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守る。
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リヴィは父親に呼ばれ小屋から出ると、外はかなり落ち着きを取り戻していた。
宿舎に帰る者たち。病院へ運ばれる者たち。
まだ現場の後始末をして回る者たち。
「父上、ミルは一旦屋敷に連れて帰りますか?それとも……」
(また領地へ行ってしまうのか?)
「出来るだけ王都から離れたほうがいい。この騒ぎはすぐに社交界に知れ渡るだろう。そうなれば王家や神殿にも伝わる。ミルヒーナはこのままではどちらかに連れ去られてしまうだろう。今のマックでは……カイヤ伯爵の状態ではミルヒーナを守れない。
ロザリナとも相談したんだが、わたしの従兄弟の家にしばらく預けようと思う」
「それは……」
「ああ、オリソン国のバードンだ。あそこなら多少問題があっても受け入れてくれる」
「魔法のことはあまり他の国では信じられていないはずでは?ミルが突然行ってしまったら、生活も不便だし、それに……」
「ミルヒーナは元々魔法が使えない。向こうの国では魔法は知られていないがミルヒーナにとっては逆に過ごしやすい場所だと思う。それに一時的な措置だ。これからの細かい動きをどうするか決めるまでこの国にいるのは危険なんだ」
(ミルの魔法が稀有で周りからどう見られるか心配だった。でもまさか深刻な状況になっているとは思わなかった)
「俺もついて行きます」
「はっ?無理に決まっているだろう?隠れて移動するのに人数は少ないほうがいい。リヴィにはミルヒーナとの結婚話を学校で広めておいてくれ」
「………えっ?」
リヴィはトーマスの言葉に驚き、声を失った。
(俺とミルの結婚?だって一年間俺の様子を見てミルが俺のことを嫌がったら婚約は白紙に戻すと言ってたじゃないか)
「ロザリナとも話し合ったんだが、ミルヒーナを守るためには結婚するしかない。婚姻さえしてしまえば簡単に王家も神殿も手が出せない。婚姻は誰にも邪魔することは出来ない、そして強制的に命令もできないことになっている。
お前の妻になって仕舞えばいいんだ。16歳になるあと3ヶ月だけオリソン国へ行ってもらう予定だ」
(女性は結婚すれば妊娠している可能性があるからむやみに命令はできないんだった)
「ミルはいいのですか?本人の意思を尊重しなくても」
(俺だってミルと一緒にいれたら嬉しい……でもこんな突然……)
「仕方がない。緊急措置だ。マックの意識もいつ戻るかわからない。このまま目が覚めなければカイヤ伯爵は没落するかもしれない。
これだけの事故だ、補償金だけでもかなりの額になるだろう。それに再開の目処もすぐには立たない。そこを突いてくる奴がいる可能性もあるんだ」
「お金……ですか?」
「そうだ、ミルヒーナと引き換えにお金を積む貴族だっているはずだ。今のこの状況ではロザリナではミルヒーナを守れない。
いくらお金があっても足りない、甘い言葉に乗れば最後ミルヒーナは実験体として扱われるだろう。それだけは止めたいんだ」
(俺は言い返せなかった。俺なんかより父上の方が周りを見ている)
「ミルはまだ疲れて放心状態です。その話を今するのは酷だと思います」
「今しなければ間に合わないんだ。ロザリナはマックのところに今向かっている。ミルヒーナも一度そちらに連れて行って話をしようと思う」
トーマスは小屋の中に入ると椅子に座りぐったりしているミルヒーナに近寄った。
「おじ様?」
「ミル、ロザリナがマックのところへ向かった。君も一旦病院へ行こう」
「……はい……お父様が心配です」
「うん、それから君の身の振り方も話し合わなければならない」
「わたくしの……そうですね。覚悟はしております」
ーーみんなにバレてしまった。ずっと内緒にしていたこの力を。
でも後悔はしていないわ。目の前で死んでいく人がいたかもしれない。お父様だって助けられなかったかもしれないもの。
近くで聞いていた男たちはミルヒーナの様子を窺いながら、トーマスにおずおずと話しかけた。
「あ、あの、お嬢様のおかげで俺たちの命は救われたんです」
「そうです、悪いことなんてしておりません。どうか叱らないでやってください」
「お嬢様の魔法は素晴らしい魔法です。俺たちは感謝しております」
トーマスは突然話しかけてきた男たちに怒ることもなく優しく笑った。
「わかっています。ただ、この子を……ミルを守ってやらなければいけないんです。私たち大人が全力で守るつもりです。
貴方たちももし誰かに事情を聞かれたらあまりミルヒーナの魔法のことを大袈裟に言わないでもらいたい。ミルヒーナは『事故現場で下手くそな魔法を必死で使おうとした』だけなんです」
トーマスの言葉に「わかりました」とみんながすぐに頷いた。
ミルヒーナを守るためには、ミルヒーナを褒めるのではなく魔法があまり使えなかったと否定するのが一番だと。
それでもどこからか噂は広がるだろう。だけど今は噂が広がるのを遅れさせるしかない。
その間にミルヒーナを守るための時間稼ぎができる。
(マック、お前の娘は僕たちが必ず守る)
トーマスはミルヒーナとリヴィを連れて急ぎ病院へと向かった。
宿舎に帰る者たち。病院へ運ばれる者たち。
まだ現場の後始末をして回る者たち。
「父上、ミルは一旦屋敷に連れて帰りますか?それとも……」
(また領地へ行ってしまうのか?)
「出来るだけ王都から離れたほうがいい。この騒ぎはすぐに社交界に知れ渡るだろう。そうなれば王家や神殿にも伝わる。ミルヒーナはこのままではどちらかに連れ去られてしまうだろう。今のマックでは……カイヤ伯爵の状態ではミルヒーナを守れない。
ロザリナとも相談したんだが、わたしの従兄弟の家にしばらく預けようと思う」
「それは……」
「ああ、オリソン国のバードンだ。あそこなら多少問題があっても受け入れてくれる」
「魔法のことはあまり他の国では信じられていないはずでは?ミルが突然行ってしまったら、生活も不便だし、それに……」
「ミルヒーナは元々魔法が使えない。向こうの国では魔法は知られていないがミルヒーナにとっては逆に過ごしやすい場所だと思う。それに一時的な措置だ。これからの細かい動きをどうするか決めるまでこの国にいるのは危険なんだ」
(ミルの魔法が稀有で周りからどう見られるか心配だった。でもまさか深刻な状況になっているとは思わなかった)
「俺もついて行きます」
「はっ?無理に決まっているだろう?隠れて移動するのに人数は少ないほうがいい。リヴィにはミルヒーナとの結婚話を学校で広めておいてくれ」
「………えっ?」
リヴィはトーマスの言葉に驚き、声を失った。
(俺とミルの結婚?だって一年間俺の様子を見てミルが俺のことを嫌がったら婚約は白紙に戻すと言ってたじゃないか)
「ロザリナとも話し合ったんだが、ミルヒーナを守るためには結婚するしかない。婚姻さえしてしまえば簡単に王家も神殿も手が出せない。婚姻は誰にも邪魔することは出来ない、そして強制的に命令もできないことになっている。
お前の妻になって仕舞えばいいんだ。16歳になるあと3ヶ月だけオリソン国へ行ってもらう予定だ」
(女性は結婚すれば妊娠している可能性があるからむやみに命令はできないんだった)
「ミルはいいのですか?本人の意思を尊重しなくても」
(俺だってミルと一緒にいれたら嬉しい……でもこんな突然……)
「仕方がない。緊急措置だ。マックの意識もいつ戻るかわからない。このまま目が覚めなければカイヤ伯爵は没落するかもしれない。
これだけの事故だ、補償金だけでもかなりの額になるだろう。それに再開の目処もすぐには立たない。そこを突いてくる奴がいる可能性もあるんだ」
「お金……ですか?」
「そうだ、ミルヒーナと引き換えにお金を積む貴族だっているはずだ。今のこの状況ではロザリナではミルヒーナを守れない。
いくらお金があっても足りない、甘い言葉に乗れば最後ミルヒーナは実験体として扱われるだろう。それだけは止めたいんだ」
(俺は言い返せなかった。俺なんかより父上の方が周りを見ている)
「ミルはまだ疲れて放心状態です。その話を今するのは酷だと思います」
「今しなければ間に合わないんだ。ロザリナはマックのところに今向かっている。ミルヒーナも一度そちらに連れて行って話をしようと思う」
トーマスは小屋の中に入ると椅子に座りぐったりしているミルヒーナに近寄った。
「おじ様?」
「ミル、ロザリナがマックのところへ向かった。君も一旦病院へ行こう」
「……はい……お父様が心配です」
「うん、それから君の身の振り方も話し合わなければならない」
「わたくしの……そうですね。覚悟はしております」
ーーみんなにバレてしまった。ずっと内緒にしていたこの力を。
でも後悔はしていないわ。目の前で死んでいく人がいたかもしれない。お父様だって助けられなかったかもしれないもの。
近くで聞いていた男たちはミルヒーナの様子を窺いながら、トーマスにおずおずと話しかけた。
「あ、あの、お嬢様のおかげで俺たちの命は救われたんです」
「そうです、悪いことなんてしておりません。どうか叱らないでやってください」
「お嬢様の魔法は素晴らしい魔法です。俺たちは感謝しております」
トーマスは突然話しかけてきた男たちに怒ることもなく優しく笑った。
「わかっています。ただ、この子を……ミルを守ってやらなければいけないんです。私たち大人が全力で守るつもりです。
貴方たちももし誰かに事情を聞かれたらあまりミルヒーナの魔法のことを大袈裟に言わないでもらいたい。ミルヒーナは『事故現場で下手くそな魔法を必死で使おうとした』だけなんです」
トーマスの言葉に「わかりました」とみんながすぐに頷いた。
ミルヒーナを守るためには、ミルヒーナを褒めるのではなく魔法があまり使えなかったと否定するのが一番だと。
それでもどこからか噂は広がるだろう。だけど今は噂が広がるのを遅れさせるしかない。
その間にミルヒーナを守るための時間稼ぎができる。
(マック、お前の娘は僕たちが必ず守る)
トーマスはミルヒーナとリヴィを連れて急ぎ病院へと向かった。
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