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エディ様の病気。②
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二人で歩く廊下はとても長く感じた。
ーー会話がないのよ。続かないのよ。
天気の話でもした方がいいのかしら?
目線を逸らすため窓の方をチラッと見た。
「アネモネの花……」
わたしが呟いた。
「えっ?」
「ほら、アネモネの花が沢山咲いているんです。わたしは青いモノが好きなんです。お母様に似た瞳の色……サリーがいつもお花が枯れないようにと部屋に飾ってくれます。最近はアネモネの花なんです……」
わたしは立ち止まり静かに花を見ていた。
「ふふ、アネモネって青、ピンク、赤に白、それに紫まであるんですね。わたしの部屋に飾ってくれるのはいつも青と赤、そして白なんです。今度サリーにお願いして紫とピンクも飾ってもらおう」
「どうして青以外……赤と白なんだろう」
スティーブ様の言葉に「さぁ?サリーの好きな色なのかしら?」と答えた。
そしてまた歩き出した。
エディ様は自室ではなく、今は公爵家お抱えの診療所に入院している。
公爵家にはたくさんの使用人と騎士団の人達もいる。
そのため病気をする人や生傷が絶えない人が多い。数人の医師を常駐させて診療所と入院出来る部屋がある。
その中に公爵家専用の個室も作られているのだ。
屋敷からは長い廊下を歩き、その個室へと行ける。
普段執務室と自分の部屋、あとは屋敷の決まった場所しか移動しないわたしには、こんなところに庭園があることすら知る由もなかった。
「今度余裕ができたらゆっくりあのお庭でお茶でも飲みたいな」
スティーブ様が隣にいることも忘れて独り言を言っていたらしい。
「すまない、母上が君に自分の仕事まで押し付けていることはわかっているのに…助けられない自分が恥ずかしい」
「ふふ、ここでの仕事はわたしの将来に役立つと思います。それに最近はイザベラ様に色々と押し付けていますから。彼女が嫁いでもすぐに役立つ様にしておきますね?」
「な、なんで……違う。俺はイザベラとはそんな関係じゃない」
「はあー、もうどうでもいいです。この屋敷で、食事ももらえない、ずっと酷いことをされる、そんな覚悟をして嫁いできました。だけど思ったより酷い待遇はなかったし、イザベラ様も上手に付き合えば苦にならなくなったし。まぁ、蓋を開けてみたらお義母様とお義父様が碌でもないので驚きましたが」
わたしの言葉にビクッとしていた。
「知っているのか?」
「お義父様は未だにレテーシア様に夢中?お義母様は心を壊されている?それを見て見ぬ振りする子供達?最低ですよね?」
「ぐっ……どうすればいいのかわからないんだ。父上にとって愛する人はレテーシア様。母上はそんな二人に壊されてしまって……父上を諌めるだけの力は俺にはないんだ……」
「まあ、確かに。わたし達はまだ子供でしたもの。わたしも大人の恋愛のことはよくわからないから口では強く言ってしまいました」
「「どうしたらいいのか……」」
困った顔になってお互い目が合ってしまった。
「ごめんなさい、どうにか出来ていたらお義母様があんな風になっていないですよね?」
言い過ぎだとわたしも少し反省した。
これはわたしが口を出していい問題ではないのに。ついスティーブ様を責めてしまった。
わたしにはお母様がいないから、だから、守ってあげて欲しくて……
また二人静かに歩いた。
「ここだ」
エディ様の部屋に入ると
「エディ様?」
そっとベッドに近づくと、かなりの高熱だとわかるくらいぐったりしていた。
「セ…レン?」
とてもキツそうなのになんとか笑顔を作ろうとするエディ様。
「今日はエディ様を治すために来ました……たぶん熱がもっと上がってキツいと思いますが、それを乗り越えれば治ります。わたしの癒しの力ってカッコよく治せないのが辛いところなんですが絶対治りますので……」
わたしが言いにくく伝えると「セレン、ありがとう、お願い」と言った。
「うん、絶対治すからね」
わたしは肺のところに手を翳した。
「………っう」
少しずつ熱が上がってきてさっきよりもグッタリとしている。息も荒くなって苦しそう。
スティーブ様も本当は止めたいんだろうなと思いながらわたしはずっと魔力を込めた。
十分ほど、エディ様は苦しんだ。
「ぷっ、はあ」
エディ様がにっこりと微笑んだ。
「はああ、思った以上にキツかった。だけど助かったよ。僕かなり酷くてもしかしたら……と医者にも言われていたんだ。自分でも危ないかなって感じてた。どんなに薬を飲んでも悪化するだけだったし……」
「間に合ってよかったです。なんだか胸騒ぎがしたの……わたしの癒しの力って痛みが伴うから……自然に治るものは手を出さないようにしているの」
「ありがとう、だけど突然僕が治ったら医者は驚くだろうね」
「……大丈夫。ここのお医者様はみんなわたしの力をご存知だから……」
「え?そうなの?」
「うん、騎士様って酷い怪我をして再起不能になる方もいるでしょう?そういう人だけはわたしが治療しているの」
「そっかぁ、じゃあなぜ僕は早く治療しなかったの?」
「うん、病気の治療は……トラウマがあってあんまりしないの。怪我は平気なんだけどね」
「トラウマ?」
「うーん、ま、色々あるんだ」
わたしがこれ以上話したがらないからエディ様は聞いてこなかった。
わたしはお母様を助けられなかった。その頃わたしの癒しの魔法は簡単な病気や怪我しか治せなかった。
必死で治そうとしたけど……やはり治すことは出来なかった。
お父様もお兄様も責めることはなかった。
だってお母様はもう治療の施しようがないくらい悪くなっていたから。
でも、それでも、助けてあげたかった。
それからは………怪我は治しても病気は治さなかった。
だけどエディ様の体調がかなり悪いと聞き嫌な予感がしたのだった。
だから……久しぶりに頑張った。
ーー会話がないのよ。続かないのよ。
天気の話でもした方がいいのかしら?
目線を逸らすため窓の方をチラッと見た。
「アネモネの花……」
わたしが呟いた。
「えっ?」
「ほら、アネモネの花が沢山咲いているんです。わたしは青いモノが好きなんです。お母様に似た瞳の色……サリーがいつもお花が枯れないようにと部屋に飾ってくれます。最近はアネモネの花なんです……」
わたしは立ち止まり静かに花を見ていた。
「ふふ、アネモネって青、ピンク、赤に白、それに紫まであるんですね。わたしの部屋に飾ってくれるのはいつも青と赤、そして白なんです。今度サリーにお願いして紫とピンクも飾ってもらおう」
「どうして青以外……赤と白なんだろう」
スティーブ様の言葉に「さぁ?サリーの好きな色なのかしら?」と答えた。
そしてまた歩き出した。
エディ様は自室ではなく、今は公爵家お抱えの診療所に入院している。
公爵家にはたくさんの使用人と騎士団の人達もいる。
そのため病気をする人や生傷が絶えない人が多い。数人の医師を常駐させて診療所と入院出来る部屋がある。
その中に公爵家専用の個室も作られているのだ。
屋敷からは長い廊下を歩き、その個室へと行ける。
普段執務室と自分の部屋、あとは屋敷の決まった場所しか移動しないわたしには、こんなところに庭園があることすら知る由もなかった。
「今度余裕ができたらゆっくりあのお庭でお茶でも飲みたいな」
スティーブ様が隣にいることも忘れて独り言を言っていたらしい。
「すまない、母上が君に自分の仕事まで押し付けていることはわかっているのに…助けられない自分が恥ずかしい」
「ふふ、ここでの仕事はわたしの将来に役立つと思います。それに最近はイザベラ様に色々と押し付けていますから。彼女が嫁いでもすぐに役立つ様にしておきますね?」
「な、なんで……違う。俺はイザベラとはそんな関係じゃない」
「はあー、もうどうでもいいです。この屋敷で、食事ももらえない、ずっと酷いことをされる、そんな覚悟をして嫁いできました。だけど思ったより酷い待遇はなかったし、イザベラ様も上手に付き合えば苦にならなくなったし。まぁ、蓋を開けてみたらお義母様とお義父様が碌でもないので驚きましたが」
わたしの言葉にビクッとしていた。
「知っているのか?」
「お義父様は未だにレテーシア様に夢中?お義母様は心を壊されている?それを見て見ぬ振りする子供達?最低ですよね?」
「ぐっ……どうすればいいのかわからないんだ。父上にとって愛する人はレテーシア様。母上はそんな二人に壊されてしまって……父上を諌めるだけの力は俺にはないんだ……」
「まあ、確かに。わたし達はまだ子供でしたもの。わたしも大人の恋愛のことはよくわからないから口では強く言ってしまいました」
「「どうしたらいいのか……」」
困った顔になってお互い目が合ってしまった。
「ごめんなさい、どうにか出来ていたらお義母様があんな風になっていないですよね?」
言い過ぎだとわたしも少し反省した。
これはわたしが口を出していい問題ではないのに。ついスティーブ様を責めてしまった。
わたしにはお母様がいないから、だから、守ってあげて欲しくて……
また二人静かに歩いた。
「ここだ」
エディ様の部屋に入ると
「エディ様?」
そっとベッドに近づくと、かなりの高熱だとわかるくらいぐったりしていた。
「セ…レン?」
とてもキツそうなのになんとか笑顔を作ろうとするエディ様。
「今日はエディ様を治すために来ました……たぶん熱がもっと上がってキツいと思いますが、それを乗り越えれば治ります。わたしの癒しの力ってカッコよく治せないのが辛いところなんですが絶対治りますので……」
わたしが言いにくく伝えると「セレン、ありがとう、お願い」と言った。
「うん、絶対治すからね」
わたしは肺のところに手を翳した。
「………っう」
少しずつ熱が上がってきてさっきよりもグッタリとしている。息も荒くなって苦しそう。
スティーブ様も本当は止めたいんだろうなと思いながらわたしはずっと魔力を込めた。
十分ほど、エディ様は苦しんだ。
「ぷっ、はあ」
エディ様がにっこりと微笑んだ。
「はああ、思った以上にキツかった。だけど助かったよ。僕かなり酷くてもしかしたら……と医者にも言われていたんだ。自分でも危ないかなって感じてた。どんなに薬を飲んでも悪化するだけだったし……」
「間に合ってよかったです。なんだか胸騒ぎがしたの……わたしの癒しの力って痛みが伴うから……自然に治るものは手を出さないようにしているの」
「ありがとう、だけど突然僕が治ったら医者は驚くだろうね」
「……大丈夫。ここのお医者様はみんなわたしの力をご存知だから……」
「え?そうなの?」
「うん、騎士様って酷い怪我をして再起不能になる方もいるでしょう?そういう人だけはわたしが治療しているの」
「そっかぁ、じゃあなぜ僕は早く治療しなかったの?」
「うん、病気の治療は……トラウマがあってあんまりしないの。怪我は平気なんだけどね」
「トラウマ?」
「うーん、ま、色々あるんだ」
わたしがこれ以上話したがらないからエディ様は聞いてこなかった。
わたしはお母様を助けられなかった。その頃わたしの癒しの魔法は簡単な病気や怪我しか治せなかった。
必死で治そうとしたけど……やはり治すことは出来なかった。
お父様もお兄様も責めることはなかった。
だってお母様はもう治療の施しようがないくらい悪くなっていたから。
でも、それでも、助けてあげたかった。
それからは………怪我は治しても病気は治さなかった。
だけどエディ様の体調がかなり悪いと聞き嫌な予感がしたのだった。
だから……久しぶりに頑張った。
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