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12話 忘れられた記憶

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「ジェシカは思い出そうとすると頭が痛くなるらしいの」
マリーナが辛そうな顔で俺とティムに話し出した。

「思い出したいと言っているわ、セルジオ様、本当のことを話した方がいいと思うの」

「俺が恋人だったこと?彼女はそれを全て忘れてしまって殿下の婚約者になったんだ。いくら解消したからと言っても、忘れてしまったことを今更伝えて辛い思いをさせたくない」

「じゃあ、もういいんだ?ジェシカが他の男と婚約してしまっても」
ティムが言ってきた。

「……言い訳ないだろう?でもだからと言って無理矢理記憶を思い出させたくはない。俺は……もう一度ジェシカと新しい関係を築きたいんだ」

「兄上、諦めないんだね?」

「もう我慢しなくていいのなら俺はジェシカを諦めない」

そう俺とジェシカは幼馴染で領地に来るとジェシカはいつも俺の後をついてくる可愛い妹のようだった。

そんなジェシカを可愛いと思っていたのにいつの間にか妹から好きな女の子へと変わっていった。

ジェシカの母である公爵夫人が静養のためうちの敷地の離れで暮らすようになって、毎年のように訪れるジェシカ。

「セルジオ!」
公爵令嬢なのに気取らないジェシカは、お転婆で人見知りをしない明るい女の子。
好奇心旺盛でどんなことでも楽しそうにしていた。

俺が剣を振る姿を見て「セルジオは騎士様になるのね?かっこいい!いつかわたしの騎士様になって欲しいわ」と目をキラキラさせて言われた。

騎士になるつもりなんかなかったのにジェシカが喜ぶなら騎士になるのもいいかなと思い始めて騎士への道を目指すようになった。

ジェシカに会えないとなんだか物足りなくて、領地に来る日を楽しみにするようになった。

何かにつけて父上について王都へ行ってはジェシカに会っていた。
「セルジオ、会いたかったわ」

ジェシカの嬉しそうな顔を見るだけで嬉しくて、王都でジェシカの屋敷で過ごすのが楽しみでもあった。

そして、ジェシカの母親の体調が落ち着いてきて、学園に入学するとなかなか領地に来れなくなるからと、しばらくジェシカも領地で過ごすことになった。

ジェシカが12歳、俺が14歳の時だった。

俺はもうすぐ15歳になる、高等部への入学をやめて騎士学校へ行くことが決まっていた。

『ジェシカは来年からは王都に戻って学園に通わないといけない、俺あと二年したら士官学校を卒業して騎士になる。だからそれまで待ってて。迎えに行くから』

『うん、約束だよ?忘れないで』

俺とジェシカは将来の約束をした。

俺は父上にジェシカとの婚約を頼もうと思っていた。

なのに………父上の言葉は残酷なものだった。

「ジェシカは、ギルス殿下との婚約が決まった」

「え?婚約?」

ーーなんで?俺と将来を誓い合ったのに。迎えに行くと約束したのに。

俺は父上にジェシカのことを話すことが出来なくなった。
俺と第二王子であるギルス殿下では格が違いすぎる。それに王族との婚約に否はない。断ることなど出来ないのだ。

それからジェシカと会うことは出来なくなった。
手紙すらこない。いや、俺自身も書けないでいた。
ジェシカの母親である公爵夫人は、俺とジェシカの仲を知っていた。

「セルジオ、王家からの婚約だったから断るのは難しかったのだと思うのよ、それにギルス殿下とジェシカは幼馴染なの。たぶん二人が仲がよかったから夫も受け入れてしまったと思うの、貴方たちの仲を知らなかったから」

やっと15歳になったばかりの俺には大人達の決めたことを覆す力などあるわけがない。
俺は項垂れるしかなかった。

ーージェシカがギルス殿下と幼馴染だったことは知っていた。ジェシカもよく殿下のことを話していた。

「ギルス様はとても優しいのよ。会うと一緒に遊んでくれるの、王宮にある図書室には王族専用の個室があってそこに寝転んで二人でよく本を読んでいたわ」

まだジェシカに好きだと言う前は、よくギルス殿下のことも話題に出ていた。
俺とは違ってそばにいられる幼馴染にどれだけ嫉妬したことか。それも俺なんかより優秀でこの国の王族。でもジェシカにとっては幼馴染で友人でしかなかいと言っていた。

「好きなのはセルジオだけ」

ジェシカは可愛らしく俺の耳元で「大好き」だといつも言ってくれた。

そして、俺がどうすることもできないでいる間に、二人の婚約が発表された。

俺はどうしてもジェシカにもう一度だけ会って話したくて父親について王都へ行った。
ジェシカの父親はまだ俺たちのことを知らない。いつも通りジェシカの屋敷に泊まり、ジェシカに会った。

「セルジオ兄様?お久しぶりですね?」
俺に笑いかけるジェシカは、俺の知っているジェシカではなかった。

ジェシカの兄であるジャックス様は俺とジェシカの関係を知っていた。

「セルジオ、すまない。ジェシカは君のことを忘れている、いや、君自身は覚えているんだ。でも君と恋人だったことも領地で過ごした半年の間のことも全て忘れてしまっているんだ」

「……何故?」

「ジェシカは無理矢理婚約をさせられて自棄になって家を出ようとしたんだ。それを止めようとした父上と揉めて……階段から落ちたんだ。運良く下まで落ちなくて途中の階段で止まったから良かったけど……ショックからなのか君との思い出の記憶だけが消えてなくなった。それを知っているのは俺と母上だけだ。父上には母上から伝えると言っていた」

俺はあまりのショックに呆然とするだけだった。

だからさっき、俺に対して何ごともないように笑顔で話しかけてきたのか?

俺にはどうすることもできなかった。どんなに話しかけてもジェシカは俺を親戚の兄さんだと思っているのだから。



















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