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30話 ブロアが去った屋敷では。③
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「セフィル様はブロア様から婚約解消を告げられました」
「はっ?何を勝手なことをして!」
カイランはそれまで憂鬱な顔をしていたのに少しだけ高揚した顔になる。
自分が今まで信じてきた妹の姿がそこにあったと聞いて内心間違っていなかったことにホッとした。
「やはりブロアは自分勝手な奴じゃないか!」
サイロは感情を表すことなく告げた。
「ブロア様はセフィル様には愛する女性がいることを知り身を引きたいと仰っておりました」
「はっ?今どき政略結婚など当たり前だろう?
王太子殿下は誠実なお方だから隠さずに正妃としてロザンナ様を迎えたいと態々仰ってくださった。本来なら愛もないブロアを仕方なく正妃として迎えるのに。殿下は誠実な行動をしてくれた方だ。
それなのに気を遣って愛もないブロアを側妃として受け入れようとしたのに勝手に断って、やっと悪名高きブロアに婚約者が出来たのに自ら身を引くなど我儘でしかない」
「殿下の行動は誠実でブロア様の行動は我儘なのですか?」
「違うか?側妃として召し上げてくれると言ったんだ。それも浮気ではなく正妃として愛する方を選ばれて、それでもなおブロアも娶ると。それを断っておきながらセフィルとは政略なのに相手に愛する者がいることを嫌がるなんて、浮気は認めないと言っているのと同じだろう?男なら浮気なんて当たり前の事だ」
「カイラン様が仰っていることは男なら浮気はしてもいい。殿下は浮気ではなくブロア様を捨ててロザンナ様を選ばれたことは誠実で好ましいこと。それなのに側妃として我慢して娶ろうとしてくれたのに側妃を断ったブロア様の行動はおかしいと仰りたいのですね」
「ふっー」と肩を大きく揺らし一息ついたサイロはカイランをもう一度しっかりと見つめた。
「そして、セフィル様のためにと身を引こうとするブロア様は我儘だと?」
「違うか?違わないだろう?セフィルは婚約解消を断っただろう?政略結婚であり我が公爵家騎士団の団長としての地位を確約されているんだ。捨てるはずがない。愛する者は愛人としてそばに置けばいいのだからな」
「カイラン様も領地に愛人を囲われておいでなのでしょうね?奥様である夫人も愛のない結婚なので愛人でもおいでですか?お子様は誰の子なのでしょうね?」
サイロはことなげに言い捨てた。
「お前はたかが護衛騎士の分際でわたしを愚弄するのか?わたしは妻を深く愛しているし妻もわたしを愛してくれている」
カイランはサイロの主君に対する言葉とは思えない発言に怒り震えていた。
妻とは学生の時から愛し合い結ばれた。愛する娘と息子は二人に似たとても可愛らしい大切な子供達だ。何故こんな騎士風情に馬鹿にされなければならないのかと。
「ブロア様のお気持ちは、我儘だと平気で切り捨てるのにご自分は愛があると?
政略なのだから、殿下が側妃にと言ってくれたのだからと、道具のようにしか見ていない妹。ご自分だけは幸せな生活が当たり前?」
サイロが初めて表情を変えた。
怒りを耐えているかのように小刻みに体を震わせて唇を噛み締めた。
「わたしには愛する者がいる。だがブロアには愛するものなどいない。ならば政略で結婚するのも仕方ないことだろう」
「わたしはただの護衛騎士です。ただブロア様を見守ることしかできません。ですが見守っているからこそわかることもあります。ブロア様はセフィル様を深く愛しております。だからこそセフィル様に幸せになって欲しいと願われたのです。妹を馬鹿にして蔑むことで貴方は心が満たされているのですか?」
「な、なに…を……」
カイランはサイロの言葉に動揺した。
妹が不幸であることが当たり前で、妹に感情があることはカイランの中ではあり得ないことだった。いや、妹は、何があっても悲しんだりしない。
感情を出さないと思っていた。
母親が亡くなった時一番泣いていたのはブロアだったのに。寂しげにしていたのに。
勝手に我がまで傲慢だと思い込む一方、何も接触してこない妹は感情すらないと思い、居ないものとして扱うのが当たり前になっていたことに、たった今気がついた。
いや気が付かないフリをしていた。
自分が幸せならそれでよかった。
妹のことなどどうでもよかったから。
「貴方は自分の子供達がブロア様と同じ境遇になっても同じ気持ちでいられるのですか?」
カイランは愕然とした。
「はっ?何を勝手なことをして!」
カイランはそれまで憂鬱な顔をしていたのに少しだけ高揚した顔になる。
自分が今まで信じてきた妹の姿がそこにあったと聞いて内心間違っていなかったことにホッとした。
「やはりブロアは自分勝手な奴じゃないか!」
サイロは感情を表すことなく告げた。
「ブロア様はセフィル様には愛する女性がいることを知り身を引きたいと仰っておりました」
「はっ?今どき政略結婚など当たり前だろう?
王太子殿下は誠実なお方だから隠さずに正妃としてロザンナ様を迎えたいと態々仰ってくださった。本来なら愛もないブロアを仕方なく正妃として迎えるのに。殿下は誠実な行動をしてくれた方だ。
それなのに気を遣って愛もないブロアを側妃として受け入れようとしたのに勝手に断って、やっと悪名高きブロアに婚約者が出来たのに自ら身を引くなど我儘でしかない」
「殿下の行動は誠実でブロア様の行動は我儘なのですか?」
「違うか?側妃として召し上げてくれると言ったんだ。それも浮気ではなく正妃として愛する方を選ばれて、それでもなおブロアも娶ると。それを断っておきながらセフィルとは政略なのに相手に愛する者がいることを嫌がるなんて、浮気は認めないと言っているのと同じだろう?男なら浮気なんて当たり前の事だ」
「カイラン様が仰っていることは男なら浮気はしてもいい。殿下は浮気ではなくブロア様を捨ててロザンナ様を選ばれたことは誠実で好ましいこと。それなのに側妃として我慢して娶ろうとしてくれたのに側妃を断ったブロア様の行動はおかしいと仰りたいのですね」
「ふっー」と肩を大きく揺らし一息ついたサイロはカイランをもう一度しっかりと見つめた。
「そして、セフィル様のためにと身を引こうとするブロア様は我儘だと?」
「違うか?違わないだろう?セフィルは婚約解消を断っただろう?政略結婚であり我が公爵家騎士団の団長としての地位を確約されているんだ。捨てるはずがない。愛する者は愛人としてそばに置けばいいのだからな」
「カイラン様も領地に愛人を囲われておいでなのでしょうね?奥様である夫人も愛のない結婚なので愛人でもおいでですか?お子様は誰の子なのでしょうね?」
サイロはことなげに言い捨てた。
「お前はたかが護衛騎士の分際でわたしを愚弄するのか?わたしは妻を深く愛しているし妻もわたしを愛してくれている」
カイランはサイロの主君に対する言葉とは思えない発言に怒り震えていた。
妻とは学生の時から愛し合い結ばれた。愛する娘と息子は二人に似たとても可愛らしい大切な子供達だ。何故こんな騎士風情に馬鹿にされなければならないのかと。
「ブロア様のお気持ちは、我儘だと平気で切り捨てるのにご自分は愛があると?
政略なのだから、殿下が側妃にと言ってくれたのだからと、道具のようにしか見ていない妹。ご自分だけは幸せな生活が当たり前?」
サイロが初めて表情を変えた。
怒りを耐えているかのように小刻みに体を震わせて唇を噛み締めた。
「わたしには愛する者がいる。だがブロアには愛するものなどいない。ならば政略で結婚するのも仕方ないことだろう」
「わたしはただの護衛騎士です。ただブロア様を見守ることしかできません。ですが見守っているからこそわかることもあります。ブロア様はセフィル様を深く愛しております。だからこそセフィル様に幸せになって欲しいと願われたのです。妹を馬鹿にして蔑むことで貴方は心が満たされているのですか?」
「な、なに…を……」
カイランはサイロの言葉に動揺した。
妹が不幸であることが当たり前で、妹に感情があることはカイランの中ではあり得ないことだった。いや、妹は、何があっても悲しんだりしない。
感情を出さないと思っていた。
母親が亡くなった時一番泣いていたのはブロアだったのに。寂しげにしていたのに。
勝手に我がまで傲慢だと思い込む一方、何も接触してこない妹は感情すらないと思い、居ないものとして扱うのが当たり前になっていたことに、たった今気がついた。
いや気が付かないフリをしていた。
自分が幸せならそれでよかった。
妹のことなどどうでもよかったから。
「貴方は自分の子供達がブロア様と同じ境遇になっても同じ気持ちでいられるのですか?」
カイランは愕然とした。
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