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26話 セフィル編 3 やっと会えると思ったのに。
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公爵家の門の守りは堅い。俺がどんなにブロアの婚約者だと分かっていても通してはもらえなかった。
婚約解消を言われて二週間。毎日のように通って何故か今日はすんなりと通された。
門を入ると騒然としている。
大きな声や走り回る使用人。
「何かあったのか?」
目の前を通る公爵家の騎士を一人捕まえて聞いてみた。
「貴方は……お嬢様を知りませんか?突然姿が消えてしまったんです」
「どう言うことだ?」
ーー消えるなんてあるわけない。
「拐われたのか?……サイロは?護衛のサイロは?どこだ?誰か知らないか?」
「サイロなら今屋敷の中にいます」
「わかった!」
俺は屋敷へと走った。
中に入るとやはりみんながバタバタとしていた。
「ブロアは?見つかったのか?どう言う状況なんだ?」
使用人を捕まえてまた聞いてみた。
「セフィル様……サイロさんがもし貴方が訪れたら通すように言われております。どうぞこちらに」
そう言われて通されたのは家令の執務室だった。
「……血?誰の?」
一瞬嫌な予感が過ぎった。
「ブロア?」
サイロが首を縦に振る。
「先程家令のルッツを捕まえました。屋敷を出て逃走しようとしていました。こいつが公爵家のお金を横領していたのは知っていたから逃げるなら銀行へ行くと思い待ち構えて捕まえました。……お嬢様を刺したと自供しました」
サイロは淡々と話す。
だが険しい顔をしていた。怒りを抑えているのだろう。
「刺した?ブロアは怪我をしているのか?なら何故ブロアはいないんだ?どう言うことか説明しろ!いや、とりあえず探さないと」
「お嬢様は怪我をしたまま屋敷を去りました。俺とウエラを置いて」
サイロの話がよくわからない。
「説明を頼む」
俺は一旦冷静になることにした。闇雲に探してもブロアがどこに行ったかわからない。状況をしっかり聞かなければ。
焦る気持ちを抑えながら話を聞いた。
「お嬢様は元々この屋敷を去る予定でした。ただジェリーヌ様の形見であるネックレスだけはどうしても持ってこの屋敷を去りたいと願われて管理している家令と話をしておりました。しかし家令は首を縦に振らず渡そうとしない。だから旦那様から手紙を書いてもらい、今日もう一度家令と話し合う予定でした。しかしお嬢様は……俺たちが起きる前の早朝に家令と話して……そこで揉めて刺されたのです。執務室にはいくつかの血が落ちていました」
「幾つか?ならば深い傷ではない?」
「たぶん……ナイフもありませんでした。俺が気づいたのは朝の8時頃でした。もうお嬢様も家令もいませんでした。調べたら使用人用の馬車とヨゼフが消えていました。ヨゼフは走り書きで『お嬢様は無事、医者のところへ連れて行く』と書き置きがしてありました。すぐに医者のところへ行きましたがもう姿はありませんでした。だからお嬢様の行方を探す者達と家令を捕まえる者達と別れて動いたんです……そして家令を捕まえて今話を聞き出していたんです」
「家令のことは後で処罰を与えればいい。それよりもブロアは?何故医者のところから姿を消したんだ?屋敷を出るつもりだったとはどう言うことなんだ?俺と婚約解消をすると言ったり、会いにきても会ってもらえなかった……そして怪我をしているのに姿を消す?意味がわからない」
「お嬢様は悪女で我儘ですから」
サイロは寂しげに言った。
本心はブロアのことを悪女だなんて思っているわけがない。
「ふざけないでくれ。何か心当たりはないのか?」
「あったとしても婚約解消しようとしている貴方に使用人でしかない俺が話せるわけがないでしょう?」
「………わからない、彼女の気持ちが……それに怪我をした状態で動いて大丈夫なのか?心配じゃないのか?長年騎士として仕えたんだろう?」
「心配に決まってます。今すぐにお嬢様のところへ行きたい。でも今日怪我をしなくても屋敷を出るつもりだったようです。
お嬢様からの手紙が部屋にありました」
「今日この屋敷から出るつもりだった?俺はまだ婚約解消を了承していないのに?何故なんだ」
「お嬢様は探さないで欲しいと。どんなことがあっても探さないで欲しいと、書かれていました」
「屋敷の者たちは探そうとしているみたいだが?」
「まあ使用人としてはそれが仕事ですから。
『探さないで欲しい』この言葉は俺やウエラへの言葉なんです。そしてセフィル様への……セフィル様にも手紙が残されていました」
そう言ってサイロから手紙を受け取った。
婚約解消を言われて二週間。毎日のように通って何故か今日はすんなりと通された。
門を入ると騒然としている。
大きな声や走り回る使用人。
「何かあったのか?」
目の前を通る公爵家の騎士を一人捕まえて聞いてみた。
「貴方は……お嬢様を知りませんか?突然姿が消えてしまったんです」
「どう言うことだ?」
ーー消えるなんてあるわけない。
「拐われたのか?……サイロは?護衛のサイロは?どこだ?誰か知らないか?」
「サイロなら今屋敷の中にいます」
「わかった!」
俺は屋敷へと走った。
中に入るとやはりみんながバタバタとしていた。
「ブロアは?見つかったのか?どう言う状況なんだ?」
使用人を捕まえてまた聞いてみた。
「セフィル様……サイロさんがもし貴方が訪れたら通すように言われております。どうぞこちらに」
そう言われて通されたのは家令の執務室だった。
「……血?誰の?」
一瞬嫌な予感が過ぎった。
「ブロア?」
サイロが首を縦に振る。
「先程家令のルッツを捕まえました。屋敷を出て逃走しようとしていました。こいつが公爵家のお金を横領していたのは知っていたから逃げるなら銀行へ行くと思い待ち構えて捕まえました。……お嬢様を刺したと自供しました」
サイロは淡々と話す。
だが険しい顔をしていた。怒りを抑えているのだろう。
「刺した?ブロアは怪我をしているのか?なら何故ブロアはいないんだ?どう言うことか説明しろ!いや、とりあえず探さないと」
「お嬢様は怪我をしたまま屋敷を去りました。俺とウエラを置いて」
サイロの話がよくわからない。
「説明を頼む」
俺は一旦冷静になることにした。闇雲に探してもブロアがどこに行ったかわからない。状況をしっかり聞かなければ。
焦る気持ちを抑えながら話を聞いた。
「お嬢様は元々この屋敷を去る予定でした。ただジェリーヌ様の形見であるネックレスだけはどうしても持ってこの屋敷を去りたいと願われて管理している家令と話をしておりました。しかし家令は首を縦に振らず渡そうとしない。だから旦那様から手紙を書いてもらい、今日もう一度家令と話し合う予定でした。しかしお嬢様は……俺たちが起きる前の早朝に家令と話して……そこで揉めて刺されたのです。執務室にはいくつかの血が落ちていました」
「幾つか?ならば深い傷ではない?」
「たぶん……ナイフもありませんでした。俺が気づいたのは朝の8時頃でした。もうお嬢様も家令もいませんでした。調べたら使用人用の馬車とヨゼフが消えていました。ヨゼフは走り書きで『お嬢様は無事、医者のところへ連れて行く』と書き置きがしてありました。すぐに医者のところへ行きましたがもう姿はありませんでした。だからお嬢様の行方を探す者達と家令を捕まえる者達と別れて動いたんです……そして家令を捕まえて今話を聞き出していたんです」
「家令のことは後で処罰を与えればいい。それよりもブロアは?何故医者のところから姿を消したんだ?屋敷を出るつもりだったとはどう言うことなんだ?俺と婚約解消をすると言ったり、会いにきても会ってもらえなかった……そして怪我をしているのに姿を消す?意味がわからない」
「お嬢様は悪女で我儘ですから」
サイロは寂しげに言った。
本心はブロアのことを悪女だなんて思っているわけがない。
「ふざけないでくれ。何か心当たりはないのか?」
「あったとしても婚約解消しようとしている貴方に使用人でしかない俺が話せるわけがないでしょう?」
「………わからない、彼女の気持ちが……それに怪我をした状態で動いて大丈夫なのか?心配じゃないのか?長年騎士として仕えたんだろう?」
「心配に決まってます。今すぐにお嬢様のところへ行きたい。でも今日怪我をしなくても屋敷を出るつもりだったようです。
お嬢様からの手紙が部屋にありました」
「今日この屋敷から出るつもりだった?俺はまだ婚約解消を了承していないのに?何故なんだ」
「お嬢様は探さないで欲しいと。どんなことがあっても探さないで欲しいと、書かれていました」
「屋敷の者たちは探そうとしているみたいだが?」
「まあ使用人としてはそれが仕事ですから。
『探さないで欲しい』この言葉は俺やウエラへの言葉なんです。そしてセフィル様への……セフィル様にも手紙が残されていました」
そう言ってサイロから手紙を受け取った。
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