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10話

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妃殿下のお茶会に招待されてまた王宮へと顔を出すことになった。

少し早めに行き、わたしはゆっくりと王宮を歩いて回った。
辛くもあったけど、優しい国王陛下ご夫婦、王太子殿下ご夫婦達に助けられて、嫌なことばかりではなかった。

ギルス殿下ともぎこちない日々ではあったけど、嫌われてはいなかったと思う。ただ、話すことが減り、彼は恋をしただけ。

二人の姿はとても素敵だった。
噂ではお二人は別れたと聞いた。

何があったのかわからないけど、ギルス殿下は何か言いたそうにしていた。でも彼は結局何も言わなかった。
わたしも何も聞かない。
だってこの王都に来てからみんな何か話しても途中でやめてしまう。
それに兄様と一緒に夜会に参加してからは、何故か兄様との関係を恋人と間違えられる。

わたしと兄様が親戚だと知らないのかしら?
父同士が従兄弟なので、わたしと兄様は、はとこになる。少し遠い親戚だ。

だからパートナーのいないわたしが兄様と参加しても別段おかしいとは思わない。

そんなことを考えながら庭園をゆっくりと歩いた。
しっかり管理されて手入れされた綺麗な庭は見ているだけで癒される。

よく子供の頃、この庭でギルス殿下と遊んだことを思い出した。わたしはお父様に連れられてこの王宮へ来ていた。
お父様が仕事をしている間、わたしは侍女達とこの庭園でよく過ごした。
その時、ギルス殿下と会って遊んでいた。
王太子殿下はわたしより7歳年上で二人をよく見守ってくれていた。

思い出すのは楽しい思い出ばかり。
あの頃のお父様は、よく笑っていた気がする。
どうしてあんなに怖い顔をするようになったのだろう。わたしはどうしてこんなに苦手で怖いと思ってしまうのだろう。

自分でもわからない感情に、考えても答えは見つからない。


ーーーーー

「王太子妃殿下にご挨拶申し上げます」

妃殿下の登場に数人の令嬢達は頭を下げた。

「みなさん、頭をお上げください。今日はゆっくりお話をしましょう」

朗らかに微笑む妃殿下。

わたしと目が合うとにっこりと微笑んでくれた。

今日は五人ほどの令嬢が呼ばれているがわたしは顔と名前は知ってはいてもお話したことがない方ばかりだった。

黙ってお茶を飲んでいると

「あら、失礼」
態と腕に当たるように席を立つ隣の令嬢。

その反対に座る令嬢は、わたしが黙って座っていると、反対の席の人とだけ話してこちらを見ようともしない。さらに聞こえるようにわたしの噂話が始まった。

わたしは完全に一人っきり。
夜会で人気者のセルジオ兄様がパートナーだったことが目の敵にでもされたのか。
それともギルス殿下の元婚約者が気に入らないのか、王太子殿下と踊ったことが気に入らないのか……

わたしは以前の無表情のお面を被り、心を無にして過ごす。

「………………ジェシカ?」
無になりすぎて妃殿下の呼ぶ声に気が付かなかった。

「申し訳ございません、妃殿下」
わたしは心の中では慌てていたが、表面上は冷静な態度で、妃殿下の方を向いた。

「ふふ、ジェシカ、いつものジェシカに戻ったわね」
妃殿下はわたしがこの無表情の顔になった時は、緊張している時や辛い時だと知っている。

「こちらに座ってちょうだい」
王妃殿下の両隣の席はわざとに空けている。

その隣に座らせると言うのは、特別な人だけ。

他の令嬢達はそんなわたしの姿を見て睨みつけながらも、妃殿下の前なので引き攣った笑顔でみていた。

「失礼致します」
わたしにとっては妃殿下の隣の席は当たり前だった。
一緒にお茶をしながら、マナーを教わったり王宮内での過ごし方なども教わった。
姉のいないわたしには本当のお姉様のようなお方だ。

「ジェシカ、もうそのお面はとっていいわよ、気を楽にしなさい」

「……ありがとうございます」

「ふふ、やっぱりジェシカは笑っている方がいいわ、ごめんなさいね。
まさか今日呼んだ子達がこんなに性格が悪いなんて思わなかったの、わたしの前ではとてもいい子だったのよ、わかってよかったわ」

他の令嬢達に聞こえるように話す妃殿下にわたしは「え?」と言う顔をしてしまった。

他の令嬢達はプルプルと震え出して青い顔をしていた。

「そんなことはありませんわ」
妃殿下に反論しようとした令嬢をピシャリと止めた。

「誰がわたしに話しかけていいと言ったのかしら?」

妃殿下の言葉に、グッと涙を溜めて堪えている令嬢はさらにわたしを睨みつけた。

「ジェシカが貴女達に何をしたのかしら?わたしの大切なお客様よ?それも貴女達よりも身分の高い公爵令嬢に対してなんて態度なの?貴女達の家に抗議文を出させていただくわ」

妃殿下のその言葉にみんなさらに青い顔をして妃殿下に必死で謝っていた。

わたしは、内心、抗議文を出すのは妃殿下ではなく、そんな態度を取られたわたしなのでは?なんて思いながら黙って聞いていた。

これだから、領地で過ごそうと思ったのよね。貴族の世界にいるととても疲れる。

早く領地に帰ってみんなと笑い合いたいな。

なんてぼんやり考えていたら、妃殿下が

「ジェシカ、ごめんなさい、貴女のこの王都での令嬢としての地位をしっかり作ってあげたかったの」

妃殿下は社交界デビューしたわたしのために少しでも王都で過ごしやすいようにと令嬢達と顔合わせをしようとしてくれた。

それがこの結果で、令嬢達が帰ったあと妃殿下は申し訳なさそうにしていた。

「ふふふ、妃殿下ありがとうございます。お心遣いとても嬉しいです。でもわたしはもう王都で暮らすよりもお母様のいる領地でゆっくり暮らしたいと思っています」

「うん、わたしの失敗だったわ。ジェシカ、貴女はセルジオからあんな優しそうに見つめられてしまったから、敵を作ってしまったのよ、あそこまでとは思わなかったけど」

「優しそうに?」

わたしがキョトンとすると

「セルジオは、まだ婚約者がいないでしょう?さらに騎士としても腕が立つし、本当は近衛騎士として王宮で働くように要請があったのだけど、本人が領地から出たがらないのよ、有望株なのにね。
それにあの綺麗な顔でクール、令嬢の間ではかなりの人気者なの。
それに夜会にも滅多に出ないし、誰とも踊らない彼が、ジェシカのパートナーになって参加したのよ?
さらにギルス殿下の元婚約者、王太子殿下にも可愛がられている。みんな貴女を羨んでいるのよ、あの態度は酷いけど」

「え?でも、兄様はマーガレット様とも踊っていました」
ーー思い出すと胸がギュッと苦しくなった。

「マーガレット様?ああ、セルジオの従姉妹だったかしら?彼女はもう夫がいるのよ、セルジオにとっては姉みたいな人よ、だって彼女は26歳だもの」

「ええ?わたしよりもずっと年上?」

「そうね、マーガレット様はわたしよりも上だけど、若く見えるわよね?」
「はい、兄様の少し上だと思っていました。二人はとてもお似合いに見えてわたしがパートナーで兄様が気の毒だと感じていました」

「ジェシカ、わたしはみんなとは違うわ。貴女の記憶は全く戻っていないの?」

「記憶?」









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