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さよなら。は………

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 数人の男達をシエロは簡単にやっつけて「帰りましょう」とわたしを守りながら馬車まで連れて行ってくれた。

「ありがとう。シエロって相変わらず強いのね?」

「ミルヒーナ様を今日はお守りしますと奥様にお約束しましたからね」

「シエロもごめんなさい。わたしのせいでオリソン国へ行くことになって……あなたは次の仕事は見つかったの?」

 ーーこれだけ仕事ができるんだもの。引く手数多だろうけどまた一から仕事を覚えるのは申し訳ないわ。

「ミルヒーナ様はあまりご存知ないのでしたね?屋敷の使用人の半分は一緒について行くことになっているんです。家族で屋敷で働いている者は特について行くと言っております。わたしも妻と共について行く予定です」

 ーーお母様が屋敷の今後のことは決められていたからわたしはタッチしていなかった。

「………あなた達の人生を変えてしまったのね」

「違います!俺たちは自分で選んだのです。旦那様達はこの国に残るならきちんと他の屋敷を紹介してくださると言ってくれました。
 だけど、オリソン国に行って暮らしてみたいと思ったんです」

「あの国では魔法は許可がないと使えないわ。大丈夫なのかしら?」

「我々は屋敷の中では使うことができるそうです。魔道具を向こうに持って行くことも許可がおりています」

「そうなの?よかったわ」

「はい、ただ、魔法を知らない人たちの前で使うことは許可されておりません。身を守る緊急な時だけは使っても罪に問われないと言われました」

「……緊急の時……わたしも使えるようにならないといけないわ」

「少しずつ成果が出てきております、あと少しだと思います」

「ふふっ、ありがとう。出来ないと諦めたらダメね、わたしは甘えてたのよね?出来ないんだから仕方がないと……今なら少しリヴィの気持ちもわかるわ……とても彼は意地悪だったけどもっと努力しろ、頑張れと言ってリヴィの方が諦めが悪かったもの」

「……お二人の幼い頃はとても仲が良かったのを覚えております……ミルヒーナ様が転んで泣きそうになると何故かリヴィ様が代わりに泣き出して……大人達は可愛らしくていつも大笑いしておりました。あ、あと、ミルヒーナ様は木登りがお上手でスルスルと木に登られてリヴィ様は下から心配そうに見上げていました。
『リヴィも登ってきて!』とミルヒーナ様が言うと半べそになりながらリヴィ様が木に登って、結局降りられなくなり二人して大泣きしていつもわたしがお二人を助けるのがお役目でした」

「………そんなことあったかしら?」

 ーーなんだか話が怪しい方へと行き出したわ。やめさせなきゃ!


「ミルヒーナ様はご存知ではないのでこのままにしておくのが一番だとわかっているのですが、リヴィ様が不憫で……」

「リヴィ?」

「今リヴィ様は大怪我をして入院されております。本人は伝えないで欲しいと言っているのですが……まだミルヒーナ様を拐おうとする者達がこの国には少なくありません。それくらいミルヒーナ様の魔法はこの国では魅力的なのでしょう。それだけの魔力を簡単に他人に【譲渡】してしまう。あなたをいろんな人が欲しているのです」

「知っているわ、だからこそ自分の身を守るためにも魔法がもっと使えるようにと頑張っているの」

「一昨日ですが……夜中にあなたを拐おうと屋敷に押し寄せて来た数人と闘い大怪我をしたのです……」

「…………?えっ?」

「リヴィ様は……屋敷全体に【防御】魔法をかけられてミルヒーナ様を守られておりました。しかし今回の犯人は【防御】魔法があることに気がついて魔法を解こうとしていたんです。
 そして慌ててやって来たリヴィ様と出くわして闘うことになりました。もちろんわたし達護衛も気がついて共に闘ったのですが、相手が卑怯にもリヴィ様の背後から【火炎】の魔法をかけてしまい火傷を負われたのです」

「火傷……?リヴィが……どうして?何故……我が家に?」

「………ミルヒーナ様をお守りしたかったんだと思います………この国を出る前に……一度だけでもリヴィ様に会ってはいただけませんか?」

 シエロは頭を下げて懇願した。

 真面目で優しいシエロ。主人に対して意見などしない。ましてやこんなふうに願いを言うことなどない。

「………わたしのせいで怪我をしたのなら……会いに行くわ。怪我はもう治癒師に治してもらっているのよね?」

「……はい、ですが…かなり酷くて一度では治せず何度か分けての治療になっております」

「そう……お母様はどうして教えてくださらなかったのかしら?」

「それは、リヴィ様が伝えないで欲しいと仰ったからだと思います」

 ミルヒーナは馬車に乗り込むと屋敷に戻らずリヴィの屋敷へと向かった。

 ーーなんで離縁したわたしなんかを守ろうとしたの?

 


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