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9話
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どこまで兄様に話せばいいのかわからなかった。
ただ……
「ギルス殿下が先程まで一緒にいたのですが……よくわからない話が出てきて…」
「よくわからない話?」兄様は一気に不機嫌になった。
「はい、わたしと兄様が恋人同士になったんだとか、否定すると勘違いか、とか……あとは婚約解消は殿下からではなく我が家からだったと聞きました。殿下から婚約解消など言うわけがないと言われました」
兄様はしばらく黙ってしまった。
「ジェシカはそれを聞いて何か思った?」
「よくわからない話ばかりで戸惑いました」
「そうか……いつかわかる時が来るかもしれないね。殿下にお会いして辛くはなかった?」
「辛い?そんな風には感じませんでした」
「だったらよかった。そろそろ中に入ろう」
「はい」
二人で中に入ると、すぐにマリーナがわたしを見つけて近くにやってきた。
「探したのよ?ジェシカ、向こうに行って何か食べない?」
マリーナの明るい声に何故かホッとして「うん」と返事をした。
兄様は「行っておいで、俺は少し知人に挨拶をしてくるから」と言って立ち去った。
マリーナと豪華な食事が並べられたテーブルに行き、二人でお喋りを楽しみながら食べていた。
ふと兄様の姿を探してしまう。
遠くに見えたのは兄様の腕に絡んでいる女性の姿だった。
綺麗な大人の女性が兄様の腕に絡んで二人で楽しそうに話をしている。
そして二人はダンスを踊り出した。
わたしはそれをただじっと黙ったまま見ていた。
とても綺麗な大人の女性は兄様の腕の中で幸せそうに微笑んでいた。兄様もこの女性に優しく微笑んで耳元で何かを話していた。
マリーナはわたしの視線に気づき
「ジェシカ誰をみているの?」
わたしの視線の方に目をやる。
「セルジオ様がジェシカ以外で微笑んでいるわ……あの人は確か……「兄様の恋人?」
わたしはマリーナの口からはっきりと聞きたくなくて自分から先に聞いた。
「違うわ、ティムとセルジオ様の従姉妹よ。ジェシカは父親同士が従兄弟よね?彼女…マーガレット様は母親同士が姉妹なの、だから従姉妹なのよ。
ジェシカとは関係がないから知らないと思うわ」
マリーナとティムは幼馴染で仲がいいので彼らの事情に詳しい。
「そうなんだ……そう言えばさっき踊っている時に兄様が従姉妹としか踊ったことがないと言ってたわ」
ーーでもいつもクールな兄様があんな優しい顔をするなんて…なんでだろう、胸がズキズキとしてその姿を見ているだけで切なくなってしまう。
わたしは見ているのが辛くて目を背けた。
そんな時、王太子殿下がわたしに声をかけてきた。
「ジェシカ嬢、久しぶりだね」
「王太子殿下にご挨拶申し上げます」
わたしとマリーナは慌てて頭を下げて礼をした。
「頭を上げてくれないか?ジェシカ嬢が王都から領地へ行ったと聞いて心配していたんだけど、以前より明るくなったみたいで安心したよ。セルジオとは仲良くしているみたいだね」
ーーまた誤解されたようだ。
「兄様にはお世話になっております。わたしはお母様と同じ別邸で暮らしておりますので兄様達家族にはよくしてもらっております」
「……うん?そうか、うん、まだ……」
殿下は言葉を濁してから、「ジェシカ久しぶりに踊ろう」と声をかけてくれた。
王子妃教育の時に、わたしがダンスが苦手で一人でこっそりと練習している時に、王太子殿下はわたしのダンスに付き合ってくれた。
「ジェシカ一人で練習しても上手くならないだろう?僕が相手をしてあげるよ」
そう言って殿下は下手くそなわたしの練習に嫌な顔をせずに付き合って下さった。
「はい、王太子殿下。喜んで」
わたしは彼の手を取りダンスの輪の中に入った。
何度も一緒に練習をした曲。
久しぶりに一緒に踊るのはとても楽しかった。
「とても仲の良い友達が出来たんだね」
マリーナとわたしの仲の良い姿を見て殿下は
「安心したよ、いつも一人で涙を堪える姿ばかり見ていたからね」と言った。
わたしはあの頃、厳しい王子妃教育に疲れていた。
殿下の奥様である王太子妃様は、幼い頃から教育を受けていた。
でもわたしは12歳、それも13歳に近い年だったので、教育を受けるには遅過ぎた。
だから、かなり詰め込まれて教育を受けなければいけなかった。
毎日叱責されて「そんなこともできないのですか?」と教育係の人たちに呆れられ身も心も壊れてしまいそうだった。
教育係の人が意地悪なわけではない、わたしがなかなか身に付かなかっただけだ。
教えてもらったあと居残りをして復習をするのだけど、どうしても涙が出てきていつも隠れて泣いていた。
そんな時、王太子殿下と妃殿下がいつもわたしに優しく声をかけてくれた。そしてお忙しいのに、わたしのダンスの練習に付き合ってくれたり妃殿下はマナーの練習に付き合ってくれた。
ギルス殿下の前ではいつも強がって平気なフリをしていた。
だから彼はわたしが泣いていたことは知らない。
ダンスを踊りながら王太子殿下は、わたしに優しく微笑んでくれた。
「ジェシカ、幸せになりなさい。君が辛い思いをしたのを僕たちは知っている。君はよく頑張った、もうあんな辛い思いはしなくていいからね」
「ありがとうございます」
わたしはこの夜会で王太子殿下やギルス殿下と話が出来たことで、王都に来ることが不安にならなくなった。みんなわたしに優しかった。
そして、後日、妃殿下からお茶会の招待を受けることになった。
ただ……
「ギルス殿下が先程まで一緒にいたのですが……よくわからない話が出てきて…」
「よくわからない話?」兄様は一気に不機嫌になった。
「はい、わたしと兄様が恋人同士になったんだとか、否定すると勘違いか、とか……あとは婚約解消は殿下からではなく我が家からだったと聞きました。殿下から婚約解消など言うわけがないと言われました」
兄様はしばらく黙ってしまった。
「ジェシカはそれを聞いて何か思った?」
「よくわからない話ばかりで戸惑いました」
「そうか……いつかわかる時が来るかもしれないね。殿下にお会いして辛くはなかった?」
「辛い?そんな風には感じませんでした」
「だったらよかった。そろそろ中に入ろう」
「はい」
二人で中に入ると、すぐにマリーナがわたしを見つけて近くにやってきた。
「探したのよ?ジェシカ、向こうに行って何か食べない?」
マリーナの明るい声に何故かホッとして「うん」と返事をした。
兄様は「行っておいで、俺は少し知人に挨拶をしてくるから」と言って立ち去った。
マリーナと豪華な食事が並べられたテーブルに行き、二人でお喋りを楽しみながら食べていた。
ふと兄様の姿を探してしまう。
遠くに見えたのは兄様の腕に絡んでいる女性の姿だった。
綺麗な大人の女性が兄様の腕に絡んで二人で楽しそうに話をしている。
そして二人はダンスを踊り出した。
わたしはそれをただじっと黙ったまま見ていた。
とても綺麗な大人の女性は兄様の腕の中で幸せそうに微笑んでいた。兄様もこの女性に優しく微笑んで耳元で何かを話していた。
マリーナはわたしの視線に気づき
「ジェシカ誰をみているの?」
わたしの視線の方に目をやる。
「セルジオ様がジェシカ以外で微笑んでいるわ……あの人は確か……「兄様の恋人?」
わたしはマリーナの口からはっきりと聞きたくなくて自分から先に聞いた。
「違うわ、ティムとセルジオ様の従姉妹よ。ジェシカは父親同士が従兄弟よね?彼女…マーガレット様は母親同士が姉妹なの、だから従姉妹なのよ。
ジェシカとは関係がないから知らないと思うわ」
マリーナとティムは幼馴染で仲がいいので彼らの事情に詳しい。
「そうなんだ……そう言えばさっき踊っている時に兄様が従姉妹としか踊ったことがないと言ってたわ」
ーーでもいつもクールな兄様があんな優しい顔をするなんて…なんでだろう、胸がズキズキとしてその姿を見ているだけで切なくなってしまう。
わたしは見ているのが辛くて目を背けた。
そんな時、王太子殿下がわたしに声をかけてきた。
「ジェシカ嬢、久しぶりだね」
「王太子殿下にご挨拶申し上げます」
わたしとマリーナは慌てて頭を下げて礼をした。
「頭を上げてくれないか?ジェシカ嬢が王都から領地へ行ったと聞いて心配していたんだけど、以前より明るくなったみたいで安心したよ。セルジオとは仲良くしているみたいだね」
ーーまた誤解されたようだ。
「兄様にはお世話になっております。わたしはお母様と同じ別邸で暮らしておりますので兄様達家族にはよくしてもらっております」
「……うん?そうか、うん、まだ……」
殿下は言葉を濁してから、「ジェシカ久しぶりに踊ろう」と声をかけてくれた。
王子妃教育の時に、わたしがダンスが苦手で一人でこっそりと練習している時に、王太子殿下はわたしのダンスに付き合ってくれた。
「ジェシカ一人で練習しても上手くならないだろう?僕が相手をしてあげるよ」
そう言って殿下は下手くそなわたしの練習に嫌な顔をせずに付き合って下さった。
「はい、王太子殿下。喜んで」
わたしは彼の手を取りダンスの輪の中に入った。
何度も一緒に練習をした曲。
久しぶりに一緒に踊るのはとても楽しかった。
「とても仲の良い友達が出来たんだね」
マリーナとわたしの仲の良い姿を見て殿下は
「安心したよ、いつも一人で涙を堪える姿ばかり見ていたからね」と言った。
わたしはあの頃、厳しい王子妃教育に疲れていた。
殿下の奥様である王太子妃様は、幼い頃から教育を受けていた。
でもわたしは12歳、それも13歳に近い年だったので、教育を受けるには遅過ぎた。
だから、かなり詰め込まれて教育を受けなければいけなかった。
毎日叱責されて「そんなこともできないのですか?」と教育係の人たちに呆れられ身も心も壊れてしまいそうだった。
教育係の人が意地悪なわけではない、わたしがなかなか身に付かなかっただけだ。
教えてもらったあと居残りをして復習をするのだけど、どうしても涙が出てきていつも隠れて泣いていた。
そんな時、王太子殿下と妃殿下がいつもわたしに優しく声をかけてくれた。そしてお忙しいのに、わたしのダンスの練習に付き合ってくれたり妃殿下はマナーの練習に付き合ってくれた。
ギルス殿下の前ではいつも強がって平気なフリをしていた。
だから彼はわたしが泣いていたことは知らない。
ダンスを踊りながら王太子殿下は、わたしに優しく微笑んでくれた。
「ジェシカ、幸せになりなさい。君が辛い思いをしたのを僕たちは知っている。君はよく頑張った、もうあんな辛い思いはしなくていいからね」
「ありがとうございます」
わたしはこの夜会で王太子殿下やギルス殿下と話が出来たことで、王都に来ることが不安にならなくなった。みんなわたしに優しかった。
そして、後日、妃殿下からお茶会の招待を受けることになった。
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