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23話 はあぁ。話にならないわ。
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わたくしの言葉に家令はニヤッと笑った。
「旦那様は王城での仕事がお忙しくわたしを信用してくださっているので報告書だけでなにも言いません。カイラン様は領地運営に夢中でこの公爵邸のことには興味はございません。ここでの予算はわたしの思うがままなのです。貴女にはなんの権利もない」
「わたくしは口出すつもりはないの。お母様のネックレスさえ返してもらえれば貴方がここでどれだけ私腹をこやそうとどうでもいいのよ」
「だったら何故、覚書や弁護士などと言った言葉が出るんですか?」
「貴方がネックレスを簡単に渡そうとしないからよ。さっさと渡してちょうだい」
ーーほんと、面倒だわ、この男。
渡せば貴方の悪事なんて放っておいてやると言ってるのよ!
いつかはバレて捕まるんだから。それまでこの屋敷をめちゃくちゃにするも良し、主人気分で過ごすのも勝手にすればいいのよ。
最後にお父様とお兄様が気がついた時には、この屋敷の管理が修復不可能になっているのも楽しそうだし、家令が使い込んだお金が取り戻せなくて青い顔するのも楽しそうだわ。
ーーあっ、でもわたくしが知ることはできないか。ふふっ、ちょっと楽しそうなのに。残念だわ。
「お嬢様はこの屋敷で冷遇されていてなにも思わないのですか?」
「貴方がその言葉を言うの?馬鹿馬鹿しい。わたくしにとってはどうでもいいことなの。
ドレスなんて興味もないしお父様やお兄様に相手にされないことにも興味はない。どうでもいいのよ。
貴方がわたくしからサイロやウエラを取り上げない限りなにも言わないわ。そしてさっきから言っているネックレスを返して。そうすれば見逃してあげる」
「信じられません、貴女はいつもわたしのことを馬鹿にしたように見ていましたよね?」
「興味がないだけよ。わたくしは生きていることがつまらないの。だから貴方がなにをしようと興味がないの」
「その態度がわたしをイラつかせるのです。この屋敷のお嬢様でありながら自分の権力に興味すらない。わたしがどんな仕打ちをしようと興味を示さない。子供の時ですらサマンサに受けた虐待も甘んじて受け入れていた。子供らしさもない」
「ふっ……貴方にはわからないわ、わたくしの気持ちなんて。そしてわたくしも貴方のことなんて興味もないしどうでもいいの」
「……そうですか……わたしは十分此処でお金をいただきました。今すぐここを出て行くこともできます」
「そう……お好きに。ネックレスだけ置いていけば見逃してあげるわ」
「……あのネックレスは貴女には相応しくありません。あれは奥様……いえジェリーヌ様にだからこそ相応しいのです。
旦那様からのプレゼントなのは忌々しいところですが、あの宝石はパパラチアサファイアという滅多に手に入らない希少な石を使われているのです。ジェリーヌ様にこそお似合いであって貴女のような悪女と呼ばれる小娘などには相応しくはありません」
「貴方が決めることではないわ。あれはお母様がわたくしにと約束したものなの」
「そんな昔の約束など……」鼻で笑う家令に、わたくしは言った。
「貴方が素直に渡してくれるならなにもする気はなかったのに……残念だわ」
わたくしはそう言って部屋を出て行こうとした。これから弁護士のところへ行くつもりだ。
「ここからなにもなく出ていけると?」
「当たり前よ、ここはわたくしの屋敷なのだもの」
「残念なのはわたしの方です。大人しく黙って部屋に閉じこもっていればよいものを」
そう言ってわたくしの体に突き刺したのは小型ナイフだった。
一応王太子妃教育で身の守り方や闘い方の訓練はしていた。でも弱った体は咄嗟の攻撃に反応できなくて避けたつもりだけど脇腹に刺さってしまった。
家令はニヤッと笑って「どうせ短い命なんだから今死んでもいいでしょう?」と言ってわたくしが倒れて蹲るのをみて執務室から足早に去っていった。
「旦那様は王城での仕事がお忙しくわたしを信用してくださっているので報告書だけでなにも言いません。カイラン様は領地運営に夢中でこの公爵邸のことには興味はございません。ここでの予算はわたしの思うがままなのです。貴女にはなんの権利もない」
「わたくしは口出すつもりはないの。お母様のネックレスさえ返してもらえれば貴方がここでどれだけ私腹をこやそうとどうでもいいのよ」
「だったら何故、覚書や弁護士などと言った言葉が出るんですか?」
「貴方がネックレスを簡単に渡そうとしないからよ。さっさと渡してちょうだい」
ーーほんと、面倒だわ、この男。
渡せば貴方の悪事なんて放っておいてやると言ってるのよ!
いつかはバレて捕まるんだから。それまでこの屋敷をめちゃくちゃにするも良し、主人気分で過ごすのも勝手にすればいいのよ。
最後にお父様とお兄様が気がついた時には、この屋敷の管理が修復不可能になっているのも楽しそうだし、家令が使い込んだお金が取り戻せなくて青い顔するのも楽しそうだわ。
ーーあっ、でもわたくしが知ることはできないか。ふふっ、ちょっと楽しそうなのに。残念だわ。
「お嬢様はこの屋敷で冷遇されていてなにも思わないのですか?」
「貴方がその言葉を言うの?馬鹿馬鹿しい。わたくしにとってはどうでもいいことなの。
ドレスなんて興味もないしお父様やお兄様に相手にされないことにも興味はない。どうでもいいのよ。
貴方がわたくしからサイロやウエラを取り上げない限りなにも言わないわ。そしてさっきから言っているネックレスを返して。そうすれば見逃してあげる」
「信じられません、貴女はいつもわたしのことを馬鹿にしたように見ていましたよね?」
「興味がないだけよ。わたくしは生きていることがつまらないの。だから貴方がなにをしようと興味がないの」
「その態度がわたしをイラつかせるのです。この屋敷のお嬢様でありながら自分の権力に興味すらない。わたしがどんな仕打ちをしようと興味を示さない。子供の時ですらサマンサに受けた虐待も甘んじて受け入れていた。子供らしさもない」
「ふっ……貴方にはわからないわ、わたくしの気持ちなんて。そしてわたくしも貴方のことなんて興味もないしどうでもいいの」
「……そうですか……わたしは十分此処でお金をいただきました。今すぐここを出て行くこともできます」
「そう……お好きに。ネックレスだけ置いていけば見逃してあげるわ」
「……あのネックレスは貴女には相応しくありません。あれは奥様……いえジェリーヌ様にだからこそ相応しいのです。
旦那様からのプレゼントなのは忌々しいところですが、あの宝石はパパラチアサファイアという滅多に手に入らない希少な石を使われているのです。ジェリーヌ様にこそお似合いであって貴女のような悪女と呼ばれる小娘などには相応しくはありません」
「貴方が決めることではないわ。あれはお母様がわたくしにと約束したものなの」
「そんな昔の約束など……」鼻で笑う家令に、わたくしは言った。
「貴方が素直に渡してくれるならなにもする気はなかったのに……残念だわ」
わたくしはそう言って部屋を出て行こうとした。これから弁護士のところへ行くつもりだ。
「ここからなにもなく出ていけると?」
「当たり前よ、ここはわたくしの屋敷なのだもの」
「残念なのはわたしの方です。大人しく黙って部屋に閉じこもっていればよいものを」
そう言ってわたくしの体に突き刺したのは小型ナイフだった。
一応王太子妃教育で身の守り方や闘い方の訓練はしていた。でも弱った体は咄嗟の攻撃に反応できなくて避けたつもりだけど脇腹に刺さってしまった。
家令はニヤッと笑って「どうせ短い命なんだから今死んでもいいでしょう?」と言ってわたくしが倒れて蹲るのをみて執務室から足早に去っていった。
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