【完結】さよならのかわりに

たろ

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16話  わたくしはお父様にとっても悪女なのですね。

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「くだらない…?そうですわね、そのくだらないネックレスを貴方がお持ちになっていても仕方がないでしょう?わたくしに返してください」

「…………そんなものどこにやったかなんて覚えていない。必要なら家令に言いなさい。そんなくだらない話でわざわざ王城に来るなんて……わたしが屋敷に帰ってきた時でいいだろう」

 お父様からすればそうかもしれない。でも貴方はいつ帰ってくるの?わたくしが死んでも帰っては来ないでしょう?

 その理由は……愛する人が他にいたから?

 お母様を愛していたと思っていたのに……この歳になってもまだそんな馬鹿なこと信じていたのね。

 自分ももう大人なのに……子供の頃から大人の汚さなんてこの王城でどれだけ見てきたか。

「ではそのくだらない物はわたくしがいただきますわ。ただ家令に聞かなければいけないのなら一筆書いて頂けますか?あの家令はわたくしの言うことは聞いてはくれませんので。宰相閣下のご命令ならば仕方なく渡してもらえるでしょうから」

 わたくしの言葉に眉根を寄せた。

「お前はそんな被害妄想ばかり言って大概にしなさい。屋敷の者達はお前のせいでみんな困っているんだ。
 確かに幼い頃サマンサに虐待に近いことをされたとは聞いている。それもかなり大袈裟だったんだろう?クビにはしたが、サマンサは言っていた。使用人に対して横暴で暴言ばかりだったらしいな。そんな態度だから家令もお前の話を聞かないんだろう?」

「わたくしが何をしたと言うのですか?」
 ーーわたくしが受けたあの痛みは虚言だとでも言いたいの?

「屋敷で、あれは嫌だ、これは嫌だと文句ばかり言っていると報告を受けている。かなり金遣いも荒く予算を守ったこともないらしいな。お前はわたしにどれだけ迷惑と恥をかかせるんだ!殿下との婚約破棄も全てお前の有責。わたしがどれだけ尻拭いしたと思っているんだ!
 ジェリーヌがお前のことを頼むと言わなかったら当の昔に捨てたのに!」

 吐き捨てるように言われた言葉。

 わたくしを捨てたかった?お母様のおかげで今まで屋敷に置いてもらえていたと言うことなの?

「わたくしが贅沢をしているとでも?」

「そうだろう?そのドレスにその高価な宝石。どう見ても贅沢三昧な生活をしているのだろう?結婚式にかかる予算も家令に見せてもらったがどれだけ豪華にするつもりだ?たかがウエディングドレスにどれだけのお金を注ぎ込んだんだ?宝石だって男爵家なら年間予算分くらいになる宝石を注文していただろう?」

「わたくしがドレスを注文?宝石も?このドレスを見てそう思うのですか?」

「そうだ。どう見ても高価な物だろう?」

「………そう見えますか?………」

 わたくしはもうこの場に居たくなかった。

 悔しくて泣きそうになるのを堪えて、執務室を出て行った。




 ーーーーー

「おい!」
 ブロアはさっさと執務室を出て行った。

 なんなんだ!我儘で自分勝手。

 幼い頃は可愛らしかったのに、ジェリーヌが亡くなってからは全く可愛げがない。

 使用人に対しても我儘を言って癇癪を起こす。サマンサが躾のため叩くこともあったが、それはブロアのためだ。わたしも容認していた。

 あれだけ我儘な娘なんだから仕方がない。サイロが王城に来てみんなの前でサマンサのことを言ったものだから仕方なくクビにするしかなかった。

 しかし、サマンサはジェリーヌの専属侍女として長い間仕えてくれて信用できた。子供の我儘でクビにするなどあり得なかったのに、惜しい人材をクビにすることになった。

 家令もいつもブロアには困り果てて、相談に来る。いい加減に結婚させてさっさと屋敷から追い出さなければ。セフィルは騎士団でしっかり働いてもらい、あの我儘な娘の手綱をしっかり握ってもらわないと。また今度呼び出して話をしておこう。

 ブロアが執務室に来たせいで、仕事が中断されてしまった。大体ブロアが殿下の側妃になればわたしの仕事だってここまで大変ではなかった。

 つまらない意地で側妃を断るからだ。殿下が今の妃殿下を身篭らせてしまったんだ。素直に婚約解消して側妃になればよかったものを、断るものだから悪評ばかりが広がり、セフィルに押し付けることになったんだ。

 伯爵家の次男で優秀な男、あの男なら公爵家の騎士団でそれなりに活躍してくれるだろう。

 金食い虫で我儘なブロアもやっとわたしのために役に立つ。さっさと嫁がせてこれ以上の出費は止めなければ。

 わたしは殿下達が手が回らない仕事まで押し付けられて毎日忙しく働いていた。
 それもこれもブロアのせいだ。
 ジェリーヌが死んでからは特に仕事ばかりして子供達のことは屋敷の者達に任せっきりにしたわたしもいけなかったのかもしれない。

 あんな我儘で傲慢な娘に育つとは思ってもみなかった。


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