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脱出。

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「おい!ミル!」

 ミルヒーナが眠る部屋にカイが一人で入って来た。
 いくら夫とは言えリヴィをミルヒーナの部屋に連れてくるのはやめることにした。

 ミルヒーナがリヴィをまだ夫として受け入れていないのをカイもわかっていたし、リヴィ自身にも反省してもらおうと思った。

「…………」

 眠っているがミルヒーナの顔は青白く疲れて見える。

「ミル!おい!起きろ!大丈夫か?」

 カイの言葉に反応しない。息はしているし、目も開けているのに、目の前にいるカイに対して何にも反応しない。見えているはずなのに…何も見えていないようだ。

「ったく、ミル、お前神官達に薬を飲まされたな」

 カイはそう言うとミルヒーナの鳩尾みぞおちに一発グーで軽く殴った。

「ぐ……うっ………い、……いた………い」

「やっと目覚めたか?ミル!」

 ミルヒーナは目を覚ますと周りをキョロキョロとし始めた。

「えっ………カイさん?どうして……ここに…」

「助けに来た。ほら抜け出すぞ」

「ここから抜け出すなんて……無理だわ」

 ーーカイさんが優秀な人でも無理だわ。

「せっかくだけど…カイさん一人で逃げて。これを持っていって欲しいの」

 ミルヒーナは首にかけていたネックレスを渡した。

「これは魔道具なの。ここでの生活が記録されているわ。わたし……だんだん自分なのに自分ではない……よくわからなくなって来ていたの……そんな信者がここにはたくさんいるわ……自我をなくした人たちが……そんな姿をした人達の姿が記録されているわ」

「これは確かに預かっておこう。お前が持っていると危険だからな。で、なんで無理なんだ。俺ならお前を助け出せる、リヴィも一緒に来てるぞ」

「リヴィ……?でもここではリヴィは魔法が使えないと思うわ……ここは許可された者しか魔法は使えないもの」

「それは大丈夫だ。魔力遮断を解除できる魔道具を借りて来た。あいつには神官長の執務室に行ってもらって帳簿や書類を探してもらっている。お前の寝姿を見せるわけにはいかないからな。ミルがリヴィと本当の夫婦になるまでわな」

「………あーー、リヴィ……うん、ねえ?」

 ミルヒーナはカイの言葉になんとも言えない顔をしていた。

 ーーこりゃダメだな、まだ。
 カイはミルヒーナの様子を見て心の中でリヴィに向かって、『お前がやらかしたことは簡単には払拭できそうもないな』と呟いた。

「ほら、行くぞ」

「ま、待って、この寝巻き姿で?」

「深夜だから大丈夫だ。すぐに屋敷へと連れて行くから」

 カイはそう言うとミルヒーナを抱きかかえて魔道具を使い、目的地のミルヒーナの部屋へと瞬間移動した。

「これは………え?こんなことできるのは…魔法を扱える人の中でもかなり優秀な人だけ……」

 ミルヒーナが目をパチクリさせているとカイがニヤッと笑った。

「この魔道具すっげえ、便利いいな。国王の魔力が込められた物なんだ」

「国王……陛下ぁ?え、えええ?」

 ミルヒーナは口を押さえて目を見開いていた。

 すると目の前に瞬間移動してきたリヴィが突然現れた。

「俺を置いて行かないでくださいよ、カイさん」

「伝言は残しただろう?それに置いて行かれたからって捕まるお前じゃないだろう?」

「魔法さえ使えれば…無敵ですよ」

「ほんとこの国の奴らは魔法に頼り切って、いざとなったら何にもできないんだからな」

「そうですね、俺も魔法ばかりに頼っていたけど、自分の体を鍛えてもっと他の勉強もして知識を増やしていきます。俺ミルに頼られる人間になりたい」

 二人の会話を黙って聞いていたミルヒーナ。

 リヴィと思わず目が合うと「うわぁ、ミルここにいたのか?」気まずそうに慌ててリヴィは目を逸らした。

(よかった……助かってくれて。だけどかなり痩せてる……)

 リヴィはもう一度ミルヒーナに視線を向けた。

「ミル……もうバカなことはしないで。一人で神殿に向かうなんて……」

「迷惑をかけてごめんなさい。反省しているわ」

 ミルヒーナも無茶をしたことは反省しているようだ。

「リヴィ、とりあえず夜中だし、ミルをこのまま寝かせてやろう」

 カイはリヴィの肩をポンっと叩いて部屋を出て行った。

「ミル、体調は?何か要るものはない?喉は渇かない?お腹は空かない?医者は?」

「大丈夫よ、薬で頭をボーッとさせられていたけど今はスッキリしているわ。カイさんからお腹に一発ボコって殴られたら不思議にスッキリしたの。そう言えば全然痛くないわ、どうしてかしら?」

 ミルヒーナは自分の服の中を覗くと「全く跡がないわ」と呟いた。

「カイさんは魔法使いより魔法を使うのが上手みたいだな。魔道具を持たせれば簡単に使いこなしてる」

「そっかあ、わたしの意識を取り戻してくれたのね。ふふふ、カイさんらしいわ。陛下に魔道具をお借りするなんて、凄過ぎる」

「うん、俺じゃミルを助けられなかった。あの人が来てくれたからミルをなんとか助けられた。明日には神殿は大騒ぎになってるだろうけど、それもカイさんが手を回してくれてるみたいだから安心して寝て。また明日目が覚めたら話そう」

「わかったわ……ありがとう、おやすみなさい」




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