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47話 サイロ編
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もうここには居られない。
もういいだろう。
カイラン様には伝えた。
家令が今までしてきたことは全て知られる事となり捕まった。
ブロア様を刺した家令。今は牢屋に入れられて取り調べが行われている。今までの罪を全て洗い出すにはまだまだ時間がかかるが俺はもうこの屋敷に留まるつもりはない。
ブロア様は俺とウエラがこの屋敷に残れば今までと違い優遇され、過ごしやすくなるだろうと考えている。
そんなことされて嬉しいはずがない。なんであの人はいつも人の気持ちを間違って捉えてしまうのか。
頭がいいくせに、人の気持ちがイマイチわからない、ほんと、天然なのか、わざとなのか。
残されたもの達がどれだけブロア様を心配していると思っているんだ。特に俺とウエラはブロア様の今の状態をわかっている。1日も早くブロア様のそばで見守りたいと思っているのに……最後の日まで……
もし間に合わなかったら……そう思うとこんな屋敷で無駄な時間を費やしたくなんてないのに。
セフィル様がリリアンナ様のことを愛していると思っているのは、セフィル様に原因があるのは確かだ。
だけどブロア様自身も家族から愛されたことがないので愛されることがどんなものかわからないのも原因だと思う。
他の使用人に聞いた話では亡くなった奥様には大切にされていたらしい。だが、亡くなってからのブロア様の生活は父親からの無関心で冷遇され、屋敷での生活はとても酷いものだった。
侍女に虐待され、家令にはお金を使い込まれお嬢様としての尊厳すら踏み躙っていた。反抗しないブロア様を馬鹿にしていたのだ。
一度ブロア様に聞いたことがある。
『なんで我慢するんですか?』
『うーん、別に……困っていないから…』
ブロア様は今の生活に困らないから平気だと言った。
自分の余命も泣きもせず淡々と受け入れる。セフィル様には幸せになってほしいと願う人。
俺やウエラには、自分が死んだ後、この屋敷で優遇されて働けるようにと考えてくれる人。
でも、そんな優しさ誰も求めていない。
それに気がつかないブロア様。
彼女は冷たいだとか、悪女だとか、我儘だとか酷いことを言われているけど、本当は、人の何倍も人のことを考えてしまう優しすぎる人。
俺はこの屋敷での自分の仕事を終わらせて、ブロア様が向かったであろう奥様の眠る祖国へと向かうつもりだ。
「ウエラ、俺はお嬢の意思を尊重して家令の後始末を終わらせた。あとはカイラン様や旦那様がどうするかだ。俺はもうこの屋敷に戻るつもりはない」
ーー本当はこんな公爵家、潰れてしまえばいいと思っている。だけどブロア様は領民達を守りたいと思っている。悔しいが彼女の気持ちを尊重したい。
「わたしもサイロさんについて行きます。本当は一人でも追いかけたかった。だけど一番追いかけたいと思っているサイロさんがここで頑張ってるから我慢して待ってたんです」
ウエラの頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。
「用意が終わったらすぐに出よう」
俺たちは次の日の早朝に屋敷を出ることにした。まだこの屋敷の中は騒然としている。カイラン様は家令が残していった後始末を必死でしている。
この屋敷のお金の動きを全て把握しなければいけない。どれだけの財産が失くなってしまったのか把握するだけでも大変だろう。それに家令に従い共に好きかってやってきた使用人の洗い出しもしなければいけない。
俺はそこまで付き合うつもりはない。
そんな中、外が暗くなり始めた頃手紙を持った10代後半の男が屋敷を訪れたらしい。
「サイロさんに急ぎの手紙が届いていますよ」
門番がメイドに手紙を俺に渡すように頼んだらしい。メイドが俺のところに持ってきてくれた。
差出人の名前は書いていなかった。怪しげな手紙を見知らぬ男が届けた。
怪しみながらも手紙の封を開けて読んでみることにした。
「……ヨゼフさん……」
ヨゼフさんからの手紙だった。
刺されたブロア様をこの屋敷から連れ出し先生のところへ連れていってくれた。そしてブロア様のために今も付き添ってくれているであろう人。
そこには「バルン国に向かう」と書かれていた。
全く行き先が違う。
『死ぬ前に海が見たい』
ブロア様の達ての願いらしい。
そう言えばよく言っていたな。
『サイロ、海を見てみたいと思わない?』
『わたくし、旅行に行ったことがないの。もしも旅行ができるなら海の見えるところへ行ってみたいわ』
そうか、ブロア様は一目海を見てみたかったんだ。
行き先は決まった。
ブロア様は今かなり体調が悪いらしい。俺は気が気ではなかった。早くブロア様の元へ。
もういいだろう。
カイラン様には伝えた。
家令が今までしてきたことは全て知られる事となり捕まった。
ブロア様を刺した家令。今は牢屋に入れられて取り調べが行われている。今までの罪を全て洗い出すにはまだまだ時間がかかるが俺はもうこの屋敷に留まるつもりはない。
ブロア様は俺とウエラがこの屋敷に残れば今までと違い優遇され、過ごしやすくなるだろうと考えている。
そんなことされて嬉しいはずがない。なんであの人はいつも人の気持ちを間違って捉えてしまうのか。
頭がいいくせに、人の気持ちがイマイチわからない、ほんと、天然なのか、わざとなのか。
残されたもの達がどれだけブロア様を心配していると思っているんだ。特に俺とウエラはブロア様の今の状態をわかっている。1日も早くブロア様のそばで見守りたいと思っているのに……最後の日まで……
もし間に合わなかったら……そう思うとこんな屋敷で無駄な時間を費やしたくなんてないのに。
セフィル様がリリアンナ様のことを愛していると思っているのは、セフィル様に原因があるのは確かだ。
だけどブロア様自身も家族から愛されたことがないので愛されることがどんなものかわからないのも原因だと思う。
他の使用人に聞いた話では亡くなった奥様には大切にされていたらしい。だが、亡くなってからのブロア様の生活は父親からの無関心で冷遇され、屋敷での生活はとても酷いものだった。
侍女に虐待され、家令にはお金を使い込まれお嬢様としての尊厳すら踏み躙っていた。反抗しないブロア様を馬鹿にしていたのだ。
一度ブロア様に聞いたことがある。
『なんで我慢するんですか?』
『うーん、別に……困っていないから…』
ブロア様は今の生活に困らないから平気だと言った。
自分の余命も泣きもせず淡々と受け入れる。セフィル様には幸せになってほしいと願う人。
俺やウエラには、自分が死んだ後、この屋敷で優遇されて働けるようにと考えてくれる人。
でも、そんな優しさ誰も求めていない。
それに気がつかないブロア様。
彼女は冷たいだとか、悪女だとか、我儘だとか酷いことを言われているけど、本当は、人の何倍も人のことを考えてしまう優しすぎる人。
俺はこの屋敷での自分の仕事を終わらせて、ブロア様が向かったであろう奥様の眠る祖国へと向かうつもりだ。
「ウエラ、俺はお嬢の意思を尊重して家令の後始末を終わらせた。あとはカイラン様や旦那様がどうするかだ。俺はもうこの屋敷に戻るつもりはない」
ーー本当はこんな公爵家、潰れてしまえばいいと思っている。だけどブロア様は領民達を守りたいと思っている。悔しいが彼女の気持ちを尊重したい。
「わたしもサイロさんについて行きます。本当は一人でも追いかけたかった。だけど一番追いかけたいと思っているサイロさんがここで頑張ってるから我慢して待ってたんです」
ウエラの頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。
「用意が終わったらすぐに出よう」
俺たちは次の日の早朝に屋敷を出ることにした。まだこの屋敷の中は騒然としている。カイラン様は家令が残していった後始末を必死でしている。
この屋敷のお金の動きを全て把握しなければいけない。どれだけの財産が失くなってしまったのか把握するだけでも大変だろう。それに家令に従い共に好きかってやってきた使用人の洗い出しもしなければいけない。
俺はそこまで付き合うつもりはない。
そんな中、外が暗くなり始めた頃手紙を持った10代後半の男が屋敷を訪れたらしい。
「サイロさんに急ぎの手紙が届いていますよ」
門番がメイドに手紙を俺に渡すように頼んだらしい。メイドが俺のところに持ってきてくれた。
差出人の名前は書いていなかった。怪しげな手紙を見知らぬ男が届けた。
怪しみながらも手紙の封を開けて読んでみることにした。
「……ヨゼフさん……」
ヨゼフさんからの手紙だった。
刺されたブロア様をこの屋敷から連れ出し先生のところへ連れていってくれた。そしてブロア様のために今も付き添ってくれているであろう人。
そこには「バルン国に向かう」と書かれていた。
全く行き先が違う。
『死ぬ前に海が見たい』
ブロア様の達ての願いらしい。
そう言えばよく言っていたな。
『サイロ、海を見てみたいと思わない?』
『わたくし、旅行に行ったことがないの。もしも旅行ができるなら海の見えるところへ行ってみたいわ』
そうか、ブロア様は一目海を見てみたかったんだ。
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ブロア様は今かなり体調が悪いらしい。俺は気が気ではなかった。早くブロア様の元へ。
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