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36話 もうお会いすることはございませんわ。
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「殿下、わたくしは今動けないのでこれ以上お話しは出来かねますわ」
そろそろ限界……普通に話してはいても意識が飛びそうな程キツい。
平然としているのももう無理みたい。
そう思っていた時、殿下の回収にやってきた2人の影。
「出てくるのが遅かったのでは?」
以前わたくしについていた二人が、わたくしの顔を見て軽く頭を下げた。そして二人が殿下の脇にそれぞれ手を回しがっしりと捕まえて引きずるように連れて行こうとした。
「お前達!不敬だぞ!手を離せ!触るな!退け!何をする、おいやめろ!」
「殿下、うるさいですわ。あなたは静かに連行されればよろしいのです」
「ふざけるな!ブロア、お前が素直についてくればいいんだ!」
影にがっつり捕まえられているのにまだ元気がおありみたい。なかなかのしぶとさね。
「わたくしは婚約破棄された身分ですわ。もう王家と関わり合うことは許されておりませんの。婚約破棄した時に書いた書類を殿下は読まれていないのですか?」
「書類?なんだそれは?」
「ブロア・シャトワとは婚約を破棄したことにより王家と関わることを禁ずる、という文言を見落とされていたのでしょうか?
これは陛下が取り決めたことですわ。悪女として名高いわたくしの所為で王家が醜聞にならないようにと接近禁止を命じたのですわ。
わたくしを断つために王家に関わらないようにと陛下が態々文面に取り入れられたのだと思いますわ」
「だからブロアはあまり僕の前に現れなかったのか?」
「わたくしはあなたと婚約破棄致しましたのでもう王城へ行く予定はありませんし……それに別に必要もないのに何故あなたにお会いしないといけないのでしょう?ふふっ、あり得ませんわ。
これ以上無意味な会話をしても仕方がないので……お二人とも殿下をさっさと連れて行ってくださいな」
殿下は大騒ぎしながらもなんとか出て行った。
「ふっー……とても疲れたわ」
目を閉じてしばらくじっとしていたらヨゼフが恐る恐る部屋に入ってきた。
「お嬢様、お助けできなくて申し訳ありませんでした。外で待っていろと言われて何も出来なくて……」
ヨゼフが項垂れたまま頭を上げない。
ヨゼフはただの庭師。それも平民。そんな彼に王太子殿下の言葉に逆らうことなど出来るわけがない。
「ヨゼフに何事もなくてよかったわ。巻き込んでしまってごめんなさいね」
「とんでもないです。お嬢様は何も悪くありません。連れていかれずに済んでよかったです」
「ありがとうヨゼフ……ごめんなさい。わたくし暫く横になりたいの。先生にもそう伝えておいてもらえるかしら?」
「わかりました。何か御用がある時はいつでもお声をかけてください」
ーー殿下に逆らってヨゼフが部屋に入ってこなくてよかった。
もし彼が入ってくれば殿下は不敬だと言って彼を切り捨てていたかもしれない。もしわたくしがヨゼフの命を乞えば、わたくしはやはりまたあの王宮で囚われたまま働き続けていたかもしれない。
この体では役には立たないのだけど、彼の自尊心は満足できたかもしれないわね。
殿下は多分ヨゼフが飛び込んで何かしら言うであろうと思い、扉の前に立たせて待たせていたのだろう。わたくしの弱みに漬け込みたくて。
殿下はそんな人だ。いつも人の弱いところを突いて人を責めたり小馬鹿にしたりする。
ふと考えてしまう。
「陛下は……殿下をどうするのかしら?」
この後の殿下の処遇の結果がわかる頃にはもうこの世にはいないかもしれないわね。
陛下はわたくしがもうこれ以上殿下と関わらなくてもいいようにと婚約破棄の時に幾つかの取り決めをしてくれた。どうみても殿下有利にしか見えない婚約破棄だったけど、本当はわたくしにとっては有利なものだった。
そして殿下にとってはこの数年は、ある意味テスト期間だったのだと思う。
そして……陛下はどう判断を下されるか……
ーー疲れたわ。とりあえず傷が癒えるまでわたくしは自由に動けない。
もう誰もわたくしに会いに訪れはしないだろうけど、警戒しておくことも必要かもしれない。
そう思いながら意識を手放した。
「ブロア様……」
ヨゼフが心配で何度もブロアの様子を見るため病室に顔を出していると先生が病室に戻ってきた。
「先生、ブロア様の容態は……もう無理して移動はやめた方がいいのでは?」
「ヨゼフもわかっているだろうがブロア様は気力だけで生きながらえているんだ。せめて最後は海を見せてやりたい。そのためにわたしはついて来たんだ。ヨゼフもわたしもブロア様が生まれた時からずっと成長を見守ってきたんだ。最後まで見届けてやろう」
「………なんで…ジェリーヌ様がお亡くなりになって次はブロア様まで……先生、治せないのですか?先生はずっと治療薬を探されていたでしょう?わたしがあの公爵家でいろんな薬草を栽培していたのもあなたの指示なんでしょう?」
「ブロア様の症状は思った以上に進行が早い。わたしが見つけた治療薬では治せない。進行を遅らせるのが精一杯なのに、酷い怪我を負った。そのため体力が弱り病気が進行し始めているんだ」
「神は何故あんなお優しいお方に辛い人生ばかりをお与えになるのか」
ヨゼフは大粒の涙を流した。
そろそろ限界……普通に話してはいても意識が飛びそうな程キツい。
平然としているのももう無理みたい。
そう思っていた時、殿下の回収にやってきた2人の影。
「出てくるのが遅かったのでは?」
以前わたくしについていた二人が、わたくしの顔を見て軽く頭を下げた。そして二人が殿下の脇にそれぞれ手を回しがっしりと捕まえて引きずるように連れて行こうとした。
「お前達!不敬だぞ!手を離せ!触るな!退け!何をする、おいやめろ!」
「殿下、うるさいですわ。あなたは静かに連行されればよろしいのです」
「ふざけるな!ブロア、お前が素直についてくればいいんだ!」
影にがっつり捕まえられているのにまだ元気がおありみたい。なかなかのしぶとさね。
「わたくしは婚約破棄された身分ですわ。もう王家と関わり合うことは許されておりませんの。婚約破棄した時に書いた書類を殿下は読まれていないのですか?」
「書類?なんだそれは?」
「ブロア・シャトワとは婚約を破棄したことにより王家と関わることを禁ずる、という文言を見落とされていたのでしょうか?
これは陛下が取り決めたことですわ。悪女として名高いわたくしの所為で王家が醜聞にならないようにと接近禁止を命じたのですわ。
わたくしを断つために王家に関わらないようにと陛下が態々文面に取り入れられたのだと思いますわ」
「だからブロアはあまり僕の前に現れなかったのか?」
「わたくしはあなたと婚約破棄致しましたのでもう王城へ行く予定はありませんし……それに別に必要もないのに何故あなたにお会いしないといけないのでしょう?ふふっ、あり得ませんわ。
これ以上無意味な会話をしても仕方がないので……お二人とも殿下をさっさと連れて行ってくださいな」
殿下は大騒ぎしながらもなんとか出て行った。
「ふっー……とても疲れたわ」
目を閉じてしばらくじっとしていたらヨゼフが恐る恐る部屋に入ってきた。
「お嬢様、お助けできなくて申し訳ありませんでした。外で待っていろと言われて何も出来なくて……」
ヨゼフが項垂れたまま頭を上げない。
ヨゼフはただの庭師。それも平民。そんな彼に王太子殿下の言葉に逆らうことなど出来るわけがない。
「ヨゼフに何事もなくてよかったわ。巻き込んでしまってごめんなさいね」
「とんでもないです。お嬢様は何も悪くありません。連れていかれずに済んでよかったです」
「ありがとうヨゼフ……ごめんなさい。わたくし暫く横になりたいの。先生にもそう伝えておいてもらえるかしら?」
「わかりました。何か御用がある時はいつでもお声をかけてください」
ーー殿下に逆らってヨゼフが部屋に入ってこなくてよかった。
もし彼が入ってくれば殿下は不敬だと言って彼を切り捨てていたかもしれない。もしわたくしがヨゼフの命を乞えば、わたくしはやはりまたあの王宮で囚われたまま働き続けていたかもしれない。
この体では役には立たないのだけど、彼の自尊心は満足できたかもしれないわね。
殿下は多分ヨゼフが飛び込んで何かしら言うであろうと思い、扉の前に立たせて待たせていたのだろう。わたくしの弱みに漬け込みたくて。
殿下はそんな人だ。いつも人の弱いところを突いて人を責めたり小馬鹿にしたりする。
ふと考えてしまう。
「陛下は……殿下をどうするのかしら?」
この後の殿下の処遇の結果がわかる頃にはもうこの世にはいないかもしれないわね。
陛下はわたくしがもうこれ以上殿下と関わらなくてもいいようにと婚約破棄の時に幾つかの取り決めをしてくれた。どうみても殿下有利にしか見えない婚約破棄だったけど、本当はわたくしにとっては有利なものだった。
そして殿下にとってはこの数年は、ある意味テスト期間だったのだと思う。
そして……陛下はどう判断を下されるか……
ーー疲れたわ。とりあえず傷が癒えるまでわたくしは自由に動けない。
もう誰もわたくしに会いに訪れはしないだろうけど、警戒しておくことも必要かもしれない。
そう思いながら意識を手放した。
「ブロア様……」
ヨゼフが心配で何度もブロアの様子を見るため病室に顔を出していると先生が病室に戻ってきた。
「先生、ブロア様の容態は……もう無理して移動はやめた方がいいのでは?」
「ヨゼフもわかっているだろうがブロア様は気力だけで生きながらえているんだ。せめて最後は海を見せてやりたい。そのためにわたしはついて来たんだ。ヨゼフもわたしもブロア様が生まれた時からずっと成長を見守ってきたんだ。最後まで見届けてやろう」
「………なんで…ジェリーヌ様がお亡くなりになって次はブロア様まで……先生、治せないのですか?先生はずっと治療薬を探されていたでしょう?わたしがあの公爵家でいろんな薬草を栽培していたのもあなたの指示なんでしょう?」
「ブロア様の症状は思った以上に進行が早い。わたしが見つけた治療薬では治せない。進行を遅らせるのが精一杯なのに、酷い怪我を負った。そのため体力が弱り病気が進行し始めているんだ」
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ヨゼフは大粒の涙を流した。
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