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18話 セフィル編 1 俺は貴女が好きなんです。
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どうして?
『わたくし、もう貴方のこと飽きたみたいなの』
いきなり婚約解消を告げられた。
やっと彼女を手に入れたのに。
ブロアは覚えていなかった。俺との出会いを。
幼い頃、ブロアに出会った。
子供達が集まるお茶会。
俺は7歳だった。
彼女は幼い頃から王太子殿下の婚約者として常に殿下のそばにいた。
とても綺麗で思わず見惚れてしまった。違う、目が離せなかった。
一目惚れで初恋。
話してみたい。子供ながらにそう思ったけど、ブロアに話しかける子供はいない。
『ブロア様は公爵令嬢で殿下の婚約者なのよ。恐れ多くて話しかけられないわ』
『いつも澄ました感じで声をかけづらい方なのよね』
兄とテーブルに座ってお菓子を食べていると女の子達のそんな話が聞こえてきた。
ーー話しかけたら普通に返事すると思うけどな。
俺はブロアが気になって仕方がなかった。
ブロアの髪はとても綺麗な黒髪で彼女の美しい顔立ちにとても似合っていた。この国では珍しい髪色。だからどこにいても彼女は注目される。
ブロアが一人でたくさんの花が咲く庭園へと向かっているのに気がついた俺は気になって後ろからついて行った。
ブロアは花々を見ながら楽しそうに歩いていた。さっきまでつまらなさそうにたくさんの人の中にいた時とは違っていた。
そんな彼女の姿に目が離せなかった。
必死で彼女を追いかけていて足元を見ていなかった俺は転んでしまった。
「痛っ!」
大きな声が出た。
彼女が俺の声に振り返った。
「大丈夫?あら血が出てるわね」
俺の膝を見て、ハンカチを取り出すと、すぐに傷の手当てをしてくれた。
「泣かなかったからお利口ね」
優しく頭を撫でられた。
年下とはいえ悔しかった。
助けてもらったくせに、恥ずかしさと悔しさで「ありがとう」と言う時も俯いてしまった。
「あなたもお花を見ようと思ったの?」
ーー違う!君が気になったんだ!
「うん、花が綺麗で見てたら転んでしまったんだ」
ーー本当はあなたを見ていてだけど。
「怪我の手当てをしてもらったほうがいいから戻ったほうがいいんじゃない?」
俺はカッコつけて言った。
「こんなの痛くない!」
ーー本当はズキズキして痛い、だけど君の前では泣きたくない!
「うーん、だったら一緒にお花を見る?」
「えっ?うん、見たい!」
ーー花はどうでもいいけど、あなたと一緒にお話ししてみたい!
「じゃあ、転ばないように、はい、手!」
そう言って俺の手を握り二人で歩いた。
温かくて優しい手。俺よりも大きな手。
横に並ぶと俺よりも背が高い。
そんな当たり前のことが悔しい。
彼女は花の名前を教えてくれた。そして俺の話もニコニコ笑いながら聞いてくれた。
とても楽しくてあっという間に時間が過ぎた。
彼女の護衛騎士が「お時間です」と呼びにきた。
「サイロ、もうそんな時間?」
「はい」
「わかったわ。わたくしそろそろ勉強の時間なの。ごめんなさいね、一緒にお花を見れて楽しかったわ」
「僕も楽しかったです、ありがとうございました」
彼女の騎士はまだ若くてすごくカッコよく見えた。
「騎士ってずっとブロア様を守り続けるの?」
ーー彼女のそばに居られるなんて羨ましい。
「サイロのこと?サイロはわたくしの護衛騎士なの。一番頼りになって一番わたくしのことをわかってくれる人なの」
その時のブロアの優しい笑顔が忘れられない。互いに信頼しあえる関係がとても羨ましく感じた。
その後俺をお茶会の会場に二人が送ってくれた。
俺は二人の後ろ姿を見送った。
ーーもし俺が騎士になったらあなたのそばにいられるでしょうか?あなたを守りたい。
寂しそうに立つ姿、花を楽しそうに見る姿、そんなあなたを守り続けたい。
幼い頃、俺はそんなことを思った。ブロアには王太子殿下という婚約者がいる。俺の初恋が叶うことはない。
だけど近くで見守りたいと思った。
『僕は大切な人を守りたくて騎士を目指したんだ』
俺はブロアと婚約した時に、彼女にそう言った。
彼女は少し寂しそうに笑った。
俺のことなんて覚えていない。だけど、俺はブロアの隣で彼女を守る権利をもらえた。
だからこの婚約を絶対解消なんかしない。
『わたくし、もう貴方のこと飽きたみたいなの』
いきなり婚約解消を告げられた。
やっと彼女を手に入れたのに。
ブロアは覚えていなかった。俺との出会いを。
幼い頃、ブロアに出会った。
子供達が集まるお茶会。
俺は7歳だった。
彼女は幼い頃から王太子殿下の婚約者として常に殿下のそばにいた。
とても綺麗で思わず見惚れてしまった。違う、目が離せなかった。
一目惚れで初恋。
話してみたい。子供ながらにそう思ったけど、ブロアに話しかける子供はいない。
『ブロア様は公爵令嬢で殿下の婚約者なのよ。恐れ多くて話しかけられないわ』
『いつも澄ました感じで声をかけづらい方なのよね』
兄とテーブルに座ってお菓子を食べていると女の子達のそんな話が聞こえてきた。
ーー話しかけたら普通に返事すると思うけどな。
俺はブロアが気になって仕方がなかった。
ブロアの髪はとても綺麗な黒髪で彼女の美しい顔立ちにとても似合っていた。この国では珍しい髪色。だからどこにいても彼女は注目される。
ブロアが一人でたくさんの花が咲く庭園へと向かっているのに気がついた俺は気になって後ろからついて行った。
ブロアは花々を見ながら楽しそうに歩いていた。さっきまでつまらなさそうにたくさんの人の中にいた時とは違っていた。
そんな彼女の姿に目が離せなかった。
必死で彼女を追いかけていて足元を見ていなかった俺は転んでしまった。
「痛っ!」
大きな声が出た。
彼女が俺の声に振り返った。
「大丈夫?あら血が出てるわね」
俺の膝を見て、ハンカチを取り出すと、すぐに傷の手当てをしてくれた。
「泣かなかったからお利口ね」
優しく頭を撫でられた。
年下とはいえ悔しかった。
助けてもらったくせに、恥ずかしさと悔しさで「ありがとう」と言う時も俯いてしまった。
「あなたもお花を見ようと思ったの?」
ーー違う!君が気になったんだ!
「うん、花が綺麗で見てたら転んでしまったんだ」
ーー本当はあなたを見ていてだけど。
「怪我の手当てをしてもらったほうがいいから戻ったほうがいいんじゃない?」
俺はカッコつけて言った。
「こんなの痛くない!」
ーー本当はズキズキして痛い、だけど君の前では泣きたくない!
「うーん、だったら一緒にお花を見る?」
「えっ?うん、見たい!」
ーー花はどうでもいいけど、あなたと一緒にお話ししてみたい!
「じゃあ、転ばないように、はい、手!」
そう言って俺の手を握り二人で歩いた。
温かくて優しい手。俺よりも大きな手。
横に並ぶと俺よりも背が高い。
そんな当たり前のことが悔しい。
彼女は花の名前を教えてくれた。そして俺の話もニコニコ笑いながら聞いてくれた。
とても楽しくてあっという間に時間が過ぎた。
彼女の護衛騎士が「お時間です」と呼びにきた。
「サイロ、もうそんな時間?」
「はい」
「わかったわ。わたくしそろそろ勉強の時間なの。ごめんなさいね、一緒にお花を見れて楽しかったわ」
「僕も楽しかったです、ありがとうございました」
彼女の騎士はまだ若くてすごくカッコよく見えた。
「騎士ってずっとブロア様を守り続けるの?」
ーー彼女のそばに居られるなんて羨ましい。
「サイロのこと?サイロはわたくしの護衛騎士なの。一番頼りになって一番わたくしのことをわかってくれる人なの」
その時のブロアの優しい笑顔が忘れられない。互いに信頼しあえる関係がとても羨ましく感じた。
その後俺をお茶会の会場に二人が送ってくれた。
俺は二人の後ろ姿を見送った。
ーーもし俺が騎士になったらあなたのそばにいられるでしょうか?あなたを守りたい。
寂しそうに立つ姿、花を楽しそうに見る姿、そんなあなたを守り続けたい。
幼い頃、俺はそんなことを思った。ブロアには王太子殿下という婚約者がいる。俺の初恋が叶うことはない。
だけど近くで見守りたいと思った。
『僕は大切な人を守りたくて騎士を目指したんだ』
俺はブロアと婚約した時に、彼女にそう言った。
彼女は少し寂しそうに笑った。
俺のことなんて覚えていない。だけど、俺はブロアの隣で彼女を守る権利をもらえた。
だからこの婚約を絶対解消なんかしない。
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