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10話 わたくしは悪女ですから。
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殿下とわたくしの婚約破棄は今から3年近く前のこと。
わたくしは殿下の婚約者として自身を常に律し、清く正しく生きてきた。
それしか生き方を知らなかった。お母様が亡くなり、お父様に放置され家族の温かさすら知らずに生きてきたわたくしにとって、殿下との婚約だけが生きる全て、拠り所だった。
でも殿下にとっては、面白味もなく感情のないわたくしなど愛せるわけもなく、わたくしとの関係に距離を置こうとした。
周りの人たちはそれに対してわたくしが焦って殿下の愛を取り戻そうとしているように見えたらしい。だけど本当は……
『殿下、わたくしとの婚約を解消したいとお思いなら、ぜひ陛下達に進言されてください。わたくしの立場からは婚約解消の意思を伝えても聞いてはもらえません。しかし貴方の立場なら…… いずれこの国を背負う殿下の言葉なら聞き入れてもらえるでしょう』
ーーわたくしの言葉など、わたくしを嫌っているお父様には聞く耳すら持っていないのだから。
『君は僕を悪者にしようと思っているのかい?』
殿下は溜息を吐きわたくしを睨みつけた。
『違います……ただこのまま結婚しても愛のない家庭ではお互い行き詰まり苦しくなると思うのです』
『君は僕を愛していないと?はっ?あんなに毎日のようにこの王宮へ通い王太子妃としての勉強に励み、さらに最近は執務も行って、まるで僕の妻のように振る舞っているくせに』
『それは……わたくしが貴方の婚約者だからです。それがわたくしに与えられた仕事だから……わたくしなりに貴方の横に並べるようにと頑張っているのです』
『それが……それが、僕にとっては煩わしいんだ!頑張ってる?僕だって頑張ってるよ!王太子として、そしていずれこの国の王になるために。なのに周りは君への評価ばかりを口にする。君は……優秀過ぎるんだよ、それが僕を苦しめるんだ』
これは15歳の時に殿下に言われた言葉。それからの殿下は人前ではわたくしにも笑いかけるけど、二人になると氷のように冷たい目を向けるようになった。
そして、貴族社会を知るためにと言う理由から彼は学園に通うようになる。
学園に通い出した殿下はさらにわたくしを疎んじるようになった。愛はなくとも寄り添い互いを大切にできるならこの結婚もうまくいくのでは……なんて思っていたのに現実は所詮無理なことだった。
殿下はわたくしの顔を見るのも嫌い王宮でも顔を合わせることはなくなった。そして彼の仕事がなぜかわたくしに回ってくることが増えた。
『殿下は学園に通い始めました。お忙しいのでお暇であるブロア様にお任せするようにとのことです』
『わかりましたわ』
わたくしは自分の仕事と殿下の仕事を兼任することになった。もちろんわたくしの裁量では出来ないことだけは殿下にお願いした。
その度に、『こんな仕事もできないのか?』『君は思うほど優秀でないんだな』などお小言を言われる。
『申し訳ございません』その度にわたくしも謝る。
そんな生活が一年半も経つと、王宮内でのわたくしの立場はどんどん悪くなっていった。
噂が噂を呼び、まともに仕事もできない殿下の婚約者。こんな婚約者をこのまま殿下の婚約者として据えていてはこの国自体が立ちいかなくなるのでは?いずれ王妃になるのに王妃としての資格すらないと言われ始めた。
お父様には何度か呼び出され『しっかりしなさい』『自覚が足りない』と注意をされるようになった。
官僚達はわたくしがどれだけの仕事をしているのか知っていた。だって殿下の仕事のほとんどが彼らの手によってわたくしに回されているのだから。だけど誰もわたくしを庇うものはいなかった。
それは自分たちが楽をしたかったから。わたくしに殿下の仕事を押し付ければその日には仕上がる。殿下に催促しなくても済むし愚痴を言われたり嫌ごとを言われずに済む。
だからみんな口を閉ざした。
全てわたくしだけを悪者にして。ならばわたくしが声を上げればいい。
だけどそれすらしなかった。ううん、できなかった。
声を上げて誰がわたくしの言葉を聞いてくれるのだろう?お父様はわたくしのことを嫌っている。殿下は蔑んでいる。官僚達はわたくしをいいように利用している。
わたくしは……仕事に追われて体は疲れて、精神的にも追い詰められて考える余裕すらなかった。
そしてとうとう……
わたくしは殿下の婚約者として自身を常に律し、清く正しく生きてきた。
それしか生き方を知らなかった。お母様が亡くなり、お父様に放置され家族の温かさすら知らずに生きてきたわたくしにとって、殿下との婚約だけが生きる全て、拠り所だった。
でも殿下にとっては、面白味もなく感情のないわたくしなど愛せるわけもなく、わたくしとの関係に距離を置こうとした。
周りの人たちはそれに対してわたくしが焦って殿下の愛を取り戻そうとしているように見えたらしい。だけど本当は……
『殿下、わたくしとの婚約を解消したいとお思いなら、ぜひ陛下達に進言されてください。わたくしの立場からは婚約解消の意思を伝えても聞いてはもらえません。しかし貴方の立場なら…… いずれこの国を背負う殿下の言葉なら聞き入れてもらえるでしょう』
ーーわたくしの言葉など、わたくしを嫌っているお父様には聞く耳すら持っていないのだから。
『君は僕を悪者にしようと思っているのかい?』
殿下は溜息を吐きわたくしを睨みつけた。
『違います……ただこのまま結婚しても愛のない家庭ではお互い行き詰まり苦しくなると思うのです』
『君は僕を愛していないと?はっ?あんなに毎日のようにこの王宮へ通い王太子妃としての勉強に励み、さらに最近は執務も行って、まるで僕の妻のように振る舞っているくせに』
『それは……わたくしが貴方の婚約者だからです。それがわたくしに与えられた仕事だから……わたくしなりに貴方の横に並べるようにと頑張っているのです』
『それが……それが、僕にとっては煩わしいんだ!頑張ってる?僕だって頑張ってるよ!王太子として、そしていずれこの国の王になるために。なのに周りは君への評価ばかりを口にする。君は……優秀過ぎるんだよ、それが僕を苦しめるんだ』
これは15歳の時に殿下に言われた言葉。それからの殿下は人前ではわたくしにも笑いかけるけど、二人になると氷のように冷たい目を向けるようになった。
そして、貴族社会を知るためにと言う理由から彼は学園に通うようになる。
学園に通い出した殿下はさらにわたくしを疎んじるようになった。愛はなくとも寄り添い互いを大切にできるならこの結婚もうまくいくのでは……なんて思っていたのに現実は所詮無理なことだった。
殿下はわたくしの顔を見るのも嫌い王宮でも顔を合わせることはなくなった。そして彼の仕事がなぜかわたくしに回ってくることが増えた。
『殿下は学園に通い始めました。お忙しいのでお暇であるブロア様にお任せするようにとのことです』
『わかりましたわ』
わたくしは自分の仕事と殿下の仕事を兼任することになった。もちろんわたくしの裁量では出来ないことだけは殿下にお願いした。
その度に、『こんな仕事もできないのか?』『君は思うほど優秀でないんだな』などお小言を言われる。
『申し訳ございません』その度にわたくしも謝る。
そんな生活が一年半も経つと、王宮内でのわたくしの立場はどんどん悪くなっていった。
噂が噂を呼び、まともに仕事もできない殿下の婚約者。こんな婚約者をこのまま殿下の婚約者として据えていてはこの国自体が立ちいかなくなるのでは?いずれ王妃になるのに王妃としての資格すらないと言われ始めた。
お父様には何度か呼び出され『しっかりしなさい』『自覚が足りない』と注意をされるようになった。
官僚達はわたくしがどれだけの仕事をしているのか知っていた。だって殿下の仕事のほとんどが彼らの手によってわたくしに回されているのだから。だけど誰もわたくしを庇うものはいなかった。
それは自分たちが楽をしたかったから。わたくしに殿下の仕事を押し付ければその日には仕上がる。殿下に催促しなくても済むし愚痴を言われたり嫌ごとを言われずに済む。
だからみんな口を閉ざした。
全てわたくしだけを悪者にして。ならばわたくしが声を上げればいい。
だけどそれすらしなかった。ううん、できなかった。
声を上げて誰がわたくしの言葉を聞いてくれるのだろう?お父様はわたくしのことを嫌っている。殿下は蔑んでいる。官僚達はわたくしをいいように利用している。
わたくしは……仕事に追われて体は疲れて、精神的にも追い詰められて考える余裕すらなかった。
そしてとうとう……
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