【完結】2度目の人生は愛されて幸せになります。

たろ

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16話

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 シェリーナが俺の前で倒れた。

「シェリーナ?」

 慌ててシェリーナを抱きしめた。

 意識を失う前、真っ青な顔をしたまま「ベルナンド……」と呟いた。

 『ベルナンド』……その言葉になぜか胸が締め付けられた。

「シェリーナ?」
 何度声をかけても返事はない。俺はシェリーナを横抱きにして急いで医務室へと向かった。

「ケイン?」

 俺の背中に向けて声をかけてきたのはエドウィン殿下だった。

「シェリーナ嬢?どうしたんだ?」
 殿下は心配して声をかけてくれたんだろう。だけど……

「すみません急ぎますので」

 不快だと思われてもいい。それよりも早くシェリーナを。





「先生、診てください!」
 俺は医務室の扉を開けてすぐに大声で叫んだ。
 そして急いで、だけどそっとシェリーナをベッドに寝かせた。

 ぐったりしているシェリーナ。
 元気になったとはいえ、やはり細い、細すぎて折れてしまいそうだった。

 俺は自分がシェリーナに仕出かしたことを思い出し、堪らなくなる。

 またシェリーナが辛い目にあったら。苦しんだら。

 そう考えるだけで胸が張り裂けそうになる。俺はあの時の後悔した出来事を一生忘れられない。

 俺の態度が、俺のせいで、シェリーナを苦しめた。

 だから俺はシェリーナを守る。

 そう今度こそは……そう今世では……

 えっ?

 ………今世?

「ケイン殿、退いて!」

 俺は先生と看護師に向こうへ行って待つようにと言われた。

 看護師がシェリーナの重たいドレスを脱がし始めた。

 俺は慌てて廊下へと出た。

 そこにまた現れたのは殿下だった。

「シェリーナ嬢は?」

「今診てもらっています。先程は申し訳ありませんでした」

 無礼を謝り頭を下げると「ケイン、謝罪はいい。ただ頼みがあるんだ」と口元を緩ませて嗤った。

「はい?何でしょうか?」

 幼い頃から兄のように慕っているエドウィン殿下。王城に行けばよく遊んでもらっていた。

「妹のマリアンナと一曲踊ってやってもらえないかい?君は令嬢達と踊らないはずなのに、今回シェリーナ嬢をエスコートして踊っただろう?マリアンナがそれを見てかなりショックを受けているんだ」

「しかし、シェリーナが…………「うん、そうだね。でも医者が診てくれているんだろう?」

 俺が断ろうとするのを無理やり止められた。

「少しくらい離れても大丈夫なはずだ。シェリーナ嬢のことは僕が侍女に頼んで様子を見てもらうから、心配しないでくれ」

 そう言うと殿下がまた嗤った。

 俺の肩をポンッと叩く。
「マリアンナを悲しませたくないんだ。兄の気持ちも分かるだろう?」

 俺の背中を押して会場へと向かわせた。「よろしくね、ケイン。頼むよ」






 公爵嫡男としての力はあっても王族には逆らえない。

 マリアンナ殿下の俺への気持ちは知っていた。

 エドウィン殿下が俺の二つ上でマリアンナ殿下は俺と同じ歳。

 何度か婚約の打診がきたが、父上に何かしら理由をつけて断ってもらっていた。

 彼女を愛することはできない。

 幼馴染ではあったが、彼女の気の強さ、自己中心的な考えについていけない。

 俺が女嫌いになった原因でもあった。

 いくら政略結婚が当たり前の貴族社会でも全く気持ちがない女性と結婚することはできない。

 そんな俺の気持ちをわかっていてエドウィン殿下はマリアンナ殿下と踊ってこいと言った。

 俺がマリアンナ殿下と踊れば、婚約の打診がまた来るだろう。

 そして断る理由もそろそろ尽きてきた今、俺は……
 考えるだけで気が重い。

 だけど仕方がない。

 俺は笑顔でマリアンナ殿下に声をかけてダンスを踊った。

 その後、なかなか離してもらえず俺はシェリーナのところへ戻れずにいた。

 マリアンナ殿下が嬉しそうに俺に料理を差し出す。俺はまた仕方なく愛想笑いを浮かべて料理を口に運ぶ。

 学校のことや社交界のこと、マリアンナ殿下の話は尽きない。

 俺は適当に相槌を打ちながら聞いていた。

「ケイン様?」俺の顔を覗き込むマリアンナ殿下の顔は、友人たち曰くとても美しいらしい。

 豪華なドレスに高級なアクセサリー、綺麗にセットされた髪、手入れされた白い肌、とても丁寧に化粧を施されて、この国一番の美しい女性が俺の目の前にいる。

 だがそんな作られた美しさより、素顔に近い化粧、豪華さはないけど本人に一番似合うドレス、俺がプレゼントしたリボンを髪につけて微笑むシェリーナの方が何倍も、いや何十倍も美しく見える。

「ケイン様、わたくし、疲れてしまったの。少し座りたいわ」

 王族専用の控室へ仕方なく向かう。

 もちろんそばには護衛騎士と侍女達がついてくる。

 ならば俺はいらないのでは?

 そう思いつつもエスコートをさせられているので、俺がマリアンナ殿下の手をとって共に歩いた。

 心の中では大きな溜息をつきながら。



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