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18話  前世の記憶。

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「シェリーナ……」

 医務室のベッドの脇でぐったりと倒れ込むように眠るシェリーナ。

 俺は慌ててシェリーナを抱きかかえベッドに寝かせた。

 血の気が引いて真っ青な顔をしたシェリーナ。

 その顔を見た瞬間、ジュリエットと重なった。

 そう、ジュリエット。

 俺が愛した女。

 病で共に治療のため暮らした幼い頃。

 ジュリエットはカリクシードを好きになりもう一度カリクシードに会いに行くんだと必死で苦しい治療に耐えた。

 俺はそんなジュリエットの隣で、ジュリエットが頑張るならと俺も必死で病を克服した。

 そしてジュリエットは初恋の君であるカリクシードと結婚した。だがそれは前国王の王命であり政略結婚。
 カリクシードの意に沿わないことだった。

 だがジュリエットは健気に忌み嫌われても尽くすだけ尽くし、愛されることはないのに体がボロボロになるまでカリクシードのために国のために尽くし、最後は地下牢に囚われた。

 ジュリエットを慕う者達に助けられ地下牢から逃げ出せたのに、不幸はさらにやってきた。

 ジュリエットの病は再発して、結局死を迎えた。
 俺は生きる希望もなく、カリクシード達を不幸のどん底に追いやって、そして、俺もまたジュリエットの元に逝ったんだった。

 ジュリエットは
『あなたって馬鹿なんじゃないの?』
 と苦笑いをしながら俺を迎えた。

 俺はハワー帝国の皇帝。そしてカリクシードはフォード王国の国王だった。

 俺はジュリエットの死後、フォード王国を潰した。

 そして今この国は、別の名前のベリーナ王国になっていた。

 ベリーナ……それはジュリエット・ベリーナ侯爵令嬢だった頃の名前から俺がつけた。

 ジュリエットを国民が忘れないように。

 なのに、生まれ変わった俺は全ての記憶を忘れてしまっていた。


 絶対に見つけ出すとあの世で約束したのに。

 もう一度二人で幸せになると約束したのに。

 なのに俺はシェリーナを不幸にすることしかしていない。

 今だって一番そばにいたかったのにマリアンナ殿下のそばにいた。幼い時だって俺のせいで傷つけた。

 シェリーナはまだジュリエットの時の記憶は蘇っていないのだろうか?

 出来れば、あんな辛かった日々など忘れて『今』を生きて欲しい。

 なのにこの不安は……さっきのエドウィン殿下の言葉。あれは、カリクシードの生まれ変わり?

 くそっ。

 俺はシェリーナを守りたいのに、俺より立場の上であるエドウィン殿下に逆らうことはできない。

 できるだけ上手く立ち回らなければ。

 マリアンナ殿下と婚約でもさせられてはたまらない。あんな女を愛することも妻にすることもできない。

 ただ一人、唯一愛することができるのはシェリーナだけだ。

 俺はシェリーナの手をそっと握った。

「すまない、俺はお前を離してやれない。何があってもお前は俺のものだ。俺が幸せにする」

 そうたとえこの国を捨ててしまおうと俺はシェリーナをエドウィン殿下には渡さない。あんな男に渡してまた不幸な人生など送らせない。



 この城にこれ以上シェリーナを置いておくことはできない。

 俺は眠るシェリーナを抱きかかえて医務室を出た。

「何をしているんですか?」

 看護師や医者が俺を止めた。

 二人は俺がシェリーナを連れ出そうとしているのに気がつき、
「まだ動かせる状態ではありません」と引き留めようとした。

「ここには置いておけない。シェリーナは屋敷に連れ帰り屋敷で看るつもりだ」

 振り切ってぐったりしたままのシェリーナを抱きかかえ公爵家の馬車の止まっている場所へと向かった。

 途中エドウィン殿下に出会した。

「ケイン、まだシェリーナ嬢は体調が良くないだろう?今晩は王城内に泊まらせたほうがいいんじゃないのか?」

 一瞬、眉根を寄せたがすぐに口元を笑みを浮かべた。

「ケイン、何を焦っているんだ?」

 殿下はそう言うと俺の腕を掴んだ。

「シェリーナが先ほど家に帰りたいと僕に言ったんです。ですから、ゆっくりと我が家で過ごさせてあげたいと思っております」

 ーーそう、シェリーナだって、ジュリエットの時辛い思いをしたこんな城に居たくないはずだ。

「そうか……シェリーナ嬢は公爵家の養女だったよね?」

「………いえ、預かっているだけです」

 あんに俺とは結婚はできないと言いたいんだろう?

 だがシェリーナと結婚するのは俺だ。

 もう二度とカリクシードにジュリエットはやらない。

 シェリーナは俺が幸せにする。

 俺はシェリーナの顔を覗き込んで『もう二度とあんな辛い思いはさせないからな』と心の中で誓った。


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