【完結】さよならのかわりに

たろ

文字の大きさ
上 下
45 / 93

45話  海。

しおりを挟む
 その日は一日中宿のベッドで過ごすことになった。ミリナは幼いながらにわたくしから離れようとせず何かと世話を焼いてくれる。

「ブロアさん、お水を飲んでください!」
「このお薬が苦いからと言って残してはダメですよ?」
「パン粥を作ってもらったの。少しでも食べて」

「ありがとう……」

 薬のおかげで体が少し軽くなってきた。これならあと少し旅もなんとか耐えられそうな気がする。

 先生も何度となく顔を出してはわたくしの様子を見て「頑張りましょう、ブロア様…あと少しですから」と言って薬を手渡してくれた。

 今までとは違うもっと不味い薬。

「先生、この薬はどこから仕入れてくるのかしら?」

「仕入れてなんていませんよ。毎回わたしが調合してるんです……」

「はあー、先生、まずは味覚からやり直した方がよろしいと思うわ」

「何を言っておる。毎回毎回、体調を崩すからそれに合わせて薬を煎じているのに……感謝して欲しいくらいですよ、それにわたしは飲みやすい薬を作るのも得意なんです」
(貴方の薬は特別な薬草ばかりで飲みやすくしてあげたくても無理なんですよ)
 心の中で先生がそんなことを言ってるとは思っていなかった。

 先生がニコッと笑った。

「仕方がないでしょう?先生のお仕事を減らすわけには行かないもの」

「それだけ話せるなら大丈夫かな……明日出発しますよ」

「先生……ありがとう……ヨゼフは?」

「ヨゼフならブロア様を見送ってから回り道して向かうと言っていました。今は馬車の手入れをしております」

「そう……わかったわ」

 ミリナがこそっと話してくれた。
 今回山越する道は、他国の者は簡単には通れない道らしい。

 通行許可証は身分がはっきりとした者、それも前もって申請して許可を得なければ通れないらしい。
 ミリナの父であるエイリヒさんは商会の当主として力を持っていて予備を2枚だけ発行されているらしい。その2枚を使うのにも条件があって身分がきちんと証明された者しか通れないと聞いた。

 わたくしはまだ一応公爵令嬢で、先生も爵位がある。
 ヨゼフや御者は平民ですぐに身元証明はできない。だから二人は正規の道から来るしかないのだと教えてもらった。

 今回通る山道はそれくらい大変な工事だったのだろう。だからこそ、その山道を大切に長く使えるようにと配慮されているのだ。

 明日に備えて少しでも横になっていようと過ごしたため、夜が眠れなくなってしまった。

 ベッドを出て、床に立って歩けるのか確認した。

 足に力が入る。

 自分の足で立てることができた。

 まだこれならあと少し生きていることができる。死ぬまでに海が見れる。

 そう思うともう少し頑張ろうと思える。

 綺麗な月が見えた。

 雲一つない夜空。星がとても綺麗でじっと空を見上げた。

 ーーお母様、憧れの海へあと少し……ネックレスは持っていけないけどお母様から頂いた日記だけは持って行くわ。
 だから待っててね、

 この体ではお母様の祖国にはいけそうもないわ………本当はお墓参りもしたかったのだけど……

 次の日の朝、わたくしが乗る馬車は以前とは比べ物にならない。

 豪華で作りもしっかりしていた。
 中も座席は柔らかくてふわっとしていた。とても乗り心地がよかった。

「ブロア様がゆっくりと寛げるようにバタバタ間に合わせて用意しました。気に入っていただけて光栄です」

「わたくしの我儘を聞き入れて連れて行ってくださること、感謝しております」

「三日間、多少揺れると思いますができるだけ丁寧に運転するつもりですが……なにか気になることがありましたらお声掛けてください」




 わたくしは海が見える街へと辿り着いた。
しおりを挟む
感想 592

あなたにおすすめの小説

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

私に代わり彼に寄り添うのは、幼馴染の女でした…一緒に居られないなら婚約破棄しましょう。

coco
恋愛
彼の婚約者は私なのに…傍に寄り添うのは、幼馴染の女!? 一緒に居られないなら、もう婚約破棄しましょう─。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!

青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。 図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです? 全5話。ゆるふわ。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

処理中です...