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1話 初恋
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「お前きらい」
「…………」
「返事くらいしろよ」
目の前の女の子に俺はいつもイライラしていた。
俺が7歳の時に突然家にやってきた女の子。
両親の恩人だった人の娘。俺は一度も会ったことなんてなかった。
でも両親は『可愛らしい女の子なんだ』とか『明るい女の子なんだ』とかよく話してくれていたので、会ったこともないのに勝手に自分の中で想像していた。
どんなに可愛い子なんだろう?
会ってみたい。
笑った顔って向日葵みたいなのかな?
それとも薔薇のような感じ?
いい匂いがするのかな?
会えたら「よろしく」って笑顔で迎えよう。
一番の仲良しになるんだ。
ワクワクしていた。
ずっと一人で想像していた。
なのに目の前の女の子は笑うこともなく話しかけても返事すらしない、俺のことを見ようともしない。
いつも下を向いてばかりで笑わない。
話もしない。
暗いし、面白くないし、楽しくもない。
両親が話しかけても、小さな声で『はい』しか言わない。
なんて暗いんだ。可愛げすらない。
父様や母様があんなに気を遣っているのに。少しくらいお前も気を遣えよ!
だけど知らなかったんだ。
あんな風に泣くなんて。
俺がどんなに冷たく当たっても泣きもしなかったくせに!
たかが、飼っている猫がぐったりしているからって、猫を抱えてどうしていいのかわからずに真っ青になって佇んで声を殺して泣いていた。
それは……
朝の剣の稽古が終わり、俺は屋敷に戻ろうと庭を歩いていた。
「うっ……ノア……」
女の子の泣き声がどこからか聞こえてきた。とても小さくて聞き逃してしまいそうな声なのに、なぜか耳に残ってしまう。とても切なくなる声だった。
「……誰?」
周囲を見回す。
綺麗に手入れされた庭に女の子の姿はない。俺は辺りを見回しながら木が生えてる場所へと移動した。
「…………ノア……」
また聞こえた。その声はとても切なくて俺の胸をギュッと締め付けた。
そして、見つけたのは木陰で佇む女の子、俺が毛嫌いしていた『シェリーナ』だった。
「げっ、シェリーナ?」
俺は思わずいつもの癖でシェリーナに対して意地悪な言葉をはいた。
「…………」
シェリーナはなにも答えずチラッと俺を見ると、またいつものように無視するだろうと思っていたら、猫を抱えて俺の方へと走ってきた。
「ケイン様……助けてください。お願い……します」
目を真っ赤にして涙をためていた。
「お、俺?」
初めて俺の名前をまともに呼んだシェリーナ。
可愛らしい声、か細いその声に俺は……カァッと顔が真っ赤になった。
な、なんだ、この可愛さ。こいつ、やばい。綺麗な顔のシェリーナの泣き顔は俺の心を鷲掴みにして離さなかった。
「ノアが……さっき野犬に襲われて……お願い、助けてください」
ポロポロと泣くその姿は庇護欲を誘い思わずゴクッと喉がなった。
可愛い。
こいつ、こんなに可愛かったか?いつも下ばかり向いてまともに顔なんて見てなかった。
涙する姿が可愛いなんて、父様に言ったら絶対ぶん殴られる。
『女の子は守るべきもので泣かすものではない』と言うだろう。
まさか息子がずっと意地悪なことを言っていたなんて知らないから、今のところ叱られないけど、俺の今までの態度がバレたら……
考えただけでゾッとした。
「馬丁長のところへ行こう」
俺が猫を受け取ろうとしたら「………」シェリーナはなにも言わず首を横に振って猫を渡そうとしない。
俺は信用はされていないみたいだ。
くそっ。
今までのこと考えたら仕方ないか。
今更後悔しても仕方ない。
だって女の子の涙がこんなに儚げで可愛いなんて知らなかったんだ。
俺の周りにいる女の子はみんな俺の機嫌を取ろうと顔色を窺いながら話しかけてくるし、すぐに可愛こぶってなんだか気持ち悪い子ばかりだ。
はっきり言って女の子って苦手だ。
泣く時はみんなハンカチで顔を隠し、本当に泣いているのか?と疑ってしまう。あれって泣き真似だろう?
どう見たって同情して欲しいと言わんばかりの態度だし、変に優しく声をかけると、調子に乗ってキーキー俺の横で訳のわからない話題ばかり、人の悪口とか自分の自慢話とか話して、煩わしいだけだ。
だけどこいつは俺に機嫌を取ることもなかった。だからこそつい気になって、俺に少しは興味を持って欲しくて意地悪なことばかり言った。
俺の顔を見て欲しかった。だって一度も顔を上げようとしないんだ。
なのに、猫のためなら必死で話しかけたくもないだろうに俺に頼ってきた。
だから俺は馬の世話が上手な場丁長のジョーのところへ連れていくことにした。
ジョーは馬の世話が仕事だけど病気をした馬の治療もする。彼は動物だけにしか癒しの魔法が使えないと以前教えてくれた。
『わしは人間には癒しの魔法が使えないんで、出来損ないと言われているんです』
俺からしたら動物を助けることができるジョーはカッコよくて憧れるんだけど、癒しの魔法が使える者にとって、動物しか治せないジョーは出来損ないで侮蔑されるらしい。
俺とシェリーナは猫のノアを干し草に寝かせてジョーの治療する姿を二人でじっと見ていた。
シェリーナは手が震えていた。俺はそんなシェリーナの手をギュッと握って「大丈夫だから」と声をかけて、ジョーの治療を見守った。
ジョーの手から何か温かい光が出てノアの身体を光が包み込んだ。
「……………ミャー」
か細い鳴き声が聞こえた瞬間、俺はシェリーナの手をギュッと力を込めた。
「はああ~、よかった」
シェリーナも怖かったと思う。だけど俺だってすっげぇ怖かった。手は汗でびっしょりだ。
だって目の前で弱っていって死ぬかもしれないんだ。俺はまだ死に立ち会ったことがなかったから、めちゃくちゃ怖かったんだ。
シェリーナはこんな怖い思いを、両親が亡くなってしてたんだ……
俺はなんだか情けなくて恥ずかしくてシェリーナの顔をまともに見ることができなくなった。
そして……「ごめん、意地悪してごめん」俺はつい涙ぐんでしまった。
「…………」
「返事くらいしろよ」
目の前の女の子に俺はいつもイライラしていた。
俺が7歳の時に突然家にやってきた女の子。
両親の恩人だった人の娘。俺は一度も会ったことなんてなかった。
でも両親は『可愛らしい女の子なんだ』とか『明るい女の子なんだ』とかよく話してくれていたので、会ったこともないのに勝手に自分の中で想像していた。
どんなに可愛い子なんだろう?
会ってみたい。
笑った顔って向日葵みたいなのかな?
それとも薔薇のような感じ?
いい匂いがするのかな?
会えたら「よろしく」って笑顔で迎えよう。
一番の仲良しになるんだ。
ワクワクしていた。
ずっと一人で想像していた。
なのに目の前の女の子は笑うこともなく話しかけても返事すらしない、俺のことを見ようともしない。
いつも下を向いてばかりで笑わない。
話もしない。
暗いし、面白くないし、楽しくもない。
両親が話しかけても、小さな声で『はい』しか言わない。
なんて暗いんだ。可愛げすらない。
父様や母様があんなに気を遣っているのに。少しくらいお前も気を遣えよ!
だけど知らなかったんだ。
あんな風に泣くなんて。
俺がどんなに冷たく当たっても泣きもしなかったくせに!
たかが、飼っている猫がぐったりしているからって、猫を抱えてどうしていいのかわからずに真っ青になって佇んで声を殺して泣いていた。
それは……
朝の剣の稽古が終わり、俺は屋敷に戻ろうと庭を歩いていた。
「うっ……ノア……」
女の子の泣き声がどこからか聞こえてきた。とても小さくて聞き逃してしまいそうな声なのに、なぜか耳に残ってしまう。とても切なくなる声だった。
「……誰?」
周囲を見回す。
綺麗に手入れされた庭に女の子の姿はない。俺は辺りを見回しながら木が生えてる場所へと移動した。
「…………ノア……」
また聞こえた。その声はとても切なくて俺の胸をギュッと締め付けた。
そして、見つけたのは木陰で佇む女の子、俺が毛嫌いしていた『シェリーナ』だった。
「げっ、シェリーナ?」
俺は思わずいつもの癖でシェリーナに対して意地悪な言葉をはいた。
「…………」
シェリーナはなにも答えずチラッと俺を見ると、またいつものように無視するだろうと思っていたら、猫を抱えて俺の方へと走ってきた。
「ケイン様……助けてください。お願い……します」
目を真っ赤にして涙をためていた。
「お、俺?」
初めて俺の名前をまともに呼んだシェリーナ。
可愛らしい声、か細いその声に俺は……カァッと顔が真っ赤になった。
な、なんだ、この可愛さ。こいつ、やばい。綺麗な顔のシェリーナの泣き顔は俺の心を鷲掴みにして離さなかった。
「ノアが……さっき野犬に襲われて……お願い、助けてください」
ポロポロと泣くその姿は庇護欲を誘い思わずゴクッと喉がなった。
可愛い。
こいつ、こんなに可愛かったか?いつも下ばかり向いてまともに顔なんて見てなかった。
涙する姿が可愛いなんて、父様に言ったら絶対ぶん殴られる。
『女の子は守るべきもので泣かすものではない』と言うだろう。
まさか息子がずっと意地悪なことを言っていたなんて知らないから、今のところ叱られないけど、俺の今までの態度がバレたら……
考えただけでゾッとした。
「馬丁長のところへ行こう」
俺が猫を受け取ろうとしたら「………」シェリーナはなにも言わず首を横に振って猫を渡そうとしない。
俺は信用はされていないみたいだ。
くそっ。
今までのこと考えたら仕方ないか。
今更後悔しても仕方ない。
だって女の子の涙がこんなに儚げで可愛いなんて知らなかったんだ。
俺の周りにいる女の子はみんな俺の機嫌を取ろうと顔色を窺いながら話しかけてくるし、すぐに可愛こぶってなんだか気持ち悪い子ばかりだ。
はっきり言って女の子って苦手だ。
泣く時はみんなハンカチで顔を隠し、本当に泣いているのか?と疑ってしまう。あれって泣き真似だろう?
どう見たって同情して欲しいと言わんばかりの態度だし、変に優しく声をかけると、調子に乗ってキーキー俺の横で訳のわからない話題ばかり、人の悪口とか自分の自慢話とか話して、煩わしいだけだ。
だけどこいつは俺に機嫌を取ることもなかった。だからこそつい気になって、俺に少しは興味を持って欲しくて意地悪なことばかり言った。
俺の顔を見て欲しかった。だって一度も顔を上げようとしないんだ。
なのに、猫のためなら必死で話しかけたくもないだろうに俺に頼ってきた。
だから俺は馬の世話が上手な場丁長のジョーのところへ連れていくことにした。
ジョーは馬の世話が仕事だけど病気をした馬の治療もする。彼は動物だけにしか癒しの魔法が使えないと以前教えてくれた。
『わしは人間には癒しの魔法が使えないんで、出来損ないと言われているんです』
俺からしたら動物を助けることができるジョーはカッコよくて憧れるんだけど、癒しの魔法が使える者にとって、動物しか治せないジョーは出来損ないで侮蔑されるらしい。
俺とシェリーナは猫のノアを干し草に寝かせてジョーの治療する姿を二人でじっと見ていた。
シェリーナは手が震えていた。俺はそんなシェリーナの手をギュッと握って「大丈夫だから」と声をかけて、ジョーの治療を見守った。
ジョーの手から何か温かい光が出てノアの身体を光が包み込んだ。
「……………ミャー」
か細い鳴き声が聞こえた瞬間、俺はシェリーナの手をギュッと力を込めた。
「はああ~、よかった」
シェリーナも怖かったと思う。だけど俺だってすっげぇ怖かった。手は汗でびっしょりだ。
だって目の前で弱っていって死ぬかもしれないんだ。俺はまだ死に立ち会ったことがなかったから、めちゃくちゃ怖かったんだ。
シェリーナはこんな怖い思いを、両親が亡くなってしてたんだ……
俺はなんだか情けなくて恥ずかしくてシェリーナの顔をまともに見ることができなくなった。
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