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5話 今夜は眠りましょう。
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お母様の日記には病におかされていく日々が書かれていた。そこにはお母様の心の中の葛藤も。
重要な仕事を任されているお父様に心配をかけまいと明るく生きようとする頑張るお母様の気持ち。不安ばかりが押し寄せてくる日々に、逃げ場のない恐怖心を素直に書いていた。
この病は、お母様のご先祖様からの遺伝らしい。
もちろん近年ではほとんど発症していなかったが、伝え聞いてはいたと書いてある。
お母様本人も『まさか自分がこの病に罹るとは…』と心のうちが書かれていた。
そして娘であるわたくしがもし罹ったらと危惧している内容も。
この病の良いところは徐々に体が弱っていくだけですぐに寝込むわけでもなくものすごく症状が出るわけもない。
なのになぜこの病になったとわかるのか……それは胸に現れた痣だった。
その痣は、青い小さな点から徐々に広がっていく。今わたくしの痣は数センチの大きさになった。
その痣を見つけたのが、たまたま風邪をひいて診察をしてくださった先生だった。
『最近身体がだるくなかったか?』
『よく転んだりしないか?』
『食欲は?』
矢継ぎ早に聞かれて、『風邪をひいているので』と笑って答えた。
『しばらく往診に通わせて欲しい』そう言ってひと月ほど毎週往診に来た先生が、深刻な顔をしてお母様の手紙と日記を持ってきた。
わたくしの人生はそこから一変した。
セフィルと婚約して来年には結婚をするだろう、そのための準備を始めようとしていた時だった。
一度は婚約破棄をした身。
豪華な結婚式など興味もなく、お父様自身もわたくしの結婚式など『好きにしなさい』と言われるくらいにしか興味を持たれなかったので簡素にあげるつもりだった。
セフィルも『ブロアに任せます』と興味はなさそうだった。
だから病気が発覚した時、結婚準備はやめた。元々まだ動く前の段階だった。
半年経った今も結婚準備が出来ていないことをお父様もお兄様もセフィルも気がついていなかった。それくらいにしかわたくしのことは関心を持たれていない。
お兄様は今は領地で家族と幸せに暮らしているのでわたくしとの接触は最低限だけ。
だから今もこの屋敷で暮らすのは、ほぼわたくしだけ。お父様は今もほぼ王城で寝泊まりされている。
「セフィルとの婚約解消することを告げた手紙、読んでくださったかしら?」
なかなかお会いできないお父様に手紙を書いた。
「ま、わたくしの手紙なんて重要ではないから読まずに終わっているかもしれないわね」
自分の部屋で独り言を呟く。
公爵令嬢であるわたくしの部屋は、たくさんのドレスや宝石、高級な家具やシャンデリアに囲まれた華やかな部屋を普通なら想像するかもしれない。
現実は、ベッドと机が置いてあるだけ。高級ではない普通のもの。
ドレスはもちろんあるがお母様のお下がり。宝石も全てお母様から譲り受けたもの。
この屋敷に住まわせてもらっている身なので十分幸せなはず。別に新しいドレスも宝石も高級な家具も欲しいとは思っていない。
そう、わたくしに当てがわれる予算はあまりないらしい。
自分からも家令にお金の請求はしたことがないので知らないけど。
家令曰く、
『この屋敷に置いてもらえているだけ感謝して欲しい』と言われた。
婚約破棄された行き遅れの令嬢の扱いなんてそんなもの。
まだ護衛騎士や専属の侍女がつけられているだけマシなのだろう。
まあ、そこは、公爵家としては対面を保つため必要なだけかもしれない。
宰相であるお父様に汚点をこれ以上つけられない。あまりにも貧そで護衛すらつけていないと思われれば恥をかくのはお父様。
家令もそこは心得ていて必要なことだけはきちんとしてくれる。わたくしも『それでいい』と思って暮らしている。
ーーサイロがわたくしのそばにいてくれる。それだけでも心強かった。
だけど、セフィルと婚約解消したらこの屋敷を出ていくつもり。お母様の宝石は今時ではない流行遅れのデザインかもしれない。だけど一つひとつの宝石は希少なものが多く高級。売りに出せばそれなりの価値がつくものばかり。
セフィルに貰ったプレゼントは置いていくつもり。愛する彼からのプレゼント、持っていけば切なくなるだけ。
弁護士には婚約解消のための書類は渡してある。わたくしが姿を消せばセフィルも諦めてさっさとサインするだろう。
そうすれば今度こそ愛するリリアンナ様と結ばれる。
幸せになって欲しい。
醜聞にまみれたわたくしを婚約者にさせられ、王立騎士団で過ごすのはとても居心地悪いものだったと思う。
「もうすぐこの屋敷ともお別れね」また独り言。
今夜は体調が悪い。あの不味い薬のせいか食欲もなくひたすら眠い。
だからわたくしはそのまま眠りについた。
お母様の日記を抱えたまま………久しぶりに寝苦しさがなくぐっすりと眠れた。
重要な仕事を任されているお父様に心配をかけまいと明るく生きようとする頑張るお母様の気持ち。不安ばかりが押し寄せてくる日々に、逃げ場のない恐怖心を素直に書いていた。
この病は、お母様のご先祖様からの遺伝らしい。
もちろん近年ではほとんど発症していなかったが、伝え聞いてはいたと書いてある。
お母様本人も『まさか自分がこの病に罹るとは…』と心のうちが書かれていた。
そして娘であるわたくしがもし罹ったらと危惧している内容も。
この病の良いところは徐々に体が弱っていくだけですぐに寝込むわけでもなくものすごく症状が出るわけもない。
なのになぜこの病になったとわかるのか……それは胸に現れた痣だった。
その痣は、青い小さな点から徐々に広がっていく。今わたくしの痣は数センチの大きさになった。
その痣を見つけたのが、たまたま風邪をひいて診察をしてくださった先生だった。
『最近身体がだるくなかったか?』
『よく転んだりしないか?』
『食欲は?』
矢継ぎ早に聞かれて、『風邪をひいているので』と笑って答えた。
『しばらく往診に通わせて欲しい』そう言ってひと月ほど毎週往診に来た先生が、深刻な顔をしてお母様の手紙と日記を持ってきた。
わたくしの人生はそこから一変した。
セフィルと婚約して来年には結婚をするだろう、そのための準備を始めようとしていた時だった。
一度は婚約破棄をした身。
豪華な結婚式など興味もなく、お父様自身もわたくしの結婚式など『好きにしなさい』と言われるくらいにしか興味を持たれなかったので簡素にあげるつもりだった。
セフィルも『ブロアに任せます』と興味はなさそうだった。
だから病気が発覚した時、結婚準備はやめた。元々まだ動く前の段階だった。
半年経った今も結婚準備が出来ていないことをお父様もお兄様もセフィルも気がついていなかった。それくらいにしかわたくしのことは関心を持たれていない。
お兄様は今は領地で家族と幸せに暮らしているのでわたくしとの接触は最低限だけ。
だから今もこの屋敷で暮らすのは、ほぼわたくしだけ。お父様は今もほぼ王城で寝泊まりされている。
「セフィルとの婚約解消することを告げた手紙、読んでくださったかしら?」
なかなかお会いできないお父様に手紙を書いた。
「ま、わたくしの手紙なんて重要ではないから読まずに終わっているかもしれないわね」
自分の部屋で独り言を呟く。
公爵令嬢であるわたくしの部屋は、たくさんのドレスや宝石、高級な家具やシャンデリアに囲まれた華やかな部屋を普通なら想像するかもしれない。
現実は、ベッドと机が置いてあるだけ。高級ではない普通のもの。
ドレスはもちろんあるがお母様のお下がり。宝石も全てお母様から譲り受けたもの。
この屋敷に住まわせてもらっている身なので十分幸せなはず。別に新しいドレスも宝石も高級な家具も欲しいとは思っていない。
そう、わたくしに当てがわれる予算はあまりないらしい。
自分からも家令にお金の請求はしたことがないので知らないけど。
家令曰く、
『この屋敷に置いてもらえているだけ感謝して欲しい』と言われた。
婚約破棄された行き遅れの令嬢の扱いなんてそんなもの。
まだ護衛騎士や専属の侍女がつけられているだけマシなのだろう。
まあ、そこは、公爵家としては対面を保つため必要なだけかもしれない。
宰相であるお父様に汚点をこれ以上つけられない。あまりにも貧そで護衛すらつけていないと思われれば恥をかくのはお父様。
家令もそこは心得ていて必要なことだけはきちんとしてくれる。わたくしも『それでいい』と思って暮らしている。
ーーサイロがわたくしのそばにいてくれる。それだけでも心強かった。
だけど、セフィルと婚約解消したらこの屋敷を出ていくつもり。お母様の宝石は今時ではない流行遅れのデザインかもしれない。だけど一つひとつの宝石は希少なものが多く高級。売りに出せばそれなりの価値がつくものばかり。
セフィルに貰ったプレゼントは置いていくつもり。愛する彼からのプレゼント、持っていけば切なくなるだけ。
弁護士には婚約解消のための書類は渡してある。わたくしが姿を消せばセフィルも諦めてさっさとサインするだろう。
そうすれば今度こそ愛するリリアンナ様と結ばれる。
幸せになって欲しい。
醜聞にまみれたわたくしを婚約者にさせられ、王立騎士団で過ごすのはとても居心地悪いものだったと思う。
「もうすぐこの屋敷ともお別れね」また独り言。
今夜は体調が悪い。あの不味い薬のせいか食欲もなくひたすら眠い。
だからわたくしはそのまま眠りについた。
お母様の日記を抱えたまま………久しぶりに寝苦しさがなくぐっすりと眠れた。
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