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無力なわたくしにできること。
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鉱山の事故現場は騒然としていた。
すぐにマックの部下のバリスがミルヒーナとロザリナの姿を見つけ、慌ててやってきた。
「お呼び出ししてもうし訳ございません」
「挨拶はいいから事情を説明してちょうだい」
ロザリナは大きく深呼吸をすると周りの様子を一度見回してから冷静にバリスへと問う。
「旦那様が偵察中に鉱山で崩落事故がおきました。大怪我をした者も沢山いて手前にいた人達は今なんとか助け出しているのですが奥にはまだ数人が取り残されております」
「………マックはじゃあ崩落したあの奥に閉じ込められているのね?」
「……はい、この岩を取り除くにはかなりの時間がかかります」
「どうして?【腕力】の魔法を使える人達が鉱山では働いているのでしょう?だったらすぐに助け出せるんじゃないの?」
ミルヒーナは青褪めながらも崩落した現場を見ながら質問をするとバリスは首を横に振った。
「岩が脆くなっています。無理やり岩を取り除けばまた崩落する危険があります。それに……この鉱山では【腕力】の魔法が使える者達が働いていますが、みんな怪我をしております。かなり酷い怪我の人もいます」
「【癒し】の魔法を使える者がここには必ずいるはずよ?」
ロザリナの言葉にまたバリスが首を横に振った。
「【癒し】の魔法が使える者は必ず一人配置しておりますが、これだけの怪我人を治すだけの力はありません。とりあえず危ない状態の者を優先的に治療しておりますがとても間に合いません。魔力もあとどれくらい持つのか……みんな必死で救助をしておりますが、人も魔力も足りません」
ーー魔力が足りない……
ミルヒーナは悲惨な現場を今目の前で見ている。
何もない土の上に寝転がされ血を流しても何の治療もされていない人たちが沢山いる。
あっちこっちで走り回って水を怪我人に飲ませて回る人。ぐったりとして転がる岩に体を任せ、意識朦朧としている人。
すでに亡くなっている人もいる。
初めてみるこの悲惨な状況にミルヒーナは言葉を失い、身体中が恐怖で震えた。
ーーお父様はまだこの中にいる……
馬車に乗り込む時に、屋敷にあった薬をかき集め持ってきた。それをロザリナはすぐにバリスに伝え、数人が馬車から薬を取りに行った。
ミルヒーナは魔法が使えない自分が今この場にいることが邪魔でしかないことが悔しかった。
【強化】も【癒し】も【水魔法】も【火魔法】も使えない。魔道具だって魔力はあってもミルヒーナ自身は使えない。いつも周りが魔力を注いでくれているから使うことができる。
ランプひとつ自分で灯すことができない。
魔法石があれば魔法が使えなくても魔道具を使えるのだが、まだまだ魔法石は高級で全ての魔道具に使われているわけではない。
ーーわたしにできること……
【癒し】を使える人が必死で治療をしていたが、フラフラと動きがおかしくなっているのに気がついた。
ーーあっ……魔力切れ……わたし……はここでみんなのために出来ること……
頭ではわかっていた。【譲渡】を使えることを知られてはいけない……
でも気がついたら「大丈夫ですか?魔力が足りないのですね?」と言って、治癒師に【譲渡】の魔法を使っていた。
驚いた治癒師がミルヒーナの顔を見て「あなたは一体今何を?」と呟いた。
「また魔力が足りなくなったら【譲渡】します。今ここにいる人たちを助けられるのはあなたしかいません。みんなの命を助けてあげてください、お願いします」
ミルヒーナは頭を下げた。領主であるお父様が不在の中、今動けるのはお母様と自分しかいない。無力な自分にできることはもう隠さないことだとミルヒーナは崩落現場に近づいた。
「おい!邪魔だ!退け!」
年若いミルヒーナが慌ただしく動き回る現場に近づいてきたので殺気だっている男達は怒鳴る。
「皆さん!」
ミルヒーナは大きな声で叫んだ。
「はっ?邪魔だと言っただろう?」
「静かにしてください!わたしはカイヤ伯爵の娘のミルヒーナです。話を聞いてください」
「ミルヒーナ、どうしたの?邪魔しないの」
ロザリナがミルヒーナに注意しようとしたがミルヒーナはやめなかった。
「まずは皆さん魔力がかなり不足しています。この状態で救助活動しても無駄な時間だけが過ぎていきます。並んでください。まずは皆さんに魔力を【譲渡】します」
ミルヒーナは近くにいた男の手を握るとすぐに【譲渡】を始めた。
「はっ?これは」譲渡された男は自分の体から魔力が溢れてくるのがわかった。
「次の方!並んでください」
ミルヒーナは次から次へと【譲渡】を始めた。
「【強化】が使える人は救助をするよりも崩落しそうな現場周辺の岩や壁を崩れないように【強化】だけしてください。そしたら【腕力】の人たちが多少力づくで落ちた岩を取り除いても大丈夫でしょう?」
「わかった、嬢ちゃんの言うとおりしてみよう。これだけ魔力があれば岩を動かすのも楽だ」
「俺はじゃあ【強化】で崩落しないように守ろう」
「嬢ちゃん、ありがとうよ。これならまだまだ動けるよ」
ミルヒーナは魔力だけなら底なしだった。これだけの人たちに【譲渡】しても顔色すらかわらない。
ロザリナはそんなミルヒーナを心配しつつも今は自分もできることをしなければと怪我人たちの治療にあたった。
【癒し】の力はあまりないけど、出血くらいなら止めることができる。ロザリナも走り回っていた。
ミルヒーナは岩を退けて中に入れそうになったのを見てまた現場に近づいた。今度は誰にも咎められなかった。
「嬢ちゃん、いくら【強化】しているとは言え危ないぞ。何か気になることがあるのか?」
「中を視ていいですか?」
「はっ?どう言うことだ?」
「わたくし……人の魔力量がわかるのです。お父様の魔力はどんな感じかわかるのでここからお父様の魔力を探してみます。そうすればむやみやたらに岩を動かさなくてもいいですよね?」
そう言うとミルヒーナのグレーの瞳が黒く変わった。
「あっ………あそこに……魔力が弱まってる……10人以上の人の魔力を感じます」
ミルヒーナが指差す方に男たちが「わかった、こっちだな」と言って岩を退け、土を掘り始めた。
その間もミルヒーナは魔力の足りなくなった者たちに【譲渡】を続けた。
「こんなに魔力を人に与えてミルヒーナ様は大丈夫なのですか?」
バリスが心配しているが、ミルヒーナは困った顔をしながら笑った。
「わたくしが魔力量だけは多いのはバリスも知っているでしょう?魔法は使えないのだけど与えることと魔力量をみることはできるの」
ーーお父様、無事でいてください。必ず助けますから。
「まさかこんなことで役に立てるなんて、思わなかったわ」
すぐにマックの部下のバリスがミルヒーナとロザリナの姿を見つけ、慌ててやってきた。
「お呼び出ししてもうし訳ございません」
「挨拶はいいから事情を説明してちょうだい」
ロザリナは大きく深呼吸をすると周りの様子を一度見回してから冷静にバリスへと問う。
「旦那様が偵察中に鉱山で崩落事故がおきました。大怪我をした者も沢山いて手前にいた人達は今なんとか助け出しているのですが奥にはまだ数人が取り残されております」
「………マックはじゃあ崩落したあの奥に閉じ込められているのね?」
「……はい、この岩を取り除くにはかなりの時間がかかります」
「どうして?【腕力】の魔法を使える人達が鉱山では働いているのでしょう?だったらすぐに助け出せるんじゃないの?」
ミルヒーナは青褪めながらも崩落した現場を見ながら質問をするとバリスは首を横に振った。
「岩が脆くなっています。無理やり岩を取り除けばまた崩落する危険があります。それに……この鉱山では【腕力】の魔法が使える者達が働いていますが、みんな怪我をしております。かなり酷い怪我の人もいます」
「【癒し】の魔法を使える者がここには必ずいるはずよ?」
ロザリナの言葉にまたバリスが首を横に振った。
「【癒し】の魔法が使える者は必ず一人配置しておりますが、これだけの怪我人を治すだけの力はありません。とりあえず危ない状態の者を優先的に治療しておりますがとても間に合いません。魔力もあとどれくらい持つのか……みんな必死で救助をしておりますが、人も魔力も足りません」
ーー魔力が足りない……
ミルヒーナは悲惨な現場を今目の前で見ている。
何もない土の上に寝転がされ血を流しても何の治療もされていない人たちが沢山いる。
あっちこっちで走り回って水を怪我人に飲ませて回る人。ぐったりとして転がる岩に体を任せ、意識朦朧としている人。
すでに亡くなっている人もいる。
初めてみるこの悲惨な状況にミルヒーナは言葉を失い、身体中が恐怖で震えた。
ーーお父様はまだこの中にいる……
馬車に乗り込む時に、屋敷にあった薬をかき集め持ってきた。それをロザリナはすぐにバリスに伝え、数人が馬車から薬を取りに行った。
ミルヒーナは魔法が使えない自分が今この場にいることが邪魔でしかないことが悔しかった。
【強化】も【癒し】も【水魔法】も【火魔法】も使えない。魔道具だって魔力はあってもミルヒーナ自身は使えない。いつも周りが魔力を注いでくれているから使うことができる。
ランプひとつ自分で灯すことができない。
魔法石があれば魔法が使えなくても魔道具を使えるのだが、まだまだ魔法石は高級で全ての魔道具に使われているわけではない。
ーーわたしにできること……
【癒し】を使える人が必死で治療をしていたが、フラフラと動きがおかしくなっているのに気がついた。
ーーあっ……魔力切れ……わたし……はここでみんなのために出来ること……
頭ではわかっていた。【譲渡】を使えることを知られてはいけない……
でも気がついたら「大丈夫ですか?魔力が足りないのですね?」と言って、治癒師に【譲渡】の魔法を使っていた。
驚いた治癒師がミルヒーナの顔を見て「あなたは一体今何を?」と呟いた。
「また魔力が足りなくなったら【譲渡】します。今ここにいる人たちを助けられるのはあなたしかいません。みんなの命を助けてあげてください、お願いします」
ミルヒーナは頭を下げた。領主であるお父様が不在の中、今動けるのはお母様と自分しかいない。無力な自分にできることはもう隠さないことだとミルヒーナは崩落現場に近づいた。
「おい!邪魔だ!退け!」
年若いミルヒーナが慌ただしく動き回る現場に近づいてきたので殺気だっている男達は怒鳴る。
「皆さん!」
ミルヒーナは大きな声で叫んだ。
「はっ?邪魔だと言っただろう?」
「静かにしてください!わたしはカイヤ伯爵の娘のミルヒーナです。話を聞いてください」
「ミルヒーナ、どうしたの?邪魔しないの」
ロザリナがミルヒーナに注意しようとしたがミルヒーナはやめなかった。
「まずは皆さん魔力がかなり不足しています。この状態で救助活動しても無駄な時間だけが過ぎていきます。並んでください。まずは皆さんに魔力を【譲渡】します」
ミルヒーナは近くにいた男の手を握るとすぐに【譲渡】を始めた。
「はっ?これは」譲渡された男は自分の体から魔力が溢れてくるのがわかった。
「次の方!並んでください」
ミルヒーナは次から次へと【譲渡】を始めた。
「【強化】が使える人は救助をするよりも崩落しそうな現場周辺の岩や壁を崩れないように【強化】だけしてください。そしたら【腕力】の人たちが多少力づくで落ちた岩を取り除いても大丈夫でしょう?」
「わかった、嬢ちゃんの言うとおりしてみよう。これだけ魔力があれば岩を動かすのも楽だ」
「俺はじゃあ【強化】で崩落しないように守ろう」
「嬢ちゃん、ありがとうよ。これならまだまだ動けるよ」
ミルヒーナは魔力だけなら底なしだった。これだけの人たちに【譲渡】しても顔色すらかわらない。
ロザリナはそんなミルヒーナを心配しつつも今は自分もできることをしなければと怪我人たちの治療にあたった。
【癒し】の力はあまりないけど、出血くらいなら止めることができる。ロザリナも走り回っていた。
ミルヒーナは岩を退けて中に入れそうになったのを見てまた現場に近づいた。今度は誰にも咎められなかった。
「嬢ちゃん、いくら【強化】しているとは言え危ないぞ。何か気になることがあるのか?」
「中を視ていいですか?」
「はっ?どう言うことだ?」
「わたくし……人の魔力量がわかるのです。お父様の魔力はどんな感じかわかるのでここからお父様の魔力を探してみます。そうすればむやみやたらに岩を動かさなくてもいいですよね?」
そう言うとミルヒーナのグレーの瞳が黒く変わった。
「あっ………あそこに……魔力が弱まってる……10人以上の人の魔力を感じます」
ミルヒーナが指差す方に男たちが「わかった、こっちだな」と言って岩を退け、土を掘り始めた。
その間もミルヒーナは魔力の足りなくなった者たちに【譲渡】を続けた。
「こんなに魔力を人に与えてミルヒーナ様は大丈夫なのですか?」
バリスが心配しているが、ミルヒーナは困った顔をしながら笑った。
「わたくしが魔力量だけは多いのはバリスも知っているでしょう?魔法は使えないのだけど与えることと魔力量をみることはできるの」
ーーお父様、無事でいてください。必ず助けますから。
「まさかこんなことで役に立てるなんて、思わなかったわ」
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