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オリソン国⑥

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「メルーさん、ただいま!」

 3ヶ月間だけこちらの学校へ通い出したミルヒーナは、新しい友達と仲良くなり毎日が楽しそう。メルーはそんなミルヒーナを見て内心ホッとしていた。

 夫のカイに何かあったら周りに騎士がいるからと言われてはいても、魔法使いのことは流石に分からない。どんな行動をとってくるのか分からないだけに毎日気を張り詰めていた。

 ミルヒーナが明るい声で帰ってきてくれるのがここ最近のメルーが穏やかな気持ちになれる時だった。

 明るくて素直なミルヒーナが今はとても可愛い。娘は嫁いでしまったし、オリエも結婚して出て行った。夫は忙しく家を空けていることが多い。

 寂しくても誰かしら顔を出してはくれる。だけど、いつも誰かの世話をして過ごしてきたメルーにとってミルヒーナの存在はとてもありがたい。

 心配しても嫌がらず、毎日一緒に料理を作ったり話をしながら夜を過ごす。

 このまま穏やかな時間が過ぎて無事に国へ帰って欲しい。そう願っていた。

 時々悲しそうな顔をするミルヒーナ。まだ父親が目覚めたと連絡が来ない。事故のためかなりの賠償金を支払うことになったと耳にした。

 ミルヒーナが神殿か国に連れて行かれたらどうなってしまうのかメルーにはよく分からない。でも想像ならできる。
 毎日寝食以外ずっと魔力の【譲渡】をさせられて疲れ果てても助けてももらえないのだろう。

 魔法が使えないと馬鹿にされてきたと聞いた。今度は珍しい魔法が使えるため周りから重要視され始めた。

 悪用したい者、こき使いたい者、彼女の周りには常に彼女を物のように扱いたいと思っている人たちの悪意に晒され続けることになる。

 そんな国に帰るより、オリソン国で暮らしたらいいのに。メルーはその言葉を何度となく言いそうになりながら口を噤んだ。

 ミルヒーナにはミルヒーナの立場がある。家族がいて国に帰らなければならない事情もある。
 こんな明るくて素直で良い子なのに、そう思うとメルーは思わずミルヒーナを抱きしめてしまう。

「ミル、お帰りなさい」

 ここでの暮らしだけは何も心配せずに過ごさせてあげたい。
 ミルヒーナは何も知らない。彼女を拐おうとやって来た人たちがいることを。

「メルーさん?どうしたの?」

「なんでもないわ。さあ、おやつでも一緒に食べましょう」

「やったぁ!今日のおやつは?」

「チーズケーキを焼いてみたの。ミルの好きなベリーのジャムも作ったから少しつけてみる?」

「うん!ありがとうメルーさん!」

 ひと懐っこくて可愛いミルヒーナに微笑みながらお皿にケーキを切り分けた。

 温かい紅茶を淹れて二人で今日あったことを話しながら食べた。

「うーん、美味しい!」

「よかった、もう少し食べる?」

「はい!」



 コンコン。



「あら?誰かしら?今日はギルがお休みだと言ってたけど」
 そう言いながら扉のところへ行き、「どちら様かしら?」と聞いた。

「メルーさん、俺、俺です!」

 メルーはミルヒーナに振り返り、笑いながらも肩を竦めてみせた。

「ほら、ね?」

 ミルヒーナが頷くと、ギルが入ってきた。

 その後ろには……

「えっ?」

 ミルヒーナは驚き思わず声を上げてしまった。

 メルーは特に驚く顔をしなかった。

 ーーメルーさんはリヴィと顔見知りなのね?


「ミル、今日は君の婚約者を連れてきたよ」

「どうしてリヴィがここにいるの?」

「………………」

 リヴィはバツが悪いのかミルヒーナから目を逸らした。

 それを見たギルはリヴィの背中をバシッと叩いて「リヴィ、約束だろう?」と言った。

「………約束なんてしてない……」
 聞き取れないくらい小さな声でリヴィが呟いた。

 ミルヒーナはせっかくの美味しいケーキが喉を通らなくなってなんだか嫌な気分になってしまった。

 ーーあと2ヶ月は好きに過ごすつもりだったのに……

 マックのことは心配なのでカイが国に許可をもらってくれて魔道具を使いロザリナと連絡をとっている。

 まだ意識は戻らないが、いつかは戻るとロザリナが言ってくれたので希望を持って過ごしてきた。

 結婚すれば毎日冷たい視線と冷たい言葉、冷たい態度の中で過ごさなければならない。

 だったら今だけは忘れてしまいたかった。

「「………………」」

 ギルは二人の様子をキョロキョロしながら窺っていた。

「リヴィ、お前男だろう?行け!」

 背中をバンッと叩いて気合を入れた。

 リヴィは前に思わず足が出て転びそうになった。

「リヴィ……」

 ミルヒーナは思わず声をかけた。

「ミル……俺……今までごめん……ずっと嫌な態度ばかり取っていた……ミルが俺を置いて領地に行ってしまって……悔しくて……それに魔力があんなにあるのに魔法を使えるように努力しないのも腹が立っていたんだ……」

「そうなんだ……」

「ゆ、許してくれるのか?」
 リヴィは俯いていた顔を上げてミルヒーナを見た。

「絶・対・に・イ・ヤ!」

 ミルヒーナは冷たい声で美しい笑みを浮かべた。
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