【完結】2度目の人生は愛されて幸せになります。

たろ

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カリクシード(エドウィン殿下)②

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 その夜夢を見た。




 マリーナが「お兄さま!」と笑顔で話しかけてくる姿。
 愛するクリシアとベッドで睦みあう幸せな日々。


 愛するクリシアと可愛い妹。僕は国王として国を導き幸せだった……はず。

 なのに父上が無理やり結婚させたのがジュリエット。

 聡明で賢く優しいと城の中でも文官や官僚達から慕われている妻。

 いくら自分が努力しても彼女の才能には敵わない。欝陶しい女、遠ざけ隣国に一年追いやるも再び国に戻ってきた目障りな女。

 冷たい仕打ちをすれば胸がスッとする日々。でもまたすぐに苛立たせるジュリエット。

 地下牢へと追いやり目の前で姿を見なくなってホッとしたはずなのに。

 今度は帝国の皇帝、ベルナンドが僕の大切な国を滅ぼした。

 そしてジュリエットの本当の姿をベルナンドや家臣だった者たちから話されて後悔の中過ごし始めた。

 ジュリエットがこの国に貢献してきた事実を。愛する二人は逆に何をしてきたのか。
 国のお金を使い贅を尽くして遊び回っていたのは僕が愛した二人だった。
 まともに国の政務をこなさなかった二人。
 


 

 自分の愚かさに失望した。





 僕は王の地位を追われ平民に落とされた。

 怪我人達や民達と触れ合う日々。

 包帯を替えるたびに感謝され、食事を運ぶだけで感謝される。

 怪我をした人が少しでも治ってくることに喜びを感じる。
 助からなかった人に悲しみと自分たちの無能さを感じる。

 

「ベルナンド皇帝、あなたのおかげで目が覚めました。俺は少しでもみんなのために生涯尽くしていきたいと思っています」

 そう、僕は、ケイン、いや、皇帝であるベルナンドにそう言ったんだった。

 少しでも変わっていこう。

 考え方も表情も変わった。傲慢さも身勝手な行動も人を蔑む言葉も言わなくなった。

 僕なりに頑張っていた。


「カリクシード、お前はこれからどうしたい?」

「………できるならもう一度この国のために尽くしたい」

「お前は愛する妹と恋人がどうなったか心配じゃないのか?」

「あの二人は牢に囚われているのでしょう?俺には助けることはできない。罪を償って改心してくれることを願ってる」

「……へぇ、あの二人の今を見せてやるしかないか」

 地下牢へと連れて行かれた。

「二人はここに?」

「二人は罪を償った。ほら、そこにいるだろう」

 二人の遺体は見るに耐えられるものではなかった。

 数週間経った遺体は悪臭で地下牢に入ることも憚られた。

 マリーナは気が狂いながら処刑されたと聞いた。
 クリシアは性病をうつされ、鉱山で男達に犯されながら死んでいったらしい。

 そしてそこに僕一人取り残されて扉は閉められた。

「お前の罰はその遺体と最後を共に過ごすことだ。愛する二人と一生ここで暮らせ」

 扉にある小さな穴から声が聞こえた。

「……うっ……なぜ?二…人は?」

 吐きながら問いかけた。

「ジュリエットは死んだ」

「はっ?まだそんな嘘を。ジュリエットは確かにこの国のために尽くした。俺が間違っていたことは認める。しかし死んだのは嘘だ、そう見せかけただけだった」

「……あいつは、幼い頃重い病に罹り本当に必死で死と闘い治したんだ。お前と再会するために」

「は?俺と?」

「ジュリエットが言ってた。カリクシードと『また会おう』と幼い頃お茶会で仲良くなって二人は指切りをして次に会う約束をして別れたらしい。でもジュリエットはそれからお茶会に行くことはできなかった。
 ジュリエットはお茶会の後、鼻血を出して倒れたんだ。
 あいつは元々体が弱かったんだ」

「…………お茶会?………ジュリエットがあの時の女の子?……だがあの女の子はとても可愛いく笑っていたんだ。ジュリエットは笑わない……」

「あいつは確かにあまり笑わなくなった。それは大人になったからでもあり、この国を担う王妃としての責任感から笑うことも忘れ必死だったんだろう。あいつの味方になってくれる者などいなかったからな。お前も含め敵しかいないからな」

「ジュリエットが……俺は初恋の女の子に……嫌われたと思っていた。裏切られたと。だからクリシアの天真爛漫な性格に惹かれた。明るくて可愛らしくて俺に甘えてくるそんなクリシアが愛おしくて。ジュリエットを見るとなぜか心の中が騒ついてイライラして、なのに気になって。それは忘れていたあの女の子のことを無意識に思い出していたのか……」

「ジュリエットは、また再発した。そして……治療が間に合わず亡くなった。俺はお前達三人が許せない。それにこの国も。だがジュリエットなら国民には罪はないと必ず言うはずだ。お前達のこともたぶん許してしまうだろう。あいつは冷たく見えるが心優しい、困っている人を見れば手を差し伸べてしまうような奴だ」

 ベルナンドは低い声になった。とても怒りのこもった恐ろしい声だった。

「俺はお前達三人だけは絶対許さない。二人はもう死んだ。お前はその二人のそばで死んでいけ、優しさと正常な感情を取り戻した今お前はここで死ぬんだ」

 そしてベルナンドは去っていった。

 薄暗い地下牢には水飲み場があるだけ。

 食べ物も着るものもない。

 目の前には異臭が放つ僕が愛した二人の遺体だけだった。

 ベルナンドは僕のことを許さなかった。

 それが答えだ。

 何を間違えたのだろう。

 僕は愛した二人を守り慈しんできたはずだったのに。

 ジュリエットの存在が僕の心の奥底に入り込み苛立たせ、そして奥底からじわりと染み込んでいった。








「はっ」

 目覚めた僕はカラカラに喉が渇いていた。

 体は汗でびっしょりになっていた。

「………ゆ…め……?」

 カラカラになった喉から絞りだすような声が出た。

 いや、あれは、いつかの記憶……

 もう二度と思い出したくない記憶。

 僕はあの後どうなったのか……

 いくら考えても思い出さない。

 ただ、ケインの後ろ姿が、ベルナンドと何故か重なった。

 全く顔も声も体型も違うのに。

 僕はゴクッと渇いたはずの喉を鳴らした。



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