18 / 93
18話 セフィル編 1 俺は貴女が好きなんです。
しおりを挟む
どうして?
『わたくし、もう貴方のこと飽きたみたいなの』
いきなり婚約解消を告げられた。
やっと彼女を手に入れたのに。
ブロアは覚えていなかった。俺との出会いを。
幼い頃、ブロアに出会った。
子供達が集まるお茶会。
俺は7歳だった。
彼女は幼い頃から王太子殿下の婚約者として常に殿下のそばにいた。
とても綺麗で思わず見惚れてしまった。違う、目が離せなかった。
一目惚れで初恋。
話してみたい。子供ながらにそう思ったけど、ブロアに話しかける子供はいない。
『ブロア様は公爵令嬢で殿下の婚約者なのよ。恐れ多くて話しかけられないわ』
『いつも澄ました感じで声をかけづらい方なのよね』
兄とテーブルに座ってお菓子を食べていると女の子達のそんな話が聞こえてきた。
ーー話しかけたら普通に返事すると思うけどな。
俺はブロアが気になって仕方がなかった。
ブロアの髪はとても綺麗な黒髪で彼女の美しい顔立ちにとても似合っていた。この国では珍しい髪色。だからどこにいても彼女は注目される。
ブロアが一人でたくさんの花が咲く庭園へと向かっているのに気がついた俺は気になって後ろからついて行った。
ブロアは花々を見ながら楽しそうに歩いていた。さっきまでつまらなさそうにたくさんの人の中にいた時とは違っていた。
そんな彼女の姿に目が離せなかった。
必死で彼女を追いかけていて足元を見ていなかった俺は転んでしまった。
「痛っ!」
大きな声が出た。
彼女が俺の声に振り返った。
「大丈夫?あら血が出てるわね」
俺の膝を見て、ハンカチを取り出すと、すぐに傷の手当てをしてくれた。
「泣かなかったからお利口ね」
優しく頭を撫でられた。
年下とはいえ悔しかった。
助けてもらったくせに、恥ずかしさと悔しさで「ありがとう」と言う時も俯いてしまった。
「あなたもお花を見ようと思ったの?」
ーー違う!君が気になったんだ!
「うん、花が綺麗で見てたら転んでしまったんだ」
ーー本当はあなたを見ていてだけど。
「怪我の手当てをしてもらったほうがいいから戻ったほうがいいんじゃない?」
俺はカッコつけて言った。
「こんなの痛くない!」
ーー本当はズキズキして痛い、だけど君の前では泣きたくない!
「うーん、だったら一緒にお花を見る?」
「えっ?うん、見たい!」
ーー花はどうでもいいけど、あなたと一緒にお話ししてみたい!
「じゃあ、転ばないように、はい、手!」
そう言って俺の手を握り二人で歩いた。
温かくて優しい手。俺よりも大きな手。
横に並ぶと俺よりも背が高い。
そんな当たり前のことが悔しい。
彼女は花の名前を教えてくれた。そして俺の話もニコニコ笑いながら聞いてくれた。
とても楽しくてあっという間に時間が過ぎた。
彼女の護衛騎士が「お時間です」と呼びにきた。
「サイロ、もうそんな時間?」
「はい」
「わかったわ。わたくしそろそろ勉強の時間なの。ごめんなさいね、一緒にお花を見れて楽しかったわ」
「僕も楽しかったです、ありがとうございました」
彼女の騎士はまだ若くてすごくカッコよく見えた。
「騎士ってずっとブロア様を守り続けるの?」
ーー彼女のそばに居られるなんて羨ましい。
「サイロのこと?サイロはわたくしの護衛騎士なの。一番頼りになって一番わたくしのことをわかってくれる人なの」
その時のブロアの優しい笑顔が忘れられない。互いに信頼しあえる関係がとても羨ましく感じた。
その後俺をお茶会の会場に二人が送ってくれた。
俺は二人の後ろ姿を見送った。
ーーもし俺が騎士になったらあなたのそばにいられるでしょうか?あなたを守りたい。
寂しそうに立つ姿、花を楽しそうに見る姿、そんなあなたを守り続けたい。
幼い頃、俺はそんなことを思った。ブロアには王太子殿下という婚約者がいる。俺の初恋が叶うことはない。
だけど近くで見守りたいと思った。
『僕は大切な人を守りたくて騎士を目指したんだ』
俺はブロアと婚約した時に、彼女にそう言った。
彼女は少し寂しそうに笑った。
俺のことなんて覚えていない。だけど、俺はブロアの隣で彼女を守る権利をもらえた。
だからこの婚約を絶対解消なんかしない。
『わたくし、もう貴方のこと飽きたみたいなの』
いきなり婚約解消を告げられた。
やっと彼女を手に入れたのに。
ブロアは覚えていなかった。俺との出会いを。
幼い頃、ブロアに出会った。
子供達が集まるお茶会。
俺は7歳だった。
彼女は幼い頃から王太子殿下の婚約者として常に殿下のそばにいた。
とても綺麗で思わず見惚れてしまった。違う、目が離せなかった。
一目惚れで初恋。
話してみたい。子供ながらにそう思ったけど、ブロアに話しかける子供はいない。
『ブロア様は公爵令嬢で殿下の婚約者なのよ。恐れ多くて話しかけられないわ』
『いつも澄ました感じで声をかけづらい方なのよね』
兄とテーブルに座ってお菓子を食べていると女の子達のそんな話が聞こえてきた。
ーー話しかけたら普通に返事すると思うけどな。
俺はブロアが気になって仕方がなかった。
ブロアの髪はとても綺麗な黒髪で彼女の美しい顔立ちにとても似合っていた。この国では珍しい髪色。だからどこにいても彼女は注目される。
ブロアが一人でたくさんの花が咲く庭園へと向かっているのに気がついた俺は気になって後ろからついて行った。
ブロアは花々を見ながら楽しそうに歩いていた。さっきまでつまらなさそうにたくさんの人の中にいた時とは違っていた。
そんな彼女の姿に目が離せなかった。
必死で彼女を追いかけていて足元を見ていなかった俺は転んでしまった。
「痛っ!」
大きな声が出た。
彼女が俺の声に振り返った。
「大丈夫?あら血が出てるわね」
俺の膝を見て、ハンカチを取り出すと、すぐに傷の手当てをしてくれた。
「泣かなかったからお利口ね」
優しく頭を撫でられた。
年下とはいえ悔しかった。
助けてもらったくせに、恥ずかしさと悔しさで「ありがとう」と言う時も俯いてしまった。
「あなたもお花を見ようと思ったの?」
ーー違う!君が気になったんだ!
「うん、花が綺麗で見てたら転んでしまったんだ」
ーー本当はあなたを見ていてだけど。
「怪我の手当てをしてもらったほうがいいから戻ったほうがいいんじゃない?」
俺はカッコつけて言った。
「こんなの痛くない!」
ーー本当はズキズキして痛い、だけど君の前では泣きたくない!
「うーん、だったら一緒にお花を見る?」
「えっ?うん、見たい!」
ーー花はどうでもいいけど、あなたと一緒にお話ししてみたい!
「じゃあ、転ばないように、はい、手!」
そう言って俺の手を握り二人で歩いた。
温かくて優しい手。俺よりも大きな手。
横に並ぶと俺よりも背が高い。
そんな当たり前のことが悔しい。
彼女は花の名前を教えてくれた。そして俺の話もニコニコ笑いながら聞いてくれた。
とても楽しくてあっという間に時間が過ぎた。
彼女の護衛騎士が「お時間です」と呼びにきた。
「サイロ、もうそんな時間?」
「はい」
「わかったわ。わたくしそろそろ勉強の時間なの。ごめんなさいね、一緒にお花を見れて楽しかったわ」
「僕も楽しかったです、ありがとうございました」
彼女の騎士はまだ若くてすごくカッコよく見えた。
「騎士ってずっとブロア様を守り続けるの?」
ーー彼女のそばに居られるなんて羨ましい。
「サイロのこと?サイロはわたくしの護衛騎士なの。一番頼りになって一番わたくしのことをわかってくれる人なの」
その時のブロアの優しい笑顔が忘れられない。互いに信頼しあえる関係がとても羨ましく感じた。
その後俺をお茶会の会場に二人が送ってくれた。
俺は二人の後ろ姿を見送った。
ーーもし俺が騎士になったらあなたのそばにいられるでしょうか?あなたを守りたい。
寂しそうに立つ姿、花を楽しそうに見る姿、そんなあなたを守り続けたい。
幼い頃、俺はそんなことを思った。ブロアには王太子殿下という婚約者がいる。俺の初恋が叶うことはない。
だけど近くで見守りたいと思った。
『僕は大切な人を守りたくて騎士を目指したんだ』
俺はブロアと婚約した時に、彼女にそう言った。
彼女は少し寂しそうに笑った。
俺のことなんて覚えていない。だけど、俺はブロアの隣で彼女を守る権利をもらえた。
だからこの婚約を絶対解消なんかしない。
285
お気に入りに追加
4,212
あなたにおすすめの小説

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」

【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。


2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる