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神殿での生活
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ミルヒーナが神殿に着くとすぐに神殿の奥の間に通された。
「あなたがミルヒーナ様ですね?」
神官がにこやかに出迎えてくれた。
ーー目が笑っていないわ。
なんだか不気味でゾクっと震えた。
ミルヒーナは一人でこの場所に向かった。逃げ隠れはもうしないと示すために。
だけどそれは間違っていたかもしれない。
ふとそう感じた。
この国で暮らすなら隠してはいけない。
特殊な魔法を使える者は国に報告をする義務があった。
神殿もしくは王家が調べ、国にとって重要なら国に仕えなければならない。
それを逃げられるのは結婚して子供を産むことが求められる女性だけ。だからミルヒーナはすぐに婚約していたリヴィと結婚することになった。
実家の伯爵家のため、そして自分の身を守るため、婚約者との結婚は一番早い逃げ道だった。
オリソン国に3ヶ月間身を隠していたのはその間に何かしらの妨害を防ぐためだった。
その間カイさん達が守ってくれたおかげで何事もなく暮らしていたことは知っていた。
ここに自ら足を踏み入れるなんて考えが甘かったと今更後悔しても仕方がない。
ーーでも離縁したら一度はここに来るしかないもの。
ベッドと机しかない白い部屋に通された。
「ここがあなたが暮らす部屋です」
「あ、あの……暮らすとは?わたしは少しの間ここで魔法について調べられたら帰れるのでしょう?」
「それは私達にはお答えできません。こちらの服に着替えてください。すぐに始めますので」
神官から渡された白い木綿のワンピースに着替えた。部屋の外で待っていた神官が先ほどとは違う部屋へと案内してくれた。
やはりそこも静寂しかない場所だった。
と思ったら……たくさんの疲れて青白い顔の男性が現れた。
若い人からお年寄りまで。
血の気が引いて動くのもやっとの人や、担架で運ばれてきた人もいる。
本当にたくさんの人が一列に縦に並んで入ってきた。
ーーなんだか怖いわ。
神官の顔をチラリと見ると「この人達に【譲渡】の魔法をかけてみてください」とだけ告げられた。
一瞬戸惑い何か言おうとしたけど、みんなの魔力はかなり少なくて欠乏しているのがわかった。
わたしは頭だけこくりと動かして先頭の一人に【譲渡】をする。
その様子を数人の神官が見守り記録を始めた。
どれくらいの人に【譲渡】したのだろう。自分でも驚くくらいの時間ずっと立ったまま無我夢中でしていた。
最後の人が終わった時、やはりクラッと目眩がしたが、感情のない神官達に腹も立っていたし、弱音を吐きたくなくてじっと耐えた。
「終わりました」
「ええ、5時間でちょうど100人。あなたの魔力量はどれくらいかご自分で調べられるのでしたよね?」
「はい」
【魔力量】の感知のことも知られている。誤魔化すことも出来るけど……
「残りは半分くらいです」
本当は3分の2は残っていたけど。ここでの嘘はバレてしまうことは知っていたけど、それは嘘をつく時に感情が揺れ動くから。わたしは感情のコントロールをして嘘が見破られないようにした。
じっとミルヒーナを見る神官が一瞬だけ目を動かしたけど、それ以上何も聞かずに記録として書いていた。
ーーふう、バレなかった。
あまり多くの魔力量が残っていると思われればこれから先もどんな扱いを受けるのか、考えただけで気が重くなる。
子供の頃から魔法が使えない貴族令嬢として生きてきたおかげで感情のコントロールをするのは得意だった。屋敷の中だけはみんなの温かい空気の中過ごせたけど、外に出れば好奇な目や嘲笑う人たちの中で過ごすことも多かった。
だからこそ負けたくなくて平然としていられるようにいつもニコニコ笑っていた。
傷付いた顔をすればそこからさらに抉ってくるのが歳の近い子供達だった。
ふと思う。
リヴィは魔法が使えないミルヒーナによく頑張れと言っていた。初めは笑ったり馬鹿にしたりしていなかったわ。
『悔しくないのか?頑張れよ!』
とよく言っていた。
ミルヒーナだって悔しかった。魔力量は人よりたくさんあるのに上手く魔法が使えない。
学校に行って魔法の使い方は習う。だけど大抵は親達や周りを見て少しは使えるものだ。
だけどミルヒーナは全く使えなかった。学校に行きさえすれば使えるようになるだろう。
そう思っていたのに……やはり使えなくて……
それでも必死で隠れて練習をした。リヴィに言われなくても頑張った。頑張ったけど使えないからリヴィには努力していることを言わなかった。
だって悔しかったから。
自分に与えられた部屋に戻り、ベッドに横たわる。
こんなに魔法を使ったのはあの事故以来。
「疲れた……」
それからの日々は、午前と午後の2回に分けて毎日のようにこの【譲渡】をさせられた。
主に男性ばかりだった。
貴族ではなく平民だろう。服も着古したものを着ているし、正気のない顔をしていた。
魔力が極端に少ないだけではなくみんな疲れて見えた。
「わたしはいつまでここにいるのかしら?」
神官に尋ねたが誰も答えてはくれなかった。
「あなたがミルヒーナ様ですね?」
神官がにこやかに出迎えてくれた。
ーー目が笑っていないわ。
なんだか不気味でゾクっと震えた。
ミルヒーナは一人でこの場所に向かった。逃げ隠れはもうしないと示すために。
だけどそれは間違っていたかもしれない。
ふとそう感じた。
この国で暮らすなら隠してはいけない。
特殊な魔法を使える者は国に報告をする義務があった。
神殿もしくは王家が調べ、国にとって重要なら国に仕えなければならない。
それを逃げられるのは結婚して子供を産むことが求められる女性だけ。だからミルヒーナはすぐに婚約していたリヴィと結婚することになった。
実家の伯爵家のため、そして自分の身を守るため、婚約者との結婚は一番早い逃げ道だった。
オリソン国に3ヶ月間身を隠していたのはその間に何かしらの妨害を防ぐためだった。
その間カイさん達が守ってくれたおかげで何事もなく暮らしていたことは知っていた。
ここに自ら足を踏み入れるなんて考えが甘かったと今更後悔しても仕方がない。
ーーでも離縁したら一度はここに来るしかないもの。
ベッドと机しかない白い部屋に通された。
「ここがあなたが暮らす部屋です」
「あ、あの……暮らすとは?わたしは少しの間ここで魔法について調べられたら帰れるのでしょう?」
「それは私達にはお答えできません。こちらの服に着替えてください。すぐに始めますので」
神官から渡された白い木綿のワンピースに着替えた。部屋の外で待っていた神官が先ほどとは違う部屋へと案内してくれた。
やはりそこも静寂しかない場所だった。
と思ったら……たくさんの疲れて青白い顔の男性が現れた。
若い人からお年寄りまで。
血の気が引いて動くのもやっとの人や、担架で運ばれてきた人もいる。
本当にたくさんの人が一列に縦に並んで入ってきた。
ーーなんだか怖いわ。
神官の顔をチラリと見ると「この人達に【譲渡】の魔法をかけてみてください」とだけ告げられた。
一瞬戸惑い何か言おうとしたけど、みんなの魔力はかなり少なくて欠乏しているのがわかった。
わたしは頭だけこくりと動かして先頭の一人に【譲渡】をする。
その様子を数人の神官が見守り記録を始めた。
どれくらいの人に【譲渡】したのだろう。自分でも驚くくらいの時間ずっと立ったまま無我夢中でしていた。
最後の人が終わった時、やはりクラッと目眩がしたが、感情のない神官達に腹も立っていたし、弱音を吐きたくなくてじっと耐えた。
「終わりました」
「ええ、5時間でちょうど100人。あなたの魔力量はどれくらいかご自分で調べられるのでしたよね?」
「はい」
【魔力量】の感知のことも知られている。誤魔化すことも出来るけど……
「残りは半分くらいです」
本当は3分の2は残っていたけど。ここでの嘘はバレてしまうことは知っていたけど、それは嘘をつく時に感情が揺れ動くから。わたしは感情のコントロールをして嘘が見破られないようにした。
じっとミルヒーナを見る神官が一瞬だけ目を動かしたけど、それ以上何も聞かずに記録として書いていた。
ーーふう、バレなかった。
あまり多くの魔力量が残っていると思われればこれから先もどんな扱いを受けるのか、考えただけで気が重くなる。
子供の頃から魔法が使えない貴族令嬢として生きてきたおかげで感情のコントロールをするのは得意だった。屋敷の中だけはみんなの温かい空気の中過ごせたけど、外に出れば好奇な目や嘲笑う人たちの中で過ごすことも多かった。
だからこそ負けたくなくて平然としていられるようにいつもニコニコ笑っていた。
傷付いた顔をすればそこからさらに抉ってくるのが歳の近い子供達だった。
ふと思う。
リヴィは魔法が使えないミルヒーナによく頑張れと言っていた。初めは笑ったり馬鹿にしたりしていなかったわ。
『悔しくないのか?頑張れよ!』
とよく言っていた。
ミルヒーナだって悔しかった。魔力量は人よりたくさんあるのに上手く魔法が使えない。
学校に行って魔法の使い方は習う。だけど大抵は親達や周りを見て少しは使えるものだ。
だけどミルヒーナは全く使えなかった。学校に行きさえすれば使えるようになるだろう。
そう思っていたのに……やはり使えなくて……
それでも必死で隠れて練習をした。リヴィに言われなくても頑張った。頑張ったけど使えないからリヴィには努力していることを言わなかった。
だって悔しかったから。
自分に与えられた部屋に戻り、ベッドに横たわる。
こんなに魔法を使ったのはあの事故以来。
「疲れた……」
それからの日々は、午前と午後の2回に分けて毎日のようにこの【譲渡】をさせられた。
主に男性ばかりだった。
貴族ではなく平民だろう。服も着古したものを着ているし、正気のない顔をしていた。
魔力が極端に少ないだけではなくみんな疲れて見えた。
「わたしはいつまでここにいるのかしら?」
神官に尋ねたが誰も答えてはくれなかった。
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