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久しぶりのお出かけ。

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 屋敷に閉じこもって過ごす日々もそろそろ終わる。

「ミル、今日は学園の時のお友達と会うのよね?」
 ロザリナに屋敷を出る前に声をかけられた。

「ええ、しばらく会えないから最後にみんなでランチに行こうと思ってます」

「楽しんでいらっしゃい。ただ……気をつけるのよ?」

「今日は馬車で移動するのでシエロが護衛についてくれるそうです」

「シエロなら安心ね。彼は御者もするけど剣の腕前も十分だし、魔法の使い手でもあるもの」

「はい、シエロが自らついて来てくれると言ってくれたんです」

 ミルヒーナの周りはまだ安心だとはいえない。かと言って毎日引きこもってばかりもいられない。怖がってばかりではこれから先生きてはいられない。

 だから家族と相談して少しずつ外出もするようになった。
 神殿は今、国に取り調べられ神官長や大神官たちの力が弱まっているが、それをよく思わない信者や神官たちが逆恨みをしてミルヒーナを狙っている。

 どうせならミルヒーナを閉じ込めて死ぬまで魔力を吸い上げてしまおうと考えている者がいるらしい。ミルヒーナもそれがわかっているだけに外出は控えていた。

 今回はたくさん人がいる街中で襲われにくい場所を選んだ。

「ガトラお土産を楽しみに待っていてね」

「姉様、僕、イチゴのタルトが食べたいです」

「わかったわ、忘れずに買ってくるわね」

「うん!」

 ガトラとの約束を忘れないようにと思いながら馬車に乗った。

 久しぶりの街へのお出かけはなんだか知らない場所に行くみたいでワクワクする。


 リヴィの屋敷の前を久しぶりに通っての外出。離縁して3ヶ月が経った。

 もう会うこともない。

 トーマスたちに挨拶はしたけど二人は少し残念そうな顔をして「ミル、幸せになるんだよ」と言ってくれた。

 リヴィはあと少しで学校を卒業する。伯爵になるための勉強をしながらしばらくは魔導士として王城で務めることになる。

 魔法の使い手として優秀なリヴィ。わたしと離縁しても彼なら次の再婚相手も引く手数多になるんだろうな。

「…………ふぅ」

 意味もなくリヴィの屋敷の前を通るだけで緊張した。もし出会ってしまったら……?

 そんな杞憂なんてあるはずもなく……会っても話すこともないだろう。

 今までだってまともな会話なんてしてこなかったし。

 リヴィの屋敷の前を通り過ぎた途端、「はああ」と大きな溜息が出た。


 ーー緊張してたんだ。

 今回の結婚も離縁もやはりわたしが悪いみたいに噂をされている。だけどそれをなんとかリヴィたちは消そうと動いてくれていた。

 放っておけば新たな噂が出て、わたしの噂なんてすぐに消える。だからいちいち反応するだけ馬鹿らしい。

「………うん………今日は楽しもう……」

 ミルヒーナは自分にそう言い聞かせてカフェへと向かった。

「お待たせ!」
 ミルヒーナは気分を変えてみんなに笑顔を向けた。

「久しぶりね」
「ほんと!ミルになかなか会えなくて寂しかったんだよ」
「今日はいっぱいおしゃべりしましょう」

 学生に戻った気分で久しぶりに楽しかった。

 たくさんおしゃべりしてたくさんスイーツを食べてみんなの近況報告を聞いて、そしてみんなとしばらく会えないことを伝えた。

「どう言うこと?」

「お父様達がわたしのことを考えてくださってこの国を出ていくことにしたの………わたしの悪い噂も聞いているでしょう?」

「………少しは……でも噂なんて気にする必要ないわ」

「わたしもそう思う!」

「うん、だけど、魔法が使えないわたしが特殊な魔法が使える。それだけで好奇な目で見られたり逆に利用されたりとこの国では生活するのが辛いことが多いんだ。
 それならいっそ何も知らない国で暮らした方が幸せなんじゃないかと思ったの。お父様達もそう思ったみたいで、もうすぐ爵位の返上も終わって領地も新しい当主に引き継げるようになるんだ……だからみんなには当分会えないと思うの。でもまた会いにくるから……」
 ミルヒーナは一瞬言葉が詰まった。

「……………友達でいてくれる?」

「当たり前でしょう?」

「その頃はわたしも結婚しているかもしれないわ」

「わたしは新しい魔道具を開発してミルにいつでも会いに行けるかもしれないわ」

「ふふっ、その時はわたしが魔道具に魔力を注ぐわね」

「ミル……使えるようになったの?」

「うん、少しだけど魔道具にも魔力を入れられるようになったの。不思議だよね、人には【譲渡】できるのに物にできないなんて……みんなは魔道具に簡単に魔力を注げるのに……」

「確かに、魔力があまりない人でも魔道具には魔力を与えることができるわ。ミルみたいに人には魔力を【譲渡】できるのに魔道具が使えないなんて不思議よね?」

「だから多分できるようになるって言われたの。でもいくら頑張ってもできなくて……わたしの魔力って多すぎて……体の中で固まってしまって自由に使えなくなっていたらしいの」

「どうしてわかったの?」

「不思議なことに魔法を使えない国の人が色々調べてくれたの。この国ではつい当たり前のことを魔法を使えない人は違う目で見ることができるみたい。やっと解決方法が見つかったわ。これって魔法が使えないこの国の人たちにとっても朗報かもしれない。わたし以外にも同じ症状の人がいたらどうすればいいのか教えてあげられると思うの」

「王立学園にはたくさんいるものね」

「ええ、わたしのように貴族の身分で魔法が使えないととても苦労すると思うの」

「平民は使えない人が多いからあまりその苦労はわからないけど、私たちも魔道具は使えて当たり前だからミルのように全く使えないのは辛いわよね?」

「うん……わたしは屋敷のみんながとても良くしてくれたのであまり苦労はしなかったけど……魔法学校では肩身が狭かったな」






 みんなと別れてシエロと帰宅しようと馬車に乗るために向かう途中、数人の男に絡まれた。

「なあ、俺と遊ぼう」
「俺たちに付き合ってもらうぜ」





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