19 / 50
オリソン国。
しおりを挟む
ルイスとの船旅はミルヒーナにとって驚きの連続だった。
マックのことは心配だし、ガトラと離れるのはとても寂しいけど、初めての船旅と外国で暮らすことになるのは胸をドキドキさせた。
船で寝泊まりする部屋は自分の部屋よりは狭いけど、あまり揺れないし部屋の調度品も豪華だしベッドも思ったよりも広い。
窮屈に感じることはなかった。
部屋自体はゆっくりと数日過ごすことができそうだ。
ただ、海は普段は穏やかで地上にいるのと変わらないと思っていたのに突然揺れがひどくなる。
激しいスコールや風が強く吹く時もある。
ルイスと二人船の甲板で散歩をした。
「ミル、ほら、見てごらん。ここには何もないんだよ、見渡す限り海しか見えないんだ」
「ええ、風がとても気持ちがいいわ、これからのことを考えると不安しかないけど、今は……今だけはこの船旅を楽しみたいわ。ルイスもごめんなさい。本当ならまだオリソン国へ向かう日ではなかったはずなのに、わたしのせいで早まってしまったわよね?」
「うん?気にしないで。僕は君をバードン侯爵のところへ送り届けるだけだからね」
「ルイスは何処で暮らしているの?」
「寮だよ。あそこの学校はそれこそ平民でも優秀だったら文官になれるんだ。考え方が新しくて他国の優秀な人材も雇用してくれるし意見も取り入れてくれる。自分の力を試したいならあの国は最高なんだ」
「じゃあルイスは帰ってくるつもりはないの?」
「ウェルシヤ国は魔法が発達して魔道具があるし、優れた国だと思ってる。だけど魔法が使えない国はたくさんあるんだ。そしてウェルシヤ国のように閉鎖的な国はこのままでは発展しないと思う。もっといろんな世界に目を向けていかないと国が衰退していくと思うんだ。魔法ばかり頼っていたら魔法が使えないと何もできない国になってしまう」
「わたしは魔法が使えないけどそれなりになんとかなってきたわ。屋敷にいれば誰かが魔道具を使えるように発動してくれていたけど、ないならないなりに暮らせると思う」
「うん、魔法の優秀さだけで人の優劣をつけるウェルシヤ国の考え方は僕としてはどうかと思うんだ。あっ、こんなこと言ったらウェルシヤ国に居られなくなるね」
ルイスは、ハハッと笑いながら波を見ていた。
「魔法が全て悪いとは思わない。お父様たちを助けられたのは【癒し】の魔法があったからだもの。わたしも【譲渡】の魔法を隠してきたけど、みんなに知られて後悔はしていないわ、助けられてよかったと思ってる」
ミルヒーナはハアット溜息をついた。
「だけど………わたしの魔法は特殊だから……この膨大な魔力を【譲渡】出来ることがわかれば戦争や犯罪に悪用されるかもしれない……それが怖いの」
「僕も聞いて驚いたよ、魔道具はだけど発動しないんだよね?」
「ええ、魔道具は魔力ではなくて魔法を使うでしょう?わたしの魔法では反応してくれないの」
「そっか、だからその特殊な魔法も誰にも知られなくて済んだんだね」
「ええ、おかげでリヴィにはよく馬鹿にされてきたわ」
ミルヒーナは思い出してちょっとムッとした。
「ミルは結婚をどう思ってるの?」
「今は受け入れているわ。だけど落ち着いたら離縁するつもりよ、白い結婚を三年続ければ白紙になるもの。そのあとは自由よ!好きに暮らすつもりなの」
「落ち着くまではミルはオリソン国にいるしかないから今は不安かもしれないけど、叔母上たちに任せるしかないよ。君がいるとさらに問題は悪化してしまうからね、君を欲しがる奴らがかなり出てくるだろうから」
「ははっ、モテる女は辛いわ」
ミルヒーナも波を見ながら寂しそうに言った。
ーーわたしのことなんて放っておいてくれればいいのに。大好きな家族とずっと一緒にいたかったな。
お父様の看病だってしてあげたいのに。
大変な時期なのに、なんの力にもなってあげられない。
鉱山もどうなるのかしら?共同事業は?これからどうなるのだろう。
考えないようにしていても不安は募るばかりだった。
そして……オリソン国へ着いた。
ーーウジウジ考えても何もできない。
とにかくこの国で少しでも学んで過ごそう。
マックのことは心配だし、ガトラと離れるのはとても寂しいけど、初めての船旅と外国で暮らすことになるのは胸をドキドキさせた。
船で寝泊まりする部屋は自分の部屋よりは狭いけど、あまり揺れないし部屋の調度品も豪華だしベッドも思ったよりも広い。
窮屈に感じることはなかった。
部屋自体はゆっくりと数日過ごすことができそうだ。
ただ、海は普段は穏やかで地上にいるのと変わらないと思っていたのに突然揺れがひどくなる。
激しいスコールや風が強く吹く時もある。
ルイスと二人船の甲板で散歩をした。
「ミル、ほら、見てごらん。ここには何もないんだよ、見渡す限り海しか見えないんだ」
「ええ、風がとても気持ちがいいわ、これからのことを考えると不安しかないけど、今は……今だけはこの船旅を楽しみたいわ。ルイスもごめんなさい。本当ならまだオリソン国へ向かう日ではなかったはずなのに、わたしのせいで早まってしまったわよね?」
「うん?気にしないで。僕は君をバードン侯爵のところへ送り届けるだけだからね」
「ルイスは何処で暮らしているの?」
「寮だよ。あそこの学校はそれこそ平民でも優秀だったら文官になれるんだ。考え方が新しくて他国の優秀な人材も雇用してくれるし意見も取り入れてくれる。自分の力を試したいならあの国は最高なんだ」
「じゃあルイスは帰ってくるつもりはないの?」
「ウェルシヤ国は魔法が発達して魔道具があるし、優れた国だと思ってる。だけど魔法が使えない国はたくさんあるんだ。そしてウェルシヤ国のように閉鎖的な国はこのままでは発展しないと思う。もっといろんな世界に目を向けていかないと国が衰退していくと思うんだ。魔法ばかり頼っていたら魔法が使えないと何もできない国になってしまう」
「わたしは魔法が使えないけどそれなりになんとかなってきたわ。屋敷にいれば誰かが魔道具を使えるように発動してくれていたけど、ないならないなりに暮らせると思う」
「うん、魔法の優秀さだけで人の優劣をつけるウェルシヤ国の考え方は僕としてはどうかと思うんだ。あっ、こんなこと言ったらウェルシヤ国に居られなくなるね」
ルイスは、ハハッと笑いながら波を見ていた。
「魔法が全て悪いとは思わない。お父様たちを助けられたのは【癒し】の魔法があったからだもの。わたしも【譲渡】の魔法を隠してきたけど、みんなに知られて後悔はしていないわ、助けられてよかったと思ってる」
ミルヒーナはハアット溜息をついた。
「だけど………わたしの魔法は特殊だから……この膨大な魔力を【譲渡】出来ることがわかれば戦争や犯罪に悪用されるかもしれない……それが怖いの」
「僕も聞いて驚いたよ、魔道具はだけど発動しないんだよね?」
「ええ、魔道具は魔力ではなくて魔法を使うでしょう?わたしの魔法では反応してくれないの」
「そっか、だからその特殊な魔法も誰にも知られなくて済んだんだね」
「ええ、おかげでリヴィにはよく馬鹿にされてきたわ」
ミルヒーナは思い出してちょっとムッとした。
「ミルは結婚をどう思ってるの?」
「今は受け入れているわ。だけど落ち着いたら離縁するつもりよ、白い結婚を三年続ければ白紙になるもの。そのあとは自由よ!好きに暮らすつもりなの」
「落ち着くまではミルはオリソン国にいるしかないから今は不安かもしれないけど、叔母上たちに任せるしかないよ。君がいるとさらに問題は悪化してしまうからね、君を欲しがる奴らがかなり出てくるだろうから」
「ははっ、モテる女は辛いわ」
ミルヒーナも波を見ながら寂しそうに言った。
ーーわたしのことなんて放っておいてくれればいいのに。大好きな家族とずっと一緒にいたかったな。
お父様の看病だってしてあげたいのに。
大変な時期なのに、なんの力にもなってあげられない。
鉱山もどうなるのかしら?共同事業は?これからどうなるのだろう。
考えないようにしていても不安は募るばかりだった。
そして……オリソン国へ着いた。
ーーウジウジ考えても何もできない。
とにかくこの国で少しでも学んで過ごそう。
1,130
お気に入りに追加
2,176
あなたにおすすめの小説
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
【取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
【完結】私の婚約者は、いつも誰かの想い人
キムラましゅろう
恋愛
私の婚約者はとても素敵な人。
だから彼に想いを寄せる女性は沢山いるけど、私はべつに気にしない。
だって婚約者は私なのだから。
いつも通りのご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不知の誤字脱字病に罹患しております。ごめんあそばせ。(泣)
小説家になろうさんにも時差投稿します。
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる