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8話
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自分の今までのことを考えるだけでゾッとした。
父様にはいつも言われていた。
『お前はいずれこの公爵家の当主となるんだ。子供だからと言って甘えるな、常に考えて行動をしなさい』
だから俺は常に勉強だって剣の鍛錬だって誰よりも頑張ってきた。
周囲からの評価を常に気にしてきたはずだ。
学校でも成績は常にトップだったし友人達も俺と同等の地位、学力の者達ばかりで、いつも周りからの羨望は当たり前、持て囃されていた。
俺は調子に乗っていたのか?
目の前で繰り広げられるシェリーナへのメイド二人の罵倒に俺はクローゼットの中で聞くに耐えられなくて何度飛び出そうとしたかわからない。
そんな俺の肩を掴んで「今は耐えてください」とアルトが言う。
何故だ?
そう思った。
だけど俺の方を掴むアルトの手は力がギュッと何度も入っていた。
本当はアルトもすぐ止めたかったのだろう。
じやあ、何故?今止めない?
ずっと耐えた。この状況を黙って見ていることも俺にとっては罰なのかもしれない。そう思って。
俺とアルトはシェリーナが鞭で打たれようとしたのをみて、慌ててクローゼットから出て止めた。
メイド達は俺たちが二人を地下牢へ入れようとしてまた怒り出した。
「あんたのせいで!」
「この屋敷に必要としない子なのよ!」
「黙れと言ったのがわからないのか?シェリーナは母上の大切な友達の娘だ。お前達が勝手に決めつけるな!」
二人は「ひっ」とたじろぐ。
「で、でも、ケイン様は言いましたよね?邪魔だと、鬱陶しいと」
「そ、それは……」
俺は確かにシェリーナに対して酷い言葉を平気で言ってた。イライラするこの気持ちをそのまま弱い何も言えない立場のシェリーナに向かって。
「たとえケイン様がそう言ったとしてもあなた達がシェリーナ様を虐げる理由にはなりません。私の管理不足でシェリーナ様を傷つけ辛い思いをさせてしまいました。
これからは絶対こんなことがないように徹底管理をいたします、そしてマーラにも厳しく指導いたします。
許してくださいと言える立場ではございません。私も後ほどきちんと自分を律するつもりでございます」
アルトの言葉にハッとした。律する?アルトは俺のせいでもしかしたら執事を辞めるのか?
「アルトさんはいつもわたしに優しかったです。ケイン様は……わたしが返事をしないから……ごめんなさい……」
シェリーナが震えながらも小さな声で話し出した。
「でも、ノアを助けてくれたのはケイン様なの。ケイン様……ノアを殺さないで!追い出さないでください」
シェリーナはノアのことになると必死だ。俺はそんなシェリーナを守ると決めたのに。
……俺のせいでごめん。
「ノアは、俺にとっても大切だから大丈夫だ。お前が会いにいけない時はいつもジョー達が面倒を見てくれているんだ」
「……えっ?」
さっきまで泣かずに我慢していたのだろう。シェリーナの目から涙がポロっと落ちた。
「泣くな!ノアは大丈夫だから!こいつらに好き勝手にさせない!お前だって、今度から俺と一緒に食事をするからもうお腹が空いたなんて言わせない」
「………で、でも……わたしなんか……」
「ごめん、お前が返事をしてくれないから意地になって意地悪した。もうしない。お前はここで幸せになる権利があるんだ。俺がこれから絶対守るから、ごめん」
俺は……悔しくて自分に腹が立って……
「ごめんな、俺のせいで……痛かったよな、辛かったよな、腹減って……ごめんな」
それからメイド達はすぐに衛兵が地下牢へと連れて行った。これから厳しい取り調べをして警ら隊に引き渡す。
両親がいないこの屋敷の仮の当主は幼いながらに俺だ。
もちろんアルトが俺のそばで助言もくれるし代わりにほとんど動いてくれる。
だけど今は俺が……俺がシェリーナを疎ましく思ったせいで、こんな辛い思いをしていたのか。
「シェリーナ、とりあえず朝食を摂ろう」
俺はシェリーナに手を差し出した。
なのにシェリーナは体をビクッとさせて震えながら手を差し出した。
俺は「……大丈夫」そう言って優しくシェリーナに言うと手を繋ぎ食堂へと向かった。
シェリーナは怖いのか歩くのも覚束ない。だから俺はシェリーナに合わせてゆっくり歩いた。
そうか……俺に合わせてもらうんじゃなくて、俺がシェリーナに合わせればイラつかないんだ。
あの可愛いシェリーナの笑顔はいつもノアにしか向いていないとわかった時に、俺はノアに嫉妬しつつ、ノアを守ればシェリーナが喜ぶと思っていた。
シェリーナがうちの屋敷であんな酷い目にあっているなんて知らなかったから。
俺が守るのはノアと………本当はシェリーナだったんだ。
食堂へ行くと当たり前のように俺の分しか料理は用意されていない。
シェリーナが来たのを見て驚いた使用人達。
俺はシェリーナと食事をしないことをなんとも思っていなかった。だから使用人達も用意はしない。
来るなんて誰も思っていないから。
俺が変わらなければ。
「これからはシェリーナも俺と一緒に食事をする。すぐに用意してくれ」
その言葉に使用人達が固まった。
返事は?
俺が使用人を睨むように見るとみんなが目を逸らす。
そんな中、料理長が厨房から出てきて言った。
「申し訳ございません。シェリーナ様の食事は用意するなとケイン様が仰ったと聞いております」
「はっ?俺が?」
「はい、マーラからそう聞いております」
マーラ?侍女長が?
「俺はそんなこと言った覚えはない。確かにシェリーナと一緒に食事はしないと言ったが」
そうだ、俺は両親が領地へ行ってすぐにシェリーナに「お前とは一緒に食事はしたくない」と言った。
それがそんなふうに取られたのか?
「おかしいだろう?だからと言ってシェリーナにまともな食事を食べさせないのは」
「……それがケイン様のお考えなのでは?」
シェリーナは俺の手をそっと外した。
父様にはいつも言われていた。
『お前はいずれこの公爵家の当主となるんだ。子供だからと言って甘えるな、常に考えて行動をしなさい』
だから俺は常に勉強だって剣の鍛錬だって誰よりも頑張ってきた。
周囲からの評価を常に気にしてきたはずだ。
学校でも成績は常にトップだったし友人達も俺と同等の地位、学力の者達ばかりで、いつも周りからの羨望は当たり前、持て囃されていた。
俺は調子に乗っていたのか?
目の前で繰り広げられるシェリーナへのメイド二人の罵倒に俺はクローゼットの中で聞くに耐えられなくて何度飛び出そうとしたかわからない。
そんな俺の肩を掴んで「今は耐えてください」とアルトが言う。
何故だ?
そう思った。
だけど俺の方を掴むアルトの手は力がギュッと何度も入っていた。
本当はアルトもすぐ止めたかったのだろう。
じやあ、何故?今止めない?
ずっと耐えた。この状況を黙って見ていることも俺にとっては罰なのかもしれない。そう思って。
俺とアルトはシェリーナが鞭で打たれようとしたのをみて、慌ててクローゼットから出て止めた。
メイド達は俺たちが二人を地下牢へ入れようとしてまた怒り出した。
「あんたのせいで!」
「この屋敷に必要としない子なのよ!」
「黙れと言ったのがわからないのか?シェリーナは母上の大切な友達の娘だ。お前達が勝手に決めつけるな!」
二人は「ひっ」とたじろぐ。
「で、でも、ケイン様は言いましたよね?邪魔だと、鬱陶しいと」
「そ、それは……」
俺は確かにシェリーナに対して酷い言葉を平気で言ってた。イライラするこの気持ちをそのまま弱い何も言えない立場のシェリーナに向かって。
「たとえケイン様がそう言ったとしてもあなた達がシェリーナ様を虐げる理由にはなりません。私の管理不足でシェリーナ様を傷つけ辛い思いをさせてしまいました。
これからは絶対こんなことがないように徹底管理をいたします、そしてマーラにも厳しく指導いたします。
許してくださいと言える立場ではございません。私も後ほどきちんと自分を律するつもりでございます」
アルトの言葉にハッとした。律する?アルトは俺のせいでもしかしたら執事を辞めるのか?
「アルトさんはいつもわたしに優しかったです。ケイン様は……わたしが返事をしないから……ごめんなさい……」
シェリーナが震えながらも小さな声で話し出した。
「でも、ノアを助けてくれたのはケイン様なの。ケイン様……ノアを殺さないで!追い出さないでください」
シェリーナはノアのことになると必死だ。俺はそんなシェリーナを守ると決めたのに。
……俺のせいでごめん。
「ノアは、俺にとっても大切だから大丈夫だ。お前が会いにいけない時はいつもジョー達が面倒を見てくれているんだ」
「……えっ?」
さっきまで泣かずに我慢していたのだろう。シェリーナの目から涙がポロっと落ちた。
「泣くな!ノアは大丈夫だから!こいつらに好き勝手にさせない!お前だって、今度から俺と一緒に食事をするからもうお腹が空いたなんて言わせない」
「………で、でも……わたしなんか……」
「ごめん、お前が返事をしてくれないから意地になって意地悪した。もうしない。お前はここで幸せになる権利があるんだ。俺がこれから絶対守るから、ごめん」
俺は……悔しくて自分に腹が立って……
「ごめんな、俺のせいで……痛かったよな、辛かったよな、腹減って……ごめんな」
それからメイド達はすぐに衛兵が地下牢へと連れて行った。これから厳しい取り調べをして警ら隊に引き渡す。
両親がいないこの屋敷の仮の当主は幼いながらに俺だ。
もちろんアルトが俺のそばで助言もくれるし代わりにほとんど動いてくれる。
だけど今は俺が……俺がシェリーナを疎ましく思ったせいで、こんな辛い思いをしていたのか。
「シェリーナ、とりあえず朝食を摂ろう」
俺はシェリーナに手を差し出した。
なのにシェリーナは体をビクッとさせて震えながら手を差し出した。
俺は「……大丈夫」そう言って優しくシェリーナに言うと手を繋ぎ食堂へと向かった。
シェリーナは怖いのか歩くのも覚束ない。だから俺はシェリーナに合わせてゆっくり歩いた。
そうか……俺に合わせてもらうんじゃなくて、俺がシェリーナに合わせればイラつかないんだ。
あの可愛いシェリーナの笑顔はいつもノアにしか向いていないとわかった時に、俺はノアに嫉妬しつつ、ノアを守ればシェリーナが喜ぶと思っていた。
シェリーナがうちの屋敷であんな酷い目にあっているなんて知らなかったから。
俺が守るのはノアと………本当はシェリーナだったんだ。
食堂へ行くと当たり前のように俺の分しか料理は用意されていない。
シェリーナが来たのを見て驚いた使用人達。
俺はシェリーナと食事をしないことをなんとも思っていなかった。だから使用人達も用意はしない。
来るなんて誰も思っていないから。
俺が変わらなければ。
「これからはシェリーナも俺と一緒に食事をする。すぐに用意してくれ」
その言葉に使用人達が固まった。
返事は?
俺が使用人を睨むように見るとみんなが目を逸らす。
そんな中、料理長が厨房から出てきて言った。
「申し訳ございません。シェリーナ様の食事は用意するなとケイン様が仰ったと聞いております」
「はっ?俺が?」
「はい、マーラからそう聞いております」
マーラ?侍女長が?
「俺はそんなこと言った覚えはない。確かにシェリーナと一緒に食事はしないと言ったが」
そうだ、俺は両親が領地へ行ってすぐにシェリーナに「お前とは一緒に食事はしたくない」と言った。
それがそんなふうに取られたのか?
「おかしいだろう?だからと言ってシェリーナにまともな食事を食べさせないのは」
「……それがケイン様のお考えなのでは?」
シェリーナは俺の手をそっと外した。
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