【完結】2度目の人生は愛されて幸せになります。

たろ

文字の大きさ
上 下
3 / 31

3話  シェリーナは。

しおりを挟む
「お迎え………?」

 寒さと飢えで体に力が入らない。

 震える手をおば様に向けた。

「まぁ、そんなに痩せて!それに顔色も悪いし、こんな薄暗い空気の悪い部屋に押し込められて!」

 わたしの手を優しく握りしめるとその手を頬にあてた。


 ーーあったかい。

「絶対に許せないわ!」

 おば様は怒りを露わにすると近くにいた男の人に「バルト男爵はどこに居るの?」と厳しい口調で聞いた。

「だ、旦那様はただいま外出中です」

「そう、じゃあ待たせてもらうわ。シェリーナは先に我が家に連れて行ってちょうだい」

 おば様の一声で「はい!」と別の男の人が慌ててわたしを優しく抱き上げてくれた。

「お可哀想に……こんなに痩せて」
 男の人はわたしを労るように抱き上げて「もう大丈夫ですからね」と言って馬車に乗せてくれた。

 わたしはその時まだ5歳。疲れて馬車の中で眠ってしまっていた。

 その後気がつけば暗いあの部屋から以前のようなとても素敵な可愛らしい部屋に連れてこられていた。

「……ここは?」
 キョロキョロと周りを見回した。

 また叔父様が来て何か言われるかもしれない。

 こんな綺麗な部屋にいることがバレたら今度はどんな目に遭うんだろう。

 そう考えるとこの部屋にいるのが怖かった。でも声を出して泣くと『うるさい!』『このクソガキ!』と言って髪の毛を引っ張られたり頬を叩かれる。

 だからどんなに辛くても悲しくても泣かないの。
 だって人殺しは泣いたらいけないんだって叔父様が言ってた。

 泣くことすら許されないんだって、苦しんで苦しんで生きればいいと言われた。

 叔父様のわたしを見る目は怒りに満ちていた。本当にわたしのことを恨んでいて人殺しだと思っていた。
 あの頃幼心に叔父様だけは怒らせてはいけないとずっと怯えていた。

 あれから叔父様がどうなったかは分からない。ケイン様のお母様、テリーヌ様は何も話してくれなかったから。

 従姉妹のマデリーン様ともお会いする機会はない。でももし叔父様や叔母様、マデリーン様にお会いしたらわたしはどんな態度を取るのだろう。

 そんなことを考えるだけで体が震え上がり自分の体を自分で抱きしめることしかできなかった。


 テリーヌ様のお屋敷は以前に比べてとても過ごしやすい。

 ただ一つ年上のケイン様はわたしのことがお嫌いのようだ。

『お前きらい』

 初めて会った時の言葉。

 まだ人が怖くて、人と会話することができず、声を出すことすら怖くて……俯いてばかりだった。

 そんなわたしの態度にケイン様は苛立ちを覚え、屋敷の中ですれ違うたびに『おい!』とか『挨拶くらいしろよ!』と言われた。

 ーー挨拶しなきゃ。

 心の中では焦って何か言わなきゃと思ってるのに、何故か言葉が出てこない。

 ケイン様はわたしをとても嫌うようになった。

 テリーヌ様と公爵様は、少しずつ慣れていけばいいと言ってくださって、わたしが声を出せずにいることも心配はしてくれても怒ったりはしなかった。

 でもやはりわたしの態度が悪いのか、テリーヌ様達が領地へと旅立ってから、この屋敷でも少しずつ使用人たちの態度が変わっていった。

 いつもの料理の品数が減っていき、たまに食事を忘れていたと言って出してもらえなかったり、外に出られないように外から鍵をかけられてしまうようになった。

 わたしを助けてこの屋敷に連れてきてくれた執事のアルトさんがいる時は『普通』なのに、アルトさんがいない時はわたしに対する態度は『普通』ではなくなる。

 だけどそれを誰かに言うつもりはなかった。

 だってわたしは『人殺し』だから。

 どんなことをされてもわたしはそれを受け入れなければいけない。

 叔父様はそう教えてくれたから。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】

佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。 異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。 幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。 その事実を1番隣でいつも見ていた。 一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。 25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。 これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。 何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは… 完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

処理中です...