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28話 ブロアが去った屋敷では。①
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カイランが王都の屋敷に戻ってきた時には、屋敷の中は騒然としていた。
ルッツの執務室にはまだ血痕が残されていた。そんな部屋に通された後、サイロが跪いてブロアについて話を聞いて欲しいと懇願してきたのだ。
サイロと話したことはなかった。
ブロアのお気に入りの護衛騎士だとは知っていたが、それだけ。
元々6歳も離れた妹とあまり接点はなく母親が亡くなってからはさらに会話は減っていた。王太子の婚約者として幼い頃から忙しく過ごす妹。さらに悪評が耳に入り始めると呆れて見放してしまった。会っても声をかける気すらしない。
大人しく自分から懐いてはこない妹だった。
「カイラン様、お嬢様は家令に刺されてそのままこの屋敷を去りました」
「なぜ探さないんだ」
カイランがサイロを睨みつけた。
「使用人達は皆探しました。しかし主治医のところへ行ったことはわかったのですが主治医とともに姿を消しました。わたしには探さないで欲しいと手紙を書き置きしております」
「ブロアの我儘か?」
「お嬢様の我儘?」
「ルッツが刺したことは許せることではない。しかしブロアがまた我儘放題にしたことから事件は起きたのだろう?」
カイランは冷たく言い放った。
サイロは唇を強く噛み締めて怒鳴るのを押さえた。
ーーこれがこの屋敷の主人でなければ……
「お嬢様はこの屋敷でどんな暮らしをしていたかご存知ですか?」
サイロはブロアがここで暮らしていた姿を思い出しながら聞いた。
「もちろんだ。贅沢ばかりして我儘放題。何もせず部屋に引きこもり使用人達を困らせてばかり。ブロアにあてがった予算では足りず、毎月のように増額の請求書が俺にきていた。ほんとに我が妹は世間で悪女と呼ばれるだけの子だと思うよ。血のつながった妹なだけに恥ずかしい限りだ」
「その噂は誰が流したかご存知ですか?」
「流す?それは事実だからだろう?」
カイランの中で妹の存在は頭の痛い悩ましいものでしかなかった。
「これはもしもの時のためにブロア様から預かった書類です。この公爵家のために何かあったらとブロア様の身の潔白を証明するためのものです。王太子の婚約者だった時についていた「影」からの報告書です。これは「影」から内緒で渡されたものです。
ここに王城でのブロア様の日常が書かれております。ブロア様は家族に伝えるつもりはなかったようです。ただもし公爵家に何かあった時だけ渡して欲しいと頼まれておりましたが、わたしの一存でカイラン様にお渡しさせていただきます」
「ふうん「影」か……ならば真実しか書かれていないな。わかったあとで読むよ」
カイランは受け取るが中身を見ようとしない。それくらい妹に対してどうでもいいのだろう。
刺されて怪我をして行方不明なのに。
「今読んでください、お願いいたします。話の続きはその報告書を読んでからさせてください」
カイランは苛立ちを覚えた。忙しい合間にブロアの所為で王都まで来たというのに妹は屋敷から姿を消していて問題が起きている。
心配よりも煩わしさの方が心を占めていた。
ルッツの横領に対しては腹を立ててはいるが、公爵家の財産からすればたかが知れたお金。
弁護士と警備隊に任せて罪を問えばいい。ついでに妹への傷害事件も一緒に解決して貰えば終わりだと思っていた。これくらいの事件なら世間にバレずに解決させられるだろう。公爵家の力と金で握り潰せると思っていた。
サイロに頼まれ仕方なく報告書を読み始めた。パラパラと軽く流し読みする予定だった報告書。
しかし内容は思ったものとは違った。
自分が聞いていた噂や耳にした話とはまるで違っていた。
無能のはずの妹は、王太子妃教育とは名ばかりで毎日のように王太子の仕事をさせられていた。官僚や文官達は自分の仕事も含めブロアに仕事を流していたらしい。
睡眠時間を削って毎日のように仕事をさせられていた。最終的に王太子が判断しなければいけない仕事を王太子に持っていくと、「そんなこともできないのか?」「君は優秀ではないんだな」と罵倒されていた。
宰相である父上には『しっかりしなさい』『自覚が足りない』と注意を受けて叱られていたらしい。
ブロアを擁護する者も助けてくれる者もいなかった。
サイロは護衛騎士としてそばにはいても何もすることもできず、何度となく父上に話そうとしたが、ブロアに言わないで欲しいと言われ我慢するしかなかったと悔しそうに言った。
王太子は学園で今の王太子妃を恋人にして逢瀬を繰り返していた。そして学園を卒業すると離宮に恋人であるロザンナ様を住まわせあろうことか妊娠させた。
ロザンナ様を正妃にしたい王太子はブロアを有責で婚約破棄し、側妃にしてこれまでと変わらず仕事をさせようとしたらしい。
それをブロアは断った。その代償としてブロアがロザンナ様を嫉妬で妬み、ワインをかけたりドレスを切ったりしたと言う噂を否定しなかった。甘んじて受け入れたのだった。
事実は全て王太子側の策略だった。
婚約破棄を告げた時、サイロが王太子殿下に対して不敬な物言いをして、殿下からサイロを処刑すると脅されたブロア。
サイロを守るため悪評をそのまま受け入れたらしい。
サイロは自分の所為でブロアが悪評を受け入れたことをとても後悔していた。
カイランは報告書を読みながら聞いていた話と違うことに驚きを隠せなかった。
ルッツの執務室にはまだ血痕が残されていた。そんな部屋に通された後、サイロが跪いてブロアについて話を聞いて欲しいと懇願してきたのだ。
サイロと話したことはなかった。
ブロアのお気に入りの護衛騎士だとは知っていたが、それだけ。
元々6歳も離れた妹とあまり接点はなく母親が亡くなってからはさらに会話は減っていた。王太子の婚約者として幼い頃から忙しく過ごす妹。さらに悪評が耳に入り始めると呆れて見放してしまった。会っても声をかける気すらしない。
大人しく自分から懐いてはこない妹だった。
「カイラン様、お嬢様は家令に刺されてそのままこの屋敷を去りました」
「なぜ探さないんだ」
カイランがサイロを睨みつけた。
「使用人達は皆探しました。しかし主治医のところへ行ったことはわかったのですが主治医とともに姿を消しました。わたしには探さないで欲しいと手紙を書き置きしております」
「ブロアの我儘か?」
「お嬢様の我儘?」
「ルッツが刺したことは許せることではない。しかしブロアがまた我儘放題にしたことから事件は起きたのだろう?」
カイランは冷たく言い放った。
サイロは唇を強く噛み締めて怒鳴るのを押さえた。
ーーこれがこの屋敷の主人でなければ……
「お嬢様はこの屋敷でどんな暮らしをしていたかご存知ですか?」
サイロはブロアがここで暮らしていた姿を思い出しながら聞いた。
「もちろんだ。贅沢ばかりして我儘放題。何もせず部屋に引きこもり使用人達を困らせてばかり。ブロアにあてがった予算では足りず、毎月のように増額の請求書が俺にきていた。ほんとに我が妹は世間で悪女と呼ばれるだけの子だと思うよ。血のつながった妹なだけに恥ずかしい限りだ」
「その噂は誰が流したかご存知ですか?」
「流す?それは事実だからだろう?」
カイランの中で妹の存在は頭の痛い悩ましいものでしかなかった。
「これはもしもの時のためにブロア様から預かった書類です。この公爵家のために何かあったらとブロア様の身の潔白を証明するためのものです。王太子の婚約者だった時についていた「影」からの報告書です。これは「影」から内緒で渡されたものです。
ここに王城でのブロア様の日常が書かれております。ブロア様は家族に伝えるつもりはなかったようです。ただもし公爵家に何かあった時だけ渡して欲しいと頼まれておりましたが、わたしの一存でカイラン様にお渡しさせていただきます」
「ふうん「影」か……ならば真実しか書かれていないな。わかったあとで読むよ」
カイランは受け取るが中身を見ようとしない。それくらい妹に対してどうでもいいのだろう。
刺されて怪我をして行方不明なのに。
「今読んでください、お願いいたします。話の続きはその報告書を読んでからさせてください」
カイランは苛立ちを覚えた。忙しい合間にブロアの所為で王都まで来たというのに妹は屋敷から姿を消していて問題が起きている。
心配よりも煩わしさの方が心を占めていた。
ルッツの横領に対しては腹を立ててはいるが、公爵家の財産からすればたかが知れたお金。
弁護士と警備隊に任せて罪を問えばいい。ついでに妹への傷害事件も一緒に解決して貰えば終わりだと思っていた。これくらいの事件なら世間にバレずに解決させられるだろう。公爵家の力と金で握り潰せると思っていた。
サイロに頼まれ仕方なく報告書を読み始めた。パラパラと軽く流し読みする予定だった報告書。
しかし内容は思ったものとは違った。
自分が聞いていた噂や耳にした話とはまるで違っていた。
無能のはずの妹は、王太子妃教育とは名ばかりで毎日のように王太子の仕事をさせられていた。官僚や文官達は自分の仕事も含めブロアに仕事を流していたらしい。
睡眠時間を削って毎日のように仕事をさせられていた。最終的に王太子が判断しなければいけない仕事を王太子に持っていくと、「そんなこともできないのか?」「君は優秀ではないんだな」と罵倒されていた。
宰相である父上には『しっかりしなさい』『自覚が足りない』と注意を受けて叱られていたらしい。
ブロアを擁護する者も助けてくれる者もいなかった。
サイロは護衛騎士としてそばにはいても何もすることもできず、何度となく父上に話そうとしたが、ブロアに言わないで欲しいと言われ我慢するしかなかったと悔しそうに言った。
王太子は学園で今の王太子妃を恋人にして逢瀬を繰り返していた。そして学園を卒業すると離宮に恋人であるロザンナ様を住まわせあろうことか妊娠させた。
ロザンナ様を正妃にしたい王太子はブロアを有責で婚約破棄し、側妃にしてこれまでと変わらず仕事をさせようとしたらしい。
それをブロアは断った。その代償としてブロアがロザンナ様を嫉妬で妬み、ワインをかけたりドレスを切ったりしたと言う噂を否定しなかった。甘んじて受け入れたのだった。
事実は全て王太子側の策略だった。
婚約破棄を告げた時、サイロが王太子殿下に対して不敬な物言いをして、殿下からサイロを処刑すると脅されたブロア。
サイロを守るため悪評をそのまま受け入れたらしい。
サイロは自分の所為でブロアが悪評を受け入れたことをとても後悔していた。
カイランは報告書を読みながら聞いていた話と違うことに驚きを隠せなかった。
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