様を見て走り出してる?

 あれは……幼い頃の記憶。

 あっ……

「ブロア!僕と一緒に散歩しよう」

 兄様が優しい笑顔で手を差し出してきた。

「うん!」

 もう忘れてしまっていた。

 お母様がなくなる前までみんな笑ってた……

 だけど、たまにお母様が悲しそうな顔をしていたのを思い出す。

「お母様、どうしたの?」

「ブロア……あなたを愛しているわ……」

「わたしもお母様が大好きよ」

「ごめんなさい……弱い母で……」

 あの言葉は……

 わたくしに病気のことを伝えられなかったから?
 それとも……お父様の浮気?
 サマンサがお父様と仲良く話をいる姿を思い出す。その姿を悲しそうに見つめるお母様……

 幼い頃、お母様が一人部屋で泣いているのに気がついていた。
 でも幼いわたくしには何もできないし何も言えない。
 庭にあるお母様の大好きなピンクの薔薇をプレゼントする。

「ありがとう、ブロア」
 嬉しそうに微笑むお母様は……いつか消えてしまいそうで……



 あっ……お母様が……

 わたくしが蹲って泣いていると、優しく抱きしめてくれた。

 迎えにきてくれたのかしら?

 わたくし……疲れた……そろそろお母様のそばで……ゆっくりと眠ってもいいかしら?

 お母様…………お母様の愛したお父様は、もういないの。

 お父様は笑うことも優しい言葉も、もう、どこにもないの………

 兄様もわたくしに手を差し出すことはもうない……

 わたくし……頑張ったつもりなのに……頑張れていなかったのかな……

 ねぇ?お母様………

 わたくしをおいて行かないで……

 もう誰もわたくしを必要としていないの……ゆっくりと休みたい………ゆっくりと眠りたいの……








 お母様………どうして?行かないで!

「ブロア…………」

 そんな辛そうな顔をしないで……お願い……わたしをおいて行かないで……





 目が覚めたら、知らない部屋にいた。

 体がだるい………頭がフラフラして………

 ここは………….?

 馬車の中にいたはず……

 違う……馬車を降りて……ミリナの屋敷に……


「あっ………海…………」

 記憶が混乱したまま……だけど、わたくしは海を見にきた。

 ーーお母様はまだそばに来るのは早いと言ったのかしら?

 もう少しだけ……わたくしに生きている時間をくれたのかしら?

 そうよね……先生やヨゼフに迷惑をかけてここまで来た……

 ミリナやエイリヒさんまで巻き込んでしまった。

 だから……あと少し……

 そう思うのに体が怠くて動かすことも出来ない。

 寝ているベッドの位置から窓の外が少しだけ見える。

 あれは……海?

 青い空に青い水?

 微かに聞こえる音は……波?の音かしら?

 ミリナが話してくれた海。

 涙が溢れた………まだ、生きている。

 今息をしている。

 死んでもいい。そう思っていた……

 生きたいとは思えない、そんな人生。

 もういつ死んでもいいと思っていたのに……

 死ぬのが怖いんじゃない……けど……あと少しだけ……歩いて海を見てみたい……

 サイロやウエラにも見せてあげたかったな……

 わたくしのこと、恨んでるかしら?

 置いて行ったこと……

 死ぬ前に二人に会いたかった……

 セフィルはもう婚約解消して……愛するリリアンナ様と幸せになれているかしら?

 少しまだ胸が痛むけど……

 わたくしが愛した人たちが幸せに暮らせたら……

 後悔はないわ。





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